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スーパーファミコン

監修:蒼風 雨静  作:碧 銀魚


 おもちゃ屋から僕を買い取ったご主人は、とても上機嫌だった。

 どうやら、この日をかなり心待ちにしていたらしい。

 だが、帰り道の独り言を聞いていると、どうやら心待ちにしていたのは、僕自体ではなく、僕と一緒に買ったソフトのほうらしい。

 このソフトを遊ぶには僕が必要で、これを買うに当たって、僕を同時購入したということだそうだ。

 スーパーファミコンと名付けられた僕は、その性質上、単体ではただの置物にしかならない。

 だから、これは自然なことなんだけど、なんか僕自体は望まれてないようで、なんだか複雑な気持ちだ……

 なんて考えていたら、ご主人の家についた。

「もうすぐ子供も生まれてくるのに、何でこんな無駄遣いするの!」

 家に着くなり、ご主人は奥さんに怒られた。

 なんか、ますます僕は歓迎されていないような気がした。


 さて、奥さんに怒られたご主人だが、めげることなく、僕をテレビに繋いで、早速遊ぶ準備を始めた。

 買ったソフトは、今日発売だという『す~ぱ~ぷよぷよ通』。

 ご主人が昔から友達の家で遊んでいたシリーズの最新版で、産まれてくる子供と一緒に遊ぶ為に、満を持して僕ごと買ったのだそうだ。

 そして、奥さんに怒られたというわけだ。

 とはいえ、奥さんもご主人のぷよぷよ好きは知っているようで、いざ準備が整って電源を入れる段になると、隣にやってきた。

 なんだかんだ、仲はいいらしい。

「じゃあ、始めるよ。」

 ご主人がそう言って、僕の電源ボタンをスライドさせた。

 僕に挿されたソフトの中身が、テレビに映される。

 同時に、ご主人が僕から線で伸びるコントローラを握った。

 初めに会社のロゴが表示されてから、ドット絵のアニメーションが始まる。

 そして、タイトルの『す~ぱ~ぷよぷよ通』がキャラクターの声で読み上げられた。

 そこになると、二人とも嬉しそうに画面を見ていた。

 最初は不安だったけど、どうやら僕はこの二人に歓迎されたらしい。


 ゲームを始めてからしばらくは、ご主人が一人用モードでプレイしていた。

 この『す~ぱ~ぷよぷよ通』は、対戦型のパズルゲームである。

 いろんな色のぷよぷよというモンスターを四つくっつけて消すゲームで、消す量に応じて対戦相手に攻撃をすることができ、フィールドが埋まってしまったら負けというルールだ。

 一見、単純なようだけど、かなり多彩な戦略があるようで、強い人になると、物凄い数のぷよぷよを敢えて積み上げて、連鎖させて消すらしい。

 しばらく遊んだあと、今度はご主人と奥さんが二人用モードで遊び始めた。

 ご主人も学生時代からやっているだけあって、結構上手な方らしく、7連鎖くらいなら、常に消せるらしい。対して、奥さんのほうは、ご主人と出会ってから、付き合いでやるようになったそうで、そんなに上手というわけではないそうだ。

