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016:プレイヤーの頂点と武道の頂点

2015.10.14 02:00 Update 3/3

.


 村瀬悠午(むらせゆうご)の遠距離打撃で派手に吹っ飛ばされた、と思った格闘系プレイヤーの紙月麻耶(かみつきまや)だが、高いレベルのもたらすステータス補正故か、その後の動きに遜色はなかった。

 人間を超越した機動力と運動能力、膂力の容量を無視した怪力、不死身とさえ錯覚しそうな身体強度、尽きない体力。

 立ち上がった格闘系プレイヤーは、僅かに混乱したかのように周囲を見回す。

 やがて、自分が返り討ちにあったのを察すると、すぐさま牙を剥き胴着袴の少年に殴りかかった。


「くそッ!? フルコンタクトショッカー!!」


 フルコンタクトショッカー、熟練度(レベル)80。

 近距離単体攻撃、物理攻撃力×1.2倍、電撃付与(水/風属性)、攻撃速度×7倍、確率でスタン。


 プレイヤーの女が繰り出すのは、右、左、右と拳の打撃、回転しながら裏拳を二連発、流れるように繋がるボディーブロー、続けてアッパー、返す刀の肘落とし、と、電撃を帯びた高速のコンビネーション。


 それらを悠午は苦もなく掌で受け流し、払い除けると、


「ふッ!」

「げフッ――――――――――――ッ!?」


 腰溜めから螺旋を描く掌底を放ち、相手の胸のど真ん中に押し付ける。

 パワーで打つのではない、効率的な力の伝達で打つ、発剄の技法。

 相変わらず力加減がよく分からなかった悠午だが、徐々にこのプレイヤーの力を把握していた。


 格闘系プレイヤーの攻撃は、威力こそあるがどれも単純で工夫が無く、ハッキリ言って雑だ。

 身のこなし、構え、戦い方を見れば分かるが、プレイヤーズギルドで出会ったナンパプレイヤー同様、まるで基礎が成っていない。

 膂力と強度が普通の人間とはケタ違いだが、それだけで悠午の敵にはなり得なかった。


 今までは、どう処理して良いか分からなかっただけで。


「クッ……ゴホッッ! この……卑怯者ぉ!!」


 ここで、目を血走らせた女は、起死回生の一手に出る。

 プレイヤーの持つ異質な力が、スキルのチャージタイムと共に大きく膨れ上がって来た。

 こう何度も見ていれば、それが大技を繰り出す前兆だという事は分かる。

 この状況では悪手も良いところだと悠午は思うが。


 ただその威力は、今までの技より大分強いと見た。


「ッうわぁあああああああああああ!!」


 ところが、充填率120%なプレイヤーのスキルは、ある意味悠午の予想を超える。


「おいちょっと待てそれでどうする気だよあんた!?」


 今度は技の名前を叫んだりしない。

 咆哮を上げるプレイヤー渾身の大技は、


 バーニングブリッツ、熟練度(レベル)105。

 直線範囲攻撃、物理攻撃力×10倍、火炎付与(火/物理属性)、属性値で炎熱の威力が、AGI値で突撃速度が上下する。


 プレイヤーが怒りの炎を纏い、周囲に輻射熱を撒き散らしていた。

 膨大な熱量が空気を膨張させ、爆発したかのような勢いで吹き荒れる。

 あまりにも他を顧みないやり方に、流石に悠午も怒りの声を上げた。

 そんな怒声など聞いちゃいない炎のプレイヤーは、這うほどに姿勢を低く身を屈める。

 形振り構わない攻撃を前に、悠午も相手を気遣っている場合ではなかった。


「おっト……これは一帯まるごと焼けてしまうネ。マヤ、シラベにどう言ワケするつもりカ」

「村瀬くん!!」


 小競り合いを続けたまま、召喚士は他人事のように言う。

 女戦士のお姉さんは、あまりにも危険な予感に少年へと叫ぶが、


「ひゅぅ……こハァアアアアアア…………ッ!!」


 直後、素人の少女たちに分るほど悠午の気配が巨大になり、あまりの重圧に息が出来なくなった。


「なんだ!? ユーゴか!!?」


 三顔六腕の魔人とガンガン打ち合っていたゴーウェンも、その凄まじい魔力に目を剥く。

 古代樹林でも感じた、巨人が身じろぎしたかと思うような余波。

 しかし、その規模は古代の巨獣を前にした時よりも、遥かに大きい。


「くらぇあああああああああああ!!」


 ところが、全く状況の見えていない炎の弾丸プレイヤーは、拳を突き出し少年へ向け発射。

