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◆クーリングオフ……出来ないですよね?

 なぁ、神様。俺に王国で一番強い騎士と切り結んで、あまつさえ勝つことの出来る力を与えてくれた事には感謝するよ。本当に自分でも訳が解らないけど。


 でも……


「どうして貧血なんだよ!?」


 王宮の医務室で目を覚ました大輔は安静の命を受けたまま、毛布に身をくるみながらぼやいた。


 身体をいじる事が出来る……なら、貧血を直すことなんて他愛もないはず。だけど、何で貧血気味なんだよ、俺!?こんなんおかしい。


「昨日といい、さっきといい……ダイスケ。どうしたの?」


 付き添いのリーアが心配そうに大輔に訊いた。そして、その横にはさっき戦ったジェザルトまでいた。


「笑わないでくれ……俺、勇者なのに貧血気味っぽい」


 ……妙な沈黙。そもそもこの世界に貧血って概念があるか疑わしい。だけど、ジェザルト……顔を真っ赤にして笑いを堪えないでくれ。


「……良い冗談だな」


「マジだよ。俺は至って貧血だ」


 刹那、二人は声を大にして笑い転げた。この時ほど、俺は人に殺意を抱いたことはない……。マジで締めるぞ、こいつら!!


「……ゴメン、ゴメン。貧血って、か弱い女の子がなるものってイメージでね……ふふ」


「貧血など、男子のものではないな……ましてや武芸達者なお前が……ぷぷ」


「てめぇら!!」


 マジでしばく。まじでコイツらぶっ殺してやる!!人の不幸を笑いやがって!!


「まぁ、落ち着け。とりあえず、巫女殿の所で診てもらうと良い」


「巫女ぉ?」


 ジェザルトの言う巫女って何だろう?あれかな?秋葉原に出没するヲタクが萌え萌えするあの巫女さんか?


「巫女っていうのは神のお言葉を訊いて、それを人々に届けるのが主な仕事だけど、医療魔術や祈祷もできるから王宮とかでは結構、重宝されてるの」


「治せんのか?俺の貧血」


「まぁ、大方の病気は治せるね」


「よし、なら巫女のところ行こう!!治してもらおう。で、どこにいる!?」


「この王宮にいるよ」


「なら、行くぞ!!」


 この忌々しい貧血ともおさらばできる……そう思えるだけでも万々歳だ。大輔は毛布を吹っ飛ばして、ベッドから羽ばたくように飛び降りた。



 王宮は本当にだだっ広い。バロック的な庭園が町一つ分位に広がっていた。広い。建築にいくらかかったんだろう?ファンタジー世界ではご法度な事を考えつつ、俺達は巫女がいる北園の神殿にたどりついた。


「すんげぇ……何でできてるんだ、この建物?」


「水晶よ。概念世界との通信がしやすくするためにね」


 神殿。俺の脳裏に思い浮かんだのは何と言っても古代ギリシアで大理石とかで作られた神殿だけど、ここの神殿は違った。水晶造りときた。その周りには清い小川や名も知らぬ美しい花が咲き乱れ、この世の楽園を思わせる外見をしている。


「ダイスケ」


「どうしたジェザルト?」


「お前が異邦人だから言っておく。巫女様はこの国の大臣や議員よりも上の地位にあらせられる方だ。無礼のないように気をつけろ」


 ジェザルトは引き締まった面持ちで大輔に忠告した。


 政治家より偉い巫女……まさかしわしわのお婆さんか!?大輔は可憐にお花を摘んでいる可愛らしい女の子を想像していたが、そのイメージは音を立ててぶち壊れた。


「じゃあ、入ろっか」


 リーアは右手を扉の前で掲げ小さく詠唱。リーアの魔術に反応したのだろうか扉はしゅっと開いた。自動ドアの魔術版かなにかなんだろう。


「失礼いたします。アルフェリア様」


 神殿の中に入るとジェザルトは奥にいる人物に恭しく膝を折ってお辞儀した。大輔は顔を確認するよりも前にジェザルトを見真似し、お辞儀をした。


「ジェザルト殿、それに……」


「おひさ~アリア~」


 政治家より偉い巫女さんにする挨拶にしてはラフすぎるのが俺の隣……リーアから発せられた。ジェザルト、顔青いぞ。


「リーアも……どういう風の吹き回しですか?」


 ん?怒ってない。どういうことだ?むしろ懐かしんでるような物の言い方だな。


「お知り合い?」


「うん。小さいころ一緒に魔術の修行をしてたの」


「はい。表をあげて下さい、ダイスケ殿にジェザルト殿」


 言われるがままに顔を上げると俺は言葉を失った。その少女の美しさに……


 純白の礼装とそれに映えさせられる稲穂のようなストレートのブロンドヘア。顔もどこかほんわかとした印象だが、西洋の人形のように整っていた。清楚で敬虔な感じで、白百合を思わす雰囲気をまとっていた。


「始めましてダイスケ殿、私はアルフェリアと申します。アリアとお呼びください」


「どうして俺の名前を?巫女的な能力で知ったの?」


「いえ、国会中継を聞いてましたので」


 あぁ……そっかー。一応国会中継あるんだよね。少しメルヘンに構えすぎてたな。


「で、今日のご用件は?まさか、彼を使ってお金を儲けようとしてるわけでは無いのですよね、リーア?」


 金儲け?何のことだ?って、冷や汗かいてるぞリーア!?


