058:PvPから戦争イベの予感
10日連続更新の10回目です。
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山羊獣人ランドンと村瀬悠午の立ち合いが地獄の千本ノックの様相を呈している一方、激戦となっているのは姫城小春と犬獣人イングの対決である。
師曰く「素人に毛が生えた程度」だが、頭ではなく身体に直接戦い方を叩き込まれている小春の筋は悪くない。ただ剣を振り回していた頃とは大違いだった。
イングの方は、力より技と素早さを活かす戦い方をしている。
小春は元々ただの大学生だった為か、多少の戦術を覚えても経験と根性に問題があった。要するに、まだビビっているのだ。
しかしイングは敵を殺すのに躊躇いが無い。容赦なく攻め込む。
振り回される戦斧と斧槍が激突し、鈍い鋼の音を立て火花を散らしていた。
「ガァッ! 守ってばかりか!?」
「うっさい!!」
斧を爪代わりにして飛びかかる犬獣人を、女戦士は斧槍の柄の部分で喰い止める。
すかさず蹴り飛ばそうとする小春だが、寸前にイングは柄を支点に小春の上へ飛び上がった。
背後に回られた直後に斧槍で薙ぎ払うが、獣人の方が早く間合いを取り回避される。
その追撃に全力で斧槍を振り下ろし、続けて地面を爆砕しながら反動を利用し浮き上がった穂先を突き込んだ。
ところが、その連撃も獣人の素早さには届かない。
(このッ……早さだけで!? なんかムカつく!!)
化かされているかのような師匠の躱わし方とは違う、工夫も技術も無い単純な身体能力。
それだけならステータス補正を受けたプレイヤーも負けていないはずだが、ヒト種と違い獣人は動きが野生動物に近く、動きが掴み辛い。
以前のように行き当たりバッタリではなく考えて戦えるようになった、と思っていただけに、戦い方が噛み合わない事に焦りばかりが強くなる。
「くあッッ!!」
「グルァッ!!」
そんな集中出来ていない状態で間合いを計り損ね、大振りの横薙ぎを空振りさせた直後に距離を詰められる小春。
首を狩りに来た戦斧を寸でのところで防ぐが、下から柄で跳ね上げようとした時には後方に逃げられていた。
「コハルの嬢ちゃん、足下見られてるな……。その上頭に血が上って物を考えてねぇ。アレじゃどうにもならんぞ……」
「じゃどーすんの!? 魔法ぶっ込むか!!?」
「他のケモノ頭がどう反応するか分からんな。勝負を邪魔されたとなれば、なにふり構わず暴れ出しかねんが」
「……バフもダメかな?」
明らかに小春は、獣人特有の伸びのある動きに翻弄されている。
かと言って助けにも入れない状況だ。獣人達と総力戦になっても負けはしないだろうが、辺り一面が血の海になりかねない。
かといって、このまま小春が致命傷を負うのも看過できず、プレイヤーの少女たちはハラハラしながら出方を窺っていた。
「いッやッ! スプリングエッジ!!」
スプリングエッジ、熟練度15。
近~中距離射程、魔法物理攻撃力×0.7倍、命中率0.5倍、技後硬直有り。
小春は牽制に頭上で大きく斧槍を振り回すと、間合いの外にいる犬獣人に向け振り下ろす。
刃が地面を叩き割ると、そこから曇りガラスか霧にも似た魔力刃が発生。振り下ろした速度のまま突き進んだ。
攻撃職共通の攻撃スキル、スプリングエッジだ。
そして、これは悪手としか言い様がなかった。
プレイヤーが持つスキルの中には、使用した直後に動けなくなる物が少なくない。回避するには特定のパッシブスキルが必要だ。小春は持っていない。
逃げる相手に飛び道具を持ち出したものの、案の定小春は固まってしまった。
魔力刃を避けたイングは姿勢も低く、一気に肉薄する。
マズいと頭では分かっていたが、斧槍を振り下ろした姿勢のまま小春は動けず、
「グワッ!!」
「キャッ――――――!?」
肩口から戦斧を受け、地面に突き飛ばされた。
