表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界に渡った狩人たち  作者: カカセオ
第一章 狩人たち
8/13

08 大草原の小さな魔女

 近くの露天で串焼きを一つ買う。

 一本銅貨2枚、分量的考えると一食銅貨4~6枚くらいだろうか。

 味付けは塩のみで、肉は新鮮なだけがとりえ。

 そんな感じのそれを食べ歩きながら、ポツリと呟いた。

 

「困ったね」


 不本意な事に、約束を破る事になってしまった。

 まあ、約束自体押し付けられたようなものだが。

 姑を味方につけた子供に押し負けた孫嫁が、姑と手を組みゲーム中の面倒兼監視を頼んできたのだ。

 一応全年齢版になったとはいえ元々HANTは18禁、年齢フィルターで大丈夫なはずだが心配なのだろう。

 そんなに心配なら自分で面倒見ればと思うが、日常生活を送っているのでそんなに暇ではないという。

 兼業主婦な春美はともかく、年金暮らしのよし子はそれなりに暇だと思うのだが。

 中でも一番暇なのが自分なのは否定できない。


 Elder@home。

 仮想現実接続装置、通称VRセルは元々医療機器、ソフト部分を変更する事でバイタルチェックなども可能。

 それに目をつけたとある企業が、健康で長い余生を謳い文句にこの事業を起こした。

 入居者はVRセルの定期メンテ時以外はずっとその中で過ごす。

 勝手に出歩かないようVRセルからの排出は当施設の管理センターで制御しており、VRコンテンツからログアウトしても、それを選択するエントランスまでしか戻れなくされている。

 一部からは生前棺桶と揶揄されている老人ホームの新しい形。

 初期投資はともかく、人件費などがほとんど掛からず収容できる人数も多いので、他施設よりも利用料が格段に安いのも特徴の一つ。

 自分はここの入居者の一人だ。


 腰をやって寝たきりになり、子供たちの所で厄介になった。

 負担になっていたのは否めず、心苦しく思っていた時にこれを見つけ、すぐさま応募した。

 安さだけに惹かれたが存外に楽しく、HANTは特にお気に入りで、出会ってからずっと篭っている。

 なお、施設利用料には通信以外のVRコンテンツ利用料は含まれない。

 その分は自腹なので、そこからやっている物を知ったのだろう。


 厄介になってた負い目もあるし、一応曾孫だ、可愛くない訳が無い。

 こっちの領分に入ってくるならちょうど良い、中身も含め存分に鍛えてやるという思惑も頭をもたげた。

 そんなわけで、ここ最近は週1で来る曾孫の相手をしていた。

 だが、こんな状況では行く事はできない。


「あたしとした事が、とんだドジ踏んじまったね」


 そう漏らしながら、これまでの経緯を思い出していた。



―――



「よいせっと、これで準備完了だ。

 早速向おうかね」


 この間ベアハニービー(熊蜜蜂)の巣を見つけたのだが、ちょうど貯蔵庫は満杯で保管容器にも空きが無く、諦めざるをえなかった。

 それから貯蔵庫の拡張と容器の作成に従事し、ようやく仕上がったのでこれから採取しに行こうというのだ。

 各種持ち物を確認して樽を背負うと、愛用の杖を片手に外へ出た。


 音もなく草原の上を駆け抜け、木々の合間を通り抜ける。

 しばらく進むと、大きなハニカム構造の建造物が見えてきた。

 ベアハニービーの巣だ。

 近づきすぎる前に、成虫から生成したフェロモンを体に振り掛ける。

 これで襲われないで済む。

 殲滅する事もできるが、それよりも生かしておいた方が好きな時に新鮮なのを採りに来れる。


 大人が悠々と通り抜けれる大きさのその穴の一つに入り、目的の物を探して奥へと向う。

 道中巣の住民とすれ違ったが咎められる事無く、そして一つ目を見つけた。

 一見すると他と同じく壁だが、叩くと返ってくる感じが違う。

 樽を床に下ろし、蜜蝋の壁に石突で穴を空け、間髪入れず持参した筒を差し込む。

 筒から垂れてきたのは淡い琥珀色の液体、蜂蜜だ。

 樽一杯になった所で筒に栓をして背負い直し、次の物を探しに向う。

 目指すは地下、幼虫の餌になる花粉団子だ。

 そこへのルートを探して移動していると、不意に足元に光が走った。


「?!」


 あまりにも唐突だったので踏まずに通過するしかなかった。

 それでは避け切れなかったのだろう、図形を描いたその光は閃光となって辺りを埋め尽くし、気が付けば白い通路のような所にいた。

 道の先からは光が迫ってきている。

 それから離れながら、何か無いか辺りを見渡すとゲートらしき歪みを見つけた。

 叩き壊して抜けると煙った感じの森の中。

 背後に殺気を感じ、反射的に反撃を行った。

 


