071:孤独の道と困難な道、あるいはその両方
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数ある異邦人の集団において最強と名高い、『ブレイブウィング』。
そのリーダーたる勇者、白部=ジュリアス=正己は、つまり最も高レベルのプレイヤーでもある。
しかし、シャドウガスト討伐戦や竜道海峡打通戦では力及ばぬ姿を晒し、また強引な指揮で仲間を危険に晒すなどした事で、そのカリスマ性に陰りを見せていた。
それも、僅かな間だけであったが。
アルギメス国マドラッゼ台地、最前線。
竜道海峡打通戦より、4日後。
島国中央を縦に走るディアスラング山脈、その西翼の戦況において。
黒の大陸連合軍は、拠点としていた北部の町『クアッゼ』を攻め落とされて以来、白の大陸軍に押されるままに南下を続けていた。
一時はアルギメス全域を制圧し、北の港を手に入れ白の大陸へ攻め込む橋頭堡を得られるかと思われたにもかかわらず、エルフの新兵器であるゴーレム騎兵により大打撃を受けた為である。
そこからギルステンダイ盆地の戦いでも敗北し、マドラッゼという中部の町まで下がる黒の連合軍だったが、ここで状況が大きく変わる事となった。
暫く黒の大陸へ赴いていた、勇者たちの帰還である。
勇者ジュリアス、冒険者集団『ブレイブウィング』のリーダーにして、最強のプレイヤーと目される少年。
黒の大陸連合の先頭に立ち白の大陸軍と戦い、また脅威となる多くの怪物を討伐した功績により各国から『勇者』の称号を与えられている。
故に強いのは当然なのだが、
戦場に復帰した勇者の力は、あらゆる者の想像を絶していた。
「偉大なる勇者よー!!」
「流石は黒の大陸随一と誉れ高き戦士……!?」
「これが他のヤツと同じプレイヤーなのか!? ゴブリンとドラゴンほども違うじゃないか!!」
「勝てるぞ! 我らヒトと同胞の種族の勝利は決まった!!」
撤退中の軍と合流した勇者と一団は、追撃をかける白の大陸の軍を、逆に迎撃。
一度は黒の連合軍を壊走に追い込んだゴーレム騎兵を含む大軍を、蹂躙するに至る。
蹂躙、としか言いようがなかっただろう。
凄まじい威力の魔法とスキルは敵の集団を木っ端のように吹き飛ばし、獰猛な獣人も頑強極まりないゴーレムも対抗する術無く、数でも数倍した白の軍が遁走を余儀なくされる。
その後に黒の大陸連合も戦列へ加わったが、実質的には勇者の一団『ブレイブウィング』だけで成した大戦果であった。
「……スッゲーじゃん、シラベのエリアバフ。HP回復にMP回復に攻撃力防御力も強化。ステ異常も無効とか。とんだヌルげーだわ」
「敵の動きも止まるからコンボ入り放題だしね! 無双キモチー! ジュリくんサイコー!!」
「スキルの威力もレイドボス並みだった……」
構築中の野営地の中でも、勇者たちは熱狂を以って迎え入れられる。
ブレイブウィングの面子も誇らしげだ。一部の者は複雑そうな顔をしているが。
それでも、概ね誰もが英雄の姿に羨望の目を向けていた。
勇者ジュリアスが手に入れた、新たな能力。
それは、『神の如き意思』の使徒を名乗る幼い子供、スプリシウムとインペトゥが授けたモノだ。
『天象結界』と、『神意律法』。
これらは、招かれた者なら誰もが最初から秘めているスキルを、アップグレードしたモノだと言う。
つまり、スプリシウムとインペトゥが、プレイヤーをこの世界に連れて来た存在に属する者であるという証左でもあった。
ジュリアスは、ブレイブウィングの仲間には『勇者の称号が真の力を得た』としか説明していない。実際、使徒の子供にはそう説明されたし、また自分達の存在は他の者には秘密にするように、とも言われている。
曰く、認められた者の前にしか、姿を現さないのが使徒なのだとか。
そしてジュリアスは、その言葉通りにした。それ以上は何も考えなかった。
今の勇者ジュリアスは、我疑いなく最強である。
この世界に来る以前から狂おしいほど求め続けた、正義と信念を貫けるだけの、チカラ。
