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サングィス―昼星の煌めき―  作者: 佐武ろく
第三章:昼星の煌めき
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11

 そして二人は店へと出るとそのままカウンターへと腰を下ろした。


「腹減った」

「今食わせてやるから待ってろ」

「スクートさん何か手伝う?」

「あっためて皿に盛るだけだ。座ってろ」


 そう言いながらカウンター裏で手際よく作業をしていたスクートは、あっという間にお皿を二人の前へ並べた。


「またこれかよ」


 お皿に山盛りにされたそれは炒飯。


「文句言うんじゃねー。さっさと食え」

「私はこれ好き。と言うかスクートさんの作るご飯が好き」

「つってもスクート以外の飯食った事ないだろ」

「まぁ、そうだけど。それでも私は好きだなぁ」

「好きでも嫌いでも出されたもんは食え」


 二人の前にお茶を置くスクートは、どっちでも良いと言うような口調だった。

 コップを置いた後、スクートは大きな手をユーシスの頭へ包み込むように乗せた。


「とにかくお前は、沢山食ってさっさと大きくれ」


 スクートはそう言ってニカっと無表情の時の印象を大きく変えるような笑みを浮かべた。だが一方でユーシスが浮かべていたのはムスッとした表情。

 すると突如として、ユーシスを中心に辺りの景色は一瞬にして切り替わった。周囲は瓦礫と化し、照明の代わりに辺りを照らす燃え盛る炎。

 そして青年と成ったユーシスの目の前には半死半生な状態のスクートが地面に(うつ伏せで)横たわっていた。しゃがみ込み微かに眉を寄せながらスクートを見つめるユーシス。そんなユーシスへスクートは力を振り絞るように手を伸ばした。弱々しく頬に触れる手は昔から変わらず大きかったが、昔のような力強さは無い。


「なんて顔してやる。……大きくなったな――ユーシス。――これからは。お前が……」


 そう言い、スクートは視線をユーシスの隣で今にも泣き出しそうな(成長した)テラへと移した。数秒目を合わせると視線は再びユーシスへ。


「テラを……守ってやるんだぞ」


 感情を堪えるのに必死で何も言えないユーシスとテラ。

 そしてその言葉を最後にスクートの手は無抵抗で地面へと落ち始めた。ユーシスは咄嗟にその手を掴もうとするが、すれ違い手はただ何もない空を掴んだ。

 地面へ落ちる手と目の前で力尽きるスクート。


           * * * * *


 ホテルの寝室。ベッドの上でユーシスは一人飛び起ききた。一瞬、状況が掴めない様子だったが直ぐに夢だと分かると双眸を手で覆い顔を俯かせる。気分を落ち着かせるように静かに大きな溜息を零した。

 それから少しの間、寝室の暗闇に紛れるようにその状態のままじっとし心を落ち着かせた。


「チッ。クソっ」


 寝静まった中、落ちる一滴の雫のように響く声。ユーシスは手を退けると顔を隣で(こっちを向きながら)眠るテラへと向けた。まるで何の恐れも不安も無い純真無垢な寝顔。

 ユーシスはテラを見つめながら体を倒し、彼女と向き合って寝転がった。規則正しい寝息を立て眠るテラ。そんなテラの手に起こさぬよう緩徐とした手で触れた。まるであの時、掴めなかったスクートの手を握るように包み込み握る手。

