part1 - puzzled
ep1(5,6月頃) - ep2(6,7月) - ep3(8月上旬) - ep4(秋頃)
ぐらいの気持ちで書いてます
シーカーズ日本支部 登録全表(上級職員以上の者のみ閲覧可)
危険度別分類表(CCクラス以上は取り扱い方法も併記すること)
危険度低
|ST(SafeTy blue、影響なし)
|BU(BlUe、研究価値あり)
|NW(NarroW yellow、看過不可)
|YL(YeLlow、取扱注意)
|RE(REd、限定的に危険)
|DG(DanGerous red、安易な接触を禁ず)
|CC(CritiCally red、非常に危険)
|PI(Protect Immediately、迅速な対策が必要)
↓
危険度高
No.199 "シェルター"
Rank: NW
概要:それは物質(199-A)であったり、概念(199-B)であったりする。中にある"対象"はあらゆる事象から切り離される。No.208の読心行為や、No.511の透視も行えない。No.492やNo.3011の攻撃を受けても、中身は保持される。
存在:3体(2XXX年XX月XX日現在。うちAが2、Bが1)
No.3011 ギロチン衛星
Rank: PI
注意:自身の地理情報を把握出来ない閉所、または暗所に保管すること。対象は自身に被弾することを何よりも嫌う。
概要:世界中の二点(A,B)と深さ(D)を指定し、そこに存在する一切の物体を切り裂く厚さゼロの空気の刃を、上空から秒速139mで投下する。A,B間の最大距離は2.166km。Dの最大深度は不明(計測比較対象が存在しない)。またこの刃は、いかなる硬度の物体もなめらかに切り裂く。
存在:1体(2XXX年XX月XX日現在)
†
『出来ないじゃねえよ、やるんだよ。いいか、今散々説明したよな、現在進行形でお前がドロ被ってるんだぞ? ……なに、遠いだぁ? 甘えんな! 自分の名誉が掛かってるなら距離の五百キロや六百キロ、関係ねぇよな?』
○
最近、記憶の空白について思慮を巡らすことが多々ある。勿論、自分の記憶に自信なんて一欠片も無いんだけど。それはさておき、何故それが行われるのかを第三者的に考えてみた結果、それは恐怖を取り除くために本能が率先して行っているのではないかという超個人的結論に至った。
人間というのは"有る"や"在る"に対しては現状維持やそれ以上を求めるが、"無い"に対してはひたすら恐怖する。所謂『知らない』、『分からない』、『持っていない』等々だ。それはおそらくこの場合の"無い"について、自分の努力如何に関わらず補填・補完する事が出来ないからだろう。だから、無いものに対して手を伸ばすのはまさに雲をつかむような話というのが妥当な表現である。……むしろ、掴む対象が雲であるかどうかすら分かっていないのかもしれない。
とすればそうなってしまった人間が出来る事は、海老で小魚を釣るように、その空白の持ちうる価値が自分の期待値を下回らないことを祈るだけなのだろう。いや、ひょっとしたら。これはあくまで推論だが、人間は何かから何かを守る為に、意図して空白を作り出しているという可能性もあるのでは――。
「――ぇ、夜木君ってば」
「え?」
僕が考え事をしている状態というのは、ほぼ睡眠に近いのかもしれない。自分の世界に没頭するとまさに五里霧中といった感じで周りが見えなくなってしまうと、最近指摘された。
で、その指摘者というのが今目の前で至極めんどくさそうな視線を僕にくれている女性、もとい凪神楽という女である。曰く、連休直前に現れた怒濤のレポートラッシュにまさに生ける屍になってしまったらしいが、今現在そのしわ寄せが丸ごと僕にやってきていた。
『後生だから手伝って! 何か奢るから!』
――言わずもがな、珍しく、僕は怒っている。だってそうだろう、五月の黄金と言われた連休や課題を終えて、単位を待つだけのはずであった夏休みの直前にも同じお願いをされたという前科を鑑みていないのだから。流石の三度目は釈迦だって国を滅ぼすし、弥勒法師だって五十六億六千万年を四捨五入してゼロ秒で復活するだろうし、キリストでさえきっとロンギヌスの槍を気合いで避けようとするであろう。
「電話。鳴ってるよ?」
そう告げる彼女のその目に光はなかった。話によれば、本当に単位が出るかどうかの瀬戸際だったらしい。大体、なんで理系の僕が文系の彼女のレポート書きを助けねばならんのか、甚だ疑問である。窮地の一助どころか、端から見れば負値にさえ到達しているかもしれない。
「あなめでたや、いとめづらし」
「何言ってんだか」
最近、どんなことを言えば神楽の顔が引きつるかが大体分かってきた。学習出来るバカはバカではないということをここに声高に宣言したい。隠れバカを隠して生きていこう。隠してたら意味がないのだから、自己完結していて無駄がない。実にエコである。
