003:グラビアアイドル兼女子大ファイター
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姫城小春は女戦士――――――――などではなく、東京某所の4年制大学に通う1年生だ。
出身と高校までは地方だったが、大学合格を期に神奈川県の川崎市に部屋を借り、そこから都内の大学に通っていた。
入学後間もなく芸能事務所にスカウトされており、明るく魅力的な容貌に豊かな肉感でもって、僅か数か月で人気トップのグラビアアイドルとなっている。
実は、所謂大学デビューをしており、高校生だった頃とは180度イメージを変えていた。
元々ゲームやアニメなどが好きなインドア系であり、MMORPGの『ワールドリベレイター・オンラインユニオン』は5年以上プレイしているベテランプレイヤーでもある。
ワールドリベレイター・オンラインユニオン(以下、ワールドリベレイター)は、株式会社『レクトファイ』が開発、販売、配信、運営をしている大規模多人数同時参加型ロールプレイングゲームだ。
10年以上のロングランと他のゲームを寄せ付けない人気を誇り、(株)レクトファイはここ5年の間、年に4回のペースで追加ダウンロードコンテンツを配信し続けている。
そして遂に一年前、軍用機を民生化したばかりのヴァーチャルリアリティーマシンに対応した新バージョンをリリース。
アップデート後も以前のバージョンのほぼ全てのデータを引き継ぐ事が出来、ワールドリベレイター全体のプレイ人数を激増させ続けていた。
世界全体でのプレイヤー数は約5000万人と言われており、これはスペインやコロンビアの人口を超えている。
MMORPGは世界に多く存在していたが、サービス開始からの期間、プレイ人数、市場規模、そして人気と、これ以上の物は現在までに出現しておらず、またゲーム全体の歴史でも例が無い。
(株)レクトファイはワールドリベレイター関連の営業と販売、運営のみで、世界でも有数の企業に成長していた。
姫城小春が、この『ワールドリベレイター』が現実の物となったかのような世界に迷い込んだのが、一カ月前の事だ。
◇
最下級のモンスター、『ゴブリン』とはいえひとつの群れ。
それら20体以上が全て地面に倒れ伏し、立ち上がる事も出来ずに呻いている。
姫城小春は、それらのモンスターと突如降って来た精悍な青年――――――と思われる――――――を、しばし呆然と眺めていた。
「あのー……すいませんそこの……日本語分かる? もしかして英語圏のヒト?」
「はえッ!? え? あ、わたし?」
その青年が、辺りを見回しながら小春の方に近づいて来る。
改めて見ても、ゴブリンを素手で殴り倒すような力があるとは思えない相手だ。
「ここどこ? まさか日本じゃないとか? てかどこから落ちて来たんだオレは…………」
「え!? さ、さぁ…………」
釈然としない顔で、木々の間から覗く空を見上げる青年に、怪訝な顔で追従してしまう美貌の女戦士。
今日は良い天気で雲ひとつない。
当然、青年を大空から投下しそうな飛行物体も無かった。
「その鎧……騎士? 新ヌビアのヒト? あ、日本人か、無いな……。でもどうしてそんな恰好を? コスプレ?」
「い、いやこれはコスってワケじゃぁ…………」
一時そういう物に興味があったのは事実だが、生憎小春は架空のキャラクターを真似た格好をしてイベントに出る勇気は無かった。
その後に水着で大手成年雑誌に出るハメにはなったが。
恥ずかしくて死ぬかと思った。
「何か変な感じだな…………。ウチと全然空気が違う。そもそも気みゃ…………ん?」
青年っぽい少年、村瀬悠午は、数分前まで実家の山の中にいた筈だ。
同じ森の中に違いはないが、植生が変われば空気中に発散される揮発性物質も変わって来る。
