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異界に渡った狩人たち  作者: カカセオ
第零章 魔狩人
6/13

06 城塞都市の来訪者

 ここの魔域周辺には村が多い。

 自然の恵みが豊かで、魔域から流れてくる程度の小物ならあしらえると引退した魔狩人が家を構える事が多く、それに安心感を覚えた人々が集まるからだ。

 そういう村では細々とだが魔物素材が集まるので、ある程度溜まった所で町まで売りに来る。

 この役割を振られるのは子供の場合が多く、最初は大人の付き添いがあるものの、慣れたと判断されれば一人で向わされるようになる。

 魔狩人組合が定期的に掃除しているため盗賊の心配は無く、治安が良いので可能な事だ。

 子供なのは日常の労働力的に居なくても影響が少ないというのもあるが、そういう所の子供は日頃から体を酷使し身体強化魔法の使用頻度も高く、自然と魔狩人向きの能力を持っているので、唯の売り買いでも将来的な足しになる意味もある。


 なので、子供が一人で居るのは珍しくないのだが、その子供は少し違った。


 大きな荷物を背負い、頭を反らし頭上を見上げている。

 荷物は魔物素材だろうし、身体強化をしていればあれぐらいは持てるだろう。

 天を突くような巨大な城壁、城塞都市と呼ばれる所以で、それに驚いて立ち止まり眺める者も少なくない。

 だが、小さすぎた。

 どう見ても十には満たない。

 それでいて、付き添いが居るようには見えない。


 見疲れたのか目的を思い出したのか、頭を下ろしこちらへ向ってくる。

 ここは城塞都市の通用門。

 大門もあるが開けられるのは式典がある時ぐらいで、日頃の出入りにはこちらが使われている。

 今の時間帯、出入りする人間は少ない。

 待つ時間無く通り過ぎ――


「って、ちょっと待った!」


「ん?

 一体、なんだい」


 声かけた方に他に人はいなく自分だと気付いたのだろう、立ち止まり振り返った。

 口調に違和感を感じるが、背伸びをしたい年頃なのだろう。


「入市税払い忘れてるぞ、坊主」


「入市税、そんなのが要るのかい?

 さっきのは払ってなかったじゃないか」


 何も教えずに送り出した馬鹿が居る。

 人の親として耐え難い憤りを胸のうちに隠し、にこやかに答える。


「市民は払わなくていいんだよ。

 大人なら銅貨5枚だけど、子供だから2枚だね」


「……物納はできないのかい?」


 なにかの時の為に小銭ぐらい持たせとけ!


「大丈夫、できるよ」


 荷物を下ろして取り出す姿に和みつつ、怒りが募っていく。


「……これでいいかい?」


「見せてもらうね」


 大鼠の皮、きちんとなめしてある。


「……うん、問題ないよ。

 でも、これなら後一枚必要だね」


「もう一枚かい?