「はい、もしもし――」
『あ、夜木か!? 良かった、ちゃんと通じた!』
若干テンションが高めの、男の声だった。
誰だろう。少なくとも僕の電話番号やメールアドレスを知っている人間は片手で数えられるぐらいしか居ない。
「名を名乗れ。近寄らば斬る」
『俺だよ俺、ムロだよ』
ムロ。
モヤモヤとした記憶の中に、なんだか引っかかった部分があった気がした。
「陽室……か」
思い出した。陽室竜也、中学の頃のクラスメイトだ。普段から"キョウスケ"だの"テツヤ"だの"アムロ"だのと呼ばれ、その度に名前負けしているとバカにされていた気がする。
『そうそうそれそれ! なぁ、夜木。お前今何してんの?』
順調に大学二年目である事を告げたが、ムロのテンションは変わらなかった。
『そうか……。なあ、今すぐ上京出来ないか?』
上京となると、簡単に言えば里帰りになる。今の実家はここだが、古い実家はそっちにあった。
何とも不躾な話だ。ただでさえ出不精の僕にそれを振るか。
『でもな、ちょっとヤバい事態なんだよ。――五十嵐、五十嵐嵐は覚えてるだろ?』
忘れられるはずもない。知り合い、と呼ぶにはちょっと大きすぎるアイツらの事を。その内の、一人のことを。
「そりゃまあ、腐れ縁だし」
ゾッ、と足下から何かが這い寄る感じがした。悪寒? まさか――アイツらに限って、悪い事なんて起きるはずがない。原因不明の自信が、音も立てずに崩れ落ちていく。
ひょっとしたら、それは最初から瓦礫の山だったのかもしれない。それでも尚、僕は信じるしかないんだから――。一瞬だけ、強くそう願った。無駄だと分かっていても尚、祈った。
『いいか、落ち着いてよく聞けよ』
適当に相槌を打つと、ムロはゆっくりと告げた。
『五十嵐が――死んじまった』
○
五十嵐嵐と僕との関係を語るには、多少の昔話が必要だった。取りも直せば、それぐらい深い縁であるということだ。
「まさか」
口から漏れていた。電話を握る手が自然と震えた。だけど、不思議と涙は出なかった。もう二度とアイツに会えないって、こんなに悲しい事は無いはずだってのに。そんなありとあらゆる感情が、腹の奥底からゆっくりと喉元へと登ってくる感覚が、極めて不快だった。それなのに不思議と体は震えず、平静を保っているのがその不快感に拍車をかけた。
「どういう、事だよ」
神楽が目の前に居る手前、虚勢を張りたがっているのかもしれない。
『俺だって知りてぇよ。何でこんな事になっちまったのか、さっぱりだ』
「具体的に、どうして死――そういう事になったんだ?」
周りを見て、僕は言葉を濁す。
『分かんねぇんだ。多分――、多分だけど、色々な要因があるんだと思うけど――事故か殺人かで言ったら、六割ぐらいで殺人みたいな状況なんだ』
殺人。
誰かが、彼を手にかけたというのか。
『えっとな、実際の所なんというか――ややこしい事態になってるんだ。所謂殺人事件として処理されそうなんだが、それが更にミステリーみたいな状況に陥ってて。それをファンタジックに解決出来る鍵がありながら、それを使わない方法を模索しているというか何というか――』
陽室の話は要領を得ない。
「事件を解決しろって話なのか? それなら、知り合いにお得な探偵がいるからそいつを紹介するよ。三日と言わずこの場で解決してくれるぜ」
本当なら今すぐこの場で"アイツ"を呼びつけて、犯人の名前を吐かせてやりたい。
『ほ、本当か!? なら今すぐ頼んでくれ、金ならいくらでも払、払――うん?』
うわ、と思わず嫌な顔が表に出たが、これは陽室には伝わらないからどうでもいい。
その"知り合いの探偵"は、いくらでも払うという言葉に非常に甘い。いくらでもと言うと際限なく払わせかねない危険すら孕んでいる。とりあえずそこら辺の交渉は僕がやっておくとして。ひとまず事務所に行くのが最優先事項だろう。
「後でかけ直す、この番号でいいんだよな?」
了承を得てから、電話を切る。
「今の、陽室君? 確か、中学の頃に関西の方に引っ越しちゃったけど――」
切迫した様子が伝わったのか、神楽もさっきまでの気だるい表情を一変させてこちらを見つめていた。
「そうだよ。五十嵐が殺されたから、探偵を寄越せって――」
「えっ」
神楽の表情が凍り付き、口元に手を当てた辺りで僕は自分の安易さを後悔した。
電話越しだったというのもあって実感がいまいち湧きにくかったのもあったが、今の僕の物言いは、仮にも数年を一緒に過ごしてきたはずの友人の死を伝えるにしては、余りにもビジネスライクすぎた。
「ごめん」
完全に後手後手だ。謝りながら、僕は荷物をまとめて踵を返す。
「……事務所行ってくる」
