剣道部の憂鬱
俺の名前は蘇芳蓮斗。
二年一組魔法学科の生徒であり剣道部に所属している。
好きな食べ物は辛いもの。
身長は180cm。
そんな俺は今、部活動中で、剣道場で素振りをしている。
「…だから、剣道部入ってみない?」
その俺の横で部長が一年を口説いている。
部長は確か…三年四組で科学学科だったか。
うちの学校は魔法学科と科学学科があるわけだが、一年時は分かれずに魔法学科の基礎と科学学科の基礎、どちらも学ぶ。
そして二年時にどちらの学科に入るか決めるわけだ。
魔法学科は一組と三組、科学学科は二組と四組になる。
「えー…でも僕初心者で…」
「俺もー」
「初心者でも大歓迎だよ!」
渋る新入生に爽やかな声でそう言った部長にふと俺がそっちに目をやった。
やるなと言われていたのに、やってしまった。
新入生たちと目が合う。
途端顔を真っ青にする新入生。
やってしまった。
部長がこちらを向く。
……物凄く、恐ろしい顔だ。
「だから、新入生を見るなって言っただろ!お前目付き悪いし!パッと見完全に不良だし!怖いんだよ!」
「そんなことないと思うんスけど」
ぷくっと頬を膨らます部長。
まあ、こんなちっこい部長よりは怖いかもしんねえけど。
「どの口が言うか!新入生ビビって帰っちゃっただろ…あーもう、蘇芳は走り込み行ってて!」
「えー」
「部長命令!」
「ハイハイ」
俺は仕方なく竹刀を片付け靴下を履いて立ち上がる。
伸びた赤髪を耳に掛け外に出るとグラウンドをうろうろしている新入生たちが視界に入った。
…あんまり目が合わないようにして走んねえと何言われるか分かんねえな。
そんなことを思いながら走り出す。
コースは適当にグラウンドと校外をぐるぐるとしよう。
そう考えグラウンドに入った途端肩を思い切り掴まれる。
「っ、てぇな…!あ……」
突如掴まれた肩。
走っていたわけだから当然痛い。
半ば苛立ちつつ振り向くとそこに居たのは俺の天敵、天宮玲司。
二年三組担任であり、風紀委員と生徒会を担当しており、更に生徒指導教員。
俺よりもデカイこの教師が、俺は大嫌いだ。
「蘇芳、ピアスは禁止だと何度言えば分かる?」
「あー…はは…それより先生、今日は生徒会定例会の日じゃないんスか?」
耳に掛けていた髪を軽く梳かして下ろす。
俺の耳には両耳二つずつ、ピアスの穴が空いている。
それが規則違反だと、この教師はいつまでも言ってやがって…まったく、しつこい。
「あぁ。そうだが…俺が顔を出すのは週一回だ。…そんなことよりもピアスを…おい!」
律儀に天宮が返答しているうちに俺は走り出した。
あっちはスーツ、こっちはジャージ。
流石に追い付くようなことは無い筈。
あー、よかった。
(おい蘇芳!グラウンド走んな!陸上部に部員が入らなくなるだろ!)
(蘇芳くん、テニスコートに寄って来ないでよ!)
(蘇芳…サッカー部の妨害か?)
((クソ…俺の扱いどうにかなんねえのかよ))