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◆春呼びの剣

 俺とリーアが王城を出た頃には正午も過ぎていて、とりあえず城下町の定食屋で昼食を取る事にした。リーアはサラダを俺は鳥肉とパン。味は大味だったけどうまい。畜産は俺の世界と変わらないみたいだ。


「で、とりあえず食べ終わったらどうする?一応、勅書はあるし……」


 リーアは大輔に王国の象徴たる剣とバラがクロスされた印が施された羊皮紙を見せた。リーアがかけた魔術のおかげで、俺はこれが王の勅命書である事がわかる。これを見せてサインをすれば品物が買える。そういった代物だというのも。


 故にどうしようか迷う。旅の日用品を買ったり食糧を買ったり色々とある。しかし、迷いに迷った結果、俺はひとつの結論にたどり着いた。


「武器見に行きたい」


「武器ぃ?」


 さっき見に行った武器屋……俺はそれにたまらなく魅せられた。実のこと言うと、俺は結構剣が好きだったりする。ファンタジーや歴史物の映画を見ていると無意識に目が行ってしまったりする。


「ダメか?」


「まぁ、どうせ買うんだから今からでも良いかな……」


 少し嫌そうな顔をしつつもリーアは了承した。そのリーアの言葉に大輔は彼女に見られないように小さく拳を握って喜びを露にする。博物館の剣のコーナーで興奮する男故に。



 ウィンザリオ王都の城下町の路地は清潔で碁盤目と石畳がしかれており、馬車や多くの人々がその上を移動し、ウィンザリオの発展と経済力が伺えた。民主主義とこの発展……科学水準が同程度だったヨーロッパの国々と比べてもこの国ほうが勝っていることは解る。


「ねぇ、大輔の世界ってこんなんだった?」


「いや、俺らは魔法より科学が発展してたからこんなんじゃなかった。てか、俺らの世界じゃ魔法なんて存在しなかった」


「へぇ……ちょっと似てるね」


「似てる?」


「うん。私たちの世界は魔術が発展して、その副産物として科学が生まれたの。だけど、魔術はアリアとか私みたいにちょっと特殊な人間にしか扱えないから、科学の方が発展してるの」


 オカルトじみた物が科学の発展に役立ったのはよくある話だ。一見意味がないかのように見えた卑金属から貴金属を生み出す錬金術もその工程でさまざまな薬品を生み出したりもした。


「あ、あれが『メリアス商店』ウィンザリオで一番大きい武器屋だよ。古今東西の武器がそろえられてるってのがセールスポイント」


 話しているうちに俺たちは目的地に到達した。その目的地の建物は三階建てレンガ造りで広さもリーアの家の数倍はある。本当に大きい店だ。ようは三階建てのホームセンターみたいなものだ。


「じゃあ入るか」


「うん」


 大輔とリーアはアーチ状のゲートを通り店内に入った。店内の様子が目に入った瞬間に大輔は自分の心が躍りだしたのが解った。


「す、すげぇ……!!」


 落ち着いた雰囲気の店内には西洋剣や鎧や盾が陳列棚に並べられている。博物館じゃ手に触れることも出来ない剣や鎧が目の前に……これの状況に興奮できないのは男ではない。そう思いつつ大輔とリーアは店内の散策を始めた。


「ちょっと、君たち」


 散策をスタートして一分も経たずに、大輔の肩は店員に捕った。振り向くと、店のマークが刺繍されたエプロンを身に纏った赤毛を後ろで結わった女性店員が不審者を見るような目でこちらを見ていた。


