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サングィス―昼星の煌めき―  作者: 佐武ろく
第一章:