「姫!?」
「小春さん!!」
「チッ……! やっぱダメか」
倒れる小春に、大急ぎで助けに向かおうとするジト目魔術士や隠れ目法術士といった仲間達。
「邪魔立てするか!?」
「イングに手を出させるな! ヤツらを殺せ!!」
獣人の方は牙を剥いて唸りを上げ、プレイヤーや冒険者たちを威圧する。
だが、双方がぶつかる事はなかった。その直前に、鈍い音を立てて最も大きな獣人が倒れ伏した為だ。
山羊獣人のランドンである。
「まだ手は出さなくていいよ。本当にマズイ事になったらオレが助けに入るから」
倒したのは、無論立ち合っていた相手である悠午だ。
前のめりに倒れている小山のような山羊獣人は、ピクリとも動かない。
三本を束ねた槍は、まとめて真っ二つだ。
結局、圧倒的な力の差に最後まで何も出来なかったランドンに、いきり立っていた獣人たちも言葉を失っていた。
「いや……もう助けたりゃいいじゃん! 姫なんか全然相手になってないじゃんよ!!」
「鎧がちょっとヘコんだだけで、致命傷は避けてる。ほら」
もう小春は限界だと小夜子は叫ぶが、悠午は冷静に否定。見れば確かに、頭を割られる寸前に小春は斧を避けていた。頑丈な板金鎧も斬られていない。
犬獣人は攻撃が浅かったと見るや、すぐさまトドメを刺そうと斧を振り被り小春へ斬り込んだ。
小春は斧槍を取り落としていたが、腰から幅広の剣を抜くと、背筋を使って跳ね上がる。
「――――――――こんのクソイヌぅううううう!!!」
「ギャウゥウウ!?」
女戦士は美貌を憤怒に歪め、ブチギレていた。
犬獣人の戦斧に剣をぶつけると、背負っていた丸盾を肩から叩き付けに行く。
単純で雑な動きだったが、迷いがなく勢いがあった為にイングも避けきれない。
そうして力の勝負になると、パワーでプレイヤーに押し負ける。
すばしっこさに翻弄され、追い付けない事に焦れ、死に掛けた恐怖の末に、頭のネジが外れたらしい。
今、小春は心底相手に負けたくないと思っていた。
自分の無力を思い知り、争い事に向かず、ゴーウェンや悠午のような才能が無いと分かっていても、ここまで必死に努力してきたのだ。
恥ずかしい思いをして馬車を曳き、年下の男の子に毎回叩きのめされ、体力が尽きるまで技を鍛えていた。
それなのに、こんな持ち前の身体能力と気性だけで攻めてくる考え無しの脳筋(小春主観)に負けるなど我慢ならない。
与えられた力で優位に立つプレイヤーには、多くの者が同じ思いを抱えているだろうが。
「躾けをしてやるわ野良犬ぅうう!!」
「ヒト種如きがふざけた事を!!」
「お手ぇ!!」
「ギャンッッ!!?」
戦斧を力任せに剣で打ち払うと、手に持った盾で犬獣人の鼻先をぶん殴る。
そのままヘッドバットするかのような突っ込みを見せる小春は、たまらず逃げるイングを我武者羅に追いかけ剣を振り回す。
激昂していても身体に染み付いた剣の筋は生きているようで、それなりに形にはなっていた。
(でもオレが小春姉さんに求めたかったのは勝負中の忍耐とか冷静さであってそれじゃ真逆なんだけど……まぁいいか、気合とかも必要だし)
乱闘の様相を見せて来た勝負に、やや微妙な顔で悠午が傾いでいる。
小春に犬獣人の相手をさせたのは、ここら辺で命がけの立ち合いを経験させたかったからだ。
その想定とはやや違ったが、これから先こういう事はいくらでもあるだろうし、無駄にはならないと思われる。後で反省会だが。
見れば、小春もそれなりに考えて戦い方を組み立てている様だった。
斧槍か、剣と盾かは関係ない。大事なのは自分の戦いが出来るか。
小春はイングの戦斧に小手をぶつけると、それをかち上げ剣を振るい弾き飛ばす。そこから丸盾のエッジで殴り、追撃して剣を振り下ろしていた。
乱暴極まりないが、相手の動きは見えている。
基本的に闘争心に乏しい姉さんだと思っていたが、もしやこちらが本性かとも師匠は思った。
