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四話《夕日は沈んで君は死んで》

「なあ峰紀。」

車を運転しながら俺は隣に座っている峰紀に話しかける。

「何よ。」

俺は新沢さんと双葉さんとの別れ際を思い出していた。部室の前で新沢さんと峰紀が涙の別れをしていた時だ。

完全にアウェーな雰囲気に隣で突っ立っていた俺と双葉さんだったが、突然双葉さんが俺にこう耳打ちをしたのだ。

「『早く気付いてあげて』と、先輩から伝言です。」

最初は俺もさっぱりだったが思えば今日一日不思議な点が全くなかったわけではないのだ。

「どうかした?」

「いや、ごめん。何でもない。」

とはいえどもそれが気のせいと言われればそれまでだが......。

「そう......。」

だんだんと日が傾いてきていた。

先生が待っているのは吉祥寺あたりのブック〇フだ。

いざ考えてみると一日中漫画を好きなだけ読み続けるなんてあまりにも幸せすぎる一日の潰し方だ。

俺もいつかやってみたいものである。

まあ出来るとしたらこの戦争が終わってからだろうな。

いや、本当にこの戦争が終わるのかどうかはなんとも言えないところだ。

俺はそんな不安を掻き消す為に車をとばした。



「先輩も手伝ってくださーい。」

私は洗濯物を取り入れながら言った。ここは部室楝の裏側、学校の端の端とも言える場所だ。

「んーなんかやる気出ないー。」

ここからは見えないが、先輩は部室楝二階のアウトドア部部室のベットでごろごろしている。

「にしても唐突な客でしたね。」

そもそも客自体ここ一ヶ月ほど来ていなかった。

「やっぱり二人になるとつまんないなー。」

「それは先輩が私に仕事を押し付けてるからじゃないですか!こっちは充分忙しいのですが!」

それにしても随分な量の洗濯物である。とても二人で出したものだとは思えない。

食料が絶望的に無いのに対して、何度も使える衣類やお皿だとか、電子機器は有り余っている。因みに水や電気は戦争前と同様で、普通に使えている。

「あれっ?」

先輩が何かに気付いたかのように言う。が、その声はほとんど私には届かなかった。

「あ、そういえば今夜は夕飯どうしますか?仙崎さん達にもらった干物もありますが、流石に一気に消費してしまうのは勿体ないですよね......。」

「ハルちゃん伏せて!」

「えっ!?」

先輩の唐突な声に少し驚きながらも私は指示に従おうとした。

と、その瞬間私は大きな影に包まれた。

今私の上に天使がいる。

そう思うととても怖かった。

私は固く目をつぶった。


私は少しの間しゃがみこんで危機が過ぎ去るのをじっと待っていた。

......どれほど待っていただろうか。

「ハルちゃん。もう大丈夫だよ。」

私はゆっくりと目を開いた。

いつの間にか先輩は私の隣にいた。

「さっきの天使は......?」

「ほら、あそこ。」

先輩が指さす方を見ると、そこには空高く飛ぶ天使の姿が見えた。

私は立ち上がった。

「あれは......主天使でしょうか......。」

「あの様子じゃあ襲って来はしないみたい。」

確かにただ上空をゆっくりと旋回しているだけのように思われた。

「不思議ですね。」

「襲って来ないのが?」

「それもそうですが、主天使程の階級上高くも低くもない天使がたった1体でやって来るなんて......。」

「......人間の監視とかじゃない?」

「その可能性が高いですね。」

最近は天使自体見かけることが少なくなってきている。

世界的に見ても今は休戦中と呼ぶのもおかしくない程穏やかだ。

だからといって油断できるものではない。

「そろそろ......向こう側も本格的に攻めてきそうだね。」

先輩は遠くの空を眺めながらそう言った。先輩の勘はとても鋭い。今回もきっと当たってしまうだろう。

どうか仙崎さん達も生き残れますように......。私は本心からそう願っていた。

「さて先輩、洗濯物の続きをやりましょうか。」

私は先輩の肩を掴むと、そう言った。

「えー、めんどくさい。」

「やらないと干物全部食べちゃいますよ。」

私は半分本気で言った。

「それだけはやめてー。」

「なら手伝ってください。」

「もー仕方ないなー。」

なんだかんだ言って結局は手伝ってくれるのも先輩である。

「先輩。今日は干物パーティーでもしますか。」

「え!?あれ全部食べちゃうの?」

「冗談ですよ。」



「んじゃ、先生呼んでくるから峰紀は───」

「ここで残るわ。」

「────あ、うん。分かった」

俺は車から降りると、時計を見た。

5時48分。

待ち合わせの時間には間に合ったようだ。

信号も速度制限もないため、ガンガン飛ばしまくった結果がこれである。

俺は一人でブック〇フに入ることにした。

元々あった自動ドアは割られていて、出入りは自由になっていた。

まさか先生が割ったわけじゃあるまいな。

俺はそんなことを考えながら店に入った。

ここら辺も戦場となったはずだが、店の中は思っていたより本は散らかってはいなかった。そもそも血痕すらほとんどなかった。きっとここは偶然にも襲われずに済んだのだろう。

「おーい。先生ー。こっちは終わりましたよー。」

俺は声をかけながら端から順に見て回った。

が、先生は見つからなかった。

「と言うか返事すらしないって、どっか行ってるのか?」

とりあえず俺は目の前の階段を上がった。

二階に着いたところで案内図が目に付いた。この店は三階まであって、一階は本、二階は漫画、三階はホビーとなっているようだ。

漫画好きのあの先生がいるとしたらきっと二階だろう。

「先生ー。有栖川先生ー。」

俺は再び先生を探し始めた。

いない。

ここにもいない。

ここにもいな───

────いた!!

