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勢いよく起き上がったユーシスは遅れて現状を理解すると、溜息を零して片手を顔へやった。
「ユーシス? どうしたの?」
そんな彼へ隣で寝ていたテラの眠たそうな声がそう尋ねた。それに対しユーシスはゆっくりと体を倒し顔だけをテラに向ける。
「いや、何でもない。ただの悪い夢だった」
「そう」
テラは安堵したように消えそうな声で呟くと体をユーシスの方へと更に寄せた。
「何だか。こうしてるだけで昔に戻ったみたい」
懐古の情と眠気の混じり合った小さな声がユーシスの耳へと入り込む。
「子どもの頃はこうして私とユーシスと――」
だが彼女の言葉はそこで中途半端に途切れた。
「あっ、ごめん」
「別に謝る必要はない」
「そうだけど……。ユーシス、慕ってじゃん」
「もういい。もうアイツはいない。それが現実だ。――変な夢を見た所為でまだ眠い。もう少しだけ寝る」
「うん。そうだね。お休み」
「あぁ」
* * * * *
ユーシスとテラは昨日ビディが座っていたテーブルに集まり彼女と一緒に(時間的には)昼食を食べていた。二人の服装は昨日の正装とは変わりよりラフなものへ。ビディは相変わらず。
「それで? これからどうするつもり?」
「どうするもこうするもない。第一はアイツらからテラを守るだけだ」
その答えにビディは食べる手を止め何か言いたげな表情をユーシスへ向けた。
「何だよ?」
「本当にいつまでも守り続けられると思ってるの?」
「守るさ」
「あんたは一度、この子を失った。それが答えよ。いずれまた同一轍を踏む事になる」
「じゃあどうしろと? お前が守ってくれるのか?」
「私にそこまでの力はないわ。でも受け身のままじゃ何も変わらない。ずっと追ってくるわよ。そしていずれ」
ビディの話を聞きながらあまり気に留めていないような様子で目の前の料理を食べ進めるユーシス。
「そもそも何でアイツらはテラを狙う?」
「――吸血鬼が力を取り戻すのに必要な存在だからよ。それより何も考えがないのなら、まずは北にあるベラルーラっていう山に行きなさい」
「そこに何があるって言うんだ?」
「行けば分かる」
そう言ってビディは装飾の無い指輪を差し出した。
「山に行けばこれが道を示してくれる。無くさないようにね」
ユーシスはその指輪を手に取ると少し眺めポケットへと仕舞った。
「不死の一族。その名の通り吸血鬼を消滅させるには一人残らず完全に殺し切るしかない。他の種族と違って弱らせたからと言って自然消滅を待つのは命取りになるわよ」
「たった三人のうちに潰せって事か? 俺に?」
「この子のちゃんとした安全を確保するにはそうするのが一番だし、そうしないと奴らは一生追い続けるわよ」
その言葉にユーシスの視線はテラへと移動した。
「でも私の所為でユーシスが傷付いちゃうのは嫌だな」
「俺は大丈夫。約束しただろ。俺がお前を守るって」
ユーシスはその決意を表すかのようにテーブルに乗るテラの手を優しくも強く握りしめた。
「なら尚更、吸血鬼はどうにかするしかないわね」
「その為に何とか山に行って、何にも教えてくれねー何かを手に入れればいいんだろ?」
「実際に行けば分かるって事よ。まぁそうしても今の吸血鬼をどうにか出来る保証はないけどね」
それから食事を終えたユーシスとテラは少しの休憩後、この家から出発する為ドアの前にいた。その時、テラはショルダーポーチを提げ、ユーシスは頭に頭上の耳を隠す為のキャスケットを被り手には革製のアタッシュケースを持っていた。