―――



「ありゃ、不味かったね」


 突然の展開で気が立っていたのだろう、いつもの調子でやってしまった。

 感じの違いに気付いて咄嗟に手を抜いたが、結果は木っ端微塵。

 光る透明な皮と肉の見た事のないモンスターだったんだが、勿体無い事をしたもんだ。

 ついでにクレーターが一つ。

 とりあえず埋めて更地にし、小屋を建てた。

 見た事のないモンスターが居る以上、ここがどこかは不明。

 腰をすえる場所は必要だろうとの判断からだ。

 調べて分かったのは、この近辺にはゲートは無い事、植生やモンスターはほとんど内側に似ている事。

 薬草類が同じか調べようと、いつもの様に小屋の周りに畑を作り株を移植して育ててみたが、大きな違いはなかった。


 そうして調べてる最中、森の中で人を発見した。

 プレイヤーなら大丈夫だが、NPCノンプレイヤーキャラクターだと自分の外見的に面倒な事にもなりかねない。

 しばらく様子を見ていると、彼らは妙な物を使い出した。

 見かけ以上に物が入る袋や通信機器。

 雷を放つ杖なんて、似たような物はあったが、ここで見たのは全くの別物だった。

 なにせ、宙から雷が発生して見事に敵を貫く。

 正確には、放つ前に宙に浮ぶ図形から発生するのだが。

 そう、図形。

 それらには、ここに飛ばされる原因となった罠に似た光る図形があった。


 まるで魔法みたいだなと思った時にピンと来た。

 CPOの時と同じなんじゃないか?と。

 CPO(しっぽ)――正式名称Chimera Park On-line、ここの運営の別VRMMO。

 プレイヤーがモンスターをやるこのゲーム、βテストの終わりがけに行われたのがPCプレイヤーキャラクターのHANTへの投入。

 しかも、両方に碌に説明もせずに。

 今では半月に一度行われており、自分の所にない物を手に入れる良い機会として好評を博している。

 HANTではNPCとして見かけない獣人も居るし、今回は新フィールドだかVRMMOのテストにHANTのPCを引きずり込んだのではないか?