 テラの温もりを手に感じながらユーシスはそっと目を閉じた。

 そして翌日の夜中。ユーシスとテラは夜条院家にいた。


「ユーシス。気を付けてね」

「あぁ」


 例の如くテラは緋月と屋敷に残り、ユーシスは慧から聞いた作戦通りイマチと共に夜の街へと向かった。

 昨夜を再現するような夜に包まれた街。ユーシスは適当な屋上で足を止めた。そしてまるで開演を待つ静寂のように息を潜めた街を見回す。

 すると無音の世界へ強調されるように響く足音が背後で立ち止まった。同時にユーシスの体を吹いた風が撫でる。


「こんなにも早く再会出来るなんてね」


 その声に後ろを振り返ると、そこにはジャックが立っていた。


「もしかしてワタシに会いたかった?」

「えぇもちろん。会いたかったですよ」


 その言葉と共にユーシスの隣へとやってきたのは、慧。


「なーんだ。二人っきりじゃないのね。残念。しかもこんなに沢山」


 ジャックは顔だけを動かし横目で周囲を見回した。彼女を囲むように周りの建物上に立っていたのは、飛鳥と双葉と清竜。


「悪いけど、もう逃がさないよ」

「――あの野郎」


 すると慧の隣でユーシスは突然、眉を顰めそう呟いた。その鋭い視線が穴を開けるように見つめていたのは、ジャックよりもその後ろにいた双葉よりも更に奥。

 一方、ユーシスの呟きに慧は横へ顔を向けた。


「ん? どうかした?」

「昨日言った吸血鬼の野郎だ」


 その言葉に慧はユーシスと同じ方を見遣るが人間である彼の目では暗闇も相俟って何も見えなかった。

 だがユーシスの双眸はその間もしっかりとその姿を見つめていた。離れた建物の屋上に立ち、じっとこちらを見ているソルの姿を。


「色々とありそうだね。行ってきてもいいよ」


 ユーシスはそう言われると視線を慧へ。


「ここは大丈夫。夜条院家の看板はそう脆くないよ」


 そしてもう一度ソルへと視線を戻すと、まるでこちらの会話が聞こえているかのように挑発的な素振りを見せた。

 それにまたもや眉を顰めたユーシスは、視線を肩のイマチへ。


「俺一人で行く」

「イマチ」


 慧に呼ばれイマチは肩から飛び立った。

 そしてユーシスは一人その場を離れソルの方へ。


「あら。行っちゃうの? やだ。随分と焦らしてくれるのね」


 立ち去るユーシスの後姿を見つめながらジャックは相変わらずの口調で呟いた。だが直ぐに顔を慧へと戻す。


「まぁでも、メインディッシュの前に前菜を食べるのもいいわね。人間はちょっと食べ飽きてるけど、四人なんて初めてだから期待しちゃうわ」

「随分と人間を、君で言うとこの食べたようだけど、僕らはきっと今までの誰よりも食べ応えがあるよ。もちろん、食べられればの話だけど」


 そう言いながら慧はポケットから一粒の鈴を取り出した。そして言葉を言い終えるのに合わせその鈴を夜空へ抛った。

 夜空へと一直線に飛んでいった鈴は、段々と減速し星に紛れるように空中で止まると風鈴のような音を鳴らし一瞬にして破砕。同時に波紋が空中を走り大きく半円を描いた。


「だけどこのまま街中でやるのも色々と問題があるからね。ちょっと場所を移させて貰ったよ。と言うか空間を一部切り取ったって言った方が良いかな」

「人間ってこんな魔女めいた事も出来るの? 知らなかったわ」

「驚くのはまだ早いよ」


 すると慧は何もなかったはずの手元へ一瞬にして数枚のお札を出現させた。何やら紋様の書かれた謎のお札。そんな慧に続き、飛鳥と双葉も何も持っていなかったはずの手元へ一瞬にして武器を出現させた。飛鳥はクナイ。双葉は双刀。そして清竜は元から手に持っていた刀を抜いた。


「前菜にしてはボリュームがありそうね」


 ジャックはどこか嬉しそうにそう言うと勢いよく両腕を広げた。その瞬間、彼女を中心に辺りへ吹き荒れる顔を守ってしまう程の強風。それが過ぎ去るとジャックの両腕はいつの間にか鎌状の刃物へと変わっていた。


「ちょーっとゾクゾクしちゃうじゃない」

「最後の晩餐。しっかり楽しんで。いや、料理を目の前に食べられないのは晩餐とは言えないね」


 そして慧を含む四人は同時にジャックへと飛び掛かった。

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