第2話 廃車
まだ、何も伝えていないのに。
夫が自主的に「愛車」を廃車にすると言い出した。ちゃんと、考えてくれているんだと思った。夫が大切に乗ってきた愛車だから、本当はどうにかしてあげたい。
でも、車じゃなくても。一緒に歩いて買い物に行けばいい。その方が、健康にもいい。そういえば、一緒にゆっくり歩いたりすること、ずっとなかったな。楽しみかも。
廃車は、夫にとって、きっと苦しい体験になる。一緒に、行かない方がいい。一人にさせてあげないと、強がるから。ちゃんと、泣いた方がいいこともある。
その代わり、帰ってきたら、夫の好物、明太子入り卵焼きを食べさせてあげよう。それから、愛車の写真を、写真立てに入れてプレゼントしてあげよう。素敵な思い出だから。
確かに、収入が下がるのは厳しい。けれど、収入が下がったら、その分だけ生活レベルも下がるわけではない。楽しみ方の問題だと思う。
一緒に、歩きながら、歳を取っていくこと。豪華客船じゃなくていい。散歩して、レジャーシートを引いて、そこでお弁当を食べて行けばいい。
豪華客船なんて、別に必要ない。これまでだって、ずっと、必要なかったじゃない。