常に周囲に気を配るように教育された悠午が気付かない筈もなかった。
他の事にも気付いてしまったが。
「まだ何か残っているのか」
「な……なにが?」
青年が森の奥に視線を送ると、同時に重々しい足踏みの音と、何か大きな生き物の息遣いが聞こえて来た。
猛烈な嫌な予感に女戦士が硬直するが、徐々に姿を現す威容を見て、決定的に血の気が引く。
「うそ……ちょ……! 『ハイゴブリン』!? どうしてこんなクエストでそんなのが出て来るのよッ!!?」
「『クエスト』?」
悲鳴を上げるコスプレっぽい女戦士に、なんのこっちゃと首を傾げる袴の青年。
そして間も無く、バキバキと茂みを割り、現れる濃緑の影。
それは、身長170センチを超える青年の、更に頭一つ大きな亜人型のモンスター。
ゴブリンの上位種、『ハイゴブリン』だった。
最下級モンスターであるゴブリンの上位。
と言うと大した事なさそうだが、実は『ハイゴブリン』と『ゴブリン』とは全く違うモンスターと言っても良い存在だ。
まず、ゴブリンとは比べ物にならない知性を持ち、戦術を用い、ある程度の技量もあり、個体によっては魔術まで使う。
多くの場合通常のゴブリンを率い、集団で狩りまで行う為、並のパーティーでは返り討ちに遭う事もしばしば。
戦闘でゴリ押しが効かなくなる、プレイヤーにとって序盤の壁とも言えるモンスターだった。
そして、序盤から中盤へ入る推奨レベルは20台から30台。
勿論、前衛後衛と支援系の職業をバランス良く揃えたパーティーで挑むのが望ましく、戦士系単独での戦闘は更に倍以上のレベルを要求する事になるだろう。
中盤でのクエストレベルは、だいたい25前後。
小春のいる『フルーフの森』は、クエストレベル8相当。
クエスト内容により推奨レベルは多少変動するが、それにしても17レベルの差は致命的としか言いようがなかった。
小春がようやく初心者プレイヤーの域を出た頃、何も考えずに戦闘を挑んでタコ殴りにされ、「イベント戦闘?」と呆然としたのを思い出す。
レベル10で単独など、到底勝ち目などありはしない。
ましてやここは、ゲームではない現実。
死に戻っても、リスポーンするかどうかなど分からないのだ。
「逃げて! 早く!」
「え? え?? 逃げるの???」
悲鳴混じりに叫ぶ女戦士は、丸腰のまま全速力で森の中を走り始めた。
何がなんだかさっぱり分からない顔をしている青年も、とりあえず言われた通りに、その場から離れてみる事に。
青年の足は森の中であるにもかかわらず、恐ろしく早い。
あっと言う間に木々の間に黒い袴姿は消えてしまい、結果としてハイゴブリンは足の遅い方を追いかけていた。
「ウソ!? やッ、ヤダ待ってよ! 置いてかないでぇ!!」
逃げろ、と言ったのは自分なのだが、小春は堪らず青年を呼ぶ。
こんな所でたったひとり、モンスターに追いかけられて殺されるなんて嫌だ。
荒い息遣いと重量のある足踏みの音が、女戦士の背後に迫って来る。
小春の体力はとっくに尽きていた。
暗緑色の亜人、ハイゴブリンは邪魔な木々を体当たりで跳ね飛ばしながら突き進むと、弱った獲物にトドメを刺そうと、手にしたグリーヴァを振り上げ、
美貌の女戦士が真っ二つに叩き斬られようとした寸前、飛んで来た青年がハイゴブリンの頭を蹴り飛ばしていた。
「ブギィッ―――――――!?」
とんでもない力で吹っ飛ばされ、斜面を転がり上がった末に、地面から突き出た大岩にぶつかり止まるハイゴブリン。
追従して来たゴブリンも、成す術無く飛んで行くリーダーの姿に固まっていた。
「思ったんだけどー…………」
自分より大きな相手を遥か遠くにまで蹴り飛ばした青年は、何事も無かったかのように地面に着地。
腕を組み、倒れたたまま動かない暗緑色のモンスターを見て眉を顰める。
