015:拙速と単純は別物
2015.10.14 01:00 Update 2/3
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ゲーム、『ワールドリベレイター/オンラインユニオン』の舞台に、良く似た世界。
ここから元の世界に戻る方法を探すべく、いよいよ旅立とうと準備を進める村瀬悠午と、元ゲームプレイヤーである3人のお姉さん方に、ベテランの冒険者。
そんなところに、悠午と冒険者を訪ねてふたりのゲームプレイヤーと冒険者組合の職員がやって来た。
かと思えば、いきなり悠午にケンカを売ってくるプレイヤーのひとり、紙月麻耶。
悠午としてはやる気がないのも甚だしく、自らの業に反省するところもあって、無用の争いを避けようとした。
しかし、己にとって忌々しい相手が挑発に乗ってこないと、身勝手に苛立つプレイヤー。
その態度に憤るジト目の魔術士、御子柴小夜子は、我慢する事無く相手に嫌味をぶつけてしまう。
これが紙月麻耶を暴発させ、並の人間や低レベルプレイヤーには致命的となる攻撃スキルを撃たせるに至った。
しかし、
◇
「……え? え??」
「なッ…………あ!!?」
「ミコッ!?」
目の前で何か弾けたが、何故か視界が塞がれている、としか認識できなかった半眼ジト目の魔術士。
女戦士の姫城小春は、大分遅れて仲間の両肩を掴み、自分の後ろに引き摺り込んだ。壁役としての本能だろうか。
周囲で見ていた者たちも、たった今目の前で起こった事が理解しきれず、目を見張る。
凶行に及んだプレイヤーも、自分のやらかした事の結果を見て、目と口を大きく開け広げていた。
何せ、ジト目魔術士を襲った強力な遠距離スキルは、一瞬で割って入った胴着袴の少年により、片手で受け止められていたのだから。
それだけでも相手の力量が窺えそうなものだったが、所詮ゲームのプレイヤーは、戦士でも武人でもなかった。
「流石、段違いに早いな」
「これは…………」
「…………ん?」
古代樹林でも見た悠午の実力に、改めて感心しているゴーウェン。熟練の冒険者から見ても、破格の身体能力である。
それよりも、横で見ていたギルドの男には悠午の実力が分ったらしく、ゴーウェンはそちらの方が気になった。
そして悠午はというと、少しばかりプレイヤーのスキルの威力に驚いていたが、やがて憮然とした顔になり、一言。
「帰ってもらえます?」
「は……!?」
「ええ!?」
間の抜けた声を上げたのは、拳を突き出したまま固まっていたプレイヤーと、メガネをかけたギルド職員の優男だ。
衝動的に攻撃をやらかしたプレイヤーは、相手が当然怒るなり怯えるなりすると思っていた。
ところが、迷惑だから顔も見たくない、というような冷めた態度のリアクション。
これは完全に予想外だ。
そして悠午を連れて行くのが目的である冒険者組合の方には、切実な問題が発生する。
せっかく要請どおりに来てくれると思ったのに、乱暴極まるプレイヤーの行為で、相手の機嫌を損ねてしまったのだから。
ましてやこれほどの冒険者、何としてでも利用したいところだが。
「あ、あのー……依頼の件は?」
「すいませんがお断りします。ご不満でしたら村瀬悠午に直接仰って欲しいと、先方にお伝えください」
王宮だろうがギルドだろうが、文句があるなら言いやがれ、という意味であった。
丁寧な言い方だが、悠午の方も軽くケンカ腰だ。
こんな事で熱くなってはいけない、とは少年も思うが、なにせまだ修行中なもんで。
「それは……困った事になるかと思いますよ? 依頼を蹴ったとなれば、アストラ国の王宮は絶対に良い顔をしません。不敬と取られて最悪の場合、兵やプレイヤーが差し向けられるやもしれませんが?」
「構いません。そうですね……こうお伝え願いますか。『一山いくらの雑魚がどれだけ来ようと、村瀬悠午の敵にあらず。かかってこんかい』」
困ったような笑みで忠告するギルドの職員だが、悠午の返答は変わらない。
煽る口上も、ゴーウェンやプレイヤーのお姉さん方に火の粉を飛ばさない為の物だった。