戦斧を丸盾で受けた小春は、イングへ剣を突き出す。
しかしそこはイングの狙い通りで、剣を躱わし腕を捕まえると、引っ張り込んで小春の体勢を崩そうとした。
ところが、悠午から合気の手解きも多少受けている小春は、その程度で重心を崩さない。
反射的に腰を落として踏ん張り、丸盾で斜め下から突き上げると、相手を張り付けたまま振り回す。
「くぉんのぉおおおお!!!」
「ギャウ!? ガァああ!!」
咄嗟にイングは丸盾に齧り付く体勢となり、小春と力比べするハメになった。
獣人はヒト種よりスピードも膂力も攻撃力もあるとはいえ、流石にステータス補正されたプレイヤーと比べるのは分が悪い。
結果、丸盾を挟んで殴り合う事に。
「ふんぬぅうう!!」
「ギャァ! グワァアア!!」
「ぅおりゃぁああ!!!」
「ギャンッ!? キャインッッ!!?」
盾から離れたら猛攻を受けるので、離れられないまましがみ付きブン回されるイング。そのまま持ち上げられるので蹴りとか入れる。
小春の方は盾に張り付き離れない犬獣人を、盾ごと何度も地面へ叩き付けていた。
最低限の体術も小春に仕込まれているのが、イングの不幸である。
「先方もあんまり頭を使った戦い方をしないのが、小春姉さんの不幸で幸運だったな。同じ土俵に立てば純粋な身体能力と身に付いた技術が物を言うし」
「そうか? 向こうもありゃ結構な手錬に見えるが」
「ふむ、ケモノ頭はすばしっこい上に力もあって厄介だが、あの技のキレはかなりのモノだな。正直相手にしたくないのである」
「悠午お前……責任取れよ」
師匠、ベテラン冒険者、禿頭傷の騎士は遠巻きに観戦モードだった。冷静な悠午の寸評の一方、ゴーウェンとセントリオの小春に対する評価はまずまず。
そして、小夜子のジト目は当社比50%増しだった。それなりに付き合いのある仲間を自爆上等の狂戦士にされたのだから、止むを得まい。
「ガウッ!」
「ぐッ――――――――!?」
しかし、ここで犬獣人が文字通り必死に食らい付いた。剣に噛み付き奪い取ったのだ。当然傷を負うが、戦場では些細な事である。
口から大きく飛び出した剣は、イングの牙その物となった。
再び飛び退き距離を取った犬獣人は、そのままイヌのように地面に四肢を張り低く構える。
小春は相手のアクションを待ったりしない。師匠からは相手の動きをよく見れ、と言われているが知った事か。
小春は正面から全力疾走し、誇り高いカバス氏族も真っ向勝負から逃げる事などあり得ない。
「ぬぉりゃぁあああああああ!!!」
「グゥォアアアアアアアアアアアア!!」
何も考えずに突っ込んでいく双方。不安で今にも心臓が止まりそうな外野のプレイヤーに、ある意味で勝負の行方が分からなくなっている師匠。素人は何をするか分からないのでおっかないと思う。
噛み締めた剣を突き出し、イングは小春のすぐ脇を駆け抜ける交差攻撃を狙う。
ここで冷静だったのはイングの方だ。正直散々振り回された上に、全身を何度も地面に叩き落とされたので余力が無い。
これが最後の勝負。盾の下から潜り込み、身体ごとぶつかり刃で斬り裂く、つもりだった。
その直前に丸盾が飛んで来て、反射的に飛び上がってしまったが。
そして、地面に突き刺さるほどの投擲を間一髪で避けたかと思った次の瞬間、今度は小春本人が籠手で殴りかかってきた。
◇
回復職の隠れ目法術士、久島果菜実が治癒スキルを使っている。
噛んでいた剣が砕けるほどの力でぶん殴られた犬獣人は、あまり良くない状態だった。殴った小春があまりのグロさに冷静になるほどである。
とにかく、犬獣人のイングと山羊獣人のランドンは敗北した。
しかし、事前の約束通り他の獣人は解放される。元々悠午は獣人の捕縛に拘りは無い。自分の筋を通しただけだ。
ついでに、看過できないサイコパスも叩いたが。
「ぐぉおおお! ランドン! 勇者よ!!」
