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086:炎のように活気溢れた末の若さ故の過ちを恐れず進むその前に立ち止まって考えてみるのも良いのではないでしょうか

.


 大型双胴船ジ・ファルナ号は、白の大陸へ向けた航海を続けながら、船体を修繕している最中だった。

 翼を持つ種族、比翼族の戦士たちの問答無用の攻撃に晒され、甲板は穴だらけな上に帆柱(マスト)にも大きな傷が入っている。

 帆そのものに関しては裂けるわ焼けるわと散々な有様だ。


「船長! マストのロープ繋がりやしたぁ!!」

「帆桁継ぐのはどうしたぁ!? さっさと帆を張らねーと年が明けちまうぞぉ!!」

「船長! 穴塞ぐ木材が足りやせん!!」

「カラの樽やら何やら船ん中転がってんだろ! 何でもいいからバラしちまえ!!」

「せんちょー! メシ出来たよー!!」

「仕事上がったヤツから食っちまえ! ダラダラやってると食いっぱぐれんぞぉ!!」


 そんな中、忙しく動き回る水夫に混じり、小袖袴の青年が夕食など作っていた。

 船のコックが負傷した上に食材も粗方ダメになったので、村瀬悠午(むらせゆうご)が調達から調理から請け負っているというワケだ。

 なお献立は、いっぱいの海産物を作り置きのブイヨンで煮込んだ、寄せ鍋である。

 世界一の記録に挑むくらい大量に作ってやった。

 甲板修理が大変なのに、その一画を巨大土鍋が占有して誰も文句言わない。


「チクショウなんかしらねーがウメェ! なんでこんな雑な食い物がウマいんだ!!」

「テメー貝ばっか拾って食ってんじゃねーぞコラァ!!」

「セービアって食えたんだな…………クラーケンの親類にしか見えなかったが」

「このやたら硬いヤツどうやって……あ、うめぇ」


 作業を中断した獣人の水夫が、次々と鍋に群がり中身を掬い取っていく。肉と野菜の出汁に海の幸から出る出汁が相まって、どれもたまらない旨みを醸し出していた。

 先日の巨大エビや貝の他、カニ、白身魚、イカ、鶏肉がたっぷりと入っているので、食べ応えも十分。

 故に先を争って貪り食う水夫たちだが、その果てに雑炊の脅威が控えているのを知る者はいない。


 そんなご馳走の為ではないが、比翼族の英雄の襲撃に巻き込まれた件では、あまり悠午たちに怒りや憎悪が向く事もなかった。

 どちらかというと、同じ比翼族の水夫たちの方が肩身狭そうにしている。船内はそういう空気だ。

 重傷者も出ているのだが、逞しい海の男達に悲壮感は皆無だった。

 乗客の負傷者共々悠午らが治したので後を引かなかった、という事もあるが。


 比翼族の英雄ウルリックとその親衛隊は、その後全員退却していった。

 白の女神の眷属神、天候の神を我が身に降ろした翼の英雄と、(アキ)(カミ)の末裔としての本性を剥き出しにした悠午は激突寸前だったが、これは急遽中断される。

 隠れ目少女のプレイヤーが、稲妻の鉄槌で黄金鎧を着た戦士たちを叩き潰してしまったからだ。


 翼の焼け焦げた同砲が海に浮かんだのを見た瞬間、英雄ウルリックは悠午を放ってそれを助けに飛んでいった。

 側近らしき者が何か言っていたが、比翼族の英雄はそれを黙殺し、誰ひとり残さず撤退。

 天候も間もなく回復した。


「……カナミンやべぇ。怒らせないどこ」


「うー……」


「やめなさいよ……。でもまぁ確かにすっごいビックリしたわ。暫く眼も耳もグワングワンしてたけど」


「ごめんなさい……」


 プレイヤーの女性陣、グラドル重戦士とジト目法術士も鍋を食べている最中だ。そして隠れ目少女が微妙に虐められている。前髪の下は涙目だった。


 久島果菜実(ひさしまかなみ)にも、大事(おおごと)になったという認識はある。初期電撃魔法スキルに自身の属性の“気”を乗せたら、想像を絶して威力が大きくなり過ぎたのだ。

