050:クルマに乗る合理性と運転免許
10日連続更新の2回目です。
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黒の大陸アストラ国の南部にある小さな町、リット。
そこを襲った大型モンスター、ヒドラの討伐戦から3日が経っている。
破壊された町の再建は当分先になるが、状況が落ち着いたあたりで村瀬悠午の一団は旅を再開していた。
ここまで自業自得含め寄り道が多かったが、ここからは最短距離で白の大陸の黄金都市アウリウムを目指す事になっている。
道中に修行は挟むが。
「ぐげっは」
大学生でグラビアアイドルになるほどの美貌、女戦士の姫城小春が軽快に宙を舞い地に落ちる。
ところは、リットの町から110キロ南の地点。トアトランという地域に入っていた。
例によって食事休憩を入れた後の修練であるが、今回は妙に女戦士さんは自信有り気だった。
先のヒドラ戦を経たという事もあり、何か確信でも得たのだろうか、と思っていた悠午だが、結果はご覧の有様。
教訓をぶち込んだ師匠の方も、微妙な残念顔だった。
「なんか小春姉さん変な動きしてたんだけど……。今のってレキュランサスで絡んで来たプレイヤーの使ってた技ですよね? 正直な話、動きが全部決まっているような技を多用するのはお勧めしません。自分の行動を予告しているようなもんだし」
小春必勝の策、破るる。
ヒドラ戦の折に思い出したプレイヤーの基本技術、モーションキャンセル技を使って年下師匠を驚かせてやろう、と思ったら存外厳しいツッコミをいただいた。
斧槍による大降りの打ち下ろし直後で隙が生まれた瞬間、プレイヤーのスキルを発動させ硬直を無理やり解いたのである。
通常攻撃やスキルの硬直時間を別のスキルでキャンセルするのは、多くのゲームで見られる基本テクニックだ。
現実にはありえないようなクイックな連続攻撃も可能であり、これなら一発かませる! と密かな勝機を得ていたのだが、逆に一発かまされ至る現在。
真正面からスキルを潰された上に、水落に掌底を喰らって息も出来なかった。
ちなみに、小春が用いたのはレキュランサスで軟派プレイヤー3人組に襲われた際に見た技。
ジャイロアックス、熟練度30。
近距離範囲攻撃、物理攻撃力×2.5倍、速力と技量の値により攻撃回数が増減する。
自身を駒のように回転させつつ上下水平から連続で斬撃を振るう技だが、悠午にはその隙間に打撃を放り込まれ、身動きできないサンドバック状態だった。
せっかくレベルが上がりアンロックしたからって、一度見せた技というのも良くなかったかもしれない。
そんな自分なりの反省点を見出しつつ、美貌の戦士は横っ面を地べたに着けて、涎垂らして白目を剥いていた。
「お前は褒めて伸ばすって事を知らんのか…………」
「小春さん……か、回復する?」
美人さんのあまりに無残な姿を見て、渋い顔で抗議するジト目市松人形の御子柴小夜子と、青い顔になっている隠れ目引っ込み思案の久島果菜実。
悠午と小春の殴り合いを見物するのはいつもの事だが、この日はある理由から比較的同情的だった。
「まぁ毎回同じような太刀筋や同じような踏み込みしてればカモにされるわな。プレイヤーの力はそれでも厄介だが、逆に同程度の地力なら一発でやられかねんか」
「ユーゴ殿の技量あっての事だとは思いますが……。プレイヤー以外でプレイヤーの力と早さに正面から立ち向かえる者は多くありませんし」
食休みしながら寸評を語るベテラン冒険者の大男ゴーウェン=サンクティアスに、順番待ちのクロード=ロックナー・ヴィレアム。
美女がぶっ飛ばされている件に関しては、あまり感想が無い。
鉄火場に立つ戦士となれば、老若男女の区別無く死は訪れるのだ。
「うごご……つ、つまりプレイヤーの覚えるスキルとかやっぱり使えねーって、そういう話ですか?」
「そうは言わないけど……立ち合い慣れた相手に2度同じ技を使うのは危険過ぎます。隙の大きな技なら尚更。
使うにしても単発では出さない事、連携に組み込む事、使い所を見極める事、そんなところかね。月並みになるけど。
技そのものは武器として有効だと思いますよ? 技に移行する瞬間は確かに小春姉さんの反応速度超えていたし」
