生徒会活動の憂鬱
深い溜息がもう殆ど人のいない廊下に響く。
その主は校内一の苦労人と呼び声高い竹上真一。
そしてその原因はついさっきまで行われていた生徒会活動にあった。
「はい、議題。花祭りについて!因みに今日は三年書記の成神がお休みです!」
妙に明るい声の主は三年一組の岡崎凛音。
栗色のボブで背も低く猫目の彼女は生徒会長である。
「おや、成神さんは風邪ですか?」
その声に反応したのは二年三組の榊聖。
さらりと伸びた金髪に青い狐目の彼は二年にして生徒会副会長を務めている。
成績も良く容姿端麗、家柄も良い彼は演劇部の部長でもある。
「ん、プログラミングの授業で提出するなんかが出来てないんだって。…それより花祭りだけど、やっぱただ絵を描いてってだけじゃ地味だと思うんだよね」
軽いノリで伝統行事を一掃する会長に真一は内心溜息が漏れた。
この会長は、スムーズに行事をしない。
いつでも更に楽しくおかしくメチャクチャにしたがる。
「なるほど、では景品を付けますか?それとも甘酒でも配りましょうか?」
そしてこの男、聖もまた。
凛音の思い付きを否定したりすることはほぼなく、色々な形で賛同していく。
つまり、歯止めとなる者がいない。
いつもは今日休みの書記や生徒会顧問の天宮玲司が真一と共にストッパーとなるのだが…今日は生憎、二人とも不在である。
「景品もいいね!もし景品ならどんなものがいいかな」
聖の提案にぱっと明るい表情となった凛音。
その凛音の問い掛けに聖は口角を吊り上げ綺麗な弧を口元に描いた。
「そうですね、私は個人的に男子生徒のイチャラブ写真が」
「黙れ腐男子。」
聖が言い切る前にすかさず真一の辛辣な言葉の槍が投げられた。
いつもは優しげに細められている真一の緑目はその金髪を冷たく見据えている。
真一の言う通り、聖は腐っていた。
もう、後戻りは出来ない程に。
「まだ最後まで言っていませんよ、真一」
未だ口元に笑みが讃えられていることから、真一からの言葉は聖にとって想定内だったことが容易に想像できる。
あぁ、憎たらしい。
真一は内心そう思いながら何か紙に書き出した凛音へと目をやった。
「やはりお金もかからず花祭りに関連したものが良いかと。例えば、桜とか…」
「うん、私の案はもう決まったよ。どうかな?」
真一の言葉に凛音は柔らかく微笑んでその今まで書いていた紙を真一の方へ向け差し出した。
真一は妙に丸っこいその文字を声に出して読む。
「絵と共に俳句の提出。生徒会で協議し入選、特選を選ぶ。入選者には桜の押し花のしおり、特選者には桜ジャム…ですか」
「そそ。絵だけじゃ個性出ないっしょ。あ、もちろん意見受け付けます。」
凛音は笑顔でそう言うが、しかし。
聖の提案から真一の意見を組み入れつつ、己独自の意見も反映させたそれ。
案自体に文句などない。
しかし、不安点は多い。
「案としては良いと思いますが、押し花とジャムは誰が?」
「生徒会で総力を上げます」
「フフッ…天宮先生含め5人しかいませんが、ね。」
たった5人。
押し花だけなら可能かもしれないが、ジャムとなると桜もかなり必要となってくる。
間に合うかどうか。
そんな二年二人の不安材料を聞き、凛音は不思議そうに首を傾げた。
「生徒会で総力を上げて、協力者を募るんだよ?まず桜ジャムは調理部かな。部費を上げろって言ってたからそこを掛け合いに出せばいけるよ。それからしおり作りは文学部。文学部は榊君知り合い多いでしょ?よろしく。それから…」
真一は驚き、暫し会長を見つめていたがメモを取り始めた聖を見て真一も慌ててメモを取る。
「……とまあ、こんなもんでしょ」
的確に三人で回る部や委員会を決めた凛音。
真一はメモを見返し、その後時計を見た。
いつもなら定例会は2時間程かかるが、今回はたった三十分で終えてしまった。
ではあとの1時間半どうするのか。
それは簡単。
「…じゃあオープニングセレモニーで花火あげちゃう?」
「そうですね、大きいのをあげましょう。前夜祭は必要ですか?」
「…いい加減にしてください。冗談でしょう?」
「いえ、私は本気ですよ?」
本気か冗談か分からぬ会話に懸命にツッコミ、ブレーキとなる。
真一の溜息は花祭りに対してのものではない。
あくまでこの1時間半による賜物であった。
(プロジェクトマッピングやりたい!)
(いいですね、校舎に桜を映し出しましょう)
((あぁ、成神さん、天宮先生。何故居ないんですか))