それを以ってして、あらゆる悪、不条理、理不尽を叩き、あるべき正しい姿を取り戻す。
強い意志を表情に出した金髪の少年は、それを成せるだけの力を得て、理想に燃えていた。
自分は今起こっている戦争さえ終わらせ、己の欲望に固執し世界を歪め続ける害悪たる者どもを尽く排除し、当たり前の真実が当たり前に受け入れられる、正しき世界を示すのだ、と。
「なんだよあのスキル……ゲームにあんなのあった?」
「ステータスもちょっとおかしいよな。300までPOW極振りならイベントのゴーレムわんぱんあるかもだけど」
「魔法もダメージ壊れてたぞ。AGLもアクセラとかコルプスでバフできるってレベルじゃなかったと思う」
「チートじゃね? ありえないし」
そんな勇者の耳に届く、称賛の中に混じった疑惑の声。
黒の大陸連合軍には、ブレイブウィング以外のプレイヤーやパーティーも多数参加している。当然、戦闘の最中で、勇者の異常と言うしかない力も目撃していた。
プレイヤーは基本的に、誰でも同じ能力を持たされている。
戦闘や行動による経験値の取得と、それによるレベルの上昇とステータス補正値の向上。
自身に対する役割の設定と、その熟練度を蓄積させる事で解放される各種技能。
そしてそれらは、どれも既にゲームプレイヤー達が『ワールドリベレイター』というゲームを遊ぶ上で目にしてきた能力だ。
プレイヤーが使えるのは、それらゲーム中に存在した能力のみ。それがプレイヤー達の常識だった。
にもかかわらず、勇者というトッププレイヤーは誰も見た事もないスキルを使い、ゲームでの経験上ありえない身体能力を発揮している。
ならばやはり、ゲームプレイヤーとしての経験に照らし、ズルい手段を用いていると考えるのは当然の流れではあった。
「言いたい事があるなら、大衆を隠れ蓑にせず堂々と言ったらどうだ!!」
ただ、勇者ジュリアスには、それを許容する事は出来なかったようで。
「オマエ! 顔が見えなければ好き勝手言えると思ったか!? 自分の発言には責任を持ってもらおう!! 僕の能力がチートだと言っていたな!?」
「な、なんだよ!?」
ブレイブウィングの凱旋を見に来ていた人混みの中に飛び込むと、そこにいたプレイヤーの前まで、ジュリアスは眦を吊り上げ詰め寄って行く。
勇者と言われるほどの高レベルのプレイヤーに迫られ、うろたえる魔法職の男プレイヤー。周囲にいる同じパーティーメンバーらしきプレイヤーは、やや怯えながらジュリアスに抗弁していた。
「な……なら、何なんだよあのチートスキルは!? アビス周回してスキルコンプしてもそんなの見た事ねーよ!」
「ステだっておかしいし! ツールでバイナリ書き換えてるって思われても仕方ないだろ! 何が『責任』だよ!!」
「ゲームバランス的にもありえないだろあんなの! 普通に覚えられるスキルなら方法教えろよ!」
陰口を叩いていた後ろめたさか、開き直ったかのようにふんぞり返り、勇者に問い返すプレイヤーたち。禍々しく尖った黒い鎧の魔戦士、仰々しい外套を着けた魔導師、細々とした道具を身体中に装備しているハンター、亜人型ゴーレムに肩車されるメックスミス、頭を覆うマスクに外套という格好のレスラー、など。
はじまりの町を出て最前線まで来られたプレイヤーは、決して弱くない者のみである。
実戦を経験し、死の恐怖を理解し自らの命と得られる対価を天秤にかけられ、旅の中で自分の面倒を自分で見られる者のみだ。
そんな者たちを前にしても、勇者の憤怒は収まらない。
現実を認めず自分の身勝手な希望と思い込みだけで、声の大きさと頭数の多さだけで、感情のまま他者を責める下等な連中を、心底軽蔑した目で見下していた。
「お前らはいつもそうだ…………自分が出来ない事やらない事を、他人のせいにして悪と決め付ける。全く無意味で誰もが不快になるだけで何ら合理的裏付けが無い……。
このスキル……力は! 僕が実力で条件を満たして手に入れたスキルだ! 僕が努力とやり込みの末に資格を得た、だからこそ入手できたんだ!!
