第6章
玲奈と俺は、組織の男たちに囲まれた廃倉庫の中で、互いに背中を預け合って立っていた。彼女の体は微かに震えていたが、その目には強い決意が宿っていた。
「玲奈、相手は何人いるんだ?」
俺は冷静さを保ちながら、周囲の男たちの動きを見定めた。彼らは鋭い目つきで俺たちを睨みつけ、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。
「全部で六人。彼らはこの街で活動している組織の一部だけど、あの男だけは別格よ。」
玲奈は視線を鋭くし、リーダーらしき男を指差した。彼は冷徹な表情を浮かべ、他の男たちに命令を下しているようだった。その男の目が俺たちを捉え、薄く笑った。
「お前たちがあの“ブラックキャット”とその仲間か。まさかこんなところで出くわすとはな。」
その言葉に、俺は心の中で緊張感を高めた。玲奈が「仲間」と呼ばれたことに、一瞬喜びを感じながらも、彼らの目的が何かを探ろうとした。
「お前たちが狙っているものはなんだ?玲奈が守ろうとしている“家族の宝”というのは、本当は何なんだ?」
男は鼻で笑い、ゆっくりと玲奈に歩み寄った。玲奈は鋭い目つきで彼を睨みつけ、少しも引くことなく立ち向かった。
「家族の宝だって?そんなのはただの建前だ。本当はお前の家族が代々守ってきた、“黒い書”だろう。あれは私たちが長い間探し求めてきたものだ。お前の父親も、あの書を守るために命を捧げた。」
「黒い書…?」
俺はその言葉に反応し、玲奈の方を見た。彼女は辛そうな表情を浮かべ、ゆっくりと頷いた。
「そう、あの書物には古くからの秘密が記されている。それを悪用しようとする組織から、私たちの家族は何世代にもわたって守ってきたの。でも、私の家族は全て殺されて、私一人が逃げ延びた。そして、組織は今もその書を狙っている。」
玲奈の言葉に、俺は全てを理解した。彼女が“ブラックキャット”として活動していたのは、その書を守るためだったのだ。俺は彼女を守るため、そしてこの戦いを終わらせるために、全力で彼女を支える決意を固めた。
「玲奈、俺も一緒に戦う。君を守りたいんだ。」
玲奈は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。その笑顔は、俺の心に力を与えてくれる。
「ありがとう、翔平さん。でも、これは私の戦いでもある。お互いに、守りたいものを守ろう。」
彼女の言葉に、俺は力強く頷いた。
男たちはゆっくりと距離を詰めてきた。俺たちは背中を合わせたまま、彼らの動きに警戒しながら構えをとった。玲奈の動きはまるで猫そのものだった。素早くしなやかで、彼女の周りの空気がピリピリと張り詰めているのを感じた。
「行くわよ、翔平さん!」
玲奈が叫ぶと同時に、男たちが一斉に襲いかかってきた。玲奈は素早く前方に飛び出し、華麗な動きで男たちの攻撃をかわしながら、次々と彼らを倒していく。その姿はまさに“ブラックキャット”の名にふさわしい、圧倒的な強さを誇っていた。
俺も彼女に続き、全力で戦った。玲奈の隙を作らないように、男たちの注意を引きつけながら応戦した。彼らはプロフェッショナルな動きを見せていたが、玲奈の巧妙な動きに翻弄され、次第に焦りを見せ始めていた。
「くそっ、何なんだあの女は!」
男たちの苛立ちが聞こえた時、リーダーらしき男が前に出てきた。その手には小型の拳銃が握られており、玲奈に向けてまっすぐ狙いを定めた。
「ここでお前を始末すれば、全てが終わる。覚悟しろ、“ブラックキャット”!」
その瞬間、玲奈は目を見開き、俺の方に飛び込んできた。彼女は俺を庇うように、俺の前に立ちはだかった。
「玲奈、危ない!」
俺が叫ぶと同時に、男の引き金が引かれた。銃声が廃倉庫に響き渡り、俺は玲奈の肩を掴んだ。
しかし、次の瞬間、玲奈の体がふわりと宙に浮き、彼女は黒猫の姿に変わっていた。男たちの視界から彼女の姿が消えたその瞬間、彼女は闇の中に消えたように見えた。
「な、何だ、あの女…!?」
男たちは困惑し、怯えた表情を浮かべた。その隙に、玲奈は男たちの背後に回り込み、次々と拳銃を叩き落としていった。俺は彼女の素早い動きに圧倒されながらも、彼女の背中を守るように残りの男たちに立ち向かった。
「翔平さん、今よ!あの書を持ち出して!」
玲奈が叫び、俺は彼女の指差す方向に駆け出した。倉庫の奥にある古びた金庫が目に入り、俺は力いっぱいそれを開けた。中には、古びた革表紙の小さな書物があった。
「これが、“黒い書”か…」
俺はその書物を手に取り、玲奈の元へ駆け戻った。彼女は男たちを全て倒し、俺を待っていた。
「これで終わりね、翔平さん。」
玲奈は書物を受け取り、静かに微笑んだ。彼女の目には、安堵の色が浮かんでいた。
「さあ、ここから逃げましょう。もう、これ以上彼らに付き合う必要はないわ。」
俺は玲奈の言葉に頷き、彼女と共に倉庫を飛び出した。外はまだ暗闇に包まれていたが、俺たちの心には明るい光が差し込んでいるように感じた。
「玲奈、これで本当に全て終わったのか?」
俺が尋ねると、彼女は少し考えた後、優しく微笑んだ。
「ええ、終わったわ。でも、これからは新しい始まりが待っているわ。あなたと一緒に、普通の生活を送ることができるなら、それが私の望みよ。」
彼女の言葉に、俺は胸が熱くなった。これからも、彼女と共に生きていくことを誓いながら、俺たちはゆっくりと夜の街を歩き出した。
彼女の手の中には、家族を守り抜いた証である“黒い書”がしっかりと握られていた。