どうにか再起動を果たした小春だが、まだ足腰に力が入らないらしく、地べたに座り込んでいる。見上げている空が青い。
試みこそ失敗したものの、師匠曰く全く使えないという事でもないらしい。少し意外に感じる弟子であった。
「うーん……それじゃスキルも使用回数を稼ぐのも無駄じゃないって事で、もっと基本的な立ち回りに慣れろって事かぁ……。なんかレベル上がった気がしない……今回も全然戦えてないし」
「確かに打撃の力も速度も上がってるけど、小春姉さん攻撃の繋ぎ目がぎこちない。頭が身体に付いて来てないんじゃないですかね。だから、今のところそんなに成長した実感が無いんだと思う」
小春のレベルはヒドラ戦を経て一気に12から30にまで乗った。当然攻撃威力も行動速度も倍以上になっているが、技術や認知速度や思考速度まで上がるワケではない。
豆鉄砲からライフルに持ち替えたところで、扱い方まで上手くなれば世話ないのである。
◇
次にクロードと悠午が組打ちした後に、一行は移動を再開した。
多少疲れていても、小春が馬車を曳く役割に変わりはない。死にやしないので、こういう時にスタミナとタフネスを鍛えるらしい師匠談。
御者席にはゴーウェンとクロードが、屋根の上には小柄な斥候職の少年、ビッパがいる。馬で並走しているのはアストラ国の騎士、禿頭傷のセントリオとその従者だ。
小春以外の女性陣は、馬車の中に吊り下げた古代神器、人形の館で思い思いに過ごしていた。
アストラ国第2王女のフィアは、この時間を使い師と仰ぐ悠午から手ほどきを受けている。
ドールハウスの暗い地下室で、普段は概ね二人きりとなるのだが、この日は何故かジト目の魔術士と隠れ目法術士が見学に来ていた。
「っても、そんな柔軟体操みたいなのでホントに魔法が強くなるんか? 王女様も疑問に思ったりせんの?」
ところが、早々に飽きた様子のジト目市松が横から口を出して来る。王女の邪魔になっているのだが、気にした様子は無かった。
「正確にリズム取るのが大事なんですから、ソッとしといてくださいよ……。この世界の魔法も“気”力体力勝負な所があるから、その辺が効率よく鍛えられるように『集気法』の基礎からやってもらってるんです」
無表情でも迷惑そうな気配を放っている弟子に代わり、師匠が見物人に苦言を呈す。
先ほどからフィアが繰り返しているのは、ゆったりとした動きで魔杖を振り回す全身運動と、それに合わせた特殊な呼吸法だ。
確かに一見して魔法関係なさそうではある。
この修練は決して無駄ではないが、現時点ではフィアの意気込みやヤル気を見る為の内容でもあった。
最終的にフィアが求めるのは、悠午の修めた仙道における基礎にして奥義、陰陽五行の輪廻だ。
悠午自身にとっては将来的に外さなければならない補助輪のような技術だが、それでもヒトの階梯を飛び越え超人類に至るような技術である。
おいそれとは教えられなかった。
「それってさー……あたしらにも効果あると思う? 魔法スキルの威力とかSPの最大値とかでさ」
「あるんじゃないですか? 今まで見てた感じ、魔法使った時に“気”力消耗してるでしょ? ステータス補正の事はよく知らんけど、地力を増幅しているんなら鍛えた割合だけ伸びたりするんじゃないですかね」
「なんでそんな事分かるんだオマエ」
悩む様子も無くサラッと答える悠午に、胡散臭そうな眼差しが普段の2割増しな小夜子。
プレイヤーは攻撃スキルや魔法スキルを使う際に『SP』を消費するが、時間経過で自動回復するのに加えて回復を促進する手段もあるので、特に不足を感じた事は無い。少なくとも、SPの消費を気にし出すのは、消費の大きな高威力スキルを習得する後半のレベルになる。
それならそれで意味はあると思うが。
「それじゃあのごっついスキルは? ヒドラに何度かブッ込んでたじゃん。マップ兵器みたいなヤツ」
「ま……『まっぷ兵器』???」
困惑の武道少年。
時々この姉さんは謎の単語を発してくるから困る。
「ヒドラの巨体を半分飲み込む程の炎の奔流ですね。桁違いに大きな魔力の流れを感じました」
ここで喰い気味に補足するのは、黙々とトレーニングしていたフィアだった。普段の起伏が少ない分、感情の動きが分かり易い。
