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私と毎日、お弁当を食べてくれませんか

翌日の昼休み。屋上の扉を開けると、白瀬玲奈が立っていた。


手に、布で包んだ何かを抱えて。顔は、もう、ゆで上がっている。


そして——なぜか、その後ろに人だかりがあった。


愛梨たちギャル三人組。それに、噂を聞きつけた野次馬の生徒。さらに、俺の親友・田所翔まで、ぽかんと口を開けて立っている。


「な、なんで、こんな大勢」


俺が呟くと、翔が小声で言った。


「会長が全校放送で言ったんだよ。『昼休み、屋上に。結城悠真くんに、大切な話があります』って。学校中パニックだぞ」


放送で。あの、コミュ障の白瀬玲奈が。


愛梨たちが、こそこそ囁いている。


「は? 会長と悠真? ありえなくない?」「なんかの間違いでしょ」「会長が陰キャに用とか」


その声が聞こえたのか、白瀬玲奈が、こちらを——いや、愛梨たちを、ちらりと見た。


そして、大きく息を吸った。


震える手で、布包みを解く。中から出てきたのは、丁寧に作られた、二人分の弁当だった。


「ゆ、結城くんっ」


声が裏返っている。膝も笑っている。それでも彼女は、まっすぐ前を見て、弁当を両手で差し出した。


「わ、私と、毎日っ……お弁当を、食べてくれませんかっ……!」


時間が、止まった。


屋上が、静まり返る。


「ずっと、好きでしたっ。図書室で、ずっと、結城くんのこと、見てましたっ。怖がりで、人と喋れない私を、それでも隣にいてくれそうなのは、結城くんだけだから……!」


涙目で。真っ赤で。それでも、最後まで言い切った。


校内一の美少女が。全校生徒が(あこが)れる、氷の女王が。俺なんかに、頭を下げて、告白した。


「……っ」


背後で、誰かが尻もちをついた。


愛梨だった。口をぱくぱくさせ、顔を真っ青にして、地面に座り込んでいる。


「う、うそ……あいつ、会長に……?」「やば、昨日のストーリー……」「け、消さなきゃ、消さなきゃっ」


三人が、慌ててスマホを取り出す。昨日、俺の顔を晒したアカウントを、必死で削除しようとしている。けれど、もう遅い。


「あいり、あんた言ってたじゃん。陰キャって」「は!? あんたもキモいって言ったし!」「ちょっ、なすりつけないでよ!」


仲間割れまで始めた三人を見て、野次馬がざわついた。


「あれ、昨日結城くんフッた連中じゃね?」「うわ最低」「会長に告られる男を切るとか、見る目なさすぎ」


白瀬玲奈が、すっと、愛梨たちの方を向いた。


昨日、屋上で見た、あの本物の凄み。氷の女王の目。


「結城くんは、私が世界で一番、価値を知っている人です」


(りん)とした、よく通る声。コミュ障のかけらもない、生徒会長としての声だった。


「それを安売りしたのは、あなたたちの目が、節穴(・・)だっただけ」


愛梨が、言葉を失った。顔だけが、白くなったり赤くなったりしている。


「価値が下がる、でしたっけ」


俺が静かに言うと、愛梨がびくっと顔を上げた。


俺はもう、震えていなかった。隣に、こんなにすごい人が立っているから。


「すみません。俺、もう、あなたたちの物差しでは測れないみたいです」


野次馬の中で、誰かが「うおおお」と歓声を上げた。翔が拳を突き上げて笑っている。


俺は、白瀬玲奈の差し出した弁当を、両手で受け取った。


「……喜んで。毎日、食べさせてください」


彼女の顔が、ぱあっと、夕日より明るく輝いた。


「ほっ、本当ですかっ? わ、私、料理、いっぱい練習しますっ。あ、でも、卵焼き、ちょっと焦げてて……ご、ごめんなさい——」


「焦げてても、君が作ったなら世界一うまいに決まってる」


——あ。


言ってから、自分の言葉に固まった。なんだそのキザな台詞は。誰だお前は。


でも、もう遅い。


白瀬玲奈は、ぴしっと固まって、湯気が出そうなほど赤くなって、


「……っ、もう、結城くんのバカ……っ」


両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込んだ。


可愛い。脳が、溶ける。


風の中で、弁当の温かさが、手のひらに染みた。


俺の本当の価値は、たぶん、彼女が知っている。それだけで、もう十分だった。


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