 まあ、分かった所で状況が改善するわけではないのだが。

 良い機会だから魔法を覚えようと、森の中の人の観察を続けた。

 森の外には町らしきものがあり情報集めに行きたかったが、高い城壁で囲まれており防備に力をかけていそうだった。

 どんな魔法があるのかわからない以上、忍び込むのは危険だろう。

 正面から入るのは自分の外見がネックになるのでとりあえず保留した。


 魔力と気は同じ物のようで、気功放出の応用で魔法の再現はできた。

 だが、実用レベルまでは程遠い。

 それに、物がたくさん入る袋などのアイテム類の再現は上手くいかなかった。

 一時的には出来るものの効果は長続きせず、図形を定着させる何かが必要なのかもしれない。

 最初に見たのも試したが、これは全く上手くいかなかった。

 図形の思い違いか、何かが足りないのか。

 それと一つ、気になる事があった。

 魔法を使うと、必ず煙のようなものが発生する。

 素材の反応では見た事が無いそれは、森に満ちているのと同じに見えた。

 昔話題になってた排ガスによる大気汚染みたいな感じだが、これもそういう影響がありのかもしれない。


 自分一人で検証するのには限界があるし、使っている以上なんらかの情報はあるだろう。

 その為に町に行きたいなと、観察しながら疑われず入る方法を検討していた所、荷物を背負った子供が一人、普通に入っていった。

 しばらくすると、入った時よりかは幾分小さくなった荷物を背負って出てきた。

 もしかしたら普通に入れるのかもしれないが、子供が特殊な可能性もあるので後をつけた所、集落にたどり着いた。

 盗み聞いた所、やはり特殊だったので条件を頭に入れ、すぐさま準備しに小屋へと戻った。


 疑われないよう服装等はできる限り再現した。

 元の装備は一部再利用し、残りは置いておく事にしたが一応偽装はしておいた。

 作ってる途中、他人の家にいきなり攻撃しようとする頭のおかしいのと、それを見守る多数の人間が現れた。

 自分の装備の素材は、この辺りで取れる物に比べ格段に上。

 魔法がある以上、自分の知識以上のものができる可能性がある。

 そんな奴らの手に渡ったら何に利用されるかわからないからだ。


 荷物にするのはHANT初心者が相手するようなのがいいだろうと、足りない分を狩り足した。

 だが、自分一人で全部を消費するのには保存食にしても時間がかかる。

 拾っていく人も居るようなので、その人たちの通り道に置いておいた。

 ばれない様に一度に少しずつ、その為数を揃えるのに少し時間がかかった。


 問題なく入れて上手くいったと思ってたが、少し失敗した。

 見た事のなかったモンスター、HANT風に付けるならフォレストスクワラル(森栗鼠)って所だろう。

 小粒だけど結構味が良くいくつか狩って持っており、弱かったので混ぜてみたが、思いの外高かった。

 銅貨が最低単価で、大銅貨は銅貨百枚だろう。

 銀貨はそれの十倍なのか、百倍なのか、どちらにしろ結構な価値があったようだ。

 面倒な事になるかもしれない。

 他にも町があるようなら、そちらに移動しよう。


 とりあえず報せは入れておいたが、来週までには何とかしたいものだ。

 現実だと7日だが、HANT内部の経過時間は24倍速。

 タイムリミットは、凡そ半年。



―――



「あら、ゆうちゃん。

 今日は行かないの?」


「うん。

 ひいばぁから用事あって行けないってメール着たから、今日は止めとく」


「そうなの?

 まったく、あの人ときたら自分勝手なんだから……」


「じゃあ、部屋戻るね」


 元々大人向けタイトルだというのが、一人前ぶりたい年代を引き付けたのだろう。

 気が付けばクラス男子でHANTをやっていないのは、自分だけになっていた。

 危険だからと反対されていたが、そんな状況では何とかしないわけには行かない。

 同居している祖母を味方につけて何とか説得すると、代わりに交換条件を出された。

 施設に入っている曾祖母がこれをやっているので、その付き添いを受けろという。

 これには味方になっていた祖母も賛成し、今度は自分が説得される羽目になった。


 HANT初日、事前情報通りチュートリアルをこなし、ギルドでハンターカードを受取って外へ出ると唐突に声を掛けられた。


「終えたようだね」


 そこに居たのは魔女が被ってるようなとんがり帽子に魔女が着てるような黒いローブ、木の杖といった格好をした女の子だった。

 背の関係で自然と上目遣いされる形になった。


「ほら行くよ、曾孫」


「えっ、ひいばあちゃん?!」


 その女の子が曾祖母だった。


「何その格好?!」


「あん、格好がどうしたんだい?」


「いや、その……」


 似合ってない訳じゃない、むしろ妙に似合っているがそもそも年齢が合わないとか自分でも何が言いたいのかわからず口ごもる。


「なんだい、ハッキリしないね。

 まあいい、とりあえず行くよ」


「……行くってどこに?」


「強くなりたくないのかい?」


「なりたいけど……」


「なら、黙って付いてきな」


 そうして連れて行かれた先にあったのは地獄だった。

 最初は簡単な運動から始まったが、いつの間にか狼に追いかけられていた。

 知り合いが先にやってたら色々とアイテム貰ってスタートダッシュ決めれるとか聞いた事はあったが、本当に走らされるとは思わなかった。


 ハンターの資本は足腰だよと、とちれば危険な上に罵倒が飛んでくるこの鬼ごっこに初日の大半は費やされ、最後に大小の鼠を狩ってその日は終了した。

 次どうしようか迷ったが、鼠を狩った時に筋が良いねと褒めてくれた笑顔を思い出し、また行く事にした。

 回を重ねるごとに着実に強くなっているのが分かり、そんな感じで今も続いている。

 褒めてくれるのも嬉しいが、最近は罵倒されるのも嬉しくなってきた。

 心配されているからこそ怒るんだよな。

 今週は駄目だったけど、来週は叱ってくれるかな?



―――



 一々変えるのが面倒だからとそのままの姿でHANTを始め、大量の回復薬を作るため鍋をかき回していると魔女っぽいといわれ、そりゃ良いねと衣装を揃えた。

 薬作りに興味を示し、新しい物が出来れば真っ先に自分で試した。

 そうした中にあったのが、外見変更系統の薬。

 初期化薬である程度戻ったものの、年齢と性別は戻らなかった。

 性別に関してはもう一度使う事で戻ったが、年齢変更薬は材料によって効果がまちまちな上、最初にどれだけ変化したのか正確にしるのは困難、戻してもあまり意味がない事もあって年齢については放置する事にした。

 どう見ても十歳前後だが、本人曰く肌の感じからして四、五十代だとか。

 この事を知った紳士(ロリコン)たちは天国の旦那に向けて盛大に呪いの言葉を吐いたという。

 飛ばない魔女はただのババアだと気功が見つかっていない時代に空を飛び、ウィンドドラゴンと空戦をしてこれを制した大草原の小さな魔女プレーリードッグファイターまにゅー婆。

 自分の所為で曾孫が新たな性癖に目覚めつつある事を、彼女はまだ知らない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