おかげで『マップ兵器』とやらも、何を言っているのか分かった。リットの町のヒドラ戦で、悠午が使った仙道五行術のひとつだろう。
確かに一見魔法っぽいので、観察と研究に余念が無い魔道姫が喰い付くのも分かる。
今まで何も聞かなかったという事は、門外不出の秘伝とでも思ったのだろうか。
「まぁ術と言ってもいいんですけど……。体術も必要なんですがね。アレ、火“気”を発射しているんじゃなくて火“気”で殴っているワケだし」
「あれで物理属性なんか……クレームが来そうな設定だな」
実は打撃技扱いな仙人掌破砕流(火“気”属性)。攻略サイトで誤植が指摘されそうな設定である。
悠午の振り抜いた拳から火炎流が出ているように見えるので、魔法スキルと勘違いされるのも止むを得ない事ではあった。と言うよりゲームスキルなんかではないのだから、その辺の境界は曖昧なのだが。
「まぁ設定詐欺の事はこの際どうでも良いわ」
「『設定詐欺』て…………」
「てかユッケの術ってあたしにも使えるようになんの? てか何がどんな必殺技があるか全部教えれ」
「美味しそうな名前になった…………てか『必殺技』て」
言いたい放題のジト目に渋面で唸る悠午。
多少自分が使いやすいようアレンジしたものの、悠午に大昔からあった元設定の責任までは取れない。先達の仙人とか武人に言って欲しかった。
小夜子も小夜子で、技の全てを教えろとかそんな簡単に聞き出せたら某大国の諜報機関は苦労していないのである。今まで何人のエージェントや武道家が死ぬような思いをして探ってきたことか。
マップ兵器とは言い得て妙。元の世界で悠午は人間戦略兵器扱いなのだから。
「ぶっちゃけゲームでもあんな攻撃ボスくらいしか使って来なかったし、レベル関係無しにゲット出来るんならそうしたいじゃん?」
「多分レベル上げる方が100倍簡単ですけどね。いや実際のとこは分からないけど、とりあえず御子柴さんが気功術舐め切っている事だけは分かるわ」
「他にも風呂に水張ったり薪を長持ちさせたり照明作ったり、クラフト系でも地味に小技が多いと見た。だから全部吐け!」
「なんか前にもこんなやりとりがあった気がする」
思い出すのは、フィアが一行に加わる少し前。
成り行きで悠午は気孔術の事を少し説明しているが、個別の技については具体的な事を言っていない。そもそも、手札は可能な限り伏せておくものであるし。
それに、ジト目姉さんに言うところの『必殺技』をいちいち説明するなど、特技をひけらかす様で恥ずかしいという年相応のナイーブさも持っているのである。
「えー……企業秘密って事にさせてください」
「却下じゃ。パーティーの面子がどんな事できるか知らないで作戦なんか組めるか」
「こればっかりはダメです、本当にバレるとマズい技なんかも結構あるんだから」
「そんな事聞いたら余計に知りたくなるだろが! あたしにも巨乳とか乳姫みたいに技教えれー! 乳がないとダメってかコンチクショー!?」
「胸の問題じゃねーです。それに教えろって簡単に仰いますがね、小春姉さんとフィアがどれだけ苦労してるか御子柴さん見てるでしょうに――――――――」
大真面目に断る悠午の首を全力で締めにかかる話を聞いちゃいねぇ小夜子。首が頑丈過ぎて全く効いていないのが、さらに腹立たしいとの事。
そして、思いっきり修行の邪魔をされているフィアが、乳姫とはいったい誰の事かと胡乱な瞳を向けていた。王女として生を受けて以来、こんな扱いされたのはじめてである。
「仮に技だけ教えたって、今の御子柴さんじゃ扱い切れないっスよ? “気”力が全然足りないし。やるんならフィアみたいに基礎からはじめないと…………」
「なんか時間短縮する裏技あるとか言ってたじゃんか? 非常時なんだから、くだらねー精神論なんかは要らないし。もっと実務的マニュアリズムに最低限の要件だけ教えれ」
「裏技なんか無ぇ……」
やや厳しい目で睨まれ、思わず後退りジト目も泳ぐ小夜子。煽りを喰って隠れ目少女も逃げる。
悠午は以前に叢雲の秘伝の事を話したのを後悔していた。当時はフィアが仲間に加わるとは思わなかったのだ。そのフィアの前で『裏技』とか口走るし。
案の定、魔道姫は猫のような目で師匠を凝視していた。
それに、小夜子は軽々しく精神論など不要と切り捨てたが、武人という人種には命より大事になることもある。