自分が襲われる分には一向に問題ない。
いつもの事であるし、ここで大人しく相手の言う事を聞いても、どうせすぐに同じような事が起こると思われた。
他方、人知れず追い詰められていたのが、攻撃を仕掛けたプレイヤーの女だ。
はじめは、自分と同じモンク系のプレイヤーを実力で叩きのめし、自分以外の格闘系ストライカーは不要だと、パーティーの仲間に証明するだけのつもりだった。
ところが、胴着袴という変な格好のプレイヤーは戦おうとせず、しかしどうやら只者ではない様子。
しかも、おとなしく付いて来ようとしない上に、子供っぽくヘソを曲げてしまった。全く腹立たしい。
悪いのは言う事を聞かなかった変な格好のプレイヤーだと思うが、同行したギルドの男から「攻撃された事に腹を立てたのが理由」、などとリーダーに報告されるのはマズいかもしれない。
やさしくて紳士な少年は怒らないと思うが、口に出さないだけでガッカリはするだろう。
それに、他のバカ女共に勝ち誇ったような顔をさせるのも我慢ならない。
しかし、八つ当たりでスキル攻撃したのは、正直やり過ぎだったとも思う。
どうしたらいいか分からない。
いったいどうすれば、全部無かった事に出来るだろう。
「しかたなイ、一旦シラベのところ戻るヨ。どうせ強制は出来ないシ、これ以上勝手な事したらホントにシラベ怒るかもネ。巻き添えはごめんヨ」
「で、でもルーシー! このまま帰ると、なんも良いとこ無しで…………」
「それはもう仕方なイ。何をしても挽回なんて出来っこないんだシ、傷を広げない事を考えるべきネ。素直に謝るのがシラベには一番ウケが良い筈ヨ。私は何も言わないかラ、自分で説明するが良イ」
なるほど、ルーシーという女性の意見は正しくて、大人だった。
同じパーティーの仲間で恋敵でもありながら、一歩引いて手助けしてくれる姉的なヒト。
その意見を認めながらも、マヤは飲み込む事が出来なかった。
大好きな尊敬できる異性に対して、気に食わない連中の前で、自分の失態を晒す事など断じて出来ない。
ならば、道はひとつ。
何が何でもこの失態を、いや失態自体犯していない事になれば、何の問題も無いはず。
「そうよ……ジュリくんの言う通り連れて来たって言えばいいだけじゃない! それなら何も失敗していない! 倒して連れていけば、私の方が強いって証明にもなる! 攻撃したのだって、あいつが抵抗したから仕方なくだって言えば正当防衛よね! 何よ簡単じゃない! 最初からそうしておけばよかった!!」
何やら、大逆転なアイディアを閃いた、とでも言うかのようなプレイヤー。
確かにそれなら全ての要求が満たせるだろうが、いくつか問題が。
それは、一から十まで身勝手で自己中心的、他人の都合も悠午の迷惑もまるっきり無視しているという事だろう。
別に、他人の都合をまるで考えずに自分の都合を押し付けて来る輩は初めてではなかったが、悠午としては、今までと同じように対処して良いのか否かが、悩みどころだった。
こういう人間は、自分がどれだけ好き勝手無茶苦茶言っているか分からないのだろうか。
自分もヒトの事を言えない、とは悠午も思うが。
「あんたが悪いんだからね……。素直に言う事を聞かないから!」
「いいですけど…………なら、その方法で構いませんね?」
どの道、交戦する以外になさそうなので、無駄を承知で悠午は最終確認を行う。
そして当然、問うまでもなくプレイヤーの女はやる気だった。
「ちょっと勝手過ぎるんじゃね!? さっきから聞いてりゃ全部その女のワガママじゃん! スゲー迷惑なんですけど!!」
「うーン……まぁ私もそう思うガ、所詮強い者が正しい世界。気に入らないなら戦って勝てばいいだけヨ。とりあえず私は貴女たちに恨み無いかラ、パーティーの仲間としてマヤの援護だけさせてもらうネ。ちなみに私はレベル134、自信があるならかかってくればイイ」
負けん気の強さから噛み付くジト目だったが、そのレベルを聞いてアッと言う間に腰が引けてしまう。
彼我のレベル差は10倍近く。
