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サングィス―昼星の煌めき―  作者: 佐武ろく
序章:舞踏会
3/42

3

 そしてほんの一瞬、固まった後テラはその細くも逞しい体へと抱き付いた。


「ユーシス」


 それは安堵に包み込まれた温かな声。


「――テラ。悪い」


 ユーシスは一言謝りながら彼女の体を抱き締め返した。

 すると、そんな二人へ贈られた祝福にしては嫌味にゆっくりとした拍手。ユーシスはテラに寄り添われながらその拍手を送っている男性へと視線を戻した。

 二人の視線を受けながら徐々に鳴り止んでいく拍手。


「ではそろそろ――」


 男性は顔を俯かせながらマスクへと手を伸ばした。そして言葉に合わせるようにマスクを外した顔を上げていくが双眸へは蓋をしたまま。


「一曲。いかがですか?」


 言葉の後ゆっくりと瞼は上がり、やはり美しくも不気味な――蛇のような双眸が二人を絞めるように見た。

 そして獲物へ近づく蛇のように最初は静かに流れ始めたオーケストラの演奏。段々とその存在感を顕著にしていく演奏に伴い、二人の周りでは男女のペアが互いの体に手を回し踊り始める。いつの間にかベネチアンマスクの女性を相手に男性も他同様にステップを踏み踊り出すが、テラとユーシスだけは依然と警戒の眼差しを辺りへと向け続けていた。

 だが二人の警戒とは裏腹に周りはただ踊っているだけ。ではあったが、その警戒を形にするように辺りは一変した。

 演奏の盛り上がりに合わせ連続して鳴り響き始める不可解な破裂音。テラとユーシスはその音に反応し顔をそれぞれ反対側へ。二人の周りでは踊っていた者達が次々と人の皮を脱ぎ捨て、醜怪な姿を晒していたのだ。異様な程に細く小柄な体は曲線を描き、溢れ出す涎など気にしない口元では不揃いな牙が不気味に光る。そして零れ落ちそうなギョロ目はそれぞれを気味悪く睨みつけていた。今にも襲い掛かりそうだったが一歩も動かず威嚇の様に睨みつけるだけ。

 デュプォス――二人はそれが何かを知っていた。

 だからかユーシスはテラを守るように手を伸ばしながら警戒心を強める。

 だがその警戒とは裏腹に依然とデュプォスは粗く呼吸を繰り返すだけで動きはない。


「踊るのは苦手ですか? 大丈夫ですよ。流れに身を任せれば」


 すると男性の言葉の直後、彼の隣にいた(元々女性だった)デュプォスが二人へ目掛け走り出し、そして飛び掛かった。尖鋭な爪がずらり揃った両手を構え、唾をまき散らし、牙を剥き出しにしながら襲い掛かるデュプォス。

 しかし、真正面からしかもたった一匹のデュプォス。それは大した脅威ではなくユーシスはタイミングを見計らい頭を鷲掴みにするとそのまま割る勢いで床へと叩きつけた。

 だがそれはほんの先陣。ユーシスが鮮血の飛び散る頭から手を離す頃には、既に周りで睨みを利かせていたデュプォスは次から次へと動き出しあっという間に彼を囲うように襲い掛かって来ていた。その数の差と包囲された状況を考えれば戦況はユーシスにとって圧倒的不利だろうが、デュプォスはその圧倒的な数こそ最大の武器。一体一体の戦闘力は微々たるもので、彼にとって現状は大して苦戦を要する状況ではなかった。故にテラを守りながら一体また一体とデュプォスを沈めていく。一体に対しての戦闘自体はほんの数秒で終わるようなものだったが、絶えず襲い掛かるデュプォスに対しユーシスはズレもミスも許されぬ確実性を求められていた。

 依然と流れ続けるオーケストラの演奏の中、絶え間なくデュプォスを倒していくユーシス。それはまるでこの宴を盛り上げるショーの一種のようだった。

 だがそれをいつまでも続ける訳にはいかない。ユーシスはタイミングを見計らいテラを抱き上げるとその場を離れ飛び込んできた窓へと走り出した。それは期せずしてオーケストラに合わせるようになり、テラを抱えたユーシスは演奏の終わりと共に窓から飛び出した。

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