046:選択肢無く突撃あるのみ
10日連続更新の8回目です。
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現役グラビアアイドルの女戦士、姫城小春は自室のベッドでゴロゴロしていた。
先日までの過酷な修業による、肉体と精神の疲労の為である。
加えて、カワイイ顔して鬼の修行を課す年下師匠へのストレスもある。
こういう世界だ。帰り道を探す旅が荒事と無縁でいられないのは理解しているつもりだ。
しかし、正直今はやる気を完全に失っていた。
別に戦い方など教わらなくても、悠午やゴーウェンといった専門職に任せておけばいいのではないか。
そんな気分になっていたのだ。
貴族と冒険者が名も無き沼からモンスターを引き連れて来たのが、そんな時である。
はじめは気にならなかったが、段々と外が騒がしくなってきていた。
どよめきから大きな呼び声、そして叫びや悲鳴へ。
気配など読めない女子大生でさえ、周辺に漂う異質な空気に気が付いてしまう。
この世界に来てから何度か遭遇した、戦場という修羅場の臭いだ。
「出てこい姫ぇええええ!」
「ぅおああああああ!? ちょ! いきなり入って来ないでよミコ!! あとビッパくん!!」
「貴族さま達が怪物を連れて来たんだとさー。ユーゴが宿で籠城戦してろって」
下半身が下着だけだった女子大生は、乱入してきた仲間に悲鳴を上げた。こいつら扉を蹴破りやがった。
そんな蛮行にも関わらず、ジト目の魔術士に気にした様子は無く、小柄な斥候職も平然としている。
とりあえず小春はシーツで下を隠した。
「そ、それでモンスターって? 何で連れて来ちゃったの!? そのヒト達」
「トレインじゃね? 垢バン戦犯だわ完全に」
「ユーゴとゴーウェンのおっさんが退治しに行った。おいらも見に……応援に行きたいんだけどなー」
ゲーム中にトレイン――――――モンスターを引き連れて来るマナー違反――――――を喰らった事を思い出し、凶悪に顔を歪めるジト目魔術士プレイヤー。即GMに通報する案件だが、この世界ではそうもいかない。
ビッパの方は、小春への言伝が終わったなら、サッサと外に行きたそうにしていた。
「いったい何が? マスターはもう外で戦っていらっしゃるの?」
「状況はどうなっています!?」
「どうしてわたしの部屋に集まるんですかー!!?」
そこへ更にやって来るパーティーメンバーの爆乳魔道王女と従者の青年。流石に男であるクロードの方はすぐに部屋を出たが。
小春は早くズボンを履きたい。
「騎士さま達が怪物の群れを連れて来ちゃったんだよ。ユーゴとおっさんが片付けるって。プレイヤーのお姉さんは宿で大人しくしてろってさ」
「では私達への指示は無いのね。マスターのもとへ行くわよクロード」
「ハッ!」
魔道士のマキアス王女は、ビッパから話を聞くや迷わず戦場へ乗り込むと決めた。悠午の術を一瞬たりとも見逃す気が無い為だ。
当然、王女の従者であり本格的な修行を開始したクロードも付いて行く。
「…………じゃ、そういう事で!」
斥候職のビッパも、少しの間プレイヤーの少女達を見ていた後、魔道士の王女と従者の後を追った。
正義感に厚くも戦いが好きそうにも見えないが、その辺の違和感にプレイヤー達が気付く事は無い。
容赦ない展開に、付いて行くだけで精いっぱいだった為だ。
「ろ……『籠城』?」
「あたしは……もち経験値稼ぎに行くけどな! 宿屋前で魔法ペシペシ撃ってるだけでも相当稼げると見た」