「なんという悲劇か!? 音に聞こえた荒ぶる双角が手も足も出ないなど…………!!」
「だがこれほど強大な敵によく抗った、ランドン! そなたこそ戦士の中の戦士!!」
獣人たちには既に解散してよいと許可したのだが、全員が山羊獣人を囲んで号泣したまま動いていない。時々恨みがましい視線を向けられる悠午だが、そういう勝負だったのだ諦めてほしい。さもなくばかかって来て欲しい、倒すので。
「皆、もう行け……。いつまでもここにいれば、ヒトの増援がやってくるかも知れん。お前たちは国に帰るのだ」
「ダメだ、貴様を置いて行けん!」
「そうだ! ヒトどもの兵は追い払った! この程度の冒険者やプレイヤー、我らなら――――――――!」
「やめろ! 我ら全員でかかったところで相手にならんのは分かったはずだ! それに、尋常の立ち合いの末に交わした約束を違える気か!?」
山羊獣人のランドンは、悠午らが介入する前にナイトレア国により拘束されていた。
その状態に戻すという立ち合いの条件を、当然ながら獣人たちは納得していない。
納得してはいないが、かと言ってランドンの言う通り悠午や他のプレイヤー、冒険者に勝てるかというと、分が悪いとしか言いようがなかった。
「本当は全員捕らえておきたいのだがな…………」
「すいませんね。でも、さっきも言ったけどオレはヒトにも獣人にも与する気はないんですよ」
また、獣人だけではなくヒト種であるセントリオにも思うところがある。生かしておけば、いずれ敵となって命を奪いに来るかもしれない相手だ。特に集団のリーダー格である狼獣人や犬獣人は、今のうちに始末しておきたいというのが本音である。
悠午の手前、そうもいかないのだが。
山羊のランドンは、ほとんど崩れた牢屋跡に堂々と陣取っていた。いずれレーアの街から逃げた兵士が増援と共に取って返してくるだろう。
獣人たちは、置いていく仲間に後ろ髪を引かれている様子で、何度も牢屋跡を振り返りながらその場を離れて行く。
最後まで残っていたのは、犬獣人のイングだった。
法術士の治癒術スキルで回復した後も、無言でランドンのいる方を見ている。
立ち合いの条件では小春が勝った場合イングの首を受け取る事になっていたが、小春の方は悲鳴を上げてそれを拒否した。何の罰ゲームだ。
立ち合い、勝利したのは他ならぬ小春である。一応、本人以外の誰にもこの決定に異を唱える権利は無い。
「ゆくぞイング……ランドンの意志だ」
「クゥン……無念だ。私の力が及ばぬばかりに」
仲間に促されると、犬獣人の目が女戦士の方へ向く。
ひとしきり暴れて元のチキンに戻った小春は、ビクッと震えて悠午の後ろで小さくなっていた。性根の方はそう簡単に変わらないだろう。
「もし……いずれまた見えたならば、今度は余計な者を一切挟まず、ただの戦士として貴様に挑む」
「うッ…………」
特に恨みなど見せず、真っ直ぐに宣言するイング。勝利したはずの小春は怖じ気付いていたが。
もう二度と出会わない事を祈るばかりであった。
こうして、消沈した様子で去って行く獣人たち。止むを得ない事ではある。
悠午と一行も、ここに留まる理由は無い。
町長と手下の狩人がどうなったかだけ確認したが、完全に縮んで元に戻っていたので問題は無いと思われた。
そもそもどうしてただのヒト種であるはずの町長が異形に変じたのか、悠午以外の者にとっては大問題だったが。
どう説明したものか、悠午としても悩みどころである。
「……あの山羊のヒトはさー、あれどうなっちゃうワケ?」
「そりゃー……あちらの大陸で捕まった貴族様もいるだろうしな、人質の交換に使われるか、利用価値が無ければ見世物として処刑されるかだろう」
「そんな…………」
ジト目魔術士などプレイヤーの少女たちは、残される山羊獣人のランドンの事が気になるようだった。
ゴーウェンの語るこの世界の常識的な回答に照らせば、あまり良い結末にはなりそうもない。
