014:訪ね人きたるがコミュニケーションに問題
2015.10.14 00:00 Update 1/3
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アストラ国、レキュランサス市北部。
大工職人組合、資材と作業の倉庫。
最高級の木材、何人もの腕の良い職人、それらを惜しげもなく注ぎ込んで、馬車の製作がはじめられた。
文明に依存しきった現代っ子プレイヤーが、過酷な世界の旅を越えていく為の快適な移動手段。
となる予定だったが、様々な希望の内、結局実現したのは女性陣の小さな個室のみとなった。
それでも、荷物の積み込みスペースなども、可能な限り最大の容積を確保。
更に、強度を高めた車体、雨避けの展開式屋根、木材の湾曲を利用したサスペンション、と、様々な小技も効かせる設計となっていた。
そして何故か、胴着袴の少年、村瀬悠午が木材加工を手伝っているという。
「そうだ……木目に沿って削れ。引っ掛かりがあっても無理矢理引こうとするな。なんだ上手いじゃないか。大工仕事に就いた事があるのか?」
「いえ宮大工の棟梁を手伝った事があるくらいで」
と言いながら、割と楽しそうに斧のような道具で平らに木を削る少年。
傍で見ていても気持ちが良いくらいに薄く木が剥がれ、材木の断面が滑らかに加工されていった。
『宮大工』と言えば、寺や神社の建築や改修をする特別な大工だった、と記憶する姫城小春だが、ますます少年の正体が分からなくなる思いである。
「じゃ、ユーゴは置いて行くから 細かい事はそっちで決めてくれや」
「エラナンのオッサンは冒険者じゃなくて商人なんやね。なんで古代樹林なんかにいたのさ?」
「引退して元冒険者……のつもりだったんだよ。前の仕入れに失敗して、次の仕入れの資金が稼げなくてなぁ…………。稼ぐ為に復帰したワケだ」
「オッサンの店で買い物とか大丈夫か」
眉を顰める美人戦士を他所に、大男のゴーウェンに腹の出たオヤジのエラナン、そしてジト目魔術士の御子柴小夜子と、隠れ目法術士の久島香菜実は買い出しに行こうとしていた。
買い物をするのがエラナンの経営している店と聞いて、ジト目魔術士が露骨に訝しんでいたが。
馬車が出来上がり次第、一行は西周りに白の大陸へ渡り、白の女神を崇める総本山である『アウリウム』を目指す事となる。
戦場を突っ切る危険なルートを選んだのは、東回りルートで「4か月ものんびり旅なんかしてられっか」というジト目さんの意見に、反対する者が出なかった為だ。
大なり小なり危険があるのに変わりもないのだから。
カネをかけて最優先で仕事してもらっているので、馬車の仕上がりは早くて3日。遅くても一週間はかからない。悠午まで労働力として投入しているので。
その間に、ベテラン冒険者ゴーウェン監修の下、旅に必要な物の購入など、出来る準備はしておこうという話になっていた。
なお、当面の運転資金(1000万タレント)は確保できたので、エラナンのオヤジは店を畳む危機を回避できたとの事である。
それから1時間ほどかけ、ゴーウェンと小春、小夜子、香菜実は、レキュランサス南地区にあるエラナンのオヤジの店に到着する。
表通りから一本奥に入った裏通り。
かつて冒険者だった経験が活きる、目立った武器や防具を置く他の店とは、少し違う品揃えをしていた。
しかし、一行は店を前にして、足を止めざるを得なくなる。
「んあ? ありゃ組合か。何してんだ」
「良い予感はしないなぁ…………」
揃って訝しげな顔をする地元冒険者のふたり、ゴーウェンとエラナン。
店の前には、肉体労働者や商人とは違う仕立ての良い服装の男が三人に、冒険者らしき装備の女ふたりが待ち構えていた。
冒険者にとって組合は、効率よく仕事を回してくれるありがたい存在であると同時に、しばしば面倒を押し付けてくる面倒な権力でもある。
特に、向こうからわざわざ足を運んでくる時はロクな事が無い、というのが、冒険者たちの共通認識だった。
とはいえ、既にお互いの存在を認識してしまってしまった以上、回れ右して逃げるワケにもいかず。
ましてや、エラナンのオヤジの店の前である。
今後の冒険者組合との関係もあり、観念する他なかった。
「店主のメーザルと『断頭』のサンクティアスですね。冒険者組合本部の者です。組合より特別な依頼をしたく、本部までご同行願えますでしょうか?」