 敵を派手に吹っ飛ばしたまでは良かったが、味方の方にも思わぬ被害が出てしまった。

 スタングレネードのような爆音と閃光にやられ、ジ・ファルナ号の甲板上にいた者たちは、暫し行動不能に。

 ジト目少女は「大人しい()がえらいもん身に着けおった」と恐れ(おのの)き、プレイヤーではない悠午も想定外の結果に「こりゃすごい」と目を丸くしていた。


 土“気”を発現できるようになった姫城小春(ひめしろこはる)に続く、果菜実の五行術の覚醒。

 種族の英雄とやらが神を降ろすほどの難物と分かった以上、白の大陸を目前にした悠午にとって、それも歓迎すべき事ではあるのだろう。

 一般人のお姉さんを、また一歩人外の道に引きずり込んだという事でもあるのだが。

 気付いているのだろうか、プレイヤーのシステムに因らない技術としての“気”孔術は、元の世界に戻ってからも自身の力として残り、失われたりしないのだという事を。


 帰ってからのアフターケアが大変だなぁ、と若干“気”が重くなる小袖袴の少年。

 だがそんな師匠の心を、ジト目の弟子は知らずなのであった。


                        ◇


 ジ・ファルナ号の修繕が大方終わった、次の日。


「つーワケでユリアーニよ、あたしにもそろそろ必殺のユニークスキルをだな」


「うんまぁそういう話になるとは思った」


 もはや名前に対するツッコミも無い悠午である。


 通常航海に戻ったものの、晴天ではあるが風には恵まれていなかった。

 その為に船足も上がらず、甲板上には弛緩した空気が漂っている。

 未だ白の大陸までは半分の行程を残しており、海のど真ん中では島ひとつ見えない。

 聞こえるのは船体の鳴らす軋みの音だけであり、昼寝をする水夫に船長すら何も言わない状況である。


 一方で、修行者に暇無し。

 ワケも分からず比翼族の戦士に襲われ、白の大陸での旅が一層危険になったという懸念もある以上、戦力を上げておくのに越した事もない。

 故に、小さな斥候職と謎の黒髪冒険者以外は、当初の予定通り瞑想の修行に取り組んでいると、こういう状況であった。


 そんな中、早々に瞑想に飽きて船首で釣りしている悠午の所に来た、ジト目姉さん、御子柴小夜子(みこしばさよこ)の先の科白(セリフ)

 前々から、決め手となる強力な攻撃手段が欲しい、と言っていた事もあるが、同期プレイヤーのグラビアJDと隠れ目同級生が新たな(スキル)を手に入れた以上、よりその欲求を強くするのは悠午にも容易に予想できた。


「一応ね、そろそろ教えてもいいかなって術はあるのよ」


「お、マジか。え? どういう風の吹き回し? あたしには教えられないとか言ってたじゃん」


「“気”力が全く足りてないし洞察術も使えないから教えられない、とも言ったよね? 十分とは言えないけどその辺も鍛えられてきたし、自分の属性に限ってなら術を発“気”しても大丈夫な頃では、ある……。

 小夜子姉さんの場合は他にも不安要素があるけど…………」


「おいなんだ喧嘩売ってんのか小僧」


「いやあるでしょ、小夜子姉さんの場合は。洞察術と相性が良すぎるから」


 本当は性格的にも不安だけど、と言いたいのを飲み込む、少し大人な少年。

 五行術を単なる必殺技と思っている節のあるお姉さんに、強力な術の伝授とか暴発させそうで怖いのだが。

 しかし、昨日とかまさに自分で自分の身を守ってもらわなければならない状況だったので、暴走するなら監視の目が行き届く今の内の方が良いかな、と。

 悠午としても、妥協せざるを得ない思いだった。

 それなりに考えてはきたが。


「さて……と。小夜子姉さんは火“気”のヒト、言うまでもなく火の“()”の操作に長じた属性ね。ちなみにフィアも同じ。五行の中で最も破壊力の強い属性でもある。

 あと、これはこの旅の間に教える事があるか分からないけど、陽の“気”に最も強く影響するのも火“気”だね。

 陰と陽、マイナスとプラス、五行はそれぞれが更に陰と陽の面を持つけど、火“気”はその存在からしてプラスに(かたよ)りやすい。人間が生者故に陽の側に偏りやすいのと同じ……だけど、この辺はまぁいいか。

 重要なのは、火行は他属性の陽の“気”にも影響を与えやすいって事。同じくらい影響されやすいんだけど……特に水“気”。相克と相生の関係はキッチリ覚えてる? 属性偏らせっぱなしにすると痛い目見るから」


