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第1章

俺の名は望月翔平もちづき しょうへい。小さな喫茶店「キャット・シェルター」のマスターをしている。静かなこの街で、毎日穏やかな時間を過ごしていた俺の生活は、ある日、一匹の黒猫との出会いで一変した。


その猫は、ある雨の夜、店の裏口でうずくまっていた。全身は泥まみれで、足には深い傷があった。どこから迷い込んできたのか、途方に暮れたような瞳でこちらを見つめていた。俺は、そのまま放っておくことができず、店の中に連れて行き、タオルで優しく体を拭いてやった。小さな体が震えていたが、俺が温めた牛乳を飲ませると、安心したのか、すぐに眠りに落ちた。


その猫は、しばらくの間、店の片隅で過ごすことになった。俺が仕事をしているときは、窓際で日向ぼっこをし、夜にはカウンターの上に座って俺を見守るようにしていた。俺も、そんな猫に癒されるような気持ちになり、次第に愛着が湧いていった。


しかし、ある朝、気づくと猫はいなくなっていた。まるで夢だったかのように、その姿はどこにも見当たらなかった。心の中にぽっかりと穴が開いたような寂しさを感じながらも、俺はいつも通りの生活に戻っていった。


数週間後、喫茶店に一人の女性が現れた。彼女の名は玲奈れいな。「この喫茶店で働かせてください」と頼む彼女の瞳には、どこか懐かしさを感じさせる光が宿っていた。長い黒髪が揺れる度に、あの猫の姿が頭をよぎったが、そんな馬鹿な話があるはずもない。俺は彼女を受け入れることにした。


玲奈は、仕事を覚えるのも早く、すぐに店の常連たちにも親しまれるようになった。彼女の微笑みはどこか神秘的で、話す言葉にも不思議な魅力があった。俺は次第に、彼女に惹かれていった。


「玲奈、どうしてうちで働きたいと思ったの?」


ある日、勇気を出して聞いてみると、彼女は少し笑って答えた。


「なんとなく、この店に引き寄せられたのかもしれない。ここなら、私が私でいられる気がするの」


その言葉に、俺はそれ以上問い詰めることはできなかった。彼女には彼女の過去があるのだろう。それを無理に知ろうとは思わなかった。ただ、彼女がここにいてくれることが嬉しかった。

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