そして案の定なギルド職員の言葉に、ゴーウェンは内心で毒づく。
この場合の『特別な依頼』というのは、半強制の面倒事を押し付けられる、というのを意味しているからだ。
冒険者がどんな依頼を受けるかは、基本的に自己責任の原則の下で、冒険者本人に委ねられていた。
命がけの仕事を組合が強要する、などという事が常態化すれば、冒険者を希望する人間も激減するからだ。
なので、建前においては冒険者と組合は対等。仕事を紹介されるだけではなく報酬をピンはねされている立場として、冒険者は依頼を自分で選べるし、紹介を断る事も出来る。理屈で言えば、組合の運営にだって口を出せる。
だがそれでも、組合が大きな権力を持つ事に違いはない。
冒険者への情報提供、実入りの良い仕事の優先的な斡旋を行なう反面、逆に冷遇し、極端には組合員から除名も出来る。
そういった権限まで持つのが、冒険者組合だ。
それらを全世界規模で行なえる組合に対し、面と向かって逆らえる冒険者は極一部だった。
「そっちはプレイヤーね。でも戦士系に魔術士系に法術士? モンク系のプレイヤーがいるって聞いたんだけど」
次に、ジト目や巨乳の女戦士を指して言うのは、組合の人間と一緒にいた冒険者の片割れだ。
高級な革の胸当てに素材不明の手甲を装備した、スレンダーな女性。そして特徴的なのは、他に武器らしき物を持っていない事。
プレイヤーで、武道家系の戦闘職と判断できる。
それに、初対面だというのにやたら高圧的だ。
「どこにいるの? 格闘スキルでエンシェントザウルスを倒すっていうプレイヤー。私、そいつ以外用は無いんだけど」
「シラベはパーティー全員加えたいて言ってたヨ」
「ならそいつらはギルドが連れて行けばいいでしょ。わ・た・し・は、例のプレイヤー以外はどうでもいいの」
もうひとりの冒険者、大陸系らしき切れ長の目をした黒髪の美女が窘めるも、スレンダーな女の態度は頑なだった。
そんな相手に、ムッとしたジト目の魔術士が何か言いかけるが、前に出た大男に遮られる。
「用があるのは俺のパーティーらしいが、あんたらの探しているプレイヤーはメンバーとは違うぞ。他を探した方が良いんじゃないか?」
「はぁ!? 何よ面倒ね。NPCが面倒かけないでよね。どこにいるのよ?」
「さぁな。伝言があるなら見かけた時に伝えてやるよ。どこに行けば良い?」
「そんなのいらない。そのモンク系プレイヤーには私が直接話しするから。NPCはプレイヤーの聞かれた事にさっさと答えれば良いの」
飽くまでも飄々としているゴーウェンのおっさんだが、内心はかなりムカついていたりする。
それに気付いていたのは、事情を知っている腹の出たオヤジのエラナンだけだ。
また、ゴーウェンは会話から目的も探ろうとしていたが、相手はこの世界の人間をNPCだと決め付け、まともに会話しようとすらしない。
最も警戒すべきタイプのプレイヤーだった。
「ほんじゃマヤはそのプレイヤー探してれば良いヨ。ワタシは先にソッチの冒険者、シラベのところ連れてくかラ」
「ちょっとルーシー!? ジュリくんはどっちかってとプレイヤーの方を優先して連れてくるように言ってたじゃん! そっちのNPCなんか自分の足で行かせればいいよ!」
「ほんなら例のプレイヤーも伝言だけ預けて自分で顔出すよう言えばいいネ。ナニする気か知らないけど、先にチョッカイ出したらそれこそシラベは迷惑する思うヨ」
「何よ!? ジュリくんは迷惑とか思わないもん!!」
黒い長髪の大陸系と、スレンダーな格闘系女子。
周囲を無視して言い合うふたりに、ゴーウェンや小春たちプレイヤーはもとより、同行して来た組合の人間も反応に困っていた。
どうやら話を聞く限り、ゴーウェンのパーティーメンバーと悠午を組合本部か、または違うどこかへ連れて行こうとしているらしいが。
「とにかく、ジュリくんに会わせる前に私がどんな奴か確かめるからね! もう、ギルドから命令してよ!!」
「我々組合にそんな権限はありませんよ。依頼を受けるか否かは飽くまでも冒険者本人の判断ですから」
「よく言うネ。自分の都合よく依頼出し入れして好きに冒険者動かそうとするのギルドの手口。シラベと私たち、散々振り回してくれタ」
「ハハハ…………」
何か知ってるようだが素直に喋らない大男に、建前ばかりで言う事を聞かない組合の職員、ふたりのNPCに苛立ちを募らせるプレイヤー。
