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◆そうだ、王宮へ行こう

 大輔はリーアに進められて、下の階で彼女が作った朝食をとる事にした。メニューは木の器に入った野菜のミルクシチューとパンと割かし質素な物だった。


 だけど、異様にうまそうだ。リーアが魔術でも使っているのか?いいや違う。俺が死ぬほど腹が減ってるからだ。


「いただきまーす!!」


 うまい。うまい。うまい。料理自体の味も見事だが、空腹も相成って彼女のシチューの味は最高のものへと昇華したのだ。


「なぁリーア」


「なに?」


「何で見ず知らずの俺にこんなに良くしてくれるんだ?」


 大輔は向かいに座るリーアに問うた。


 赤の他人でもある俺をここまで運び、あまつさえ朝食まで作ってくれる……こんな善人は日本にはいない。そういうお国柄なのかな?


「当然よ。あなたを保護すれば莫大な褒賞き……じゃなかった。世界の平和の為に必要なんだから」


 最初の言葉に引っかかったが、そういう事なんだろうな。


「で、もう一つ。魔女って何者だ?」


 大輔がそう言うとリーアは少し顔を曇らせた。


「魔女ね……話すと長いけど……」


 リーアはハーブティーで口の中を潤して話を始める。


「魔術師と魔女の違いはわかる?」


「いや」


「魔術を行使して国家に敵対および害悪をなす存在のことを魔女や黒魔術師と呼ぶの。で、私みたいに魔術を使えるだけの人間を一般的に魔術師と呼ぶ。で、冬の魔女は害悪をなす存在の中で最上位に位置する人物」


「へぇ……具体的にどんな悪事をするんだ?」


「最初のころは魔力の供給源として若い娘を要求して、それに従わない場合は魔術で穀物をだめにしたりね……そのころはギリギリ看過できた。だけど最近はおもに昨日のオーグルを使役して略奪を行ったり中小の王国を滅ぼしたり、その継承権を奪って権力を増大させたり、やりたい放題……」


 国家レベルの悪さだな……普通、食べ物を腐らせたり、いって子供を食べたりだけど王権の簒奪までするのかよ。それはそれで凄いな。


「魔女は悪さをしてどれくらいになるんだ?」


「400年前に、この国の国父である騎士のウィンザリオ伯ユークト卿が魔女討伐に行って封印に成功したけれど、ここ50年前に魔女が復活した。で、今に至る」


「国父?」


「うん。この国の叙事詩なんだけど、ウィンザリオがヘランスベニア王国って国だったころの話でね、王国の娘のマリーナ姫を魔女が生贄に要求して、王はやむを得ずに娘を魔女を差し出すことにして、その道中を若き黒髪の騎士ユークトにその護衛をまかせたの」


「それで?」


「野党や様々な怪物と戦いに勝ちながらユークトとマリーナ姫は魔女の神殿をめざした。で、神殿の前で、姫を送る任を終えたユークトはふと思った『このまま、せっかく守った姫をみすみす悪い魔女に渡していいのか?』『このまま姫を渡しても何も変わらない』って。で、彼は魔女と対決することにしたの。魔女の魔法にも屈さずに剣を振るって勝利を収めたユークトは魔女の杖を折り、魔女を山奥の洞窟に閉じ込める事にしたの」


「へぇ……優しいんだな」


 普通ならそんな猟奇的な犯罪者は死刑になるのに、ユークトって人は本当に優しいんだな。もしくは人殺しのできない人なのか。


「まぁ、騎士だからね。丸腰の女性を切れるわけが無いよ」


「そうなのか?」


「そういうものなの。その後にマリーナ姫とユークトは結婚して、今のウィンザリオができたって訳」


 随分とメルヘンだなとツッコみたいが、多分事実なんだろう。リーアの魔術や昨日の化け物を見てしまったら信じないほうが難しいくらいだ。


「で、その200年後に魔女の復活を預言した魔術師がこう言った予言を残した。『悪しき者の復活せし後、春先の月が満ちた夜……女神が使わした緋色の衣と黒い髪をもった勇者が暁の森に現る』ってね。で、その勇者がダイスケ……あなたよ」


 そう言ってリーアは大輔の手を握り


「だからお願い、私のほうしょ……じゃなかった。私たちの世界を救う為に協力して!!」


 こんなに女の子に切に頼まれたのは小学校のころに『掃除、変わって~』と言われて以来だ。でも、さっきから、こいつ訳の解らない事を言うな……ほうしょ?何よ?