それから、目を丸くしている美貌の戦士へお伺いを立てた。
「別に逃げなくても、襲ってくるならブチのめせばいいんじゃないの? ダメなの?」
「え!? だ、ダメ? ダメって事はない、と思うけど…………あれ?」
問われた小春は反射的に「そんなの無理」と言いたくなったが、事実として高レベルのモンスターが一撃でド突き倒されており、青年へ何も言えなかった。
それに、逃げ出すタイミングも逸している。
「ギルル…………ギハァアアア!!」
派手に地面を擦ったハイゴブリンは、太い身体を振り回しながら怒りの声を上げ立ち上がった。
落ちていた自分の剣を掴むと、巨体に似合わない勢いで向かって来る。
筋肉の塊が地面を弾み、殺気丸出しで錆びたグリーヴァを振り上げるハイゴブリン。
だが、その凶器は振り下ろされる事なく、青年に膝、腿と順に前蹴りを喰らい、地面に膝を着いたところで中段蹴り、回し蹴りと連続で頭に入れられ、最後に掌底を叩き付けられ、仰向けにひっくり返った。
その間、実に一秒。
女戦士には、青年がハイゴブリンを殴った瞬間しか見えなかった。
「なえ……!? えぇッ?」
あまりの速度に、完全に置いて行かれてしまう女戦士。
青年の方は、何やら考えながらハイゴブリンを見下ろす。
「まだちょっと弱かったか…………。タフだな」
悠午が考察していたのは、今の自分の打撃についての威力評価。
狙い通り手加減は出来たようで、相手も殺さずに済んで一安心である。
ハイゴブリンはよろめきながら身を起こすと、怯えたように喉を鳴らして、自然体で構える青年を窺う。
しかし、青年が追い打ちして来る気配が無いのを知ると、ジリジリと退がった後に、 背中を向けて走りだした。
「あ……あー!? に、逃げる! 逃げちゃう!!」
「逃げるみたいっスね」
「追いかけないと! 逃がすの勿体ないわよ! ハイゴブリンなんて美味しいモンスター!」
「……何が『美味しい』のかよく分からんけど、追いたければどうぞ。別に止めないけど」
「え……!? そ、そんな…わたしだけじゃムリだし…………」
逃げる高レベルモンスターに、慌てて追いかけようと言う女戦士。
だが、青年の方は腕を組んだまま動こうとせず、自分でやれと言われても戦士の語尾が小さくなってしまう。
今の小春のレベルからすると、ハイゴブリンは倒せるなら大量の経験値と貴重なドロップアイテムが見込める獲物だ。
ところが、肝心な青年の方が、ハイゴブリンを追う気が無いご様子。
当然、レベル10の女戦士ひとりで倒せるのなら、はじめから苦労はしなかった、という話である。
倒せればレベルアップ間違い無しの弱りきった相手が、手下と共に木々の向こうへ消えていく。
恨めしそうな目を青年に向ける女戦士も、つい数分前まで死にかけていた事を思えば、ゲンキンなものであった。
「ま、賢明じゃないですかね。お姉さんの力じゃ多分返り討ちだし。追い詰めれば向こうも反撃もするだろうから、危ないっスよ」
「あなた……キミ? なら簡単に倒せたじゃない。経験値、勿体ないなー…………」
「『経験値』ねえ…………」
冷静な顔のまま、女戦士の科白に、また首を傾げる青年。
と、落ち着いたところで見ても、涼しげで凛々しい落ち着いた物腰な、小春の好みにかなり適合した男性だった。
年下ならよかったのに、と残念に思うものである。
そんなショタっ気のあるお姉さんの下心など知らず、実は年下の少年、悠午は、とりあえずの疑問解消の為に話を進める事とした。
◇
ひと月前の事。
大学の講座が午前だけで終わり、事務所の都合で午後の仕事に穴が空いたその日。
俄かに空いた時間を有効活用し、姫城小春はガッツリたっぷりクエストを進めるべく、ワクワク気分で『ワールドリベレイター』にログインした。
