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そしてそんな二人を見送るビディとコル。
「何かあったらいつでも来なさい。それとアレはちゃんと持ってるでしょ?」
「鍵か? それとも指輪の事か?」
「両方よ。持ってるならいいわ。それとこの子の事はちゃんと……分かってるわよね?」
「そんなに心配ならついて来て付きっ切りで一緒に居たらどうだ?」
「それは出来ない。私にはやらなくちゃいけない事があるの。それにいざという時はあんたの方が役に立つ」
「役に立つって……。頼りになるって言ってくださいよ。ちょっと物みたいじゃないですか」
するとビディの言葉にテラは少しだけ不機嫌そうな口調でそう言った。
そんな彼女へビディは穏やかな笑みを浮かべ頬へ手を触れさせた。
「そんなつもりはないわよ。ただ戦闘に関しては私より彼の方が優秀ってだけ」
ビディはそう言うと視線をもう一度ユーシスへ戻した。
「とにかく、気を付けるのよ。二人共」
二人共、その言葉と共に彼女の視線は何かをアピールするようにビディへ。
「またねー」
そんなビディの一歩後ろでコルは天真爛漫な笑みを浮かべながら手を振っていた。
そして二人に見送られ開いたドアを通ったユーシスとテラの視界に広がったのは、この場所へ来た時と同様に仄暗い路地裏。しかし似たような場所だったが、似てるだけで先日とは違う場所であることは一目瞭然だった。
「行くか」
「そうだね」
そして路地裏から出た二人は流れる人波へ川の合流のように滑らかに紛れ込み、そのまま近く駅へと歩を進めた。
目的地はビディに言われたベラルーラ。そこを目指し二人は列車へと乗り込む。
最初は緩やかに、段々と速度を上げて行った列車はあっという間に景色を早送りの様に変え始めた。足早に過ぎてゆく街並み。だがしばらくして窓を覆いつくしたのは、考えが及ばぬ程に巨大な自然。列車が進んでいないと思わせる程にどこまでも続き、窓には画像でも貼り付けたようにいつまでも変わり映えのしない景色が広がっていた。
しかしテラはそんな景色をいつまでも一人楽しんでいた。とは言っても最初の頃よりは落ち着きを見せていたが。
「ねぇ! ねぇ! ほらユーシス見て! 海だよ!」
「そーだな」
「何回見てもやっぱキラキラしてて綺麗だなぁ。また中は違った世界が広がってるだろうし。――あっ! 今見た? 何か跳ねたよ!」
「気の所為だろ」
「跳ねたってば! イルカかなぁ? もしかして鯨だったりする?」
ふふふ、と楽しそうに笑うテラはそれからも飽きもせず窓外の景色を眺め続け、ユーシスはその隣で特に興味も示さず静かに到着を待っていた。
そんな二人を乗せた列車はそれからも懸命に走り続け、終点へと無事に乗客全員を送り届けた。ゴタゴタと列車から下車していく人々に紛れるように足を踏み入れたのは多くの人でごった返した駅。右往左往する人々はまるで緻密に計算された上で動いているかのように円滑にすれ違い人の波をうねらせていた。
「確かまた別の列車に乗らないといけないんだよね?」
「そうだな」
ユーシスの返事を聞きながらも足を進めたテラは券売機の傍に置かれたモニターの前に立った。そして画面をタッチし次に乗るべき列車の時刻と乗るホームを調べ始める。
「あっ。今日、最後のが今出発した」
その抜けたような声にユーシスが画面をのぞき込むと暗くなった列車情報の上には出発の赤文字が大きく表示されていた。
「どうする?」
「どうするも無いだろ。近くに泊まるしか」
「それじゃあ早速、近くの街で宿探しだね。安いとこ。それから美味しいご飯! そーと決まれば早く行こっ!」
ユーシスとは相反するテンションのテラは、彼の手を引き今にもスキップでも刻みそうな足取りで駅の外へと向かった。それから近くの街を訪れた二人は(と言ってもユーシスは後ろをついて行っただけだが)お手頃な宿を見つけ、外で食事を済ませた。