 村瀬先生の授業を、眉間にシワを寄せながらも黙って聴講する生徒の御子柴さん。

 相生と相克、各属性を活かす関係と殺す関係は、最初にされた説明以降も度々師匠の口に上っている。

 それをいまさら良く覚えてないとも言えず、内心こっそり思い起こそうとしていた。


「現実的な話をすると、火ってヤツは実体を持つ他の属性と違い燃焼って化学反応だから燃焼触媒が必要なワケだ。純粋な火“気”単体は発火にしても何にしてもコントロールが難しいけど、他の属性を芯にすると安定させやすい。

 もっとも、五行は相互循環だから、火じゃなくたって完全に単体で存在し得る属性なんて無いんだけど」


「……えーと? つまり今までの火属性スキルも他の属性とのミックスだったって事? なんだ? 『いっしゃくだま』? とか、あのド派手なヤツも??」


「火“気”『一尺玉』や『十尺玉』、オレは爆発範囲で使い分けてる。アレはちょっと土“気”の火薬混ぜてるね。

 ただアレは木“気”寄りの火“気”の小夜子姉さんだと、今はちょっと相性悪いかも。相生順には火の次が土だから、そう難しくもないだろうけど」


「今使えなきゃダメじゃん、どうしろってんだよ」


 本命の術が現時点で習得不能と聞き、更に渋面になるジト目姉さん。

 申し訳ないが、悠午としてはいきなり一尺玉を教える気はない。それなりに強力で危険な術だ。自力でフォローできない練度で適当にブッ放されても困る。

 そうでなくても、先祖返りでも起こしたか、妙に才能のある娘さんなのだ。よりにもよって、とばっちりが出やすい火“気”でもある事だし。


 手堅く基本的なところから、自身の“気”をモノにしていって欲しいと心から願い、この方法からレクチャーしていくものである。


「慣用句で『気を吐く』って言うけどね。言葉通り術を発“気”するには、口から吐くのが最も単純な方法なんだわ。こんな感じで――――――――」


 火“気”を活性化する小袖袴の少年の目が、燈色に染まっていた。

 小夜子の洞察術でも、悠午を構成する“気”が属性を表すかのように燃え盛っているのが見える。

 その身体の中に渦巻く火の“気”が、一瞬丹田で圧縮されたかと思うと、腹から胸を駆け上がり喉元で収束し、


「――――――――カハァッッ!!」


 いつぞやの竜のように、開け放った口腔から噴火の如き炎の息吹を放射して見せた。


 大気の焼ける激しいノイズに、離れていても感じる肌を焼く輻射熱。

 10メートルにも及ぼうかという長大な赤い炎の帯に、ジ・ファルナ号の大きな船体が照らし出される。

 のんびりしていた水夫たちも流石に飛び起き、瞑想修業中だった仲間は何事かと目を覚ました。


「おっと……お騒がせしてごめーん! ちょっとした訓練だからー!!」


 少しばかり派手にやり過ぎたか、と、バツが悪そうな小袖袴の少年は慌てて周囲に謝まる。

 白熊の船長は、「騒ぎを起こすな」と小言を言うだけで船長室に引っ込んでしまった。

 水夫たちも、もうこのヒト種の青年の事を気にしてもしょうがない、と昼寝に戻る。

 しかし仲間たちは興味を引かれたのか寄って来た。修行して。


「今の火属性の技? 技、っていうか……火を吹いただけ??」


「そういや何度かやってたっけなぁ、ユーゴは」


「膨大な火の魔力の集中……。そして、それを解放するというだけのシンプルな術式でこれほどの威力が出せるとは。お見事です、我が師よ(マスター)


 実は悠午と小夜子のやりようが気になって、瞑想を切り上げて見物していたグラドル戦士。なので、小袖袴の少年がドラゴンブレスのような真似をした瞬間も全て見ていた。

 ゴーウェンは今まで遭遇した戦いの中で、悠午が似たような事をしていたのを思い出す。

 魔道姫のフィアは、見た目に惑わされず師匠の術の性質を、正確に見極めていた。自分もアレやるのかしら、と少し悩むが。


「一応名称としては、火“気”『鑽火(キリビ)』って言う昔から伝わっている術。鑽火ってのは原始的な発火方法の事だって。この術も火“気”としては最も単純で初歩のモノだから、こういう名前になったって言われている。

 やり方としては、自分の中の火“気”を吐く。これだけなんだけど、それだけに基礎能力がモロに出るかな。

 小夜子姉さんにはさっき言ったけど、『気を吐く』って言うだけあってそれほど難しくもなく、洞察術さえ出来れば感覚的に出来ると思うよ。発“気”の入門編みたいなもんだし。