ログイン直後、ゲームインフォメーションからアップデートのお知らせ画面が表示され、「良くある事だ」と小春は特に疑問に思う事も無くダウンロードを実行。
いつも通り、アップデートの画面が表示されるのを見ていた小春だが、突如画面が暗転。
次の瞬間、寝入り端に感じるような落ちる感覚を味わう小春は、いつの間にかゲームがはじまっているのに気が付く。
しかし間もなく、小春は自分の身にのっぴきならない異常事態が起こっているのを思い知る事になった。
何せ、ログインしたと思ったら、最後のセーブポイントではないゲーム開始時の神殿からのスタート。
しかも、自分の姿がアバターではない、現実での姿そのままだったのだから。
それから数日を過ごし、他のプレイヤーとも出会い、ここがゲーム内だと認識して今に至る。
「つまり…………え? どういう事?」
「だからここは、『ワールドリベレイター』の中の世界って事よ」
「いやそれは分かったけど……いや分からないんですけど、それじゃオレ今ゲームをしているって事?」
「じゃなくて…………」
アホの子ではないのだが、袴の武道青年は子供っぽく小首を傾げていた。
悠午は基本的にTVゲームやコンピューターゲームという物に詳しくない。
姉がやっているゲームを何度か見せられた事があったが、それにしたって戦闘シミュレーションの延長程度だと思っている。
軍用シミュレーターのVRシステムも民生化する以前に使った事があり、どういう物かは分かっているつもりだった。
ついでに、普通の人間なら到底現実とは思えないような現象も、悠午は幾度となく経験している。
「でもこれゲームじゃないですよね? オレだって別にヘッドセットなんて被ってないし…………」
「だからゲームじゃないのよ。……いや、ゲームの中かも知れないんだけど。でも、これはただのゲームじゃないんだって」
「よくわかんねぇ」
此処はどこなのか、という青年、悠午の疑問に答えようとする美貌の女戦士、小春だったが、考えてみれば自身も現状を正確に把握しているとは言い難かった。
しかし、この世界に自分が長らくプレイして来たゲーム、『ワールドリベレイター』との共通点が多過ぎるのも事実だ。
ゲームの中に入ったと思われる直後、小春が最初に立っていた場所。
『ワールドリベレイター』開始時にも、プレイヤーが最初に現れるポイントである『異邦人の山岳神殿』。
ゲームと同じ地名、種族、モンスター、武器、通貨、クエスト、
そして何より、小春にはこの世界がゲームと同じであると考えるに値する、最大の共通項を知っていた。
「私やあなた以外にもたくさんの『ワールドリベレイター』のプレイヤーが来ているけど、どうして自分がここにいるのか、知っているヒトはいなかった。でも、全員ゲームにログインした時にこっちに来ているのよ。貴方だってそうなんでしょ?」
「うんにゃ。オレ、その『ワールドリベレイター』ってゲーム見た事も無いし」
と思ったら、いきなりその共通項が崩れてしまった。
「は? え!? い、いや……プレイヤー……日本人よねあなた??」
「そうっスよ? 島根出身」
「で、でも、げ、ゲームをやってないのにこの世界に来るなんて……。同じ部屋で誰かがプレイしてたとか?」
「オレ、道場で組手してた時にいきなり空に放り出されたんですけど。第一、オレん家にゲーム機なんて…………まぁジーちゃんなら持ってても不思議じゃないけど、少なくとも道場にはそんな物あるワケないし」
「ど、『道場』?」
この世界が『ワールドリベレイター』と同じ物だとする最大の根拠は、女戦士としてプレイする小春同様の、プレイヤーたちの存在だった。
ところが、目の前の青年はその前提条件から外れており、小春は目を点にして混乱する。
今まで話を聞いた限り、自分達の世界からこの世界に来てしまった人間は、例外なくゲームプレイヤーだった筈だ。