 当然、対戦すると殆どご主人が勝っていた。

 少しは手加減をすればいいのに、奥さんが不機嫌になっても、勝つのをやめない。

「もう、面白くない!」

 ついに奥さんが怒ってしまった。

 せっかく、機嫌が直っていたのに。


 結局その日は、ご主人が奥さんを宥めて、僕の電源は落とされた。



 スーパーファミコンは、ソフトを挿し変えることで、様々なゲームが遊べる。

 『ぷよぷよ』のようなパズルゲームだけでなく、格闘ゲームやRPG、なんかよくわからないゲームに至るまで、沢山のソフトがある。

 だが、奥さんに怒られたこともあり、しばらくは『す~ぱ~ぷよぷよ通』以外のソフトは買えないことになった。

 なので、僕はぷよぷよ専用機として、長い時間を過ごすこととなった。

 僕を遊ぶのは、やはりご主人が多く、たまにご主人の友達や奥さんの友達が来たら、一緒に遊んだりしていた。

 どうやら、ご主人の知り合いには『ぷよぷよ』をする人が多いらしい。

 そうして僕は、ご主人達のコミュニケーションの一助となっていった。

 それは嬉しくも、誇らしいことであった。



 僕がこの家に来てからしばらくして、ご主人に息子が産まれた。

 小さな赤ん坊の息子は、とにかく手がかかるようで、ご主人や奥さんが僕で遊ぶ機会はぐっと減ってしまった。

 それでも僕は、子育てに奮闘するご主人と奥さんを、置物として見ているのも楽しかった。


 人間の赤ん坊というのは成長が早く、しかも成長するにつれて、少しずつ手がかからなくなっていくものらしい。

 あっという間に自分で座れるようになり、次いで動き回れるようになっていった。

 その頃になると、ご主人は息子を膝の上に座らせて、僕でぷよぷよを遊ぶことが多くなった。

 息子のほうも、ご主人がぷよぷよをしている間は、大人しく座って画面を見ており、流石は親子だなと感じさせる光景だった。

 そんな二人の姿は、息子が立って歩けるようになってしばらくまで続いた。



 息子が自分でご飯を食べられるようになった頃、ようやく新しいゲームを買うことを、奥さんが許可してくれた。

 やっと新しいソフトが僕に挿される日がくるのかと思った。

 だが、やってきたのはソフトではなく、新しいゲーム機だった。

 その名も、プレイステーション2。

 ご主人によると、息子が産まれて育てている間に、いくつか新しいゲーム機が発売されており、最新のものがこのプレイステーション2なのだそうだ。

 スーパーファミコンのソフトは既に新作が作られておらず、新しいゲームの多くはこのプレイステーション2で販売されることとなっているそうだ。

 そうして僕は、テレビから外され、同時に家族やご主人の友人達のコミュニティツールとしての役割を終えた。

 そして僕の後釜には、あのプレイステーション2が居座った。

 黒光りするボディ、映し出される美麗な映像……

 どれをとっても、圧倒的に僕よりスペックが上だった。

 悔しいけど、これはゲーム機という存在の宿命なのかもしれない。

 そう思った。



 こうして、役目を終えたかに見えた僕だったが、意外な形で再び日の目を見ることになった。

 それは、成長した息子が友達を家に連れてきた時である。

 息子は小学生になり、友達を家に連れてくることが度々あったのだが、その中に一人、ちょっと風変わりな男の子がいた。

 息子曰く、とにかく物持がいい男の子らしく、小学校に入学してから使っていたけしごむを、最後まで使い切ったという強者だそうだ。

 勿論、けしごむだけなく、他の物も大切に使うので、いつまで経っても壊れたり捨てたりしないのだとか。

 その男の子がある時、僕のことを目に留めた。

「あれ、まだ使えるの?」

 男の子が尋ねると、息子が頷いた。

「うん。今はプレステ2があるから、あんまり使ってないけど。ソフトもぷよぷよしかないし。」

「ふーん。ちょっと遊んでみない?」

 友達の男の子がその一言で、僕は久々にテレビに繋がれた。

 テレビから流れてくる、懐かしいBGMとキャラクターの声。

「この平べったいコントローラー、ちょっと持ちにくいな。」

 どうも、プレイステーションで慣れている世代には、僕のコントローラーは違和感があるらしい。

 だが、そこは順応性が高い子供達。

 すぐに慣れて、二人は楽しく遊び始めた。


 その後、その友達の男の子が来るたび、僕は時々遊んでもらえるようになった。



 時が流れるのは早いもので、僕の隣がプレイステーション2からWiiに変わり、しばらくして息子が小学校を卒業した。

 その頃、Wiiで『ぷよぷよ7』が発売された為、久々にご主人がぷよぷよをするようになった。奥さんはもうやらなかったが、中学生の息子が、たまにご主人と対戦をしていた。

 その画面を見ると、ぷよぷよは基本ルールこそ変わらないものの、随分抜けたグラフィックに変わっていた。

 どうやら、作っている会社も変わったそうだ。

 ただ、以前の会社が作っていたぷよぷよがいいという人が一定数いるそうで、この頃になると、ご主人の友達が僕を目当てに遊びに来るようになった。

 人間というのは、ライフステージに応じて、友達が来るようになったり、来なくなったり、また来るようになったりと、面白いものだなぁと思った。

 ちなみに、この頃から僕は“レトロゲーム”と呼ばれるようになった。



 息子が高校、大学に通う間、主にWiiがテレビを占拠していたが、僕も時々は出番が回ってきた。

 これが“レトロゲーム”という呼称の強みらしい。

 そして、息子が大学を卒業する頃、僕の隣がNintendo Switchに代わった。

 これはWiiよりさらに面白いゲームが多かったらしく、ご主人や息子、その知り合いが遊ぶ頻度がまた高くなった。

 また、Nintendo Switchがこの家に来てからしばらくして、“ステイ・ホーム”なるものが義務付けられたらしく、家族全員がずっと家にいることが多くなった。

 息子も仕事を始めていたが、それも殆ど家でやるようになっていた。

 その間、しばらくゲームから遠ざかっていた奥さんも含めて、ゲームをするようになっていた。

 このNintendo Switchは、僕とは違い、世界中のSwitchと、インターネットなるもので繋がっているそうで、同じゲームをいつでも誰とでも遊べるらしい。Wiiの頃から、この機能はあったが、Nintendo Switchになってから、遊べる幅が格段に上がったらしい。