 皆も火“気”に連鎖する時には、ここからはじまるから。

 コツとしては、直前まで十分に火“気”を高める事。木“気”を発火点に使う事。長々と吐こうとせずに、一瞬で集中するように放つ事かな。炎って尾が勝手に伸びるから、そんな感じに見えるけど」


 自分の修業ではないが、なんとなく言われるがまま試そうとする弟子たち。

 属性が合うフィアはすぐに小さな火を吹いて見せたが、一方で小春が煙のようなモノを吹いて咳き込んでいたのは、悠午に目を見張らせた。

 水“気”寄りの果菜実は顔を真っ赤にして息を吹くだけで、結局最後まで不発。本人の属性的にもいまいちなので、致し方なし。

 ゴーウェンは早速応用を効かせていたが、口の中がチクチクするので吐き出してみたら、爪の先ほどの金属片が出てきて目を白黒させていた。


 そして、肝心な小夜子はと言うと、


「な……なんかカッコわる」


 頬を引き攣らせ、酷くご不満な様子である。


「いや小夜子姉さんよ……カッコイイ悪いの問題じゃねーでしょ。シンプルで扱い易くて強いのに、いったいなにが不満なのさ」


「それにしたってさー、いくらなんでもビジュアルがこうモンスターっぽいというか…………。てか姫とカナミンの新スキルとあたしのスキル違い過ぎね?」


 温厚で大人な少年とはいえ、相変わらずなジト目姉さんの主張というか感性には、口がへの字にならざるを得ない。

 両手をフリーにしたまま攻撃手段が得られるブレス系の攻撃は、奥の手感があって悠午は好きなのだが。男の子だよね。

 その辺の違いは、趣味なのか、男女故の事なのか。

 どっちにしろ生きるか死ぬかなのだから贅沢言わないでほしい。


「教えておいてなんだけど、小春姉さんの土“気”は初歩的な攻撃手段に乏しいんだよ。だから『千刃谷』は、本来少し難易度の高い術になる。竜の火“気”に誘発されるってアクシデントがなければ使えなかったんじゃないかな。

 果菜実姉さんのアレも同様。多分属性が同じだからオレの木“気”に誘発されたんだろうけど、まさかプレイヤーのスキルとやらを増幅して『樹雷』みたいな術になるとは思わなんだ…………。

 それに比べれば、初歩的な術が即強力な攻撃手段になる火“気”の小夜子姉さんは幸運だと言える。『鑽火(キリビ)』は入口。火“気”は攻撃に偏っている属性でもあるから、すぐにもっと強い術を習得できるよ」


「例えばどんな?」


 順を追って着実に成長できるのは運がいい事なんですよ、と言いたい少年だったが、あまりジト目さんには伝わらなかった模様。

 そして『どんな?』と言われて少し迷う。

 火行の術は実際に攻撃手段が豊富だ。また性質上、他の属性との複合術も多い。

 鑽火、鬼火、漁火、一尺玉、呑竜、火之迦具土大神と、様々だ。


 しかし、五行術の本質はそれぞれのテンプレート化した術にあらず、極めていけばいずれ自然の“気”そのものを自在に操り、アドリブで現象を起こすようになる。

 別に術の上辺だけ追ってもらっても構わないが、どうせなら五行術の本質や恐ろしさを分かり易く伝える術がいいなぁ、と悠午は思い、


「どれ……ちょっと早いけど見せておくか」


 特に気負った様子も無く、自然体のまま五属性の連鎖反応を開始。

 一瞬で回転数を一万五千/秒まで上げ、増幅した“気”を火属性として一点に出力した。


 そうして叢雲の末裔が手の平から作り出したのは、長い歴史の中で悠午だけのオリジナルの術。

 高出力を要求し過ぎて僅か3人しか遣い手が出なかった、現代五行術の奥義。



 火業の極み、『倶利迦羅竜王(クリカラリュウオウ)』である。



 魔力を感じ取る者や、洞察術で“気”の力を計る事のできた者は、それがどれだけ危険な(モノ)か、すぐに理解できただろう。

 刃渡り(・・・)、約1メートル。形状としては、単純極まりない直剣だった。いっそ棒のような、と言っても良い。

 ただし、焦点温度は約1000万度。中心が真っ白に輝いているが、そこからオレンジ、そして黒と、光が取り巻いて見える。

 輻射熱は、全く無い。火“気”は完全に剣の形に収束し、その破壊力を一切無駄にせず留めていた。


 だが、ひとたび業火の剣が制御を失えば、消し飛ぶのはジ・ファルナ号だけでは済まない。周囲数百キロどころか、ヘタをすれば惑星表面の半分が焼き尽くされかねないエネルギーがある。