ゲームにログインしてないどころか、そもそもプレイヤーですらない――――――かもしれない――――――という事例ははじめてだ。
それに、よくよく考えもみればプレイヤーたちは全員、ゲーム開始の初期位置である『山岳神殿』に出現する筈だった。
いきなり空から落ちて来るというのも、聞いた事が無い話。
そして、驚き過ぎた小春は、どうして空から落ちて来た青年が生きていられるのか、という基本的な疑問にまで気が回らなかった。
「どういう事……? ゲームをしていたから『ワールドリベレイター』の中に入ったんじゃないの? それじゃ……やっぱりここは似ているだけで、まったく別の…………」
「まぁ、どうせオレはそのゲーム知らないからどうでも良いんだけど。帰り方とかは?」
「そんなの……私も知りたいわよ」
「んなこったろうと思った」
憮然とした顔で、めんどくさそうに鼻を鳴らす青年。
ここがどこで、何故来たのか。
気にならないではなかったが、悠午とて暇ではないのだ。自分の世界での戦いがある。
なので、早々に帰り道を探す事とした。
これまで悠午がしてきた経験で、こういうケースで素直に帰れた例が無いが。
「ゲームなら電源切ればいいんだろうけどな……。そうもいかんか」
「『システムコンソール』も『ログアウト』とか『ゲームの終了』が無くなっているのよね……。『インベントリ』も単なるアイテム表示になっちゃってるし、今は『スキルメニュー』くらいしか使い道がないわ。助かるけど」
ゲームとしての『ワールドリベレイター』を終了するには、ゲーム中でシステムメニューを表示し『ログアウト』か『ゲームの終了』という項目を選択、決定するという方法がある。
他にも悠午が言う通り、強引にハードウェアの電源を切るか、VRシステムのヘッドセットを外してしまえば良い。
何もSFや創作物のように、プレイヤーの意識にゲームシステムが割り込みをかけるワケではないのだ。
飽くまでもVRシステムは、プレイヤーにゲームの臨場感を与えるモノでしかない、筈だった。
ちなみに、ゲームキャラクターが死んでも『ワールドリベレイター』は終了せず、いくつかのペナルティを課されてログインしたポイントに戻されるだけだった。
もっとも、この限りなくリアルなゲームの中で、故意に試そうというプレイヤーも少ないだろうが。
しかし、これまで全くこの方法を取ったプレイヤーが居なかったワケでもない。
その結果、元の世界に戻れたか否かは、実際に死んだプレイヤーにしか分からないだろう。
「試す気は無いけどね。その時なれば嫌でも試す事になるんだから…………」
つい先ほど死にかけたのを思い出し、小春の顔が表情を無くしていた。
この世界はゲームと同様、死に易く出来ている。
だが、その死はゲームと違う、本当の命の終わりであるかもしれないのだ。
「つまりー…………他にも同じようにこっちに来た人間がいるって事ですね。もちっと話も聞いてみたいんですけど」
「うん……来たばかりだしね、あなたも…………」
何にしても、こんな森の中じゃ情報は得られない。
ここを離れるというのにも、疲れ切って青い顔の女戦士は賛成するが、
「――――――そうだ! パーティーの仲間も探さなきゃ! ゴブリンから逃げる時に逸れたんだ!!」
重大な事を思い出して大慌てしだした。
今頃、他の仲間達も自分と同じような危機に陥っているかもしれないのだ。
「すぐに探さないと……魔法職ふたりだけじゃ危ない! 一緒に来て!!」
「それはいいけど、どこにいるとか分かってます?」
青年の言葉に返事を返さず、小春は自分が逃げて来た方へと踵を返して走り出す。
忙しない姉さんだな、と思いながらも、後に続く胴着袴の青年。
姫城小春と村瀬悠午。
『ワールドリベレイター』というゲームに良く似た世界での戦いは、まだ始まってもいなかった。