「なんすか?」


「ここは武器屋だよ。子供が来て良いような場所じゃないの」


 確かにそうだった。ここに来ているのは小奇麗な鎧を装備した正規軍の兵士や雑多な格好をしている傭兵……子供の姿なんて無かった。


「そうだよな……リーア、他あたろうよ」


「まぁまぁ、店員さん。これを」


 リーアはローブの懐から一枚の紙を取り出して店員に見せた。その紙を渡された店員はそれを読んでいる内に顔が引きつっていき……


「あ、そういう事なんですか……ご無礼のほど、申し訳ありませんでした!!どうか、店長には内緒にしてください!!」


 ものすごい勢いで頭を下げて謝った。どうやらその紙は定食屋で見せてくれた勅書のようだ。


「いや、大丈夫だから。気にしないで。それより、店を案内してよ」


「本当ですか!?解りました!!自分、オルビーっていいます。よろしくお願いします!!」


 さっきのペコペコモードからの素早い切り替えに驚きつつも俺はの案内のもと、この店で武器を探すことにした。


「一階はサーベルや片手剣などの軽量な武器を扱っております。で、どうですこのサーベル?ミスリルとドロイゼン鋼の合金で、名匠たるソレッサル氏の製作です」

 

 オルビーは陳列棚に飾られている凝った装飾の鞘に収められていた細身のサーベルを引き抜き、大輔に手渡した。


「周りに気をつけて振ってみてください」


「こ、こうか?」


 大輔は恐る恐る手首を返すようにサーベルを振った。ヒュッと体育の授業で振ったバドミントンのラケットのような風切り音が彼の耳朶を震わす。


「どうです?いい音でしょ?他のサーベルとは使ってる素材が違いますよ!!」


「何かしっくりこないな……これでオーグルと戦える?」


「そんな無茶ですよ。オーグルはこの階の剣じゃ戦えませんよ。二階の両手剣じゃないと……」


「じゃあダメだな。二階に行こう」


「かしこまりました」


 オルビーは大輔たちを店内の奥の階段へと案内、二階『両手系武器の階』へと案内した。ちなみにその上は弓などの特殊武器の販売やとメンテナンスのスペースになっているらしい。


「うお……」


 この階でまず最初に大輔の目に入ったのはメイスをはじめとする厳つい重量級の武器で、同時に展示されている鎧も肉厚で重々しい印象だった。


「ここが両手剣のコーナーです……ってご案内したのは良いのですが」


「ん?」


「お客様の体格では両手剣の扱いは難しいかと……」


 オルビーがそう言うのもそのはず。客層も下の階に比べると体つきの良い『戦士』系が多い。まさに筋肉モリモリマッチョマンの巣窟だ。そうだよな……こんな見た目じゃ無理もないか。


「いいのいいの。こいつ着やせするたちだから、気にしないで」


「は、はぁ」


 リーアの言葉に少し困惑する様子を見せながらもオルビーは大輔の体格でも扱えるような両手剣を探す。そして一振りの150センチのこのコーナーで販売されている商品の中でも比較的小柄な抜き身の剣を彼に手渡した。


「こちらは鉄製の北ウィンザリオの典型的な両手剣です。いかがですか?」


 この剣……見た目より軽いな。でも待て……鉄だろ?鉄なのにこの軽さって――――軽すぎて力が入りきらないかも。


「もっと重いの」


「えぇ!!このサイズでは肉厚で重いほうですよ!!お客様の身長に合うのこれぐらいしか……」


「頼んどいて悪いけど……ちょっと自分で探させて」


「は、はぁ」


 オルビーとリーアを置いて俺はこのコーナーで販売されている剣を見て回ることにした。この世界にはスコットランドがないから名称は判らないけれどクレイモアに近い剣、そして鍔の先にも柄が続くドイツの両手剣、ツヴァイハンダーに近い形をした剣などが陳列されている。博物館とかで日本刀は結構見るけれど、ここまで多くの西洋の剣を見たことは少ないな……興奮を禁じえない!!


「む!?」


 一番奥に差し掛かった時だった。大輔の足は“それ”を見るとはたと止まった。


「これって……」


「いかがしましたか?あぁ、これですか?これは客寄せの為に作った大剣ですよ。人間が扱える大きさじゃないです」


 オービルがそう評したそれは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった……ドラゴンでもぶっころせそうな全長2メートルはあろう鉄板みたいな剣だった。


「決めた」


「お客様!?って、だめですよ!!ここで動かしちゃ!!やめて!!」


 大輔はおもむろにその剣の柄を手に取り立てかけてあった棚から外して持ち上げようと腰と腕に最大の力をこめて持ち上げようとした。


 あの剣を軽いと思ったのはその剣自体の重さじゃない……露出狂の力で俺の腕力が強くなってるからだ!!俺ならこいつを使いこなせるはずだ!!あの狂戦士みたいに


「うぉらぁああ」


 しかし、それはあまりにも重すぎた……!!