例え女戦士と法術士を加えて3人がかりで挑んでも、勝てる見込みは薄かった。
悠午に対して両拳を軽く持ち上げる構えを見せるプレイヤー、紙月麻耶。
その戦闘スタイル、というよりプレイスタイルは、ストレス解消がメインだ。
趣味でやる以外は人気が無い、と言われるモンク系をメインにしているのも、そのロールが性に合っていると思った故の事。
基本的に、問題は殴って解決する。メンドくさくなったら、とにかく殴って片付ける。それ以外の問題には関わらないか、同じパーティーのメンバーにお任せする。自分の役割は戦闘で、殴る事だ。
ところが、この世界ではそうもいかない。
NPCを殴れば面倒な事になるし、他のプレイヤーを殴れば悪評が付くだけでは済まされない。最悪、命に関わる報復などもあり得る。
幸運にもパーティー『ブレイブウィング』に加わる事が出来、自分だけでは解決不能な問題にあたるケースも少なくなったが、紙月麻耶の本質は変わらない。
煩わしい問題は、問題の元を殴って潰す。
潰せるものは可能な限り、何でも、どんな物でも。
特に今回は、何が何でも、絶対に。
「ソニックナックル!!」
音声入力と同時に、プレイヤーの女が再び拳を突き出した。
拳大の衝撃波が超音速で飛び、僅か数メートル先の敵へと叩き付けられる。
それが、左右の連打で乱れ撃ち。
一方で集弾性は悪く、周囲にも相当の流れ弾が出ると悠午は見切った。
なので、今度も攻撃そのものを迎撃する。
胴着袴の少年が拳を振り抜くと、ただの一撃で衝撃波が軒並み相殺された。
拳圧で暴風が巻き起こり、大工たちやプレイヤーのお姉さん方、冒険者とギルドの人間が煽られる。
まるで少年にダメージがないのに驚きながらも、紙月麻耶という熟練のプレイヤーは、最初から次の攻撃を用意していた。
攻撃が効かない予感はあったのだ。
だからこそ、いつもどおり一気呵成に攻撃を重ね、畳み掛ける。
「ヴォルカンインパクト!!」
ヴォルカンインパクト、熟練度55。
近~中距離単体攻撃、打撃焦熱攻撃(物理/火属性)、属性効果は関連ステータス値に依存、溜め時間に応じて×5倍まで威力上昇。
軽戦士系ならではの機動力を発揮し、握り拳から炎を引いて、マヤは悠午へと襲い掛かる。
相手の動きが全く止められなかったので溜め時間は少ないが、それでも並の人間くらいなら爆砕するほどの威力がある一撃だ。
「死ねッ!!」
躊躇なく振るわれる、致命的な攻撃。
拳をテイクバックしたプレイヤーの女は、力いっぱい邪魔者を殴りつけようとし、
一瞬の間で悠午に腕を取られ、勢いそのまま背中から地面に投げ飛ばされた。
「あッ――――――――がァッッ!!?」
続けて流れるような手際で、女プレイヤーは腕を外側へ捻られ、うつ伏せに押さえ付けられる。
動けば腕の筋肉が捻じ切れそうになり、完全に動きを封じられていた。
「いッ……!? は、放せ! 放しなさいよバカ!!」
「ちょっと心配になる落とし方しちゃったんだけど……やっぱりどこまで加減していいか良く分らん」
硬い地面に背中から叩き落せば、相手の力も加わり相当なダメージになる筈。
と、思った悠午だが、実際には女プレイヤーは手足をバタつかせ、元気にもがいているという有様。
実戦経験の豊富な少年をして、首を傾げざるを得なかった。
とりあえず拘束したけど、これからどうしよう? と悩むところだが。
「来来来……サラマンデル」
「悠午! 召喚!!」
ジト目の姉さんに叫ばれるまでもなく、悠午は少し離れた所から巻き起こる火“気”を察知。
見ると、もうひとりのプレイヤーの女が、眼前で火柱を立ち上げていた。
炎の中から出てきたのは、炎を吹く背ビレと尻尾を持つ、人間ほどの大きさを持つ緋色のトカゲだ。
いったい何事!? と悠午は目を丸くするが、プレイヤーの少女たちには何が起こったのか良く分っていた。
ルーシーというもうひとりのプレイヤーは、魔法職の一種である召喚士だった。
そして用いる術は、
サラマンデル、熟練度75。
遠隔自動攻撃、高熱及び打撃(火/物理属性)、習熟度の向上によりプレイヤー同様の成長を見せる。
