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異界に渡った狩人たち  作者: カカセオ
第一章 狩人たち
11/13

11 復讐者の誤算

「戦力を送れなくなっただと、一体どういうことだ!!

 なに…………?!

 だが、それでは――」


『あるかもしれない危機じゃなく、今そこにある危機が優先だろ。

 じゃあな、そっちの健闘も祈る』


 その言葉を最後に通信は途切れた。

 しばし呆然とする。


「組合長、他の所からも……」


「……そちらは諸君らで聞いておいてくれ」


「はい」


 後は平穏無事を祈って待つだけだったはずが、今になってこの状況。

 こうなったら一刻も早く対処しなければならない。


「黒証持ちはどれだけ残っている?」


 住処から判断して魔族は人間大。

 味方を巻き込まずに攻撃できる数は限られるので、大人数を集める意味はない。

 かといって、少数過ぎては攻撃が集中してしまう。

 現在確保している戦力は角の槍のみ、それを届かせるため攻撃を散らす盾が必要だ。

 相応の実力を持った盾が。


「角の槍を除くと割れ樽だけです」


「……そうか」


 割れ樽は昔は別の団名で呼ばれていた。

 しかし、とある一件以来ほとんど酒浸りで、働くのは金が尽きた時だけ。

 今では通称の方が罷り通っている。


「彼らを呼び集めておいてくれ」


「わかりました」


「青証持ちの方はどうだ?」


「優秀な者はすでに……」


「そうか。

 ……そういえば、アスラとやらは来たか?」


「いえ、あの日以来一度も来ておりません」


 彼の足取りはつかめてない。

 やはり騙りだったのか、忠告を聞かずに一人で魔域へ向ったのか?

 中層を監視している者からは、今の所何の連絡もない。


「あれは完成してたな。

 運びこんでおいてくれ」


「はい」


 万が一を考えて指示しておいたが、本当に役立つ日が来るとは思わなかった。


「くっ、何でこんな事に……」



―――



 酒を奢るというので来たのだが、室内に入ってからは嫌な予感しかしない。

 その予感はすぐに裏付けられる事となった。


「諸君らに集まってもらったのは他でもない。

 上級魔族の探索、これに君らも加わってもらう」


「人がいい気持ちでいる時に何の呼び出しかと思えば、寝言は寝てから言え」


 探索と言ってはいるが実質退治だろう。

 代替えが起きていない以上、周囲の魔物がはばかる何かがそこには居るのだ。


「そもそも、他のとこから応援が来んだろ?

 なら、俺らに頼らんでも」


「先ほど他の地域の組合から連絡があった、そちらに戦力は回せないとな。

 我らだけでやらねばならんのだ!」


「……俺らには関係ないな。

 お前ら、飲みに戻るぞ」


「……ならば、仕方が無い」


 その言葉と共に背中に何かがあたった。

 振り向けばいつの間にか組合職員が一人。

 仲間たちの後ろにも居た。


「これが噂の暗殺部隊か」


「悪いが手段を選んではおれんのだ。

 断れば仲間がどうなるか、分かるだろう」


「……くっ」


「十分な支援を約束しよう。

 それとだ、あれを持ってきてくれ」


 その呼びかけに二人がかりで運び込まれたのは、うっすらと緑がかっている巨大な盾。


「いい加減に決着をつけたまえ、鉄塊バランディ」


「……古い呼び名を」


 かつては断頭ミーミルと共に、当時有数の群団盾と爪の二人頭だった。

 自分率いる盾組が攻撃を一手に防ぎ、ミーミル率いる爪組がその隙を攻撃する。

 この戦法で多くの魔物を駆逐し、中級魔物で相手になるものはほとんど居なくなった。

 そして、上級魔物も倒せると思ってしまった。

 熊型の魔物は膂力と生命力が強いが、それだけでしかない。

 毒があるわけでも炎を吐くわけでもなく、力任せなだけの類とは最も相性が良い。

 その為、手始めにと選んだのが髑髏大熊。

 結果は無残な物だった。

 改良に改良を重ね無敵を誇っていた大盾は一撃で窪み、ミーミルの攻撃は当るものの異常な回復速度の前には無意味だった。

 遠からず全滅する、その状況でミーミルは決断した。

 自分が囮になってみんなを逃がすと。

 ミーミルだけでは幾許も持たない、自分も残ると言い募ったが、戻る道中全滅しては囮になる意味がないと反対された。

 結局、残る事にした盾組の一人に自分の盾を渡し、残りを率いて逃げ出した。


 髑髏大熊への復讐を誓った。

 しかし、それには足りないものがあった。

 一つは攻撃を防ぐ盾、もう一つはミーミル以上の攻撃手。

 前者は金を積めば不可能ではないかもしれない、しかし後者は……。

 名の知れてる者たちを片っ端から見て回ったが、望む者は居なかった。

 新しい芽に期待するしかなかったが、未だ望む者は現れていない。

 憂さは酒を飲んで晴らすしかなく、いつの間にか酒浸りの日々。

 それでも、自分たちの知らないうちに倒されたくないと、この町に居付いていた。

 そんな所に、この間の発表。

 髑髏大熊が倒された、それもただの縄張り争いで。

 一気に気が抜け、以前にもまして酒量は増えた。


「これは頑丈な上、抗魔能力も高めている一品だ。

 見ての通りの重量だが、君なら扱えるだろう。

 君らから髑髏大熊を奪った相手に含むところはないかね?」


「……ちっ。

 行けばいいんだろ!」


「一応、逃げ出さないよう誰か置いていってもらおう」


「……エノク、お前が残れ」


「団長?!」


 エノクは昔の名声から尋ねてくる者も絶えて久しい時に来た。

 大概は現状を知り呆れて去っていくのだが、何故か今でも残っている。

 くだらない意地に若者の命を巻き込みたくはない。


「その者で良いのだな。

 連れて行け」


 取り押さえられながら連れて行かれるのを見送る。


「他に参加するのは角の槍だな?」


「…………うむ」


「何だその間は?」


「いや……ああ、そうだ。

 彼らには聖なる鎚を渡してある」


「聖なる鎚だと?!

 失われたんじゃなかったのか?!」


 その後は聖なる鎚の話を聞き、上等な酒を渡され帰された。

 決行は明日、それまで英気を養うとしよう。

 何か、気になる事があったような?

 まあ、とりあえず酒を飲むか。


 次の日、酒を抜いてから組合へ向った。

 先に居たのは角の槍の面々。

 何でこいつらがという目で見てきた。


「先ほど述べたように、他の組合からの協力はない。

 その代わり、彼ら盾と爪に協力してもらう」


 どういう事だという目で角の槍が見るが、組合長は素知らぬ顔で続ける。


「それでは現場へ――」


「組合長、例の方が現れました」


 職員が組合長の話を遮って、何かを伝えた。

 組合長が目の色を変える。


「そうか、至急呼んでくれ。

 すまんが、君らには少し待ってもらおう」


 それから少しすると一人の人物が案内されてきた。

 他と比べて格段に軽装の青年。

 アスラとだけ紹介され、同行すると説明された。

 それを聞いて、組合長に思わず確かめずにはおれなかった。


「……正気か?」


「世の中が狂ってないならな」


 聖なる槌を持っているとはいえ騎士狩り程度、それに加え実力不明のお荷物まで?

 ……自分の出来る事をするしかないと覚悟を決めた。



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