神楽は何も言わなかった。僕の朴念仁ぶりに愛想を尽かしたのか、それとも二度と会えぬ友人へ思いを馳せているのかは分からない。ただ、何をすべきかは分かっていた。
これ以上僕は言を尽くすべきではないのだ。
神楽には行き先も告げたし、追ってきても来なくてもいい。用事を伝えるなら僕だけでも出来る。
僕はそのまま一度も振り向くことなく大学を後にし、あるマンションの二階へ向かっていた。
『裏木探偵事務所』の名前を確認すると、僕は呼び鈴を押した。
「……?」
返事がない。社会人のマナーとして呼び鈴を押すようにと口が酸っぱくなるほどに言われていたのにも関わらず、返事がない。裏木――裏木樹という男は、他人が部屋にやって来る事を"完全に予知"している為、"呼び鈴を押したのにも関わらず出られない"という状況にそもそも陥らない。メカニズムについては追々語るとして、今はそういう事なのだと思って欲しい。
不審に思ってドアノブを捻ったら、開いていた。
が、その奥にくたびれた中年男性の姿はなく、白いワンピースに身を包んだ少女が、所謂棒についた飴を舐めながらデスクに腰掛け、足をぶらぶらさせながらコチラを見ていた。
「野々上……?」
彼女の名前は野々上咲。事情があって裏木さんの所で暮らしている"女の子"だ。勿論、こんなところでこんな事をしているからにして彼女も只者でない事は明らかなのだが、その辺の事情についても後回し。
今は、目の前の事態を解決させてほしい。
「裏木さんは?」
そう聞くと彼女は、おもむろに背後に置いてあった封筒を僕に差し出した。
まず、雑な蛇腹折りの便箋がまず目についた。
『息抜きに、二・三週間ぐらい海外旅行に行ってきます。色々大変だと思うけど、意外と何とかなります 裏木 P.S.咲ちゃんの世話もよろしくね』
そしてその封筒の中にさらに封筒が入っていて、その中身はなんと旅券だった。しかも明日出発のものが、三枚も。
つまりは僕と、野々上と、神楽の分ってことか。
裏木さんはやっぱり何でもお見通しだった。
「これだけか?」
すると、野々上は更にもう一枚の封筒を取り出して、突きつけてきた。
『一日目の夜木君へ 焦らずじっくりと待つが吉』
おみくじみたいな文言に腹が立つ。
頭で分かっていながら半分否定していたものを、改めて頭ごなしに言われるとやっぱりトサカに来る。自分自身、そういう事が経験が少ないからこそ尚更である。
「って事は、神楽に渡す用の封筒も用意されてるのか」
さりげに聞いたら、野々上はサッとまた別の封筒を二通ほど取り出した。手元の封筒と、特に違いはない。
「中身は……見るわけにはいかないんだろうな」
すると彼女はその封筒を両方ともひっくり返し、表面を僕に見せつけてきた。
『夜木斎ノ閲覧ヲ禁ズ』
手のひらサイズの大文字で封筒を跨いで書いている辺りに、底知れない悪意を感じる。
「――後は神のみぞ知る、って事かよ」
そう自嘲したのは、家に帰ってからである。
あの後、結局神楽にすれ違うのが怖くて、エレベーターを使わずに階段で一階まで下りたり、時々周囲を気にしたりとまるで中学生みたいな事をしながら帰路についてしまった。
布団に寝転がりながら、今日の自分の行いを反芻する。
やはり、明日謝りに行くか。格好はつかないが、自身の圧倒的不利な状況で弁を重ねる気は起きない。
†
で、翌朝。何かがうるさいせいで、ちょっと不機嫌な目覚めを被ってしまった。何事かと思い、眠気の残る頭を数度振って睡眠欲を吹き飛ばす。
どうやらケータイのアラームよりも早く、家の呼び鈴に起こされてしまった。
慌てて寝間着を剥ぎながら、覗き穴で何事かを見る。そして――、僕はそのままドアのロックを解除した。
「よっ」
「……お前」
神楽だった。しかも頭の上にめんどくさそうな表情の野々上まで乗せていると言う事は、胃もたれ寸前の胃が跡形もなく溶けて無くなるという事か。
すると彼女はポシェットから昨日の封筒を二つ取り出して見せた。
「これ、全部読んだ」
「そうか」
何が書いてあったかは、聞くまでもないだろう。どうせ、僕に対する代理弁解のような物が原稿用紙的なサイズで綴られていたに違いない。
「裏木さん、何て言ってた?」
「夜木君の事はなんとか許してくれって釈明文がびっしり。見てて嫌になったわ」
ふーん、とその封筒に目を移す。端から見てるとまっさらで綺麗な便箋だ。
「昨日はごめん。僕も結構動揺してたから」
「もういいのよ。裏木さんも余計なお節介焼いてくれちゃうわ」
野々上は相変わらずゴミを見るような視線を僕にくれている。何か喋ってくれた方がまだマシだとさえ思える。
「そっか。じゃあ、大学行くかな。お腹空いた」
ちょっと違うけど、大体はこんな感じで。
僕の周りは勝手に回っていく。
とある表現から、神楽と斎は"行き違い相思相愛"なのが分かります。一体どこからでしょうか? 引き続き宜しくお願いします。