王子の夢と滅びの運命(改変前)
初投稿です、よろしくお願いします。
とある大陸の片隅に、緑豊かな王国がありました。
しかしその美しい国で幸せに暮らしていたのは、王族など一部の者だけでした。国王アルトゥールが民に重税や兵役を課し、逆らう者には厳しい罰を与え、民を虐げる存在となっていたからです。
アレクセイは王子として父の国王アルトゥールの傍で育ちましたが、彼の王としての姿勢に疑問を抱いていました。王は税金を重くし、貧しい農民をさらに苦しめ、国を豊かにするためと称して、無慈悲に労働を強いました。そうして豪奢な品々を買い集め、贅を尽くした暮らしをしてるのです。
アレクセイも父が築いた城の中で裕福な生活を享受していましたが、外の世界で苦しむ人々の姿を見て胸を痛めていました。
ある日、彼は城の外で、農民たちが役人から労働を強いられている姿を目撃しました。疲れ切った顔、虚ろな目…誰もが一日を生き抜くのに精一杯の生活。病気になれば、医者に診てもらうこともできず、そのまま死を待つしかありません。
アレクセイの心には怒りと悲しみが渦巻いていました。
その晩、アレクセイは不吉な夢を見ました。目に怒りの炎を宿した数万もの民衆が、思い思いの武器を手に王城を包囲しているのです。
目覚めた彼は、自らの運命を知るため、占い師セリーヌを呼ぶことにしました。セリーヌは王子の前に現れると言いました。
「王子よ、あなたの未来には危険が待ち受けています。国は滅びの運命にあります」
と告げました。
「どうすれば王国は救われるのか?」
とアレクセイは問いました。
セリーヌは静かに言いました。
「あなたの選択が王国の未来を変えます。わたしは今日、それを王子に伝えに来たのです。あなたが王国の未来の鍵なのです」
アレクセイはまだ何事も成し遂げたことがない若者でした。だから自分に何ができるのか、不安しかありませんでした。
「わたしに出来るでしょうか」
セリーヌは王子の目をじっ、と見つめて言いました。
「それは分かりません。しかし分水嶺はまさに今です」
アレクセイは勇気を振るって、父に立ち向かう決意を固めました。彼はセリーヌの言葉を胸に刻み、民を助けるために行動を起こすことを決めました。
彼は国王へ言いました。
「父上、民が苦しんでおります。税を下げ、物資を支援し、貧困から救いたいのです」
国王は不思議そうな顔で言います。
「そなたの食べる食事も、着ている服も、仕えてる侍女や護衛の給与も、その民から徴収した税がなければ賄えないのだぞ? 」
重臣たちも口々に言います。
「国王陛下のおっしゃる通り」
「民を甘やかせばつけ上がるだけ」
「生かさず殺さずが一番なのです」
アレクセイは言いました。
「わたしは不吉な夢を見たのです。目に怒りの炎を宿した数万もの民衆が、思い思いの武器を手に王城を包囲していました。
このまま民を虐げ続ければ、わたしの夢は現実のものとなるでしょう」
国王をはじめ重臣たちは、王子の言葉を一笑に付しました。まだ若い、現実を知らない若者の戯言と思ったからです。
アレクセイは忸怩たる思いで王の間を後にしました。
国王や重臣を説得するためには何が必要か、それを知るためアレクセイは、再び占い師セリーヌを呼びました。
セリーヌはアレクセイの問に答えます。
「実績が必要です。だけれど王子は実績を上げるための知識も力も足りません」
アレクセイはセリーヌを師と仰ぐことにしました。占い師として様々な国々を見て回ってきた彼女であれば、必要な知識を学べると考えたのです。
そうして1年が経ちました。
「王子に必要な知識は全て教えました。次にすべきことを占ってみました。今年の夏は太陽が隠れ、農作物が育ちません。飢饉が来て、多くの人が死にます。それでも王子が行動することで救われる人もいるはずです。協力してくれる者を増やしなさい」
最後にセリーヌはそう言い残し、王城を立ち去りました。
アレクセイは、夏が来る前に他国から食料を大量に購入しました。また、重臣たちに食料を備蓄するよう説得して回りました。
彼の言葉は何人かの重臣の心を動かし、彼らは食料を備蓄しました。しかしほとんどの重臣は、アレクセイの言葉を聞き流すだけでした。
夏がやって来ると、セリーヌの言葉どおり太陽が隠れる日ばかりで農作物は育ちませんでした。そして恐れていた飢饉がやってきました。
それでも王は例年どおりの税を要求し、役人たちは税を無理やり集めました。
アレクセイは民を守るため、自分の言葉に耳を傾けてくれた重臣と共に、村々を回り食料を分配しました。民は彼を「希望の王子」と呼び、信頼を寄せるようになりました。
しかし王は激怒しました。