小春が窓から外を見ると、平べったい虫型モンスターが素早い動きでヒトを襲っているのが見えた。キモイ上に恐ろしい光景で、言われんでも宿に閉じ籠っていたい。
一方でブレないのはジト目である。モンスター=経験値。多少迷っていたようだが、危険があってもこの機を逃がす気はなさそうだった。
「というワケで行くぞ壁役と回復役!」
「ハァ!? 悠午くんは宿にいろって言ってたじゃん! ここだって絶対安全じゃないんだから防衛してようよ!」
「何の為に修行してんだこういう時の為だろが! 壁がいないと魔法職は速攻で殺されるんだからホラ行くぞ姫!!」
「あんたそのうちホントに死ぬからね!!」
有無を言わさず歩き出してしまうジト目に悲鳴を上げるグラビア戦士。隠れ目と若奥様の法術士ふたりも、放置できないので仕方なく後を付い行く。
宿屋一階には何人もの住民が逃げ込んで来ていた。
怪我人もおり、人の良い法術士ふたりは報酬など考えずに治療をはじめてしまう。
「あ、あんたら冒険者か!?」
「こいつらプレイヤーだよ…………」
「た、たた助けてくれ! 外に魔物が!!」
異世界から来た異邦人は、良く見ればこの世界の人間と異なる部分が多い。
そしてプレイヤーは、厄介者と強者という概ねふたつの認識をされていた。
普段は何をしでかすか分からないが、このような状況では頼もしい輩である。
宿屋の主人や逃げて来た身形の良い中年に懇願され、モロに戦士な格好の小春が困っていた。
「え…………と、わ……私達だけじゃ――――――――――」
「んなら宿代はチャラな! 後の報酬は応相談って事でよろー!!」
そんな女戦士の首根っこを掴み、緊急時故に一瞬で交渉を終えたジト目が宿の外に出る。
どうせ戦闘になるのは同じなのだから、小銭でも稼げれば、という男前な判断であった。
ついでに、法術士ふたりによる治療もタダではないと釘を刺しておく。
この世界に来て以来お金には苦労してきたし、またこの世界では普通の事だ。
表通りに出ると、ハチの巣を突いた様な、という表現がピッタリな有様になっていた。
まだ日が高いというのに飛び回る鬼火、建物から建物の陰を走り回り足下に喰らい付く大ネズミ、ハンドボール程も大きなハチ、地面を這ってはヒトに向かって飛び付くヒル。
それを、冒険者らしき剣を持った男達や、手近な物を振り回した住民が追い払っている。
その光景は、戦争のようだったシャドウガスト戦と違い、害獣災害を相手にしているようだった。
「うえぇ気持ちワル! ヒートウェイブ!!」
そんな所に飛び出してくる、腹の大きく膨らんだ青紫の巨大カエル。
物凄くビックリするジト目魔術士は、間髪入れずに魔法スキルを発動。
ヌラヌラしている爬虫類の体表を、一撃で炙り焼きにして見せた。
「うわグロッ!?」
「ヒィッ…………!?」
変色して転がるカエルの姿に、女戦士と隠れ目法術士の腰が引ける。
しかも、事切れたかと思いきや、モゾモゾとカエルの腹や口が蠢きだした。
即、壁役の後ろに隠れる魔法職3人に、悲鳴を上げる壁にされた女戦士。
しかしカエルは生き返ったワケではなく、口の中から小さな子供が這い出してくると、『うえーん!』と泣きながらどこかへ駆けて行った。
「…………ミコ、あなた」
「だ、だってんな子供が喰われてたとか分かるワケないし!!」
青い顔で恐れ慄く女戦士に、プチ切れるジト目。
焼いたのが表面だけだからよかったようなものの、中までダメージを通していたら子供まで死ぬところであった。
不可抗力なのだからジト目魔術士に咎は無いのだろうが、その後先考えない手の早さにはモノ申したい仲間たちである。
