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第5章

玲奈の正体が怪盗「ブラックキャット」だと知った夜から、俺の心には彼女への疑問と、彼女を守りたいという気持ちが交錯していた。彼女は一体、何を守ろうとしているのだろう。彼女が言う「大事なもの」とは何なのか。その答えを探すため、俺は彼女に関する情報を少しずつ集め始めた。


ある日の昼下がり、常連客の一人、田中さんがふと玲奈について話し始めた。


「望月さん、玲奈さんは不思議な人だよな。どこか影があるというか、何か背負ってるように見えるんだ。」


田中さんはコーヒーカップをくるくると回しながら、遠くを見つめるような目をしていた。


「昔、私も玲奈さんくらいの歳の女の子を知っていたんだ。彼女もまた、何かに追われているような目をしていたよ。」


その言葉に、俺は思わず田中さんに聞き返した。


「追われている?それって、どういうことですか?」


田中さんは少し驚いたように目を見開き、俺を見つめた。


「ああ、そうだな。あの子は、何か家族の事情で苦しんでいたみたいでね。誰かに何かを隠すようにして生きていた。玲奈さんも、どこか似た雰囲気を感じるんだよ。まぁ、ただの勘だがね。」


その言葉を聞いて、俺の胸に不安がよぎった。彼女は本当に、何かに追われているのだろうか。そして、それが彼女が怪盗として動く理由なのだろうか。


その日の夜、玲奈が店を出てから、俺はいつものように彼女の後を追った。彼女の行動を追うことで、彼女の過去を少しでも知ることができるかもしれないと考えたからだ。


彼女が向かった先は、街の外れにある小さな神社だった。人気のない境内で、彼女は静かに手を合わせ、目を閉じていた。俺は少し離れた場所からその様子を見守っていたが、ふと彼女が小さな声で話し始めたのを聞き取った。


「お母さん、私は間違っていないよね。私はちゃんと守れているよね。もうすぐ、全部終わるから…」


その言葉に、俺は彼女が何か大きな苦しみを抱えていることを感じ取った。彼女は一体、何を守ろうとしているのか。俺にはその全貌が見えなかったが、彼女が一人でそれを背負っているのだとしたら、俺には彼女を支えることしかできないのだ。


次の日、俺は喫茶店で玲奈と二人きりの時間を作った。彼女がカウンターでコーヒー豆を挽いているとき、俺は意を決して彼女に話しかけた。


「玲奈、君が言っていた“大事なもの”って何なんだ?俺には、君が一人で何かを守ろうとしているように見える。もし、俺にできることがあるなら、何でも言ってほしいんだ。」


玲奈はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。その瞳には、深い悲しみと決意が滲んでいた。


「翔平さん…私は、家族を守りたいの。私の家族は、ある組織に狙われていた。お父さんは、私が小さい頃に亡くなり、お母さんもその組織のせいで命を落とした。私だけが逃げ延びて、今はその組織が隠し持っている家族の宝を取り戻そうとしているの。」


彼女の言葉は静かで、だが強い決意を感じさせるものだった。彼女の過去にそんな悲劇があったとは、俺は想像もしていなかった。


「それで、君は怪盗“ブラックキャット”として動いているのか?」


俺の問いに、玲奈は静かに頷いた。


「ええ、そうよ。お母さんが残した宝は、私たちの家族の証なの。それを取り戻すことで、私はお母さんに胸を張って報告できると思っている。そして、私はそのために猫の姿になり、盗みを続けてきた。」


俺は彼女の覚悟に圧倒されながらも、ただ彼女を守りたいという気持ちが強くなっていくのを感じていた。


「玲奈、俺は君を助けたい。君がどんな姿であれ、俺は君を守るよ。だから、一緒に戦わせてくれないか?」


彼女はしばらく黙っていたが、やがて微笑んだ。その笑顔は、今までに見たことのない柔らかさと安心感があった。


「ありがとう、翔平さん。私、あなたにだけは助けを求めてもいいのかもしれない。でも、これは私一人で終わらせなきゃいけないことなの。もう少しだけ、私を信じて待っていてくれる?」


彼女の言葉に、俺は頷いた。彼女が信じてくれることが、俺にとっては何よりも大きな喜びだったからだ。


それから数日間、玲奈は何事もなかったかのように店で働き続けた。俺も彼女を見守りながら、いつでも手を差し伸べられるよう、心の準備をしていた。


だが、その穏やかな日々も長くは続かなかった。ある日、玲奈が店を出た夜、俺は彼女の後を追いかけて、再びあの倉庫へ向かった。


その倉庫の中で、彼女は一人、組織の男たちに囲まれていた。彼女が取り戻そうとしていた宝の最後の一つが、そこにあったのだ。


彼女は一人で、全てを終わらせる覚悟だった。しかし、俺は彼女を見捨てることなどできなかった。俺はその場に飛び出し、彼女を守ろうとした。


「翔平さん!どうして来たの?ここは危険よ!」


彼女の悲痛な叫び声が響く中、俺は彼女を抱きしめた。そして、彼女に耳打ちした。


「俺は君を一人にしないって決めたんだ。どんな危険があっても、俺は君を守る。だから、俺を信じて一緒に戦おう。」


彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに涙を浮かべ、頷いた。


「わかった、翔平さん…一緒に、終わらせましょう。」


その言葉を最後に、俺たちは互いに手を取り合い、立ち向かうことを決意したのだった。

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