第1話 役職定年
社会なんて、そもそも信頼できるものじゃない。
あと数ヶ月で、夫は役職定年になる。役職定年になると、想定される給与の減少は、15〜30%程度。そして定年して嘱託になると、さらに給与は30〜50%程度下がる。
最悪を想定しておく必要がある。まず、役職定年で30%、それから定年で50%下げられる。そうなると、定年後の給与は、これまでの35%程度になる。厳しい。
その代わり、所得税や住民税などの税金も減る。厚生年金や雇用保険も軽減される。実質の手取りでいえば、35%とまではいかない。45%程度に収まるだろう。それでも厳しい。
娘も独立したのだ。この自宅は広すぎる。それに車の維持コストが高すぎる。小さなアパートに引っ越して、車を売り払ってしまえば、厳しいけれど、なんとかなる。
お義母さんの特別養護老人ホーム(特養)の費用負担は、重い。ただ、特養の平均入居期間は3〜4年と聞く。入居してから2年が過ぎている。いつまでもかかる費用じゃない。
そもそも夫は、30年以上もの間、会社をクビにならなかっただけ、偉いと思う。よく我慢して、真面目に勤務してくれたものだ。私のために、我慢してくれた。
貯金だって、自慢できるほどじゃないけれど、ある。大きな病気でもしない限り、大丈夫。病気をしても、一応、保険にも入っている。なんとかなる。
社会なんて、そもそも信頼できるものじゃない。
私は、夫のことだけを信頼している。そうやって、ここまで来れた。これからも、頑張っていける。
豪華客船は、無理かもしれないけど。