 “ステイ・ホーム”で、外に出られないご主人達にとって、これは数少ない娯楽になったようで、大いにNintendo Switchは活躍した。

 僕はちょっと、寂しかった。



 数年経って、“ステイ・ホーム”は解除され、徐々にみんなまた外に出るようになった。

 それからしばらくして、僕の隣はNintendo Switch2に交代となった。

 ご主人が何度も抽選に落ちて、やっとの思いで買ったそうだ。

 Nintendo Switch2も、家族全員で大いに遊ばれるかと思ったが、そのタイミングで、息子が結婚することになり、みんなゲームどころではなくなった。

 息子はこの家を出て、新しい奥さんと一緒に暮らすそうで、引っ越しの準備やら何やらで、ずっとドタバタしていた。

 そうして、息子はこの家からいなくなった。

 残されたご主人は、時々Nintendo Switch2を点けてはいたが、息子がいた頃ほど遊ぶことはなかった。



 更に数年経つと、ご主人の孫が産まれた。

 息子がたまにこの家にも孫を連れてくるのだが、かつて息子が小さかった頃のように、ご主人は孫を膝に乗せ、ゲームをしていた。

 その光景は、僕にとってはとても懐かしかった。

 もう、それ以外では僕は勿論、Nintendo Switch2も遊ばれることは殆どなくなったが、僕は置物としてでも、この家で家族の様子を見ていられるのが、幸せだった。

 でも、それは決して、永遠ではなかった。



 孫が小学生になってからしばらく経った頃、ご主人が家に帰ってこなくなった。

 どうやら、病院とやらに行ったままになっているらしい。

 僕は心配だったが、残念ながら動く機能を僕は持っていない。

 この家で、じっと待つしかなかった。


 ご主人はかなり経ってから、家に帰ってきた。

 その姿は大きく変わっていた。

 体は痩せ、足元も覚束ない。

 それを、息子が支えながら、部屋に入ってくる状態だった。

 それから、息子が定期的に家にやってきて、奥さんと共にご主人の世話をするようになった。


「父さん、久々にあれやる?」

 ご主人が帰ってきてから数日経ったある日、息子が僕を指さして言った。

「ああ、いいな。」

 ご主人が短く言った。

 息子は僕をテレビに繋ぐと、電源をスライドさせた。

「よかった。まだ動くよ。」

 息子はそう言って、ご主人にコントローラーを渡した。

 ご主人の手は弱弱しかったが、コントローラーを持つと、往年のぷよ捌きが炸裂した。

 息子は見事に負かされてしまった。

「これだけは、父さんに勝てずじまいだなぁ。」

「当たり前だ。生涯、おまえには負けんよ。」

 ご主人は誇らしげに言うと、ふと僕のほうへ視線を向けてきた。

「それにしても……結局おまえは、ぷよぷよにしか使わなかったな。それだけは悪かったと思ってるよ。」

「はは、そうだね。」

 息子は苦笑いしながら、僕の電源を落とした。



 それから数日後。

 ご主人は天国へと旅立った。



 それから、僕は永い間、この家で眠り続けた。

 奥さんは息子達と同居することになり、この家は僕を含めた家財道具と共に、眠ることとなったのだ。

 家を取り壊したり、売ったりも出来たはずだが、なんか事情があって、息子はそれをしなかったらしい。

 定期的に掃除をしに来ていたところを見ると、単に自分が生まれ育った場所を、守りたかっただけかもしれないが。

 そうして、永い時間が流れ、僕の中でご主人の記憶も薄れかけた頃だった。



「おっ、あったあった。」

 眠りかけていた僕を、突然誰かが叩き起こした。

 見れば、すっかり年老いた息子だった。

 その顔は、亡くなる前のご主人によく似ている。

「これがいいものなの?」

 その後ろには、小学生くらいの男の子がいる。

 息子の孫だろうか。

「ああ。今では手に入らない、面白いゲームだ。」

 息子はそう言って、僕をテレビに繋いだ。

「でも、それ動くの?」

 孫が尋ねると、息子はニヤリと笑った。

「大丈夫。じいじと同い年だけど、こいつは妙に頑丈だからな。」

 息子はそう言って、電源をスライドさせた。

 懐かしいBGMとドット絵のグラフィックが、画面から流れ始めた。

「ほら、大丈夫だ。」

 息子はどこか誇らしげに言った。

 それはそうだよ。

 僕はご主人がいなくなってからも、いつでも遊んでもらえるよう、準備を万端にして眠っていたんだから。

「すごい、僕みたいな子供の絵もある。」

 孫が画面を見ながら驚いている。

「そうだろう。最近のゲームは規制が厳し過ぎて、子供も男の表現すら、出来なくなったからな。でも、昔のゲームなら、それもない。お父さんとお母さんには内緒だぞ?」

 息子は、まるで子供の頃のような、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「わかった!」

 孫も嬉しそうに頷く。

 そうか、僕が眠っている間に、ゲームも様変わりしたんだな。

「さあ、おいで。ひいじちゃん仕込みのぷよ捌きを教えてあげるから。」

 息子とその孫は、僕の前に二人並んで遊び始めた。

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