大陸系の美女からも冷ややかな恨み言を言われる組合職員だが、しかしそれを否定しようともしなかった。
その軽薄な愛想笑いといい、東支部の組合長とは大違いである。
「まぁ建前上はそういう事になっているのですが、今回は実質的に王宮からの命令のような物なのですよ。パーティー『ブレイブウィング』のリーダーにして『勇者』ジュリアス様より推薦があり、王宮は貴方方の招集を我々組合に命じ……依頼しました。我々としても正式な依頼となれば、仲介を拒否する理由はありませんので」
物腰丁寧な組合職員の言葉だが、内容はやはり面倒な事この上なかった。
国からの依頼など、権力に嵩を着てまともに報酬が支払われるかも怪しい。何も言わなければ「名誉」で済ませようとするだろうし。
しかし、断れば面子を潰された組合に目を付けられ、王宮からは何をされるか分からない。
そういう面倒を回避するには、組合と親密になり便宜を図ってもらったり、貴族の後ろ盾を得るのが良い方法だったが、ゴーウェンもプレイヤーの少女たちも、そんなコネ持ってやしなかった。
◇
馬車の製作を依頼された大工の親方、並びに若い職人たちは、少年のやりように呆れていた。
悠午は重い原木を軽々持ち上げ、あっさりと木材を断ち、簡単に溝を刻んで組み合わせる。
指示通りにやってみせる器用さもさることながら、悠午は木組みの方法や形状による工夫と、熟練の大工たちでさえ知りもしなかった工法を次々と実践して見せた。
最初こそは「何やってんだコイツ」といった感じの大工たちだったが、すぐに少年のやっている事が確かな技術に裏打ちされた作業だと理解出来、その深さに瞠目する。
とはいえ、悠午がやっている事は宮大工の見よう見真似でしかないので、熱心に覚えようとする大工の方々には申し訳ない気がしたが。
「組み合わせた柱の間に一本差し込んで、ピッタリ隙間を塞ぎ強度も得るか……面白い仕組みだな」
「他にも柱を継ぐやり方があったんですけど……ダメだ思い出せねぇッス」
馬車の車体に乗り、段々の屋根板を張りながら遠い目をする悠午。
昔から何かを作るのは好きで、よく家にいる師匠やら何やらを手伝ったものだが、こんな事ならもう少し真面目に学んでおけばよかった、と後悔先に立たず。
それでまた老人方も、少年を可愛がり、片手間の手伝いを笑って許してくれるのだ。
何せ悠午は『叢雲』の若君。
本分は他にあると老人方も分かっていたので、その辺を咎めようとも思わなかったのだろう。
家にいる大工の棟梁は、人間国宝だったりするが。
「お前さんの国の大工は随分回りくどい事をするもんだ。だが、このこだわりは面白い。俺もひと工夫したくなるな」
「釘使う方が手っ取り早いとは思いますけどね。木だけで組めば錆びないんで。えーと……馬車が木気で退気の水だから……木生火、火侮水…………あ、いや水虚火の方が…………」
「そりゃなんだ? それも大工の技か?」
「いえこれはまた別の事で…………」
こっそりイタズラでも仕込むように、悠午は天井板に見えない呪いを刻んだ。
馬車の素材である木の気から相生廻らせ火気を生み、反剋にて雨などの水気を侮る小技である。
馬車その物がしっかりした作りなので要らん事だとは思うが。
なので悠午としても若干後ろめたく、説明も面倒なので親方には何も言わなかった。
「よし、そっちの仕上げは若いのに任せておけば良い。車体を持ち上げて車軸を通すぞ。ボウズ、持って来い」
「ういーっスー……って、ちょっと待って」
すっかり大工期待の新人と化していた少年は、車体から降りると言われたとおりに車軸を持ち上げる。
が、そこで覚えのある“気”配が近づいて来るのを察し、動きを止めた。
接近するのはプレイヤーである3人のお姉さん方に、オッサンの冒険者2名。
それは分かるのだが、気になるのは同道しているらしき、覚えの無い5人分の“気”配だ。
ある程度“気”が遣えるようになると、ヒトの存在や位置だけではなく、相手の力量や感情の揺らぎも読み取れるようになる。
プレイヤーの気配は、特に分かり易かった。
何の変哲もない人間が纏う、肥大化した統一規格品のような、力。
それ自体は別に構わないのだが、問題はプレイヤーのひとりが、何故か敵意剥き出しだという事で。
「ユーゴ! 客が来てる」
「らしいっスね」