「お願いだから誤射とかやめてよ!? 一般人殺したりしたら指名手配とか以前に一生のトラウマだからね!!?」
「んーな事言ってる場合か! ほら新手が来たぞ修業の成果を見せろパダ○ン!!」
誤魔化す様に叫ぶジト目の指差す先には、乳白色の肌に青い血管を浮かせた不気味なヒト型モンスターがいた。
洞窟に棲む亜人型モンスター、ケイブマンと同系列の沼に棲む怪物、『マーシュマン』だ。
それが5体。
どこかの町娘を追いかけていたが、それに逃げられると目先をプレイヤーの少女達へ変更して飛びかかって来る。
斧槍の間合いへ入った瞬間に纏めて吹っ飛ばされたが。
「ッ……ふぅッ!!」
「ぉ……おお、やるじゃん」
女子供の体重ほどもある武器を振り回し、プレイヤーの女戦士が気合を発した。
思わぬ仲間の気迫に、強気で鳴らすジト目魔術士も思わず声が上ずっている。
ゲームにおけるマーシュマンの討伐推奨レベルは10程度。これがリアルだと倍近くになり、更に集団を相手にするとなると必要レベルは10では済まない。
姫城小春のレベルは12。
本来ならば、マーシュマン5体を一蹴出来るような力は無いはずだった。
それでも、ある達人の少年と殴り合うよりは、遥かに容易い相手だと本人は思う。
「よしッ! かなみん、朱美さんはバフと回復! あたしが魔法撃つから姫は近づくヤツブッ潰せ!!」
「わ……わたしひとりじゃキツイって! 悠午くんやゴーウェンさんはどこ行っちゃったのよ!?」
とはいえ、どれほど鍛えても性根や度胸の無さはなかなか改められるものでもなく。
気合の入ったジト目の科白に泣き言で応える女戦士だが、その呻きは町全体を覆う叫び声に撃ち消されてしまった。
何百もの人間が発狂したかのような声に、住民や冒険者はもちろん、モンスターまでもがパニックを起こす。
単なる大声ではない、本能や根源的な恐怖を呼び起こすモノだった。
「な……なに今の?」
「クッソ嫌な予感がしてきたぞぅ……」
狂ったように突っ込んでくるコウモリに似たモンスターを、斧槍を振り回して叩き落す女戦士。気が散りまくっているが、身体が攻撃の筋を覚えているのでどうにかなっている。
ジト目魔術士は鬼火を魔法スキルで撃ち落とし、逃げてきた住民を法術士のふたりが治療していた。
何者かの叫びは続き、これに地鳴りと何かを引き摺るような振動も加わる。
混乱していない場慣れした冒険者が、怒鳴りながら宿屋のある通りに駆け込んで来た。
皆が逃げながら、ある一方向を見上げている。
戦闘の怒号に混じって、家や柱が押し潰される騒音も聞こえはじめた。
音と振動の他、水の腐ったような臭いが周囲に漂って来たかと思うと、
遂に、小春たちのいる場所にも巨大な影が差す。
誰もが、それを目にした瞬間に絶望の悲鳴を上げていた。
城や砦ほどにも大きく、9本もある長い首がユラユラと揺れている。
濁った緑色の体表は細かい鱗に覆われ、内側の腹は青紫で文字通りの蛇腹。
頭部には感情の無い丸い眼球が左右に4つ並び、大きく裂けた顎からは毒々しい赤い舌が伸びている。
モンスター、ヒドラの基本種であった。
推奨討伐レベル200以上。本来は高難易度ダンジョンやフィールドの奥底に棲むモンスターだ。そもそも黒の大陸にいるはずがない。白の大陸にすらいない。
しかもヒドラは、ゲーム中においても多人数で挑むべきモンスターだ。
その巨躯に相応の破壊力を持ち、蛇種特有の生き汚いほどの旺盛な生命力に、およそ相対する者にとって最悪の能力を振るう。