 ドドンッ! と爆発を背負いながら、進路上にある物全てを焼き壊そうと突っ込み、



 膨大な“気”が集中する悠午の掌に、真正面から受け止められていた。



「ッ……ウソッ!? そんなのインチキ――――――――――!!!」


 プレイヤーから炎と熱波が撒き散らされても、それらは全て悠午の水気に相克される。

 依然として拳の中で爆発も連続していたが、一見そうは見えない少年の怪力で、完全に抑え込まれ続けていた。

 それどころか、ミシミシと掴まれた拳の骨が悲鳴を上げている。


「うッ!? いッ、痛い! 痛いイタイイタイ!!」

「マヤ!!?」


 実は割りとキレてる悠午も、今度ばかりは優しくしない。

 発狂するかのようなパーティーの仲間の悲鳴に、援軍を差し向けたい召喚士のルーシーだが、


「うぉおおおおおおおおら!!」


 自分の身の丈ほどある分厚い剣を、小枝のように振り回す冒険者に召喚した魔人が押さえ込まれていた。

 六腕から繰り出される刃を、真っ向から打ち合い跳ね返して見せる。

 たかがNPCと侮っていたら、思いも寄らない実力者である大男の冒険者。

 レベル110もの召喚をしている以上、追加で出せる召喚などたかが知れていた。


「チッ……アスラはちょと奢りすぎたかネ? もっとレベル低くてよかっタ――――――!?」

「ハンマーボルト!!」


 そんなよそ見している召喚士に、ジト目魔術士の御子柴小夜子(みこしばさよこ)が抜け目ない側面攻撃。

 スタッフから奔る電撃がルーシーを打ち据え、黒髪の女が美しい顔を歪める。


「たいして痛くないけド、うざいネ。アイスピックロケット」


 アイスピックロケット、熟練度(レベル)40。

 近~中距離攻撃、氷による刺突(水/物理属性)、INTとMND値により射出数が増減する。


「姫!」

「いや無理ムリむり!?」

「しっかりしろ壁!!」


 ルーシーが空中でワンドを滑らせると、そこに何十というツララが生み出された。

 鋭い凶器と化したツララは連続でジト目魔術士に放たれるが、それを受け止めるのはラウンドシールドを構えた女戦士、姫城小春(ひめしろこはる)の役目だ。

 とはいえ、シールドは全身を守るほど大きな物でもなく、盾で受けるヘタレ戦士は吐きそうな顔をしている。


「ヒートウェイブ!!」


 ジト目の魔術士は、仲間を援護する為というより負けん気から即座に反撃。

 ひり付く熱波を高レベルのプレイヤーへと叩きつける。


                         ◇


 存外上手く足止めしているお姉さん方のおかげで、悠午はタイマンで格闘系プレイヤーを抑えられていた。

 二対一でも自力でどうにかしていただろうが。


「いッ……ぐぅう!? は、離せ! 離してよ!?」

「離したらどうするんだよ、あんた? どれだけ回りに迷惑掛けてるか分ってる? また暴れられたらたまらんし、手足の骨くらい折っとくか」

「ッウ――――――――――――!!!?」


 まるで微動だにしない少年に酷薄な目で見られ、プレイヤーの怒りが急速にしぼんでいった。

 今現在、紙月麻耶の中にあるのは、得体の知れない存在への恐怖だ。

 ゲームの事なら全て知っているつもりでいた。スキル特性、モンスター対策、フィールド探索、対プレイヤー戦闘(PvP)まで。



 だが、こんな戦い方をする、できるプレイヤーは(・・・・・・)見た事ない。



「はなッ――――――! 離せ! 離せ!! 離せぇ!!!」


 捕らわれた方とは逆の腕で、必死の形相な格闘系プレイヤーは、悠午の顔面を打ん殴る。

 力いっぱい、二撃、三撃と打ち据え、無意識に相手の金的まで蹴り上げるが、胴着袴の少年は地面に杭で打たれているのかというほど動かなかった。


「な、何これ!? 当たり判定がバグって――――――あ゛!!?」


 ミシミシに混じってパキパキと、枯れ木を折るような聞こえてはいけない音が混じり始める。

 まるで観察するかのように、感情の見えない顔の悠午は、膝を折るバカ女を見下ろしていた。


「こんな雑な打ち方でこの威力だってんだから……。武人は自分の力を制御するよう修行するけど、あんたらはもっと自制した方が良いだろうな。でないと…………単なる害悪だろうに」


