三話《巣の外の雛は力強く生きる》
峰紀が部室の扉を開けた。
その隙間から俺は部室の中を除くことができた。
そして俺は中にいた女子生徒と目が合った。
「えっ!?」
それもただの女子生徒じゃない。
なんという幸運か不運か、そこにいたのは着替え途中の女子生徒だった。
「あ、ちょっ。これは......。」
慌てて俺は目を覆ったが、次の瞬間には彼女の飛び蹴りが炸裂していた。
「いたたたた......。」
彼女の飛び蹴りは見事に俺の膝に当たった。
小柄な女の子だった為大事には至らなかったが、充分に痛い。
「りーちゃん久しぶりー!」
「涼葉先輩!久しぶりです!」
一方峰紀と俺を蹴った張本人はと言うと、感動の再会の真最中だったりしている。
「涼葉先輩はここで何してたんですか?」
「私?私はここに住んでいるんだよ。」
「えっ!住んでるって食料とかどうしてるんですか?」
「学校の倉庫にあった非常食を早いうちに避難させといたから一応まだ残ってるけど、そろそろ底がつきそうなんだよ。」
「そうですか......。あ、なら今日とってきた食料少し分けましょうか?」
「うそっ!?でもこっちからあげられるものなんてないし.....。」
「それなら───」
「おいおいちょっと待てよ。人を蹴っておいて謝りもしないのか!」
相手が年上だとかそういうことはこの場においては考えないことにした。
「そっちこそ人の下着姿見ておいて何よ!飛び蹴りの一つや二つ、当然よ!当然!」
「んなわけあるかー!」
「────ちょっと二人とも!」
峰紀が仲裁に入ろうとする。
と、その時俺の背後からまたも女の子の声が聞こえた。
「先輩。また飛び蹴りかましちゃったんですか?」
振り返るとそこには飛び蹴りの女の子と同じ制服を着た女の子がいた。
背は峰紀と同じくらい、髪はストレートで眼鏡をかけている。
「あ、ハルちゃんおかえりー。それにしても入る時はノックぐらいして欲しいわ。て言うか鍵かけた意味がないじゃない。」
「すみません先輩。人がいるとは思ってなかったので......。」
「とりあえず客は客です。どうぞ入って下さい。あ、靴は脱いで下さい。」
どうやらハルちゃんとか言う子は飛び蹴りの先輩と違っていい人っぽい。
そんなことで俺達は彼女に先導されて部室に入った。部室と言うより生活感溢れるただの部屋だ。床にはカーペットが敷かれていて、どっから取ってきたのかソファーまで置かれている。窓からは木と木の間に紐を掛けて干された洗濯物が見えた。
「先輩が迷惑をかけて申し訳ありません。私は双葉遥香と申します。元一年一組でアウトドア部の部員です。」
眼鏡の子が自己紹介をする。
「1組かー。あんまり知り合いいなかったわね。」
「そんで私がそのアウトドア部の現部長。新沢涼葉。元二年五組で趣味はバードウォッチング。」
続いて飛び蹴りの子が自己紹介をする。
改めて見てもやっぱり小柄で身長が一番小さい。この中で唯一の先輩だとは到底思えない。
「じゃあ次私行くわね。私は峰紀惠梨。元アウトドア部員で元一年四組ね。今は第三地域に住んでて、現在無職。あとあれが私の彼氏。」
そう言って俺を指さした。
見た目はツインテの可愛い子だがとにかく言えることは、怖い。
「じゃあ俺の番だな。俺は仙崎祐也。元〇〇高で趣味はゲーム。今は同じく第三地域に住んでて仕事はとある先生の助手をしています。あとあいつが俺の彼女。」
と言って俺は峰木を指さす。
「ところで聞きたいんだけど───」
全員分の自己紹介もすんだところで峰紀が言う。
「────ここで生活してる人は2人だけなの?」
「今はそう。それに学校で生活してるのもアウトドア部くらいだよ。」
「少し前までは最大8人いましたが、それも減って今はこれだけです。」
「その6人は?」
多分奴らに殺されたか東京区に行ったのだろうとは思ったがとりあえず俺は聞いてみた。
「えっと......。」
新沢さんが双葉さんにアイコンタクトを送る。
何か話したくない事情でもあるのかと考えていると、驚くべき言葉が聞こえた。
「うち4人は仙台区へ向かいました。残りの2人は殺しました。」
「.......は!?」
殺した?殺されたのではなくてか?