「お、おう……事情はわかったよ」


「ホント!?なら、王宮へ行こう!!」


 俺の言葉を訊いてリーアはやたらと喜んだ。……何かありそうだけど、取り敢えず一食一晩の恩があるから邪険にはできないか。


「わかったよ。行ってみるよ」



 朝食を済ませた俺たちはリーアの店を後にした。外にでるとこれは凄い景観だった。まさに近世ヨーロッパの都市。城壁に囲まれ、道路は石畳が敷かれていて、行きかう人々の装束も教科書とかで見るものそのものだった。

 文明レベルはどれくらいなんだろう?ここは俺たちの世界と違って科学より魔術が発達している。ちょっと疑問に思った俺はリーアに問う。


「なぁ、リーア。銃って知ってるか?」


「銃?まぁ知ってるけど、あまり普及はしてないよ」


 銃はあまり普及していない……文明レベルはざっと15から16世紀かな?


 実は俺の得意科目は世界史だ。他の科目は点で駄目だが、世界史に関しては『まんが世界史』シリーズを小学校のころに読破し、世界史は結構好きだったりする。ちなみに一番好きなのは『古代ギリシャ』な。


「あ、あれがユークト・ウィンザリオカルロ。」


 リーアの店から続いていた商店街を抜けた先にある広場からそれは見えた。


「わお」


 坂の上にどーんとそびえる城。その外観は絵に描いたような城だった。うーん。だけど見事だな。城なんて京都の修学旅行で見学した二条城と大阪城だけだ。というかこれが初の海外デビュ……いや、異世界デビューだ。


「ほら、行くよ」


「おう」


 俺たちは坂を上り始めた。坂にも商店街はあり、これはどうやら王城勤務の兵士が多用するらしく居酒屋やら武器屋などがずらりと並んでいる。なんかそそるな……剣って!!


「どうしたの?」


 気がついたら俺は物珍しく売られている剣やら何やらに目が行っていた。


「いや……武器見たの初めてだからついつい」


「もう……行くわよ」


 まぁ、女の子は興味無いか。この前、好きな漫画が『戦闘機で戦う少年兵の活躍を描いた作品』って女の子に言ったら『戦闘機って人殺しの道具でしょ……』って言って引かれたな。


 そんなこんなで100メートルほどの坂を上りきると、目前に跳ね橋と城門が現れた。そこでリーアはつかつかと歩み寄り衛兵に


「王に謁見をしたいんだけど」


 と臆すことなく端的に物申した。一瞬、何が何やら解らずに衛兵は言葉を失ったが、彼女の言ったことを脳が理解するのと同時に彼らは声を上げて笑い出した。


「王様だぁ?ヌヘヘ、寝言言ってんじゃねぇよ!!」


「お嬢ちゃん、今なら黙っておいてやるから早く帰りなって」


 そらそうなるわ……王様と言えば一国のトップ。それにどこの馬の骨とも知れぬ女子がアポなしで謁見なんて出来る訳無いよな。


「帰ろうよ、アポなしで訪問は無理だろ?」


「そうね……」


 リーアは溜息を一つつくと杖の先を衛兵たちの眼前に掲げ


「一兵卒に言っても無駄か……Eboulious helelmil(彼の者達、呆けよ)」


 リーアが詠唱を一つすると杖の先が青白く光った。


「これでよし。行こう」


そして光が消え、彼女は何事も無かったの用に門へ向けて歩き出したが、衛兵達はそんな彼女を見ても何もせずにただ呆けるだけ。


「おい、何をしたんだよ?」


「ん?暗示でぼうっとさせただけよ」


 ……これって日本でやったら国家テロレベルだぞ。だけど、取り敢えずついて行こう……怖いけど。


 王宮に入った俺達は場内の役人達に魔術をかけながら王がいるであろう玉座の間を目指す。でも、王宮に入るのにTシャツにジーンズはちょっとな……


 王宮の廊下に飾られている調度品は素人目にも中々の物であり、壊したら一生かけても弁償できないのが第一印象。そんな物を目にしたら俺の中で疑問がふと


「なぁ、王様ってどんな人だ?」


 豪華絢爛な城に住む王というのは大抵ろくなのがいないと歴史が証明している。絶対王政時代のフランスのル●なんとか世シリーズがその代表例で、贅沢な暮らしをする為に国民から税を搾り取ったりする傾向がある。