もはやただのモンスターの枠に収まらない、小さな町など一瞬で廃墟にする事さえ可能な怪獣である。
「……こんなの無理でしょ」
修行の内容も頭からスッポリ抜け、ただ茫然と見上げる他ない女戦士。多少の技を身に着けた所で、その辺のモンスターを相手にするのとは全く違った。
さしものジト目も、この瞬間は経験知稼ぎやレベルアップといった事柄を完全に失念する。
法術士の気弱な女性ふたりは、超巨大爬虫類の迫力に真っ青な顔で固まっていた。
「チクショウ! あんな化け物相手に出来るか!!」
「アレはほっとけ! 言われた通り町のヤツを逃がすんだ!!」
潰される家の足元では、冒険者らしき肝の据わった男達が普通の住民を連れ出している。
ふくよかなヒト種の母親と、兄らしき男の子と妹らしき女の子。
だが、巨影から逃げても往く先にヒト型モンスターの集団が立ち塞がっていた。
「いったいどれだけ入り込んでやがるんだ!?」
「退がれバケモンが! 退がれ!!」
「ぅえええん! にーちゃーん!!」
この世界で生きる者に、モンスターは大きな脅威だ。ヒト種に限らず、知性ある人間はヒエラルキーの中段に置かれている。
中年の冒険者は向かって来たマーシュマンに斬り付けるが、相手のブヨブヨとした皮下脂肪と強靭な筋肉に阻まれた。
振るわれる爪を冒険者は腕ごと切り払うが、そうしている間に別の個体が住民の一家に向かい、
小春はその頭部に斧槍のフルスイング。
「ッハァア!!」
「ギャッ――――――――!!」
十分に速度と威力の乗った先端の鎚がモンスターを一撃し、頭部どころか上半身を圧し折って見せた。
肉が潰れ、骨が砕ける手応えに嫌悪感が生じるが、『確実に殺せ』と散々仕込まれて来たので身体は勝手に動く。
別の一体が飛びかかってくるが、小春はこれを斧槍の横薙ぎで迎撃。
しかし僅かに浅く、相手がノックバックしたと思った瞬間、
「アックスフォール!!」
小春は戦士職の斧スキルを発動。
斧槍を振るった直後で身体が硬直していたが、その辺を一切無視して強制的に飛び上がり、ロックオンしたモンスターを真上から叩き斬る。
アックスフォール、熟練度10。
近距離射程、物理攻撃力×2倍、命中率0.7倍、クリティカル率上昇、技後硬直有り。
「ハッ――――――――!!」
小春の背筋にゾクゾクとしたモノが奔るが、それは恐怖や嫌悪感だけではなかった。
ゲームの世界にいるという拭い切れない非現実感、生き物を殺すという罪悪感や忌避感、戦いに慣れない無力感、理不尽な状況に対する不平不満。
だが、この瞬間だけそれらを振り切った気がする。
誰かを助ける為に力を振るう事。形になりはじめ、おぼろげに見えて来た戦い方への手応え。
そして、ようやく出来たゲーム時のような戦い方。
通常攻撃動作の終わりに生じる硬直時間。そこで攻撃スキルを発動し、硬直を『キャンセル』するのは『ワールドリベレイター』だけではない多くのアクションゲームで共通したテクニックだ。
この世界でも出来ると思っていなかったし、ここ最近は年下師匠から基本的な太刀筋と立ち回りばかり叩き込まれていたので、プレイヤーのスキルを使う機会が無かったのだ。
ゲームプレイ時の小春は、特に意識もせずキャンセルを使っていた。
ここに来てようやく、歯車が咬み合った気がする。
ついでに、キャンセル技など知り様もない悠午に一発かませるかもしれない、と邪な考えも頭を過った。
ちなみに、技から技へのキャンセル派生は別途パッシブスキルが必要となる。
「助かったぜねーちゃん!」