武人と兵士の決定的な違いは、戦う事に対する意志の所在。
兵士は戦闘効率と合理性のみを追求し、戦う理由と意志は指揮命令系統に預けるものだ。
しかし武人は、他でもない自らの意志によってのみ戦う。
信念無く技を振るえば、それはもう単なる傍迷惑な暴力でしかない。
仮に小夜子がそうなったら、師としては弟子を叩き潰して責任を取るしかないだろう。
そんなの悠午だってゴメンなのである。
◇
悠午ら一行は、日の入り前にトアトランの街へ入る事が出来た。地域の名を冠する、アストラ南部最大の都市である。
一応宿は取るのだが、ここ最近は人形の館の生活環境が整い過ぎて、客室をあまり使っていない。
宿の人間に変に思われるので人数分部屋を取っているが、それも勿体ないという意見も出ていた。いっそ馬車泊でもよいのではないかと。
ちなみに、悠午の意見は逆。
宿が使えるなら使った方がいい。ドールハウスは便利であるが、中に入った人間が外から見て無防備になる事などを理由に、依存するべきではないと考えている。
そんな事を言っても、風呂と寝室、プライベート空間を求める淑女の方々にはあまり聞き入れてもらえないのだが。
「おのれー叢雲本家のボンボンがぁ…………上から目線で講釈垂れやがってぇ…………」
そんなプライベートルームの一室で、ベッドでうつ伏せになり何やら呪詛を垂れ流しているジト目少女。
しかしそこは、隠れ目少女の部屋だったりする。
部屋の主は出ていくワケにもいかず、隅っこに小さくなって座っていた。
地下室で悠午に睨まれてから、ジト目娘はこの様な調子だ。
その後、ビビってから落ち着いた後に拗ねていたのである。それがまた悔しい。
「本家と分家連中が調子乗ってるいられる理由は……あいつみたいになる『裏技』! 絶対ゲットしてやるわ…………。なんか手は無いかカナミン!?」
「フエぁ!?」
何やらブツブツ呟いていたと思ったら、突然グリンと首を回して話を振って来る怪奇ジト目の市松人形。生来気弱な隠れ目少女は、物凄くビックリしていた。
「普通にレベル300まで効率房プレイしたって、アイツみたいなステなるのはムリだろ。手っ取り早く気功を身に着けるには、アイツの『裏技』しかないって。
そうすりゃモンスター倒してレベルアップするのも簡単になってロールのスキルも取り放題、他のプレイヤーだろうがクエだろうが無双出来るって寸法よ」
寸法といわれても、果菜実は何と答えたものか分からない。少なくとも、上手くはいかないと思う。
「で……でもミコちゃん、ゆーごくんは裏技……『秘伝』は命が危ないからダメだって…………。小春さんやフィアさんみたいに、地道にやるしかないんじゃないかな?」
「それって自力で仙人になるようなもんだから寿命とのチキンレースになるって、野郎も言ってたじゃん」
悠午には却下されたが、小夜子には気功術が何としても必要になっていた。
元ゲームプレイヤーであるからして、現状を鑑み自分が最終的にどの程度のステータス補正を得るかは想像がつく。
だが、そのプレイヤーとしての力は、飽くまでもゲームバランスに準拠しているのだ。
つまり、死んでもリスポン出来ると想定された上でのステータス。
痛みも感じない、恐怖で身体が固まるような事もなく、敵の攻撃は即死技でもない限りダメージ換算され、身体能力値が無くなるまでは活動出来るという条件下で成り立つ。
ところが、この現実は違う。
死んだらそれまで、常に一発勝負。攻撃を受ければ死ぬほど痛い。VRとは比べ物にならないモンスターの威容に身体が竦み、致命傷でなくても痛みで動けなくなる。空服や体調不良だってあるのだ。
いったいアレのどこがリアルなゲームだったのか、と笑ってしまう。
現実的な諸要素は、この世界の難易度を倍以上に引き上げていた。
先のヒドラも、ゲームでは複数パーティーが連携し、犠牲を出しながら倒すのが当たり前の大型モンスターだった。
しかし実際には、そう都合良く複数パーティーが合流するという事もなく、また犠牲を出す前提で戦う事など出来はしない。
そして大半のプレイヤーと同じく、小夜子もただの一般人だ。
戦う訓練をした事など、あるはずも無かった。
焦っていると言ってもいい。
