第5話 実家にて
父が死んでから、母はむしろ元気になった。父の介護が終わってから、ご近所づきあいだけでなく、趣味のサークルに参加するようになった。
そんな母は、風呂場で転んで骨折し、車椅子生活になった。実家のバリアフリー化が、介護保険で無料になったことは、ありがたかった。
普段は、ヘルパーさんが来てくれる。本当に助かる。ただ、ヘルパーさんも、使い放題じゃない。サービスには、隙間もある。
そうした隙間を、私が埋めてきた。こうして実家に戻ってきて、母と同居して介護できるようになって、負担は返って増えたように思う。
けれど、一人でいるよりは、ずっといい。介護は嫌だけど、母とこうしてゆっくり話ができる時間は、これまでなかった。母のこと、知らないことがたくさんあった。
まだ、離婚届は私の手元にある。役所に、出していない。それなのに、夫から、貯金のほとんどが送られてきた。半分でいいはずなのに。
スマホに連絡しても、つながらない。嫌な予感がする。
お義母さんの老人ホームの入居費。その支払いが滞っていた。とりあえず、こちらで支払っておく。
このまま、もう夫には会えないのかと思って、少し泣いてしまった。まだ、私は、夫のことを大切に思っている。せめて、それを伝える方法があればと、願った。
どうか、生きていてほしい。