「こういう時は頼りになるなプレイヤーさんはよ!!」
他のマーシュマンも、ジト目魔術士と他の冒険者が集中攻撃して殲滅した。
逃げて来た一家は、ひとまず宿屋の中へ避難させる。
しかし、細かいモンスターはどうにかなっても、問題はスケールの違う九つ首の大蛇である。
ヒドラは単に大きなマトではない、凄まじい生命力と攻撃力を持つ生きた移動要塞だ。
9本の首は切り落とされても短時間で頭ごと再生し、それぞれが異なる特殊能力を振るう。
炎を吐く首、雹を吐く首、毒を吐く首、呪いを吐く首、雷を吐く首、粘液を吐く首、衝撃を吐く首、長い舌の首、大喰らい。
ヒドラとは、単なる巨大なヘビの変異体ではないのだ。
巨体を以って全てを踏み潰し、長大な首を伸ばし際限の無い破壊を撒き散らす、天災にも近い存在。
そして今まさに、地上を見下ろす首のひとつが大顎を開いて、致命的な災いを吐き出そうとし、
「金克木! 避雷!!」
空中へ駆け込んで来た小袖袴の少年が、ヒドラの放つ電撃を捻じ曲げた。
手の平でイカヅチを受け流す悠午は、そのまま大蛇の頭に突っ込み馬鹿力の剛腕を振り抜く。
激突の瞬間に打ち鳴らされる、落雷以上の爆音。
衝撃波で周辺の大気が歪む程だ。
横っ面をぶん殴られ、馬を乗り手ごと丸呑み出来そうな頭が吹っ飛ばされていた。
古代樹林の恐竜の時同様、スケール差無視のパワーである。
頭が半分潰れたそれ以外の首は、怒り狂って荒ぶりつつ全ての頭を小袖袴の少年へ向けた。
一斉に吐き出される様々な禍の吐息。
悠午はそれら全てを相殺か、あるいは力尽くで迎撃する。
こうして自分の方へ注意を引き付け、攻撃が町へ向くのを抑えていた。
面倒だが、他にやりようもない。
それに、それなりに成算のある戦いでもあった。
「ゴーウェン! 叩き落とす!!」
呪いの吐息を気功の生命力で無理やり蹴散らし、宙を踏み込む悠午は首の一本へストレートの打撃を叩き込む。
そして、インパクトの瞬間に内側へ捻りを加え、下向きの螺旋打撃へと変化。
見えない巨人に殴られたかのように、地面へと叩き落とされた大蛇の首は、
「素っ首晒せやぁ!!」
「ギエッ――――――――!!?」
建物の上から飛び降りたゴーウェンが、真上から身の丈ほどもある大剣を叩き付けた。
大物狩りの冒険者、『断頭』のゴーウェン=サンクティアス。
その前に首を晒したが最後、ぶった斬られて上下に切断されるしかないのである。
肌が泡立つ断末魔を上げ、巨木より太い蛇の首が落ちた。
9本ある内の一本で、しかも時間が経てば新たに生えて来るような代物だが、これでいい。
ヒドラを倒す方法は、各首の特殊能力への対策を用意し、9本の首をバラバラに地面に縫い止め胴体の分厚い皮膚と肉を裂き心臓を止める、とされている。
だが、そんなマニュアルは役に立たない。
ヒドラを倒す方法は、ただひとつ。
首だろうが本体だろうが相手が力尽きるまで攻撃を叩きつけ、完全に動かなくなった所でトドメを刺す。
ただこれだけだ。
つまり、ヒドラの体力がある限りは胴体をのんびり切開している暇など無いし、首の動きを止めても実のところ胴体の方が遥かに強大な膂力を持っている。何せ筋肉の塊なのだから。
体力を奪う最も効率の良い方法は、首を落として再生させる事である。不死身とさえ思えるヒドラの生命力だが、それは無限ではないし不死でもない。
また首を落とせば攻撃の手を止められるので、現在ではヒドラの最も確実な攻略法と知られていた。
小細工無し、総力戦あるのみ。
「ファイナは移動して援護しろ! イーダは合図でバズーカを撃ち込め!!」