「ん?普通にいい人だよ。ガレリック王は温厚な人柄で、税率もさほど高くないよ」


「え……嘘だろ?」


「嘘じゃないよ。ここの王権ってユークト王の時代から東方のアイエニアって国の民主主義って制度を導入したんだよ。変な王にならないように、優秀な人を国民選挙で選んで、国民投票で選ばれた議員で構成された、王立議会で政治を行うのよ」


 ふうん……五賢帝ローマとかイギリスみたいなもんだな。


「ここが玉座の間。ここで王は議員達と会議をしたりするの。で、決定事項は音声録音の魔術機器で国民達に知れ渡るの」


 目の前にある重荘で美麗な彫刻の施された扉の前で二人は立ち止まる。そして、リーアは扉に手のひらから魔力を放出させて開放させた。


「ダイスケ、堂々と歩いて。この間に入ったら私の言うとおりにして」


「あ、あ」


 言われるがまま堂々と歩いた。案の定、議員達の怪訝そうな声が聞こえる……やっぱり不審者だよ。俺ら、そして……


「曲者だ!!衛兵!!」


 やっぱそうなるよな。こんな子供が二人入ってきたら普通のリアクションだよ。


「控えろ!!こちらにおわす方をどなたと心得る。こちらは女神ラフィーラが使わした勇者、コトミューラ・ダイスケであるぞ!!」


 リーアが堂々と議員達に一喝する。同年代の女の子とは思えないほどの迫力だ。でも、俺はコトミュラーじゃないよ……コトムラな。盛大にかまないでくれよ。


「何を……!!」


「まぁ、良い。そこの二人、来た旨を申してみよ」


 部屋の奥の玉座に座る王らしき人物はなだめる様な口調で議員達をいなした。その人の外見年齢は30代ぐらいで、左におじいさんと右に若い鎧を着た銀髪のイケメンを侍らせていた。「ダイスケ、右ひざを立てるように膝まついて」


「お、おう」


 リーアに言われるがままにぎこちない動作で膝まづいた。そして30秒後……


「面を上げよ」


 王に言われるがままに二人は膝をついたまま顔を上げた。


「娘よ、そちが申したことは誠か?」


「はい。王様。昨晩、暁の森に現れた勇者でございます」


「そうか……そこの者、立って姿を見せよ」


「え、あ……はい」


 俺は取り合えず立ち上がって自分の姿を見せた。案の定、周りから射るような視線が突き刺さって辛いよ……


「緋色の衣、黒い髪か……伝承通りの姿よな」


「はい殿下……」


 老人は頷くが、若いイケメンは黙り込んでいる。


「この者、勇者やも知れぬな」


「本当ですか……!?」


 リーアは目を輝かせて王に問う。何で目を輝かせてるんだよ……?


「あぁ、連れて来たそちには褒美をとらそう。そうだな……金貨50でどうだ?」


「やった……」


 小さくリーアが叫ぶ。だが、王はその口を閉じずにいた。そして付け加える。


「この者が本物の勇者ならばな」


「へ……?」


 刹那、リーアの顔に動揺が走った。王は続ける。


「余から金をくすめる為に、そこらへんの東方人に緋色の衣を着させて勇者と称させてなければ良いのだがな」


「滅相もございません、彼は本当に……」


「勇者は、山を抜き、如何なる武をも修める最強の戦士と訊く……そこ勇者とやら」


「は、はい」


 王様はイケメン騎士を指差しながら大輔に言う。


「このジェザルトと試合しおうてみよ。勝てれば、勇者として認めようぞ。良いな?」


「御意」


「は、はぁ……」


 絵に書いたような展開だ。試合するだけなら何とかなりそうだな。


「しかし、負ければそなたらを詐欺と不敬の罪で死刑とする」


 なるほど。負ければペナルティがつくのか。死刑ね。妥当なペナルテ……ってえぇぇぇ!?

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