「マヤを助けるネ。悪いけど手加減は出来ないヨ」
命令を受けた火トカゲの王は、素早い動きで地面を這うと、胴着袴の少年へ炎の尻尾を振るった。
空気を焼いて宙を薙ぐムチの如き一撃。
それを悠午は紙一重で退き回避するが、
「あッ!? あちちちち! ルーシーわたしまで殺す気!?」
「並の召喚じゃそいつ多分ビクともしないネ。文句言うなイ。同じパーティーのよしみで助けてるヨ」
背中のすぐ上を灼熱の尻尾が通り過ぎ、炙られた格闘タイプのプレイヤーが悲鳴を上げていた。
召喚士のプレイヤーは、相手の剣幕にも涼しい顔のままだ。
「もうッ! あいつは!?」
柳に風と流す仲間へ大いに憤慨しながら、格闘系のプレイヤーは痛い目を見せてくれた少年の姿を追う。
だが悠午の方は、ちょっとばかりプレイヤーどころではなかった。
「運び出せ! 燃え移るぞ!!」
「ありったけ水をぶっ掛けろ!!」
「危ないぞ逃げろぉ!!」
女のプレイヤーたちが暴れているのは、木材倉庫の中だ。当然周囲は可燃物ばかり。
火トカゲが尻尾を振るった際、その先端からも更に長い炎の尾が伸びていた。
炎は積み上げられ、立てかけられた木材を炎に巻き、多くが延焼し続けている。
大工や職人は、必死になって被害を抑えようと動いていた。
「炎を使う前に周り見てどうなるかー、とか考えないの?」
「…………おうチ」
某魔術士のように半眼になって言う悠午だが、やらかした召喚士は肩を竦めて見せるだけで、あまり反省していない様子。
「んーまーこれも付随的被害と言うやつヨ。戦いに犠牲は付き物だしネ」
「あんたが言うこと聞いておけばこんな事にならなかったんでしょ!?」
完全に自分の事を棚に上げているプレイヤーに腹は立つが、さりとて悠午にも巻き込んでしまった責任の一端はある。
周囲の状況には目もくれず、性懲りもなく向かってくる格闘系プレイヤー。
少し忙しくなってきた悠午は、早々にこの相手の動きを止める事とした。
「マシンナックル!!」
マシンナックル、熟練度レベル30。
近距離単体攻撃、物理攻撃力×0.7倍、攻撃速度×5倍、AGLとTECの値により攻撃回数が増減する。
「潰れろ潰れろ潰れろ潰れろッ!!」
正面から突っ込みながら、横殴りの豪雨のように拳打を集中させる格闘系プレイヤー。
それに対しても悠午は、逸らし、流し、受け止め、躱わし、全弾回避という凄まじい技量を見せ付ける。
更に、ここで瞬間的にハンドスピードを上げた悠午は、相手の拳を左右に弾き飛ばし、抉じ開けた懐に一撃。
「――――――――ふグッ!?」
それほど早さもなく、軽く放り込んだだけに見えた打撃だが、紙月麻耶の水落には胸当ての上から衝撃が突き抜けていた。
「こッ……いつぅッッ!!」
「まだ弱いか…………!?」
今度は、息を止め失神させるつもりで攻撃を入れたのに、相手への効きはいまいち。
アテが外れた悠午だが、のんびりしていたら倉庫が焼け落ちてしまうので、是非もなく両方を同時に処理する事に。
「ドロップダウンバースト!!」
「退気……水剋火、水生木! ああもうめんどくせぇ、なッッ!?」
水の相を帯びた気を放つと同時に、胴着袴の少年はプレイヤーを迎撃。
空中から跳び蹴りを放つ格闘系プレイヤーへ、悠午は離れた位置から拳を払う。
「キャッ――――――――!!?」
見えない打撃に撃ち落された女のプレイヤーは、そのまま弾かれたように倉庫の壁面へと飛ばされた。
この隙に悠午は、場の火気を抑えようと水気で満たす。
急激に勢いを無くす炎に、何が起こったのかと目を瞬かせる大工たち。
そこを、召喚士のプレイヤーが隙と見つけた。
周囲に気を取られている――――――ように見える――――――少年へ、背後から火トカゲをけしかけようとする。
「甘いネ、戦いの最中余計な事をしてると、死ぬヨ」
「そりゃおまえだろーが! パラボラグレネード!!」
だが、そんな召喚士に一発食らわせる、ジト目の魔術士。
パラボラグレネード、熟練度10。
近~中距離小範囲攻撃、高熱及び衝撃(土/火属性)、低確率でスタン発生。