「了解! 東側の建物に上がります!」
その攻略法を最もよく分かっているレイモンドのパーティー、『ロールプレイ・スクアッド』もヒドラに対して全力で仕掛けていた。
沼地からヒドラを追いかけ、バタバタしながらも当初の予定である包囲攻撃を開始している。
現役デルタ隊員、レイモンドのパーティーは徹底した合理主義の一団だ。
目的は世界の探索。危険は徹底して回避。そして、攻撃は基本的に敵の間合いの外から一方的に行う。
スキル取得やレベル上げの都合上で必要とされる以外、パーティーメンバーは弓兵や狩人、砲兵、狙撃兵といった射撃職を主体としていた。
射撃職はゲームでもこの世界でもパーティーの支援要員として認識されている。
これは、銃や砲や矢の威力が、高レベル者の攻撃力や耐久力に劣る為だ。
だが、レイモンドはこれを徹底して強化。
装備の質の向上で破壊力を引き上げ、アイテムを惜しまず消費し、パーティーの連携により攻撃の手数を増やし、スキルの修得や組み合わせで戦術的優位性を高める事で、あらゆる状況へ対応するだけの能力を得た。
現在、英租の連盟が擁する英雄クラスには及ばないと分かった為に、再度戦力の見直しを図っているが。
改造した大口径ライフルの魔弾がヒドラの首を撃ち抜く。
水平二連の砲身から連続して撃ち出されるのは、弾頭を高価な魔法石で形成した物だ。
着弾と同時に弾頭が喰い込み、高熱と共に炸裂する。
そんな元の世界で何かの条約に引っかかりそうな砲弾を、レイモンドのパーティーは撃ちまくっていた。
爆轟を発して大蛇の首に大穴が空き、自重に耐えかね圧し折れる。
また、側面から飛来した大型の炸裂弾が大蛇の下顎を吹き飛ばした。
建物の上に倒れる、バカみたいに巨大な首。逃げ惑う住民に走り回る冒険者達。
別の首がレイモンドらへ報復のブレスを吐き出したが、そこを悠午が妨害する。
「ッつらぁ!!」
大量に吐き出される粘液に対し、拳に凝縮された莫大な“気”の力が解放された。
気功仙人掌『破砕流』。
火行を帯びた“気”の拳は火砕流の如き灼熱と流れとなり、粘液の網ごとヒドラの首を2本纏めて飲み込んでいた。
「わー……!?」
離れた所にいる自分にまで輻射熱が来そうな一撃に、思わず手を翳して身を守る女戦士の小春。
自分の師匠はヒドラに全く劣らない化け物である。
「すまんユーゴ!」
「攻撃はこっちに集めるんで!」
地上のレイモンドや仲間に軽く手を上げて応え、悠午は空中を蹴りヒドラへ突撃。
首のひとつを上から踏み蹴ると、それを踏み台にもうひとつの首へ飛び秒間100発の高速連打をブチかます。
頭蓋骨が陥没し、無数の拳の痕を付けた頭は、それぞれが地上に落ちると同時にゴーウェンやレイモンドのパーティーに粉砕された。
これで7本の首を落とした事になるのだが、ヒドラの首は早ければ数十秒で再生してしまう。
最初に破壊した首は既に生え代わっており、他の首も大顎を開いて空中の悠午を威嚇していた。
小袖袴の少年に殺到する炎の帯に、煉瓦の家くらいなら木端微塵にする衝撃波。
それらを気功と打撃で蹴散らすと、ヒドラは首と同じくらい伸びる舌を悠午を伸ばし、次に再生した最も大口の首で直接丸呑みにしようとする。
が、悠午は下顎を捉えると、相手の突っ込んで来る力を利用して捻り、頸椎にあたる骨を破壊。
鞭のように絡め取りに来た舌へは木“気”の電撃を撃ち込み、内側から破裂させた。触りたくなかったもので。
「ハハハッ! もっとやる“気”を見せろよタフガイ!!」