小夜子にしても果菜実にしても、どうして悠午はランドンを助けなかったのだろうかと思う。
戦争には加担しない、という理屈も分かるには分かるのだが、悠午が山羊の獣人を見捨てたようで、大分しこりが残っていた。
どう思われているかは大凡悠午も想像出来るのだが、だとしても以前紛争で片方に加担してえらい目に遭っているのだ、二度とゴメンである。
「そういやビッパのヤツはどこ行った? いつの間にか消えているが」
「さて……そのうち戻るんじゃないですかね」
◇
一行は獣人関連の面倒から逃げるように移動。レーアの街から主要な街道を避けて西へと向かう。
途中、立ち寄った村で話を聞くが、兵士が悠午たちを追っている気配は無い。街道から外れた村に入ってくる情報などたかが知れているが。
そこで、セントリオとフィアが本国アストラに文を出した。レーアの街の町長を糾弾し、兵士と癒着し捕虜を剥製にしていた悪行を暴露した物である。他にも、罪人ですらない犠牲者などもいる可能性があり、アストラからナイトレアに話が行くはずだ。
それでナイトレアが動くかは分からない。地方の街の町長ひとりを、王国がわざわざ罰したりするものか。
もっとも、悠午はあまり心配していない。
強引に能力を増幅された町長ともうひとりは、本来の身体がその性能を支えきれず崩壊していた。波動術、事象増幅を使いっ放しにするなど、危険すぎて姉だってやらないのに。
しかも、増幅し過ぎれば相関する周囲の現象と摩擦を起こし、そこに負荷がかかる。形而上概念記述と物理現実間の楔となる本体、この場合は町長の身体だ。
恐らく、二度と立ち上がるどころか自律呼吸すらおぼつかないだろう。
その点、狩人の方はまだ程度が軽かったが、応報する因果がどのように降りかかるかは自業自得の範疇だ。悠午は知らん。
レーアの街を出て、4日後。
人気の無い悪路を踏破すると、小高い丘の上から海が見えた。大陸西岸だ。
遠くに霞んで見えるのは、白の大陸へ渡る港のある島国、そして戦場となっているアルギメスである。
「ようやくここまで来たって感じだな。まだ入り口にも入ってないが」
「ふわー…………ゲームじゃ港からワープだったけど、こうやって見ると本当に島なんだ」
お疲れ気味の溜息を吐くゴーウェンと、雄大な景色に感嘆の溜息をつく小春。旅慣れ切った者と観光気分が抜けない日本人の差であろうか。
ちなみに、小春はもはや女戦士ではない。武器重量のペナルティーが軽減される重戦士に役割変更していた。
他のプレイヤー陣も同様。
御子柴小夜子は魔術士から一旦法術士へ。条件を満たし上位魔法職の魔道士を目指す。なお、役割変更しても所持スキルは変わらないので、魔術士のスキルは使用可能だ。役割とスキルの組み合わせによってはペナルティにより効果が低下するが。
久島果菜実は法術士から呪術士へ変更。攻撃能力は他の者に任せ、支援能力を磨く。
梔子朱美は法術士から魔術士へ変更し、祈祷士から召喚系を伸ばしてみるのだとか。
全員、獣人戦で今後の展望を色々考えたらしい。
それは悠午も同じで、主に小春の修行内容を大きく切り替えていた。
この世界を旅する上での戦略を、根本から見直す必要に迫られているのだ。
悠午自身も、まさかこの状況で自分の壁を超える必要が出てくるとは思わなかったが。
脇道から街道に入ると、ナイトレア入国時から目にしていた光景が頻繁に見られるようになる。
兵士を満載した馬車、樽を積み上げた荷車、武装が統一されてない冒険者らしき集団、それがほぼ全て同じ方向へ進んでいた。
港からアルギメスへ、戦場へと向かうのだろう。
火の粉が舞うような空気に、隠れ目少女は思わず小さくなって押し黙る。
世界をふたつに割る戦争の最前線。
これまでの戦闘とは全く違う、無数の人間が殺し合う有り触れた地獄が、すぐそこまで迫っているのだ。
 




