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異界に渡った狩人たち  作者: カカセオ
第零章 魔狩人
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01 宮廷魔導師の決断

 魔法陣に光が満ち、何処からともなくため息が漏れた。

 此処に至るまでの膨大な労力を思えば仕方が無いことだろう。

 だが、これで漸く準備が整ったというところだ。

 まだ事はなっていない。

 最後の一手をしくじれば、これまでの苦労は水の泡。

 気を抜くのが早いと、宮廷魔導師筆頭のフンゲルが叱咤を飛ばす。

 周りの者たちは慌てて襟を正した。


「それでは、始めるとしよう」


 フンゲル翁の指示の下、皆が集中し魔力を放出しだす。

 翁はそれを束ねながら呪文を唱える。

 呪文に合わせて魔法陣が光を強めていく。

 室内が光に満ち溢れる頃、呪文は終わりへと近づいた。


「来たれ、聖具に選ばれし者よ!!」


 最後の文句と共に束ねられた魔力が魔法陣へと叩きつける。

 閃光と轟音が辺りを埋め尽くす。

 周りに居た者たちはみな弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 閃光が治まり、闇に沈んだ儀式場にはそこかしこから呻き声や治癒魔法を唱える声が聞こえ始めた。


 逸早く立ち直ったのはフンゲルの補佐をしていたリリック。

 18歳という若さで宮廷魔導師となったフンゲルの秘蔵っ子だ。

 闇に沈んだ室内を照らすため灯明の魔法を唱える。


「光よ」


 光源が生まれ、辺りが照らし出されると現状が明らかとなった。

 そこかしこに倒れる同胞たち。

 師がまだ倒れているのを見つけ、慌てて駆け寄り治癒魔法をかける。


「……ん……おう、すまんのう。

 それで、結果はどうかね?」


「あっ!!」


 その言葉に今回の目的を思い出し辺りを見回したが、見たことの無い者は居なかった。


「……居ないようです」


「……そうか」


 今までの苦労は水の泡と消えたようだ。


 そもそも、今回の術式は100年以上前の記述から復元された物だ。

 魔法の技術は日進月歩。

 100年前のなど本来はお呼びではないが、これでしか目的を果たせないのだから仕方が無い。

 聖具に選ばれた勇者の召喚。

 一説によれば、聖具と共に神によって授けられた物だとか。

 その説に頷きたくなるほど、それまでの流れとは全く異質な技術の塊。

 術式の何処をとっても他へ一切転用できず、いつしか歴史の中に忘れ去られてしまっていた。

 今回の件でそれを掘り起こして復元したのだが、足りない部分があったのだろう。


 また文献に当たらなければならないと、フンゲルが未だ手を付けてない場所と、派遣する人員を思い浮かべていると、部屋の外に慌しい気配が近づいてきた。

 乱暴に開かれる扉と共に息を切らして入ってくる兵士たち。

 一息つくと、こちらへ用件を伝えてきた。


「フンゲル様、陛下がお呼びです。

 至急、玉座の間までお出でください」


「そうか。

 それではリリック、後片付けは頼んだぞ」


「はい」


 未だ半数が立ち直れて居ない儀式場を後にし、王の下へと向かった。



―――



「フンゲル・ウェルクハント、陛下のお召しにより参上致しました」


 突然の呼び出しに何らかの変事と思って駆けつけてみれば、王は上機嫌な様子だった。

 その側には第一王子が控えていて、そちらも上機嫌な様子だった。


 バルベンド王の第一王子グーデルは良く言えば豪傑、悪く言えば馬鹿。

 その上、飲む打つ買うは当たり前な放蕩息子として名を馳せていた。

 いつもなら貴族風を吹かす取り巻きを連れて街に繰り出しているはずだが、何故此処に居るのだろうと訝しく思っていると王が口を開いた。


「フンゲル、良くぞやってくれた。

 おぬし等のお蔭で聖具の間の封印が解け、我が子グーデルが勇者に選ばれた」


 その言葉と共にグーデルが右手を掲げる。

 そこに黄金のきらめきが一つ。

 この国に伝えられていると言われているのは聖なる指輪。


 召喚により封印が解けて聖具は誰にでも使えるようになるが、選ばれた者でないと十全の力を発揮できない。

 文献にはかつて召喚した勇者をないがしろにし、選ばれていない者に与えた結果、大いなる災いと共に聖具が失われたと記されていた。


 それらの事は既に王に伝えてある。

 フンゲルは一瞬唖然とした。

 王の口から出た以上、第一王子が勇者というのがこの国の公式認定となる。

 周りの貴族たちが聞いている以上、此処で口を挟めば不敬罪となる。

 先ほど兵士たちが派遣されたのは、本物の勇者を隔離するためのものだったのであろう……実際には呼び出されては居ないが。


 ふと、フンゲルは疑問を感じた。

 召喚されていなければ封印は解けないはずだと。

 術の失敗で封印だけが解けたのだろうか?


「フンゲル、褒美を取らそう。

 大儀であった」


 恭しく侍従が持ってきたのは人の頭ほどもある袋。

 開けられた中身はぎっしりの砂金、多分口止め料も含めてだろう。

 決断をしなければならないとフンゲルは心に決め、砂金袋を受取り下がった。

 儀式場まで戻り褒美を分けると、リリックに指示を下す。


 後日、登城しないフンゲルを不審に思った王がフンゲル宅へ衛兵を向かわせた所、既にもぬけの殻となっていた。

 フンゲルの他、儀式の主要人物もまた姿を消しており、王は追っ手を放ったがその行方はようとして知れなかった。



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