哄笑を上げ、悠午は自分の中の五行エンジンとでも言うべきモノを高速で回転させる。火行から土行へ、金行へ、水行へ、そして木行へ。無限の生命力を生み出す力の螺旋。
強い敵、強大な存在、自身の力を思いっきり振るえる相手に、どうしても心が昂ぶる。
まったくもって、我ながら度し難い。
十二分に拳へ“気”を凝縮すると、悠午は真上からヒドラの首へと振り抜いた。
爆発したかのような轟音が響くと、骨の構造も何もかもを無視してヒドラの頭は胴体の方へと吹っ飛ばされる。
更に、立て続けに気功を放つ拳打、仙人掌を叩き込むと、全身に直撃を喰らいヒドラの巨体が地面にめり込んだ。
地震のような地揺れが起こり、爆風がヒドラの周囲で砂塵を巻き起こす。
のたうち回る巨大な首を、ベテランの冒険者達が叩いていた。
悠午の戦いを見ながら、弟子としてマキアス王女とクロードもヒドラの首に攻撃を加えている。剣士であるクロードはともかく、魔道姫の魔法はそれなりにヒドラの首に傷を与えているようだ。
(さて、このままへばるまで首を潰しまくっても良いけど、他のみんなの体力がどうかな? できればさっさと心臓を潰したいところだけど…………)
順当にヒドラの体力を奪っているが、首の一本でもブレスを放てば町が全滅するという状況に変わりもなかった。力技で防いではいるが、出切れば早々に決着を付けたい。
そんな事を考えてた悠午だが、その時自身の感覚器に引っかかる気配があった。
宿屋の前で防戦中だった、女戦士の小春達だ。中に居ろと言ったはずだが、この際それはいいとして。
まだまだ未熟も良い所で戦力としてはとても計上出来たもんじゃないが、プレイヤーが持つステータス補正による頑丈さとパワーはある。
「小春姉さん! みんな手いっぱいだから姉さんがヒドラの心臓潰して!!」
「ふぎゃあ!? 無茶言わないでよ!!」
屋根の上の師匠に無茶振りされ、弟子の女戦士は潰された猫のような悲鳴を上げていた。
小型モンスターこそ粗方片付けたが、だからと言って世界観の違う怪物退治なんかを振られても困る。
しかも悠午は忙しそうに、言うだけ言って返事も聞かずに再び飛んで行ってしまった。
露払いはするのだから、師匠としてもこれくらいはやってもらわないと困るというものである。
「ど…………どうしよう?」
「い……行くぞ! レベル200超えの戦闘に絡めば大量経験値間違いなし!! 死して屍拾う者無し!!!」
どうしたものかと仲間に意見を求める小春だが、鼻息荒いジト目魔術士はこんな時でもブレなかった。今日こそ死ぬと思う。
とはいえ、ここまでメチャクチャになった町の惨状を見て、小春としても思うところはあった。
潰される家、襲われる人々、自分より遥かに強いのに手こずっている冒険者やプレイヤー。
ならば、今この瞬間に動ける自分が、出来る事をするべきだとは思う。
ヒドラはメチャクチャ怖いが。
「小春さん…………」
「……行って来る。し……死なない程度にがんばるよ」
思いっきり心配そうな法術士ふたり。奥さんの方は気休め程度だが小春に補助魔法をかけた。
アドデクス、熟練度15。
近距離単体、身体保護効果付与(光属性)、習熟度によって強化率が上昇する。
ヒドラが5本の首を真上の悠午に向けウネウネと動かしている。小春は凄く行きたくない。
が、ここで自分が行かなければ被害は時を追う毎に大きくなるのだ。
そう自分に言い聞かせて駆け出した。
魔道姫が魔法を打ち上げ、大男の冒険者が大剣を首の一本にめり込ませている。