「何故、勝手なことをする。私の命令に従わないのか!」
「父上、あなたのやり方は間違っています。民を大切にすることで、国は豊かになるのです」
アレクセイは、そう反論しました。
王はアレクセイを見下し、
「私の王国に口を出すな。お前はただの王子だ」
と言い放ちました。
アレクセイの心には父を見限る心が芽生え、父を追放しようと決意しました。
アレクセイは心を鼓舞し、父に立ち向かう準備を整えました。しかし、失敗すれば父の怒りを招き死を賜るかもしれない。それでも民のために戦う必要があると思いました。
ついに、王との対決の日がやってきました。アレクセイは父に対して宣言しました。
「これ以上、民を虐げることは許さない。私たちは立ち上がる!」
王は怒り狂いアレクセイを捕らえようとしましたが、アレクセイは前もって潜ませていた兵に命じ、逆に王を捕らえました。
「必ず後悔することになるぞ!」
王はそう言って、王座から下りたのです。
王になったアレクセイは民のため、様々な改革を始めました。
税を下げ、衣食住を賄えない者たちへ支援を行いました。だんだんと飢えで苦しむ者や寒さに震える者が減り、民に笑顔が戻ってきました。
「希望の王子」と呼ばれたアレクセイは、改革の成果を見て回り、民から歓喜の声をかけられ嬉しくなりました。
税を下げれば国費が減ると重臣たちから心配されましたが、大丈夫だと答えました。その分、農作物の収穫高や商人の利益が増加したおかげで、国全体としての税は以前と変わらなかったのです。
やはり自分のやり方は正しかった。アレクセイは自信を持ちました。
次は病院や学校を村々に作ることにしました。怪我や病気で死ぬ人々は減り、搾取の対象だった子どもたちは学を得て不当な労働から解放はれました。
村々の民の表情が暗いものから明るいものへと変わり、これで夢で見た悪夢のような未来はもう来ないのだと、アレクセイはそう安心しました。
それから十年。
豊かになった王国を狙って、隣国の兵が攻めてきました。王国の兵はこれを打ち破り、アレクセイは安心しました。だけれどこれがアレクセイの苦難の始まりでした。
兵たちは待遇に不満を持つようになりました。父王の時代の兵役は、兵の出身地にとっては口減らしになり、兵本人も衣食住の心配がないため、どこからも不平不満は出ませんでした。ですが今は兵の出身地は家族と引き裂かれる苦しみを抱え、兵本人も少ない給与で命をかけることに不安や不平が高まったのです。
アレクセイは兵たちの待遇を良くしようと国費を注ぎ込みました。
人々は豊かになりましたが、全ての民がそうはなりませんでした。貧しい人々は、豊かになった人々を妬み、国の支援が足らないからだ、もっと貧しい者たちへ支援しろと声を上げるようになりました。
アレクセイは貧しい人々に援助するため、多くの物資を買って民に分配しました。これにも国費を注ぎ込みました。
国費が足らなくなり、民の声の全てに応えられなくなるなりました。
学校で知識を学び、様々の情報を得られるようになった民は、それぞれがそれぞれの視点からアレクセイの政に不平不満を言うようになりました。
アレクセイは上手く行かない政に悩み、苦しみました。
「税をもっと下げろ」
「支援が足らない」
「貴族や王族の特権がずるい」
「民も政治に参加させろ」
民のため政を行うほど不平不満の声が高まり、要求がどんどん増え、アレクセイはもうどうしたら良いか分からなくなりました。
眠れない夜を何日過ごしたでしょう。
ある日の夜、王の寝室を激しく叩いた重臣が叫びました。
「国王陛下! 大変です! 反乱が起きました!」
慌てて王城の外を見れば、その昔夢に見た光景が広がっていました。目に怒りの炎を宿した数万もの民衆が、思い思いの武器を手に王城を包囲しているのです。
絶望に打ちひしがれ、その光景を眺めていると、後ろからアレクセイの名を呼ぶ声が聞こえました。
「そなたは...」
その昔アレクセイに予言を告げた占い師セリーヌが、当時とまったく変わらない姿で立っていました。
「あなたの選択が王国の未来を変えますとわたしは昔、あなたに告げました。あなたが王国の未来の鍵だともいいました。
あの時のあなたの決断が、まさに王国の分水嶺だったというわけです」
アレクセイは占い師セリーヌを睨みつけ、文句を言おうとしましたが、いつの間にかセリーヌの姿はありませんでした。
「そうか、滅びの運命から逃げることは出来なかったのか。父の言うことが正しかったのだな」
その日、王国は滅びました。
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