 ……はいよ」


「うん、これで通って大丈夫だよ。

 あっ、行く前にこれに手を置いてくれるかい」


 小首をかしげながら手を置いた。

 対人用瘴度計、瘴気の侵食度を示す魔法具で、最近魔族が現れたらしく見慣れない人は確認するよう言われている。

 こんな子供が魔族名分けないが、一応仕事なのでやってもらった。

 案の定、何の反応も無かった。


「はい、ありがとう。

 ようこそ、グレンナハトへ。

 魔物の素材は、すぐそこの通りを右に行くと魔狩人組合があるから、そこで買い取ってもらえるよ」


「そうかい。

 教えてもらって、すまないね」


 深々と頭を下げていくその姿に、改めて怒りを募らせた。

 その日の仕事上がりの酒の席で大いに荒れる姿がみられた。



―――



 昨日とは打って変り、窓口は暇を持て余している。

 護衛依頼を始め条件の良い依頼は全て埋まり、それにあぶれた魔狩人の面々は良い狩場を確保しようと皆朝早くから魔域へ向った。

 もう少しすれば、近場の連中が袋を一杯にして戻ってくるだろう。

 それを見越して、皆は早めの昼休みを取って出て行った。

 誰も居ないのは困るからと、残されたのは私一人。

 一番下っ端なので、こういう時にはよくこういう扱いをされる。

 新入り早く入らないかなとか思いながらぼーっとしていると、唐突に声をかけられた。


「素材の買取はここかい?」


 目の前には大きな荷物を背負った子供が一人。

 薄汚れ感じは旅をして来たからだろう。

 たまに来る村からの持ち込みだ。

 荷物の中身はいつも通り下級魔物の皮だろう。

 あと一日遅ければ買取金額は激減していたので、ちょうどいい時に来たもんだ。

 そう思いながら答える。


「ええ、そうですよ。

 お売りになりたい物をお見せ願えますか?」


「ちょいとお待ち。

 ……これと、これと、これと……これで全部だよ」


「承知いたしました。

 鑑定が終わりましたらお呼びいたしますので、この札を持ってあちらの席でお待ちください」


「はいよ」


 木札を受取ると、空になった背負い袋を纏めて、子供は椅子の方へと向かっていった。


 置いていった物を検分する。

 予想通り皮ばかりで、どれもなめされている。

 村から持ち込まれる物は保存の意味もあって処理されていることが多い。

 魔狩人だとそこまで手間暇をかける者は少ない。

 なめした方が買取金額は高いのだが精々二倍程度、もう一体狩った方が手間が掛からないからだ。


 大鼠に大蛇、森狼、鈎鼬……。

 処理も申し分無いが倒すのも上手くやったのだろう、どれもこれもほとんど傷が無い。


「……あら?」


 種類、品質ごとに分類していると、一種類見た事のない皮があった。

 全身皮なのに掌に収まるほどの小さく、毛並みは艶やかな緑玉色。

 そこの魔域産のは一通り見たつもりだったが甘かったようだ。

 考えた所で分るわけも無いし、聞ける相手もいない。

 鑑定し終わった分を箱に詰めてその分の結果を紙に記すと、あれを使うため不明な皮を一枚手に取り、席を立った。


 魔法具には二種類ある。

 動力源が内部型と外部型。

 内部動力源とされるのは、砂巨人など元が生き物ではない魔物の核を加工して魔力を込めた魔石。

 魔石は使い捨てではないが、何度も補充すれば劣化するし、魔力を込めるのにも金は掛かる。

 必要な分の魔力が流れれば動くので、内部型でも外部型と同じく使える。


 そんな訳で経費削減の為、この博覧箱は外部型として運用されている。

 これを何度も使える事がこの仕事に付ける要件なので、中々新入りが回されてこない原因だったりする。

 それを決めた部長の禿げ頭が思い浮かんだので、頭の中から蹴り飛ばす。

 規定の場所に設置して博覧箱を動かすと、皮の情報が宙に投影された。


「えっと……宝石鼠のなめし皮?

 ……やっぱり無いわね」


 よく出る魔域素材の買取価格は、朝の内に書き写して一覧にするのだが、案の定その中には無かった。

 仕方なく、その大本である相場台帳を開く。


「宝石鼠は………………あった。

 えっ、銀貨5枚もするの?!

 これで?!」


 見直しても変わらない以上これが相場なのだろうが、この大きさでこの値段だと作る物の価格は凄い事になる。

 誰が買うんだろう、そんな物?

 そう思いながら窓口に戻り、宝石鼠分を書き足す。

 合計値を出して検算、うん大丈夫。

 呼び出しをかけ、来た所で集計表を示しながら説明する。


「こちらがそれぞれの金額になります。

 合計で銀貨15枚、大銅貨4枚、銅貨58枚になります。

 この金額で買取してもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、かまわないよ」


「はい……では、こちらが御代になります。

 お確かめください」


 代金を取り出し、集計結果を清書した物と一緒に並べる。

 数えて財布に詰めると、子供は一礼して組合を出て行った。


 それからしばらくして皆が戻ってきたので、入れ替わりに私は休憩に入った。



―――



「おっ、ソムネタくん。

 やっと戻ってきたか!」


 今か今かと待っていた彼女が漸く戻って来た。

 戻ってきて、これを見つけた時にはもう休憩に入っていた。

 呼び戻そうにも休憩はきちんと取らせないと彼女の同僚たちが姦しくなるので、泣く泣く戻ってくるまで待った。


「これの事なんだが――」


「相場台帳を見てその通りに処理しましたけど、何か問題でもありましたか?」


「いや、そうではなくてだな」


 話をしようとしたら、いきなり遮られた。

 これだから、最近の若い者は……。

 気を取り直して、話を続ける。


「これを持ち込んだのはどこの村の者かね?」


「……分りませんけど?」


「分らないでは困るんだよ。

 何か覚えてないかね?」


「といわれても、ごく普通の子供でしたよ」


「本当に何も覚えていないかね?!」


「一体何なんですか?

 そんな事、一々覚えてるわけないでしょう?」


 これがとても大事な事だと、全く分かっていないようだ。

 まずそこから説明した方がいいのかもしれない。


「これが何なのか分かっているのかね?」


「宝石鼠のなめし皮ですよね?」


「では、今まで見た事あるかね?」


「いえ、無いです。

 でも、そういう偶にしか入らない物ってありますよね?」


 そう、ごく稀にしか入らない素材はある。

 しかし――


「これは格が違う。

 前に持ち込まれたのは八十年以上前。

 しかも、三枚も有るという事は、宝石鼠を狩れる者がいるという事だ」


「はあ、そうでしょうね」


 だから何という態度で返されて、頭に血が上りかけたが何とか抑える。


「宝石鼠がどんな物か分かっているかね?

 皮は抗魔能力が高く、中級魔物の素材としては破格だ。

 だが、最大の特徴はその血にある。

 空気に触れるとすぐに固まり、紅玉に似た石になる。

 宝石鼠の名前の由来でもあるが、血硝石と呼ばれるそれには魔力を増幅する力がある。

 使い捨てだが、その効果は竜心玉を上回るとさえ言われている」


 竜心玉の材料となるのは上級以上の竜種の心臓。

 国宝級魔法具にも使われたとされる一品だ。

 流石に竜心玉は知っていたのだろう、ようやく表情を変えた。


「わかったか。

 対魔族戦で有用な道具が手に入るかどうかの瀬戸際なんだ。

 わかったら、何とか捻り出せ!」


 問い詰めて問い詰めて、漸く出てきたのはいつもよりは小さい子だったという情報だけだった。

 また来たらすぐ報せるように言い含めて、仕事に戻らせた。


 まったく、これだから最近の若い者は。

 関連の深いそこで何が取れるかを知りもせず働いてるのだから困りものだ。



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