ライフルかショットガンのような魔道砲を撃つ冒険者たちの横を駆け抜け、小春は尻尾の側からヒドラの胴体へ駆け上がる。足下に伝わる固いんだか柔らかいんだか分からない感触が凄く嫌だが、非常事態故に我慢だ。
冗談のような勢いで、小春のすぐ横を太い首が通り過ぎて行った。縦長の快速特急のようだ。
その首もどこぞの馬鹿力に思いっきりぶん殴られるので、胴体の上の揺れも尋常ではない。
「し、心臓ってゲームだと…………!?」
間近で誰かの魔法が爆発し、目を白黒させながら小春はプレイヤーとしての知識を思い返す。
首は弱点のようだが、いくらでも生え代わる物だ。切り落とせば凶悪な吐息による攻撃を阻止して体力も奪えるが、決定的ではない。
本当の弱点は、ヒドラもまた心臓である。
その位置は、全ての首の付け根の先、胴体の奥だ。
完全に身体の中心に位置する為、分厚い鱗と皮膚と筋肉の上からでは攻撃が通らない。それこそ、首全てを無力化してから切り開く他に方法が無い程だった。
それを、小春ひとりにやれとは小袖袴の師匠も惨い事を言う。
悠午は今まさに首を落としまくって忙しいが。
蠕動する胴体の上に立ち、足を踏ん張り揺れを堪えた。
周辺はヒドラの首が大暴れし、冒険者が動き回り砲弾や魔法が乱れ飛び大変な事になっている。
小山ほどの肉の塊を斬り裂き掻き分けて心臓を潰すなど、グロ以外の何物でもない話だろう。
が、自分が迷い躊躇う程に周辺被害が増すというのも分かっているので、小春は意を決して斧槍を振り下ろす。
「ヒィァアアアアアアアアアア!!」
「ギィイイイイイイイイイイ!!」
「ギャギャァアアアアアアア!!」
「わぁああああ!!?」
そして、ヒドラの反応は今までの比ではなかった。
切断されていない3つの首がおぞましい叫びを上げ、狂ったように振り乱れる。
こんなんゲームの時と違う! と思いながら、凄まじい勢いで跳ね上がったヒドラの巨体に小春は吹き飛ばされていた。
プレイヤーの身体能力に悠午との特訓があったので、落ちてダメージを負うような事もなく着地。
しかし、激しく身動ぎするヒドラに潰されそうになり、慌てて逃げる。
「小春姉さん……下半身の安定を忘れやがったな」
悠午の方は、ヒドラの頭を蹴っ飛ばしながら小春に半眼を向けていた。ヒドラの上で斧槍を振り上げていた時、腰が浮いていたのをこの師匠は見逃していない。再教育である。
それはともかく、小春の半端な一撃でヒドラが危機感を持ったらしく、デタラメな動きで移動を再開してしまったのが問題だ。
周囲を包囲して集中砲火を加えていたレイモンドのパーティも、合わせて移動するので陣形が乱れている。
ゴーウェンやマキアス王女とクロードも慌ただしく位置取りを変更していた。
「ビッパ、小春姉さんを助けてあげて。オレちょっとこの蛇を釘付けにしておかないと」
「へいへーい。てかユーゴ、知ってたんだ」
「知らいでか。それじゃよろしく」
仲間や友軍を支援したいが、悠午は忙しい。ヒドラの手数が多いもんで、町を守るのに意外といっぱいいっぱいだったりする。
いっそフルパワーで消し飛ばしたくなるが、奥の手を見せるのも時期尚早で痛し痒しだ。
そこで、このクソ大変な時に鐘楼の上で高みの見物なんぞしていた小さな斥候職、ビッパを呼んだ。
先のオーク戦から、この斥候職が特別な技を携えているのを悠午は知っている。
支援に付けるにはちょうど良いと思われた。
もっとも、生来悠午も人任せは好きではないので、手加減無しでヒドラに殴りかかるが。
クエストID-S047:サスペンスドラマと裏番組 01/25 18時に更新します