市松人形のように可憐な少女がスタッフを振るうと、先端から火花を散す炎の塊が飛ばされた。
召喚士の女は、咄嗟に腰からワンドを引く抜く。
「ディフェンドフィルター」
ディフェンドフィルター、熟練度95。
自己単体、身体強度及び防御の向上(光属性)、ステータス異常とファンブルの発生確率低減。
バンッ! と火炎弾が直撃して破裂するが、高レベルの防御魔術を纏う召喚士は、小揺るぎもしなかった。
しかし、長い黒髪を乱されたルーシーは、明らかに気分を害した目を、攻撃してきた相手に向ける。
「…………これでもちょっとはツレが迷惑かけたと思ってるヨ。だから、そのレベルのスキルがいっぱいいっぱいなラ、大人しく引っ込んでるネ」
「うっさいわこの迷惑プレイヤーの代表! ここにはあたしらの馬車もあるってのに! そっちこそあのバカ女連れてさっさと帰れよ!!」
暗にレベル138をチラつかせる召喚士のプレイヤーだが、レベル15のジト目魔術士も、今度は怯む事なく噛み付いていた。
実力差は言うまでもない。
ルーシーというプレイヤーは、召喚術だけではなく高レベルの法術まで使う。
召喚士や法術士だけではなく、他の職業もレベルを上げている可能性は高かった。
高レベルプレイヤーを高レベルプレイヤーたらしめているのは、単純なレベルだけではない。
複数の職種で高い習熟度のスキルを得て組み合わせ、自分だけの戦術を組み立てる。
それこそが、高レベルプレイヤーだ。
義憤に駆られるジト目としては、それがどうした、と言ったところだが。
「ちちちちょっとミコ!?」
「だってこいつらめっちゃムカつく! それに、湯太郎ならあのバカ女にも勝てそうじゃん? それまでコイツ邪魔して、後でいっしょにボッコボコにして泣かせてくれるわ!」
「……わたしたちが瞬殺されなければね」
ひとりでやらせるワケにもいかず、緊張に顔を引き攣らせる女戦士も、鞘に納まっていた剣を抜いた。
隠れ目の法術士も、膝を震わせながら両手でワンドを握っている。
しかし、プレイヤーの少女たちにはもうひとり、この場に心強い味方がいた。
「フンッ……プレイヤー同士の争いに関わるつもりは無かったが、こいつらは仲間になるし、ここは知り合いの作業場だ。それに眠そうな嬢ちゃんの言うとおり、貴様らのやりようは目に余るからな、悪いが手出しさせてもらおう」
「おお、オッサン!? ダンディー!!」
それまで悠午に任せていた冒険者の大男、ゴーウェンが、のそりと身体を動かし大剣を振り上げる。
他の低レベルプレイヤーはともかく、明らかに雰囲気が違う冒険者の存在には、ルーシーも警戒を余儀なくされた。
「……ちょっと面倒な事になったカ。マヤの方も助けないとならんシ、本気出さなきゃダメかもしれんネ」
短いワンドをバトンのように振り回すルーシーは、火が消えかかり弱っている火トカゲを送還。
と同時に、今度はボイスコマンド無しに溜めていた召喚術を解放する。
「アスラ、適当に蹴散らすヨ」
「なぁッ!?」
「でぇッ――――――――――!!?」
アスラ、熟練度110。
遠隔自動攻撃、打撃及び斬撃各種(物理属性)、習熟度の向上によりプレイヤー同様の成長を見せる。
何も無い空間を縦に割り這い出してくる、三顔六腕で見上げるような巨躯の魔人。
その手には、少女たちより長い剣や槍、頭より大きな斧を持ち、軽々と振り回していた。
召喚術の恐ろしさは、自律兵器のような怪物を状況に応じて、次々と入れ替え放り込んでくるという戦い方にある。
その分、召喚士本人が無防備になるという問題はあったが、ルーシーは別系統のスキルで補っているようだった。
「お嬢ちゃんらは退がってるんだな。コイツは……骨が折れそうだ」
「助かるけどオッサン大丈夫!? コイツ連続攻撃の鬼なんだけど!!?」
剣を振るい、頭上に構えるゴーウェンに、差し向かいになる召喚魔人アスラ。
自然と、女戦士にジト目魔術士、法術士は、召喚士の相手をする構図になっていた。
クエストID-S016:マスタープレイヤー マスターアーツ 10/14 02時に更新します