 そんな破壊規模とは想像もできず、突然地獄の淵に立たされたような心持のゴーウェンやフィアは、完全に固まっていた。


「ま、マスター…………!?」

「ユーゴよ……オマエさん、どこまで――――――――!!?」

「ライトセ○バーじゃん!」

「ホントだライトセ○バーだ!!」


 だというのに、謎の驚愕を叫ぶ異邦人(プレイヤー)のお嬢さん方。


 確かに悠午も、作った後で某映画の武器そっくりになったなぁ、とは思った。

 そして何気にこれ失敗作である。

 何でも切断できる炎の剣、という幼稚な発想をそのまま実現するこの術を作ったのは、五行術を覚えて間もない子供の頃。

 修正不能な致命的な弱点を抱えた上に、例えば鋼鉄を切断するにも2000度あれば十分なのだ。1000万度とかいらん。


 ただ、手加減なしに五行術を振るうとこういう大惨事になるんだよ、という分かり易い例だと祖父には褒められた。嬉しくない。


「お姉さん……この火力見て他に感想は無いのかね。危ないだろこんなハンディ核兵器4発分みたいな術」


「ここまで魔力集中させなければ平気じゃね? これってこの形にするにはどうすればいいのよ?」


「ある程度の出力を内側に向けて収束させるから、凝縮して自然とこの形になるの。

 あと、見せはしたけどこの術お勧めできないよ? 術だけじゃなくて剣の心得も無いと、味方とか何斬るか分からないから危ない。剣みたいに刃筋とか重量が無いから剣の心得があっても危ない」


 今にも触りそうなほど近付くジト目プレイヤーに、危ないからと剣を立てる小袖袴の子供。

 こんなヤバい術使えるかバカ、と文句言われるかと思ったのだが、思いのほか興味を引いてしまった様子。

 だいたい形状からして明らかに接近戦用の術だと分かりそうなものだが、自分の戦闘スタイル分かってんのかなこの姉さん、と悠午は怪しく思いはじめた。早まったかも知れん。


「悠午先生はあんまりその術使わないの? シャドウガストの時とか、それを使えば……」


「これ維持している最中は限界まで火“気”に偏るから、相克で水“気”に極端に弱くなるんだわ。バランス悪過ぎるから、実戦ではほとんど使わん」


「てかまず手の平から火が出るようにならなきゃならんし。そっちから教えれください」


「だからまず“気”を吐けるようになってからですね……。って小夜子姉さん、いきなり倶利迦羅竜王(クリカラリュウオウ)狙い? この出力で発“気”するには五行の輪廻使えないとオレだって無理だよ?」


「どうすりゃいいのよ?」


「瞑想して」


 貪欲なのか物怖じしないのか、ジト目のプレイヤー少女はやる気になってしまった。

 一応、火“気”修行の初歩からはじめる“気”にはなったようだが、目標とする術が問題あり過ぎなので、師匠としては物凄く不安だ。自分のミスなのでなんとも言えないが。


 この後、航海は何事もなく進み、ジ・ファルナ号は白の大陸へと到着する事となる。

 そこはヒト種とプレイヤーにとっての潜在的な敵地であり、危険度は黒の大陸や海の上の比ではないだろう。比翼族の英雄のような者たちの、本拠地だ。

 何事もなく白の女神に会えれば良いが、そんな事は期待できないと、皆分かっている。

 あえて誰も口にはしなかったが、船上での修行に熱が入っていたのも、これまで以上の激しい戦闘が予想されていればこそであった。





感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、重ね重ねウチのジト目がお騒がせしております(本気土下座

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― 新着の感想 ―
[一言] ジト目姉さんはライトセイバーなんて持っても、魔法職だから持て余すのでは…? これはせっかく覚えた技が当てられなくて、止むを得ず肉体改造が開始されるフラグなのでは…?
[良い点]  ひゃっはー新鮮な更新だァ!―――今猛烈にエビが喰いたいDEATH(飯テロ並感) [気になる点]  ジト目さん、毎度毎度もっとつえーのおせーてってやってるけど、分不相応な上位術なんて迂闊に…
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