 武人でも格闘家でも戦士でもない相手に言っても無駄だろうな、と思う悠午だが、それでこの巻き添えを屁とも思わないプレイヤーを解放する理由も無く。


 考えた末、絞め落とす事にした。


「うあッ!! は……がグゥ!?」


 不意に、プレイヤーの腕を内向きに捻る悠午は、そのまま相手の後ろに滑り込みつつ、首周りの布地を掴んで締め上げる。ついでにアゴにも一発入れ、脳を揺らしておいた。

 頚動脈の血流を止められた人間は、約15秒で失神する。素人がやるのは大変に危険なので、良い子はマネをしないで欲しい。

 肩と腕の間接を極められ、脳震盪で平衡感覚を失い、膂力でも圧倒されては抗う術など無く。

 遂に、口の端から泡を吹きだした格闘系プレイヤーは、必死で息をしようともがきながら白目を剥き、


「ぬ――――――――!?」

「マヤさんッ!!」



 悠午が強烈な力を感じたのが、その時だ。



 大きく開け広げられていた倉庫の入り口より、何者かが猛烈な勢いで飛び込んでくる。

 振り上げられた剣も、放つ魔力が尋常ではない。

 何より、その打ち込みが今までのプレイヤーとまるで違った。


「ひゃグッ!?」


 酸欠に喘ぐプレイヤーの背中を蹴り飛ばし、悠午も反動を使って大きく飛び退く。

 直後に、強力極まりない威力の刃が地面を叩き、倉庫の外まで伸びるほどの、長大な地割れを生じさせた。

 剣の威力、プレイヤーの持つステータス補正も然る事ながら、何より悠午は相手に確かな技を認める。


「マヤさん! ルーシー!? セレナ、マヤさんを! レダトはルーシーを助けろ!!」

「はい、シラベさん!」

「あれNPCか? なにやってんだルーシー」


 次いで、長い金髪に白い法衣の女、赤いロングスカートに黒い革鎧の女、黒い軽装の男や、それ以上に軽装備で弓を背負った女が走り込んで来た。

 いずれもプレイヤーだと、身に纏う力の性質で分る。


「酷い……マヤさんしっかりして! ライフリカバー!!」


 ライフリカバー、熟練度(レベル)50。

 近距離単体、生体回復(光属性)、対象の負傷部分を癒す。


 長い金髪の法術士がスキルを使うと、悠午に蹴っ飛ばされた格闘系プレイヤーが淡い光に包まれた。

 特に酷い負傷などもない――――――悠午もさせていない――――――ので、間も無く格闘系のプレイヤーも咳き込みながら身体を起こす。


「わ!? ちょっ!!? ひわぁあああ!?」

「わあっ!? 姫!!」


 女戦士の小春の方には、軽装で身軽な男が急接近していた。

 その両手には、大型のナイフが。

 ギョッとする小春と小夜子が慌てて身を守ろうとするが、やはり高レベルプレイヤーなのか、相手の動きにまるで付いて行けず、


 一瞬で現れた胴着袴の姿が背中からブチ当たり、襲って来たプレイヤーを吹っ飛ばした。


「む、村瀬くん!?」

「お、おまッ……お前さっきからどうなってんだ!?」


 軽装プレイヤーを撥ねた少年は、地面を擦って勢いを殺す。

 そのあまりの身体能力に開いた口が塞がらないプレイヤーのお姉さん方だが、悠午の方はそちらに意識を割いている余裕がなかった。


「ゴハッ!?」


 成す術無く地面に落ちる、高機動プレイヤー。

 驚く仲間がいる一方で、その身を案じもしない冷たい目を向ける者もいる。


「レダト!?」

「油断したな、バカめ…………!」


 侮蔑するような事を言い、ストレートの黒髪に赤いロングスカートというプレイヤーが、腰の鞘から細い長剣を抜き放つ。

 刃を立てて正面に構えると、次の瞬間には踏み込みと同時に鋭い突き攻撃。

 