倉庫の入り口に顔を出したゴーウェンは、なんとも気が進まないと言いたげな、微妙な表情だった。
悠午もそれだけで、なんとなく状況を察する。
面倒のもとは、同行してきたプレイヤーふたりに、法衣の様な上等な服を着る3人の男だろう。
一見して普通の人間。
だが悠午は、プレイヤーではない3人の内のひとりに妙な違和感を覚え、
「あんたがグライトサウルスを素手で倒したプレイヤー? 全然そうは見えないんだけど。なにその格好、日本被れ?」
無遠慮に近づいてくるプレイヤーの女ふたりに意識を取られる。
「マヤも日本人じゃなかったカ? シラベもそうヨ」
「だからって日常的にあんな格好する日本人いないわよ。ノービスみたいに装備の趣味丸出し。全然強そうに見えないんだけど」
気の強そうなスレンダーな女性。見た目から10代後半から20代前半。革の胸当てに革のレギンス。手甲に脚甲。武器らしき物は帯びていない。
もうひとりは、しっとりと落ち着いた大人の女性だ。20代。ファー付きの長い外套に、やや胸や腰周りを強調するタイトな服。グローブにブーツといった旅装で、足に短い刃物、腰のホルダーにワンドを差している。日本人ではないらしい。
なお、悠午のこの格好は、実家での普段着のような物なので放っておいて欲しい。
プレイヤーのジト目魔術士から見て、年上の方の女が魔法職の何かだというのは分った。
しかし驚かされたのは、もうひとりの方。
ネタや遊びでしか選ばれないモンク系のプレイヤーが、この世界にも存在するとは思わなかった。
胴着袴のパーティーの仲間は、そもそもプレイヤーかどうかも怪しくなってきたので数に入れないが。
「あんたレベルいくつ? モンク系はいくつアンロックしてるのよ?」
自己紹介もなく高圧的に問われ、悠午の方は「またレベルか」と言いたい気分だった。
ステータスがどうとか言うよりも、ヒトに物を聞く姿勢すら感じられない。
とはいえ、仮に礼を尽くされていたとしても、答えられない事はある。
「悪いけどそんな事訊かれても知らん。『システムコンソール』とやらも開けないし」
「言う気は無い、ってワケ? あっそ、別にかまわないわよ。どうせ私に勝てなければ同じ事だもんね」
かと思えば、女の結論がマッハであった。
何故そういう話になるんだ、と悠午は渋面になるも、その前から相手の敵意は感じ取っているので、納得の展開ではある。
問題は、初見の相手がどうして悠午にケンカ腰なのか、という事だが。
「マヤ、シラベは強いプレイヤーと冒険者を連れて来いと言ってタ。戦えなんて言ってなかったヨ」
「だから、強いヤツにしか用は無いって事でしょ? 私より弱いモンク系なら要らないって事じゃない」
「シラベ、そんな事言ってないけどネ」
「わたしには分かるもん!」
状況に置いて行かれた悠午にはさっぱり分からない。
話の流れからすると、刺々しい格闘装備の女プレイヤーは、悠午を倒しに来たらしい。
もうひとりの女性プレイヤーは、そんな仲間に対してこれといった感情は見せていなかった。行動を咎めはしないが勧める気も無い、という様子だ。
「外に出なさい! 『ブレイブウィング』のトップストライカー、紙月麻耶が自ら試してあげるわ!!」
「『トップ』ストライかー?」
「何よルーシーいちいち! 文句ある!?」
一方的に言い放ち倉庫を出て行く自称トップストライカーと、仲間のプレイヤー。
相手が大人しく付いて来て当然、と頭から信じて疑わないふたりのプレイヤーに対し、悠午はどうしたものかと首を傾げ。
「……何あれ?」
「知らんよ、プレイヤーの考えている事なんざ」
しかし、ゴーウェンの反応も投げ槍だった。
その後ろで困ったように笑っているのは、冒険者組合から来たのだという長髪にメガネの若い男だ。
「こちらは仕事をお願いしたいだけなのですが、どうやら『ブレイブウィング』の方はご自分でそちらの実力を確かめたいという事のようでして」
「さっき話したトッププレイヤーのパーティーよ。グライトサウルスを倒したので目を付けられたっぽい」
ジト目魔術士の姉さんから『勇者』の率いるパーティーの話を聞いたのは、つい数時間前の事だ。
噂をすれば何とやら、か。あるいはこれも何かの縁か。それとも、いたずらに力を振るった事による業か。
ならば、これ以上相手の言うがまま、力を見せる気も起きなかった。
それに、悠午はこれで天邪鬼なところがあるので。