「先に手を出してきたのはあっちだし。あんなやつ死んで当然でしょ!」
「そういうことね。でも殺すのは流石に.....。」
「向こうが先に暴力でかかってきたので仕方なくです。」
「そんなことがあったのか......。」
こんなご時世だ。自暴自棄になってしまうのは仕方の無いことかもしれない。
実は俺も......と言いかけて俺は開きかけた口を閉じた。
俺は何もしていない。本当に何もしていないのだ......。
「あと仙台区に行ったって言うのは?」
俺は気を紛らす為に一つ気になっている事を聞いてみた。
「東京区の住民登録が完全に終わったあとだったから、仙台区だったら入れるかと思ったってこと。名古屋区は完全に崩壊したっていうし、前に仙台に行ったことがあるという人がいたから仙台区を目指して自転車で行ったわ。」
そういえば東京区は住民の多さのため住民登録を締め切ったらしい。なるほどそれで仙台区なのか。
「ところであなた方はどうしてこんなところまで?」
今度は双葉さんがこちらに質問をしてきた。
「来週末にキャンプに行こうってことでここだったらまだテントとかも残ってるかのと思ってね。」
「あ、テントか。残ってるよ。あーでも寝袋はごめん。」
「寝袋は大丈夫です、先輩。暑いのでそのままでいけます。」
どうやら今後も定期的にキャンプに行くわけではなさそうだ。まあ俺の方から無理なのだが.....。
「他に何か欲しい物あったら何でも言ってね。」
「あとランタンとコッヘルも欲しいです。」
「ちょっと待っててね。」
そう言って新沢さんは部室の棚の奥を探しだした。
「キャンプなんて行って大丈夫なんですか?」
と、ここで双葉さんが峰紀に質問をする。
「そんなもの大丈夫よ。」
そうかそうか大丈夫か.....って───
「────いや明らかに全然大丈夫じゃないだろ。」
今更つっこむ俺もどうかと思うが、レジャーなんてものを楽しんでいる場合ではないということは明確だろう。
「ほら、息抜きも大切でしょう?」
「見つかったら絶対処罰くらうぞ。」
「くらって問題あるのは祐也だけでしょ。」
「うぐっ......。」
確かにそうだ。現在こいつは無職だったのを忘れていた。
「そういえば峰紀さんはどうして無職なんですか?」
「えっとそれは.....。」
俺の聞いている話だと事務所が潰れたかららしい。
元々貯金があったらしく、物価も安定してきたということで別に今はそこまで生活に苦労してるわけでもない。とはいえどもこのご時世、高校生以上の場合働いていないと特攻隊にでもさせられてしまう。
「ハルちゃん、そういうのはあえて聞かないでおく方がいいって。はいこれランタンとコッヘル。あとガスバーナーもいる?」
新沢さんが峰紀にそれらを渡す。
「ありがとうございます。バーナーはあります。」
あると言ってもどうせさっき勝手に盗ってきたものだろうがな。
「じゃあこれだけでいいか。」
「ちょっと待ってください、先輩。それ、全部ただで渡すんですか?」
俺達の目の前でそれを言うのもどうかと思うが、実際この酷い物資不足の中でただで物をもらうなんてことがあっていいとも思えない。
「それなら食料でどうですか?先輩もさっき倉庫の食料が底をつきそうと言ってましたし。」
と、峰木が提案をする。
「しょっ、食料があるんですか!?」
思ったよりも双葉さんが食いつく。意外と大食いだったりするのだろうか。
「さっきショッピングモールに行って色々とってきたのよ。」
「てか俺がとってきたやつだけどな。乾燥物とか菓子類しかないけど欲しけりゃあげるよ。」
あげて貰えるものがキャンプ用品っていうのは俺的には納得いかないが、ここで断ると峰木からなにを言われるか分かったものではない。
「本当ですか!?是非とも欲しいです!」
「ハルちゃん食いつき過ぎ。」
新沢さんは苦笑いをしている。
そんなわけあって俺達の取り引きは成立した。
その後も俺達はとめどない会話を楽しんだ。
飛び蹴りをしてきた新沢さんも実は悪くないやつだったし(一応先輩だけど......)、双葉さんも真顔で「殺しました」と言った時は正直恐ろしかったけど結果的には面白い人だというのも分かった。
何より双葉さんとはアニメの話題で盛り上がる事ができた。
そんなことをしているうち時は過ぎ───
「────やっば、もう5時半じゃん。」
ふと目に入った時計に気付いて驚く。
「うそっ。そういえば先生待たせてるんだったわ。すっかり忘れてた。」
「二人とももう帰っちゃうの?」
「いっそ泊まっていくのはどうでしょうか。」
「ごめんなさい。待たせている人がいるのでそろそろ行くわ。」
「今日は本当にありがとう。出来ればまたいつか来るから。」
「こっちはいつでも大歓迎だからね!」
「先輩.....。」
峰紀は若干泣いていた。
大袈裟だな、と思いながら俺も二人に別れの挨拶をした。
別に来ようと思えばいつでも来れる場所なのだ。まあ、その度に口実を作らなければならないのが面倒だが......。
三話をお読みいただき誠にありがとうございます!
中間テストが近いです(T_T)
テストが近づくと小説書く気が出てきたり、妙にマイクラがやりたくなったり、ネットサーフィンしたくなったりしますよねー
どうにかならないですかねーこれ