「え……何のこと?わ、私はこの世界のためにダイスケを」


「そう……なら良いです。前回のようにインチキ商法で捕まりかけても、もう助けることは出来ませんので」


「インチキ商法に金儲けって、リーアどういうこ……」


「じゃあ、本題に入ろう!!用件は一つ、彼の貧血を治して」


 リーアは話をブッチ切った。


「……わかりました。ダイスケ殿、こちらへ」


 アリアに席を勧められ大輔はそれに座る。そして、彼女は部屋の奥から金色のエキスが入ったビンを取り、中身を大輔の頭部に振りかけた。


「なにこれ?」


「外に咲いているマリーナの花から絞ったエキスです。血の巡りを良くする効能があるのですよ。では……」


 「コホン」と咳払いを一つ。そして彼の頭に白く小さな手のひらを載せた。


「Onale Uelme(あなたの病気が治りますように)」


 詠唱とともに彼女の手が温かくなるのが感じられる。毛布のような温もりのようで春の木漏れ日のような温もり……本当に気持ちいい。


「……あら?」


「ん?」


「おかしいです。ダイスケ殿の身体には貧血と思われる病魔がいません」


「どういうこと?」


「あなたの体には貧血の要素が無いのです。多分、もっと深層的な所――――あなたという概念にあるのやもしれません」


 よく意味が分からない。文系の俺には理解できないことなのか?


「概念って何だよ?」


「あなたの性質です。私なら『癒し』リーアなら『炎』で、あなたの場合は……『貧血』?」


「貧血って……これまた随分とニッチだな。変更はできるの?」


「それは無理です。神でないと」


 神……あの露出狂か。待てよ、あいつに頼んだら変えて貰えるかも。


「じゃあ、神に頼む。巫女なんでしょ?ラフィーラと話をさせてくれ」


 女神ラフィーラ。俺をこの世界に送り込んだ張本人であり、露出狂の女神だ。一応面識もあるし、頼みやすそうだ。


「良いですが……ラフィーラ様は少し気ままな女神様なのでお話できるか解りませんよ」


「それでもいい」


「わかりました。でしたら、まずは瞳を閉じて心を沈めて下さい」


 大輔は言われたとおりに目を閉じて深呼吸を二つ。試験前のように心を落ち着かせ、アリアの次の支持を待つ。


「Hel ricel Sealtio Lafira……Kema keid nola Ilmu(彼の者、女神ラフィーラと話す事欲す。開け、神の門よ)」


『ダイスケ殿、聞こえますか?』


 え……!?


 アリアの声が鼓膜でなく脳裏を震わした。


『今、あなたの心は概念世界に繋がっています』


『言いたいことを念じれば、言葉になりますからね。では、私は女神様をお呼びして参ります』


 心と心で会話するのか……念話って奴だな。でも、来るのかなあの露出狂。


『……何用か迷えるものよ』


 きたああああああ!!露出狂、きたああああ!!でも、何でこんな風に少し怒り気味なんだ?


『私は今、とても忙しいのだ。用が無いのなら帰るぞよ』


―――――高圧的だな露出狂。


『へ……?その声……まさかダイスケさん?』


―――――そうだよ。で、質問がある。


『は、はひ!!』


 声が焦りで裏返ってるっぽい。何か思い当たる節がありそうだ。


―――――体はお前の采配でどうにかなるんだろ?どうして俺が貧血のままなんだ?


『うぅ……実は召還する際に、見落とした点が……』


 見落とした点……まさかこいつのミスか!!


『貧血の原因が身体的な物でなく、あなたの中にある他の何かに起因するものだった事んです。テヘっ」


 神は全知全能。その常識は俺の中で揺らいでいたが、この瞬間に完全に砕け散った。


―――――なら、早く治せ。治さなきゃ、魔女とも戦えねぇだろ


『うーん。これに関しては無理です。自分で治さないとね。ゴメネ!!』


 プツン。電話が切れるかのように、ラフィーラとの念話は途切れた。多分、逃げたのだろう。


「ダイスケ殿……」


「何だよ」


「ご愁傷様です」


 励ましてもらっているのか皮肉られているのか良く解らない気分だ。


「それよりダイスケ、王様がそろそろお見えになるとの事だ。失礼の無いようにしておけ」


 落胆する大輔の肩にジェザルトはポンと手を置いた。きっと励ましてくれてるんだろうな……。


「……クーリングオフ出来ますか?」

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