「つまり何? そのブレイブウィングとやらがギルドを通してオレに依頼を?」
「いえ、正式な依頼主は王宮になります。ある件で『勇者』率いるブレイブウィングに王宮が依頼を出しましたが、その勇者殿が冒険者の『断頭』と貴方に興味を持たれたようでして」
故に、王宮とギルドに手を回し、『依頼』とやらにゴーウェンや悠午を引っ張り込もうとしたらしい。
が、当然ながら悠午は眉を顰めるワケで。
「詳しい依頼の内容は?」
「それはここでは申し上げられません。依頼を受けていただければ、そこで改めて説明を、という事に…………」
「ゴーウェン、こういうのは当たり前にある事なんですか?」
「…………普通は無いな」
依頼を受けるか否かは基本的に冒険者の裁量だし、事前に仕事の内容が伝えられないなどと言う事もありえない。
しかし、悠午もオッサンの苦々しい面を見て、その心情を察する思いだった。
なるほど本音と建前、理屈と現実は、また別物か、と。
「あい解った……。とりあえず同道しよう。ギルドの方へ行けば良いかな?」
世間の不条理に直面したナイーブな少年は、心に壁を作る『叢雲』モード。お爺ちゃんの真似をするのが齢14の処世術である。
「いいのか、ユーゴ?」
「良いも悪いもないでしょう。断るにしたって、その勇者とやらに会わないワケにはいかんでしょうし」
快く、とまでは言わないが、従う姿勢を見せる冒険者に、満足そうに頷くギルドの職員。
とはいえ、まだひとつ問題が残っている。
「あの……それであちらの方は?」
「ちょっと何やってんのよ!? さっさと来なさいバカ!!」
何でか知らないが悠午に敵意を向け、一方的に実力を試すと言い放ち先に出て行った女のプレイヤーだ。
いつまでも出て来ない胴着袴の少年に、戻って来るや目を吊り上げて怒鳴っている。
自分の決めたスケジュールにヒトが従わないのが我慢ならないようだ。
「この実力テストとやらは受けなきゃならないものなんですかね? 不合格にしてくれるなら、それはそれで願ったりなんですけど」
「ハァ!?」
「いいえ、そういう事はありませんが……。これは王宮とギルドからの正確な依頼でありますし、一応受けるか否かはあなた方に選択権がありますが、依頼を受ける為の条件などは指定されておりませんので」
「ちょっと!?」
プレイヤーとギルドの職員を見比べながら尋ねる悠午。
そして、梯子を外すかのようなギルド職員の返答に、女のプレイヤーは目を剥いていた。
「あんた……実力もわからない相手と仕事が出来る? それとも、ザコプレイヤーでもブレイブウィングに付いて来れば良い思いができると思った!?」
「て言うか付いて行きたくないんですけど。でもあなたにその権限は無さそうだし、受ける必要のない試験を受けるほど勉強が好きでもないんで」
更に、落ち着き払った少年の科白で、我儘短気プレイヤーの頭に血が上る。
別に悠午は煽っているつもりはないのだが、この辺は恐らく仕事仲間のが移ったのだろう思われる。どいつもこいつも捻くれているんで。
それはともかく。
そもそも、聞く限り今回の話は王宮とギルド、そして悠午とゴーウェンの間の事だ。
王宮を動かしたのがブレイブウィングであるとはいえ、そこに所属するいちパーティーメンバーが、いまさらどうこう言う筋合いではなかった。
「あんた何しに来たの? バッカみたい」
「ッ――――――――――――!!!!!!!!」
高レベルを鼻にかけるようなプレイヤーの態度に、堪りかねていたジト目の魔術士が横からチクリ、と。
その一言が引き金となり、今の今まで苛立ちを募らせていたプレイヤーの怒りが爆発した。
「ソニックナックル!!」
ソニックナックル、熟練度35。
近~中距離単体、衝撃波攻撃、AGIとTEC値に応じて連射可能回数が増える。
牙を剥いたプレイヤーが拳を振るい、その先端から魔力と共に衝撃波が撃ち放たれる。
狙いは、不機嫌な猛獣を刺激してしまった、ジト目の魔術士だ。
互いの距離は10メートルもない。
超高速の見えない攻撃は、何が起こったかも分っていない可憐な少女の顔に迫り、
パンッッ――――――――!! と、
微風が小夜子の髪を揺らしたが、攻撃そのものは直前で、悠午の手の平により受け止められていた。
クエストID-S015:ショート イズ ノーシンプル 10/14 01時に更新します