 ピアシングネイル、熟練度(レベル)65。

 近~中距離攻撃、物理攻撃力×5.5倍、AGI、TEC値で連続攻撃可能回数が増減する。 


「セッ! ハッ! ハッ!!」


 怒涛の踏み込みで距離を詰め、素早いスナップとコンパクトな腕の振りで、縦、縦、正面からの突き、と初撃から連続して振るわれる細剣。

 が、しなる銀の切っ先を、悠午は数ミリのところで触れさせず。

 ロンスカ女の剣閃を、分身しているかのような運動能力で躱わしまくる。


「な、なにッ――――――――!?」


 傲然と悠午を斬りに行った筈の、女の顔が強張った。

 桁違いの戦闘技術。

 全く想定していなかった強敵に出くわした事で、乱入して来たパーティーが本気になる。

 倒れた男は短剣を構えて立ち上がり、肩回りを露わにしている女は強弓を持ち出す。

 ロングスカートの女も再度剣を正面に構え、復帰した格闘系の女と召喚士も健在。

 揃って高レベルのプレイヤーが、計7人。



 故に是非もなく、村瀬悠午、本気モード。



「ふッ! かッハァアアアアア!!」


 ズシッ……、と腰を落とし、地面を踏みしめて構える胴着袴の達人を、背後から分身した軽装のプレイヤーが襲う。


 フォワードミラージ、熟練度(レベル)50。

 幻影による分身生成、物理攻撃力無し、INT、MND値、習熟度により同時発生数が増減する。


「ガッ――――――――!!?」 


 ところが、本体の方が目にも止まらぬ正拳突きで撃ち抜かれ、吹っ飛びもせずその場に落ちた。

 悠午は分身などには目もくれない。最初から見えていないかの如しだ。


「ハウリングボウ!!」


 ハウリングボウ、熟練度(レベル)70。

 中~遠距離攻撃、物理攻撃力×15倍、魔力付与(物理/無属性)、TEC、INT、MND値で同時攻撃可能数が増減する。 


 肩から腕を露にした弓兵のプレイヤーが、禍々しく捻じ曲がった弓から銀色の矢を放った。

 途端にそれは数十に分裂し、弧を描いた軌道で悠午へと襲い掛かる。


 これに対して悠午は、真正面から距離を詰めて弾膜を突破。

 弓兵の腕、肩と立て続けに掌底を入れ、足を引っ掛け首を狩り、後頭部から叩き落す超高速の連続攻撃。


「――――――――ボゴッッ!?」


 弓兵のプレイヤーが地面に叩き付けられた直後、悠午は次のプレイヤーに肉薄していた。

 胴着袴の少年に仕掛けようとした矢先、全身の急所に散弾銃のような刺突を喰らい、ロングスカートのプレイヤーは糸が切れたかのように崩れ落ちる。


 なお、最初に向かってきた格闘系プレイヤーは、仲間の有様を見て足を止めてしまったので、悠午も放っておいた。

 召喚士のプレイヤーは召喚魔人の制御やジト目魔術士の相手で忙しく、非戦闘職である法術士系の少女も動かない。


「やったな貴様ァあああああ!!」


 仲間が倒れ、怒りを絶叫を上げるのは、悠午に目を見張る一撃を放ち、地面を割った金髪美形の少年だ。

 身に纏うプレイヤーの力も、他より数段上。

 武装は強力、技もあり、他のプレイヤーとは違う意思の強さも感じた。


 そんな手合いに問答無用で敵と認定される。

 何が悪かったのだろうと、悠午も腐りたくなる気分だった。



 答えは知っていたし、やる事は変わらないのも知っていたが。



 ボイスコマンド無しで、金髪の少年はスキルを発動。

 肩から掲げる剣が黒い刃を纏う。


 シュバルツシルトブレード、熟練度(レベル)185。

 近~遠距離範囲攻撃、物理攻撃力×95倍、重力付与(重力属性)、INT、MND値で威力、速度が上昇する。


 その規模の力だと半径50メートルくらい吹っ飛びそうなんですけど、と悠午は問いかけたい気持ちでいっぱいだったが、もはや言葉で止まるとは思っていない。

 所詮、正義とは、力。

 己の意思を通さんとすれば、実力を持って相手に勝る事、是非も無し。

 正義は全ての人間に存在する。

 ならばこそ、悠午は何者よりも強くあらねばならないのだろう。

 人間も、ケモノからたいして進化してない。


「いっけぇええええ!!」


 金髪美系のプレイヤーは地面を焼くほどの摺り足で肉薄し、真っ直ぐに天を突く大上段から、胴着袴の少年目がけてイカズチの如き正面打ち。

 光を吸い込む黒い刃は、軌道上にある何もかもを押し潰さんとし、


「ッ――――――――らア!!」

「なッ…………!?」


 ズゴンッッ! と、事もあろうに悠午は拳で以ってこれと激突。


 インパクトの瞬間、気の出力を数十倍に引き上げ、相手の剣を空の彼方まで殴り飛ばした。


 が、


「…………おっと」


 必然的に倉庫の天井に大穴を空けてしまい、悠午の目が点と化す。

 せっかく被害を押さえるよう苦労したのに、最後の最後で申し訳ない事になってしまった。

 

