桃色生徒会
「ほう、そんなことがねえ。」
「そうそう!だから朝から大変で…」
「だから授業選択がまだ出来ていない、と?」
放課後の職員室。
呼び出された雹太は朝の出来事を話し、へらりと緩い笑みを浮かべて頷いた。
途端、丸められた教科書でその頭を叩かれる。
「いでっ」
「甘ったれてんじゃねえ、バカが。」
雹太のクラスの担任、遥がそう吐き捨て、むう、と軽く頬を膨らませる雹太を睨むように見た。
そして続けて何か言おうと口を開いた時、その肩に片手が置かれる。
「風間先生。暇ですか?暇ですよね?」
にこにことした表情でそう声を掛けたのは生徒会副会長の榊聖。
振り向いた遥の表情が少しずつ強ばっていく。
「俺は暇じゃない、が…コイツが暇だ。…そうだな、坂崎。」
「え。」
「そうですか、では坂崎くん。一緒に生徒会室まで来て頂けますね?」
雹太は掴まれた腕と聖の顔を交互に見た。
しっかり力の込められた白い手と爽やかな笑み。
その対比に困惑し返答に困っているとそれを肯定と捉えたか、それとも元より否定など受け入れるつもりがなかったか。
雹太はそのまま引っ張られていく。
「戦力を連れて戻りましたよ……おや、真一だけですか?」
「岡崎さんと成神さんは生徒会新聞の作成に…って雹太?」
生徒会室。
締め切られた大きな窓にシンプルな白のカーテン。
その傍にはベージュのソファが置いてある。
教室よりも少し小さなその部屋にあるホワイトボードにはでかでかとした丸文字で『今月の格言:押してだめなら押し倒せ』と書いてある。
部屋の中心には十分なサイズのテーブル。
それを囲むように置かれたパイプ椅子。
そしてそのテーブルには大量の桜の花と、椅子に座った真一の姿。
初めて生徒会室に入った雹太はそんな室内をぐるりと見渡した。
「では坂崎くん、好きな席へ…ああ、でもそのソファは会長のお気に入りなので止めておいて下さいね」
「……コレ、なにやってんの?」
好きな席へと言われ雹太はそう尋ねながらおずおずと真一の横へと座る。
聖も2人の向かいの席に着いた。
真一は大きく溜め息を吐き雹太へ目をやる。
「…花祭りに、桜の栞とジャムを景品として配ることになったんだよ。で、栞を作ってるところ。」
「ジャムって何ジャムって」
「ジャムはジャム。パンに塗ったりするでしょ?あのジャム。」
「えええっ、桜って食えるの?」
「…桜餅とかあるでしょ?いいから、今は栞を作ってるの。」
栞よりもジャムへと興味を見せるピーターパンに真一はもう一度溜め息を吐く。
ふと雹太が真一を見るといつもは綺麗な翡翠の目が濁りどことなく死んでいた。
「……真一、目が風間せんせいみたいになってる。」
「…疲れてるからね。」
真一は窓の外へと目をやった。
いつもより何歳も老けて見えるその姿に雹太は桜へと目を落とす。
それを見て聖は微笑し口を開いた。
「坂崎くん。この中から綺麗な桜の花を選んで…この透明のフィルムの上に置いて下さい。その後もう一枚のフィルムを被せて…きちんと真上から置いて下さいね。で、機械でプレスします。プレスは私がやりますので、坂崎くんはそれまでをお願いいたします。」
「……ごめん、榊。桜の花を選んで、からもう1回お願い。」
(…では坂崎くんは綺麗な桜の花を選んで並べる係をお願い致します)
(おう、それなら出来るぜ!)
((15分掛けて説明しても理解しない雹太大物過ぎる…))