「お客様!!」


 持ち上げるや否やその剣の重さに大輔は押しつぶされ、オービルやリーアはおろか周りにいた筋骨隆々な客たち4人がかりで救出される羽目になった。……やっぱ、黒いあの人はすごいよ。


「もう……だから無理だって言ったんですよ」


「ごめん……ん?」


 オービルに一言詫びたら大輔の眼中に一振りの剣が目に入った。さっきの大剣に比べると細いけれど、全長は大輔の身の丈より少し長いくらい。それが気になった俺はそれに歩み寄る。


「これは?」


「これですか?これはウォラガ・ヴァールって銘の剣です。ウォラガ・ヴァールっていうのは古代ウィンザリオ語で『春の訪れ』って意味です」



 全長180センチ。柄は50センチほどで、刀剣に見受けられる誇り高い輝きの換わりに埃をかぶっていた。春の訪れと銘打つにしては少し暗く無骨な印象だ。


「でもこの剣って使い手を魔術的に選ぶって話らしいですよ……国一の剛力の剣士でも持ち上げられないかったんですよ」


「へぇ……」


 大輔は何となく埃かぶった刀身が気になり、それを払おうと手を伸ばした。


 ひんやりとしたつめたい刀身に彼の手が触れた刹那だった。埃を被った剣が薄らと白銀の輝きで己が刀身を満たし始めたのは……。


「なんだ!?」


「ミスリルの光……!!」


「ミスリル?」


 初めは脆弱だった光は次第に春先の太陽に輝きを放つ。リーアは目を丸くして刀身から発せられる輝きをまじまじと見入る。


「すごい……こんなミスリルの光、私も見たことがない!!剣が……剣がダイスケを選んだんだ」


 良くわからない。だけど俺もこの剣を欲してしまう。長さといい形といい、全てが俺に合いそうな気がした。そして俺はその剣の柄を握り、持ち上げようとする。


「あ、あが、あがった……!?」


 国一の剛力の剣士が持ち上げられなかった剣を大輔は片手で軽々と持っている。その光景にオルビーは言葉にならない驚きを露にしている。


「良い剣だ……重さもちょうど良いし」


「あ、あんた……何もんですか!?」


「俺か?」


 コクコクと頷くオルビーの問いに大輔はこう答えた。


「勇者らしいよ」



 その後、購入の手続きを終えた大輔は切れ味を試す為に店の裏庭で中古の鉄兜をオルビーたちの前で叩き割った。その断面は叩き切られたというより切断されたものに近かったとのこと。


 そして、大きすぎる刀身を収められる鞘もないので、オルビーが即席で大剣を背負える専用ホルダーを作ってくれた。このホルダーは切っ先受けと鞘の近にある留め具の二点で支えるという構造だが刀身はむき出しになる物も留め具を外せばすぐに抜けるという優れものだ。


「良い剣を本当にありがとう、オービルさん」


 日も暮れり、リーアの鎖帷子や新しいダガーも購入でき、二人は店を後にすることにした。大輔は王が鎧を用意するという話だから防具は買わずしまいだった。。


「いえいえ、御代もいただけるし……あの、もう一度訊きますがダイスケさん……本当に勇者なんですか?」


 彼女の問いに少し困った顔をするが大輔は頷き


「まぁ、そういう事らしい。自覚はないけど……」


「そうですか……あの、がんばってくださいね!!私たちの国を守ってください!!」


 満面の曇りのない笑顔だった。こんな笑顔を見たら嫌でもやる気が出てしまう。


「まぁ、がんばります。じゃ、これで」


 ペコリと一礼して大輔とリーアは店を後にし帰路についた。


 この世界に来てまだ一日も経っていない。勇者として魔女と戦う自覚もまだない。だけど、ここで生きてる人々の命を見捨てて逃げ出すことはしたくない。そんな風な感情が胸の中でくすぶり始めた気がした。


 

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