ヒトをチート扱いする前にレベル上げてクエスト探し尽くしてから言えよな! 俺は卑怯な方法で堂々とルール通りにやっている他人を小馬鹿にして喜ぶようなゴミクズとは違うんだよ!!!」
最初こそ抑え目だったが、しかし最後には発狂したかのような気勢で、何人ものプレイヤーに向かって叫ぶ白部=ジュリアス=正己。
その、突如破裂したかのような怒りに、困惑や恐怖といったモノを覚えたプレイヤーは語気を小さくしていた。
「なんだよ……たかがゲームでイキって、バッカじゃねーの?」
「レベル上げが努力とか寒いわ。廃人宣言じゃん。終わってるわ」
「てか結局アンロックの条件言わねーし。俺TUEEEE厨乙」
捨て科白のようなモノを残して、勇者から目を逸らし足早にその場を離れるプレイヤー。
勇者の怒りは収まるどころか更に燃え上がった。とにかく許せなかった。言いがかりを付けて来た上に己の非を認めもせず憎まれ口まで叩いていく卑怯者どもを、言われっ放しのまま放置は出来なかったのである。
「こいつら性懲りもなく……!? おい――――――――!!」
「もうやめておけシラベ……! 勇者が取り乱せば周りが動揺するだけだ」
もはや戦いも辞さないような剣幕の勇者を止めたのは、同じ一団の副長的な立場にあるプレイヤー、ロングスカートのキツめ美少女、天原マリヤだった。
それで我に返ってみると、プレイヤーもそれ以外の者も、白い目で勇者を見ている。
恐怖とは違う、場違いな厄介者を見るかのようなその顔に、ジュリアスもようやく空気を読んでいた。
このように、不安定な精神状態を晒し周囲に不安を与えた勇者ではあるが、結局はそんな不安も払拭されていく事になる。
その後も、勇者ジュリアスの快進撃が続いた為だ。
一部の近しい者のみ懸念を抱えていたものの、多くの者が神の如き勇者の力を目にして、信仰のようなモノさえ芽生えさせていくのだった。
◇
村瀬悠午と旅の一行は、ディアスラング山脈西の裾野を北上しながら修行も続けていた。
その過程で、ジト目法術士の御子柴小夜子が若干焼け焦げ、隠れ目呪術士の久島果菜実が感電して動けなくなり、若奥様魔術士の梔子朱美が軽く溺れかけ、青年従騎士のクロードが2度ほど心肺停止し、家出魔道姫のフィアが人間を辞めかけるというアクシデントが起こっていた。
“気”孔術と五行術の修行を、より具体的な方向に進めた為である。
そして、今また新たな犠牲者が。
「――――――とまぁ、小春姉さんには今のが出来るように修行していってもらおうかと思ってますね、当面は」
「ムリジャナイカナ?」
たった今経験した超常現象に、ヘタレ美少女重戦士の姫城小春はヒトとしての思考力を失っていた。
他の仲間に経験させたのと同様、小春の五行特性に合わせた術式の実演。
ハッキリ言って超能力であった。
師匠は「個人の相性に合わせて実現可能な術」と言っているが、自分にそんな事が出来るとは到底思えないグラビアアイドル兼女子大生である。
「いきなりやれとは言いませんよ、オレだって。中間目標、みたいなモノ? ですか。最初はこの辺が実戦向きかなって」
と言いながら小袖袴の少年が片足を踏み鳴らすと、そこから前に向かって一直線に地面が隆起し、金属を含む岩の尖柱が無数に乱立した。
柱の高さは、平均して10メートル前後。範囲は100メートルほど。
何も無い岩肌剥き出しな谷間の底が、一瞬にして謎の遺跡のような有様となってしまう。