先生は少女漫画コーナーにいた。

てか寝てるし!

「はぁ......。」

俺はため息を吐いた。

「ほら、先生。起きてくださいよ。」

「......まだまだ〜。」

まだまだって何だよ。もう少しなら分かるけど......。ってもう少しでもまだまだでもダメだろ。

「さっさと起きてください、有栖川千春先生!」

「ん〜。あれ......仙崎君、おはよー......。」

彼女は大きくあくびをしてからそう言った。

「おはようじゃないですよ。約束の時間です。」

「あれれ。随分寝てたみたい〜。」

全く。先生の天然っぷりには毎度呆れてしまう。

「ほらほら行きますよ。峰紀も車で待ってますから。」

「ん〜。じゃあ先に行って待ってて〜。私は持って帰る本を選ぶから。」

「持って帰る本って......。早くしないと峰紀が怒りますよ。」

「すぐ選ぶから〜。」

「仕方ないですねー。さっさとして下さいよ!」

先生は超が付くほどマイペースな人間だ。

さて、車に戻って待つとするか。

俺は階段を降りようとした。が、それを本能が拒んだ。

「......少しだけ。」

俺はそう呟いて、三階に上がった。

三階はホビー売り場だ。ホビーと言えば、プラモデル、グッズ、TCG、そして───

「うおぉぉぉ。これ、俺がくじ十回引いても出なかったやつやん!」

────俺の大好きなフィギュアである。

「うわぉ。高すぎて手が出せなかったあれも置いてあるやん!」

興奮し過ぎて何故か関西弁が混じってしまっている。

「少しくらい持っていってもバレないよねー。」

俺は棒読みで呟くと、周りに誰もいないことを確認して、ガラスケースを開けようとした。が───

「あ......うん。普通開かないよね。」

自然な雰囲気で中のものを取ろうとした俺もどうかしていた。

とはいえども目の前に品を見ておいて引くわけにもいかない。

かくなる上は......。

「無理矢理だ!」

こうして俺vsガラスケースの格闘が始まった。


数分後......。

「負けた〜。」

こんなことならハンマーでも持ってくればよかったと俺は後悔した。

あれっ?ところで何か忘れているような......。

「あらあら〜。負けちゃったの〜?」

と、突如背後から声がした。

「って、先生ですか......。」

「でもまだ諦めるには早いわよ〜。」

「何か秘策でも.───」

「じゃ〜ん!」

「───そ、それは......!」

先生が取り出したそれは鍵だった。

「向こうの部屋にあったわ。」

そう言って指さした方には大きく[関係者以外立ち入り禁止]と書かれた扉があった。

「開いていたんですか......。」

俺は少し苦笑いをしながらその鍵を受け取った。そうしてガラスケースはあっけなく開いてしまった。

さてさてどれを持って帰ろうか。と、俺が悩んでいるところに先生がこう呟いた。

「そういえば惠梨ちゃん待たせているんじゃなかったっけ〜?」

「.........あ。」

そう気づいた頃にはかなりの時間が過ぎていた。


「遅い!遅い遅い遅い!」

「......ごめん。」

流石に片手にフィギュアの入ったレジ袋を持った状態では言い訳のしようがない。

「でも先に言い出したのは先生ですって。」

「こら、そこ裏切らないの。」

「......ちぇっ。」

「じゃあそろそろ行きますよー。」

そんなこんなで、俺達は東京区に戻ることにした。

帰りは先生が運転をする。正直俺よりも先生の方が運転は心配だったりするのだが、ここらからだと中央自動車道経由の東京区西CS(CheckingStation)を通る必要がある。そこで未成年が運転している車など通してもらえるはずがないと言うことで仕方なくこうしている。

「ところで、お目当てのものは見つかったの?」

先生が運転をしながら尋ねる。

「お目当て以上のものが見つかりましたよ。な、峰紀。」

「そうそう。私の通っていた高校に行ってみたら、部室で知り合いに会ったのよ。」

「部室って、アウトドア部の?」

「そう。女の子二人で部室に住んでいるんだって。」

「区外民ねー。もう少し時期が早ければそんな道も選べたかもしれないわねー。」

区外民。国に見捨てられた人々が勝手に住んでは勝手に殺されていく世界。だが実際は全てがそうとは限らないのかもしれない。

俺はだんだんと暗くなっていく空を眺めながらそんなことを思った。

第4話をお読みいただき誠にありがとうございます!

あとがきってどう書くんでしたっけ?そんなふうに思えてしまうほどの間が開きましたが、まあ考え方を変えるとこれから活動再開ってことで、とにかくよろしくお願いします!!

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