今の小夜子はただの雑魚。別に目立ちたいワケではないが、この世界で弱者ではいたくない。
プレイヤーとしての底は知れた。元からソロでプレイするゲームではなかったとはいえ、シャドウガストやヒドラと、この世界にはゲームバランスを無視した怪物が多過ぎる。ゲームマスター仕事しろ。
飽くまでもゲームがバランス調整の出来ていないクソゲーでしかないと言うのなら、他に攻略の上で有効な武器を手に入れるしかないだろう。
それが、気功術だ。
とはいえ、その力をまさか自分が、よりにもよって村瀬家の人間から手に入れようとは因果な話だと小夜子は思う。
「群雲に特別な力があるとか何のカルトだと思ったけど…………この際それはどうでもいいや。マジだったし。
ヤツが14であそこまで出来るなら、あそこまでじゃなくてもあたしらだってスペシャルなスキルが使えると思わね? ゲームに無かったスキルよ、ユニークスキル」
「ゆーごくんは特別だと思うー…………」
「そんな負け犬根性でどうするカナミン! どうせこのままアイツと旅するなら、途中で足手纏いの2軍になりかねないじゃん。付いて行けなくなるかも」
変なテンションでやる気を燃え立たせるジト目の一方、引っ込み思案の隠れ目少女は、はじめからそんな大それた事は考えていない。
果菜実にとって村瀬悠午という少年は、物語の主人公だ。自分のような地味な凡人とは根本的に異なる特別な人間だ。お傍に置いて貰えるだけで十分、などと若干卑屈な事も思っている。
が、ジト目の友人の発言にも一理あった。
現状、既に果菜実は役に立っているとは言い難い状況にある。悠午などとは比べるべくもないが、ゴーウェンやクロード、小春といった前線畑、フィアや小夜子といった後衛畑、ビッパのような支援職、最後に回復職としても朱美ほど役に立っている自信がない。朱美奥さまは家事も出来るしレベルも上だ。
悠午は優しいから多少ダメな子でも見捨てないのでは、と甘えた事も考えたくなるが、思い返せばレキュランサスでは置いて行かれそうになっている。
優しいが甘くはないのだ。小春も割と日々容赦なくフルボッコにされている事だし。
「…………ふぇ」
「ねー? カーストヤバいじゃんか」
自分ひとり置いて行かれるのを想像して、半泣きになる隠れ目さん。さり気なくお前はカーストの底辺だと酷い事を言うジト目。その科白はブーメランして来るのだが。
「でも……やっぱりゆーごくんの能力を教えてもらうのは無理だと思う……。やるとしても、小春さんとかフィアさんと同じようにやるしかないんじゃないかな?
ゆーごくんが危ないって言うなら、本当に危ないんだよ」
「ぐううう…………」
なるほど悠午に付いて行くにはプレイヤーを超える実力を持たねばならない。そこは隠れ目少女にも理解できた。
理解はできたが、かと言って手段が手段である。悠午から本人がダメだと言う技術を教わるのは不可能だろう。そこはジト目も沈黙するしかない。
さりとて、諦める事など出来ないというのも本音だ。寿命を使い切る手前か、あるいは少なくとも14年以内に物にできるか、この差は大き過ぎる。
悠午は自分が叢雲の秘伝で気功を習得したなどと一言も言っていないが。
「とにかく、姫や乳姫のやり方じゃダメだ。まどろっこし過ぎる。目標一年以内!」
「…………またゆーごくんに怒られそうかな」
「そうだ! カナミンなら多少ふざけた事言っても怒れんだろ!? そもそも『命の危険が伴う』って確実に死ぬと決まっているワケじゃなさそうだし、ダメもとで裏技だけ教えてって頼んでみたら――――――――」
「ぅうう……! ヤダ怖い…………!!」
一年以内に気功術を習得する、という志半ばで潰えた武人や現在進行形で苦しい修行をしている者達に激怒されそうな目標を立てるジト目。
その尖兵にされそうな隠れ目少女は、珍しく激しい拒絶を見せた。
悠午に睨まれたら生きていけない。今にも泣きそうだ。泣いてる。
だというのに、次なる一手は遺憾な事に隠れ目少女が打つ事に。
ジト目は思いっきり悠午に睨まれている。
故に、選択肢など無いに等しいのだが、それにしたってあんまりな方法だと果菜実は思った。
クエストID-S051:狩り場と獲物の相関関係 09/26 19時に更新します。