「クッ……! 僕のデュエルサウンドが!? クソッ!!」


 剣を失った金髪の少年だが、それで戦意まで喪失したりはしていなかった。

 衝撃で痺れる腕を押さえつけ、悠午へ向け掌を突き出す魔術の構え。

 相手の気の高まりに、胴着袴の少年も再び半身で相手へと構えるが、


「お前らいい加減にしやがれ! ここをどこだと思っている! 仕事場どころか辺りまで更地にするつもりか!!」


 案の定、倉庫の持ち主である大工衆に怒られてしまった。

 やっちまった罪悪感からビクッと背筋が跳ねる胴着袴の少年に対して、金髪の方はと言えば、


「すまないが戦闘中だ! 危ないから全員ここから出ていろ!!」


 全く恥入るところは無いようで、逆に大工たちを一喝してみせる胆力。

 悠午としては羨ましい限りである。

 しかし、気合という点ではガテン系ガチムチ職のオッサンたちも負けてはいないのだった。


「危ないのはテメーらだろうが!」

「そっちの兄ちゃんに散々手前勝手な都合を押し付けてケンカ売ったのはお前らの仲間だろう! その上俺らに出て行けとはどの口で言いやがる!!」


 恐ろしい力を持つプレイヤー相手でも、親方以下大工たちは全く怯まない。

 予想外の方面から怒りをぶつけられ、金髪美系のプレイヤーも、思わず気勢を削がれてしまった。


「…………どういう事だ? ルーシー? マヤさん?」


 そもそもどうしてこんな事になったか、というのを思い返す『勇者』の称号を持つ者、白部=ジュリアス=正己。


 事の起こりは、アストラ王家の要請で、このレキュランサス市に戻った際の話。

 レアアイテムの売り込みに来た豪商から、実力派の冒険者とプレイヤーの話を聞かされ、次の仕事で布陣に加えたいと思い付いたのに端を発する。

 その仕事での戦いぶりや人物を見て、良さそうなら自分たちのパーティー『ブレイブウィング』に加えたいとリーダーの少年は考えていた。

 この世界を攻略するのに、優秀で優良な仲間は何人いても足りはしない。

 プレイヤーである事が望ましいが、この際NPCであっても実際に戦えるのなら、プレイヤーズギルドに屯するプレイヤーよりは使い物になるだろう。

 必要なのは、共に戦える戦力足り得る仲間だ。


 そこで、王宮に顔が利くジュリアスは親交のある王女を通し、ある冒険者とプレイヤーを依頼された件で戦力に加えるのを検討している、と伝える。

 王女の方は、勇者の頼みとあらばすぐさま王である父を動かし、冒険者組合(ギルド)へ冒険者を指名して依頼を出させた。


 何故かパーティーの仲間が、ギルドの職員と一緒に例の冒険者とプレイヤーを迎えに行ったと伝言で知らされたのは、宿に戻ってからの事だ。

 正直、リーダーのジュリアスとしても見知らぬ冒険者に期待するところは、半々といったところ。

 ここ最近、今のパーティーメンバー以上に優秀な仲間が加えられず、新たな展開に状況の好転を期待しての事である。

 なので、古代の大型モンスターを倒した冒険者やプレイヤーというのも、運が良ければ戦力になれば、とそれほど重要視もしていなかった。

 なのにどうして、ギルドの人間に加えて仲間がわざわざ迎えになど行ったのか。


『モンク系プレイヤーって聞いて変なライバル心でも出したんじゃないですかー? モンク系に変なレアリティ感じてる脳筋さんですしー』


 と嘲笑して言うのは、パーティーメンバーのひとりである金髪巻き毛な長槍使いだ。

 リーダーに事後承諾の伝言だけして出て行ったのは、レベル112のグラップラー、紙月麻耶と、レベル134の召喚士、ルーシー=ツァオ。

 どちらもメインに据えるには少し不人気な職だが、中でもグラップラーは珍しかった。


 グラップラーは、モンク職の上級。

 しかし、武器が限定され戦士の上級職ほど攻撃力は望めず、重装すると高いAGI補正が死に、スキルによるバフは概ね本人限定、さりとてソロでプレイするには中途半端という、ほとんど趣味のロールだ。