仲間たちは『おぉ~……』などと声を上げ気楽な見物客気分だったが、これをやれと言われた女重戦士の方は堪ったものではない。
初心者向けみたいな言い方をする師匠だが、騎兵隊のひとつくらいなら一瞬で虐殺できそうな中範囲攻撃技であった。
「土生金『千刃谷』と言いますね。土行だけじゃなくて金行寄りなんで火に寄った小春姉さんとはちょっと逆なんですけど、五行循環的には土の次の相が金だから練習にもちょうどいいと思う」
「いや先生ちょうど良いとか悪いとかいう話じゃなくてですね……。そもそもわたしまだ“気”も見えないし」
「そこもまぁいずれね…………。具体的に自分がどんな形で術を使うかは、今からでも知っておいた方がいいでしょ?
火“気”とかはその都度起こさなきゃいけないけど、土“気”に関しては既に足下に無尽蔵にあるから発現はさせやすいと言える。
“気”の認識さえできるようになれば、弱くてもそれらしい事はすぐにでも出来るかもね」
「そうかなぁ……?」
悠午が出来るというのなら、多分出来るのだろう。そこはあまり疑っていない。
しかし、自分がそんな超能力者になるというのは実感に乏しいのも事実。
ゲームと似たような世界に迷い込み、ゲームプレイ時と同じようなスキルが使えるとはいえ、それは例えばゲームクリエイターに設えられた道具を使うような感覚だ。
自らの努力を以って、特別な技能を身に着ける。これは信じ難いモノがあった。
「さっきも言ったけど、どっちもいきなり出来るなんて思っちゃいませんよ。そもそもからして“気”力も体力も最低限なラインにすら達してないし、果たして“気”を観るまで行けるか疑問だし実際に操れるかも怪しいけど…………やっぱり無茶だったという“気”がなきにしも非ず……」
そして、ここに来て年下の師匠も自信が揺らいでいたりする。最初から大して自信があったワケでもなかったが。
ハードルの高さは分かっていたつもりだが、お姉さん方の素質の無さがそれを更に押し上げているという。
最近は、このまま五行術を習得できないばかりか単に旅の負担になってやしないか、と。弟子の修業方針に迷いが出ていた。
「まぁ…………ただ同じ死ぬにしても、やるだけやってからと何もやらずにじゃ後悔の度合いも違うんじゃないかな? って思う……」
「なんか絶望的な事言いだしたよ!?」
師匠が迷えば弟子が迷う。
そんなのは師弟関係の基礎の基礎ではあるのだが、はじめての弟子でしかも年上の女性を3人も4人も、と言うのは、やはり勝手が違い過ぎるという事であろう。
「……やっぱり基礎修行かな、基礎修行だけは裏切らない。確実に身体能力は上がるし“気”功も発現し易くなるはず。迷った時は基礎修行しとけば時間の無駄にはなりませんよ、オレもそうしたし、多分」
「村瀬センセイ!?」
普段の涼しげな微笑ではない、やや追い詰められた感のある笑みで、小袖袴の師匠が棒きれをブオンブオンさせていた。
軽く振っているようにしか見えないのにどうしてそんな音がするのか、プレイヤーのお姉さん方は騙し絵でも見せられている気分である。
間もなく、どこまでもリアルなその威力を身体で体験させられる事となったが。
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クエストID-S072:サブタイトル未定 1/12 20時に更新します。