 一方、ステータスの補正値はバランスが良く、スキルは攻走守に支援系と一通り揃い、テクニカルな職種とも言えた。器用貧乏とも言うが。


 紙月麻耶は、モンク系のプレイにこだわり、趣味(サブ)でやっている他のプレイヤーとは違いスタイルを確立しているという自負がある。

 その戦術は、とにかく攻撃の速攻型。問題があったら拳で解決する。そんなプレイヤーだ。

 不都合があるととにかく殴って解決しようとするので、仲間にする前と仲間にした直後はトラブルも絶えなかった。

 ただし、強い。

 ジュリアスも他のプレイヤーも、モンク系で高レベルプレイをしている者を、他に見た事がなかった。

 所詮は微妙なモンク系、という事で侮られている部分もあったが。


 問題は、そんな問題児プレイヤーのひとりが、何を思って動いているのか、という事だろう。

 ハッキリ言って、この世界におけるプレイヤーのマナーはよろしくない。

 パーティーの仲間にも、紙月麻耶のように我が強く周囲と摩擦を起こすプレイヤーが何人かいる。

 だがジュリアスは、プレイヤーもこの世界のルールを守り、自分たちと同じように生きているNPCの意志と命を尊重し、共生するべきだと考えていた。

 強力なステータス補正とスキルを持つプレイヤーを、この世界で纏め、管理する、何らかの組織。

 その設立も、『勇者』とまで謳われたジュリアスの目的のひとつだ。


 だというのに、またぞろ仲間が何かやらかすのはよろしくない。

 故に、ジュリアスというプレイヤーは暇していたパーティーのメンバーを伴い、勝手に動いている仲間を追いかける事とした。


 それで、この有様である。


「ワタシからは何も言えなイ…………。マヤに聞いて欲しいネ」

「ちょぉッ――――――――!? ルーシー!!?」


 雲行きがおかしい、と感じたのは、勇者の少年だけではない。

 大陸系の黒髪美人は早々に仲間を売り、孤立した感のある紙月麻耶が表情を引き攣らせている。

 その態度だけで、ジュリアスは何があったかを概ね理解し、頭を抱えたくなった。

 つまり、心配した通りの事が起こったのだろう。


「ち、違うよ!? わたしは悪くないもん! だから……だって殺されるところだったんだから!! 正当防衛だよジュリくん!!」

「いきなり襲ってきたのはそっちじゃん」

「大人しく言う事聞かないそいつが悪いんでしょう!?」


 リーダーの前ではしおらしくする格闘専プレイヤーだが、ジト目魔術士の科白(セリフ)には物凄い勢いで噛み付いていた。

 何が正しいかではなく、また他人がどう思うかでもなく、一番大事なのはジュリアスにどう思われるかなのだから。


「黙ってなさいよザコプレイヤーは! 殺されたいの!?」

「死にそうになってたのはそっちじゃん。その方があんたみたいな迷惑なプレイヤーが減って世の中の為だったのにね」

「このクッソ女――――――――――!!!?」

「マヤさん……やめろ」


 そうでなくても短気なプレイヤーがブチキレそうになったが、その気配を察したジュリアスは、言葉だけで相手を押し留める。

 一瞬だけ火が付きそうな目を向ける紙月麻耶だが、相手が親愛なるパーティーリーダーとあっては、反抗する事などできない。

 奇麗事ばかり言う少年に突っかかっていった昔とは違うのだ。


「……何があったか教えてよ。どうして彼らと? マヤさんとルーシーが襲われたんじゃないんだね?」


 一歩退いた召喚士と騒動の元凶であるグラップラーのプレイヤーは、絶対に自分から説明する事など出来ない。

 また、当事者である胴着袴の少年も話を切り出そうとする気配が無く、冒険者の大男やプレイヤーのお姉さん方も、何も言わなかった。


「それに関しては、第三者的な立場から私が御説明しましょうか?」


 代わりに口を出してきたのが、どこに避難していたのか全く無傷で汚れひとつ無い冒険者組合(ギルド)のメガネ男だ。

 そして詳細に語られる事の顛末に、勇者は盛大に心の底で悪態をつく事になる。



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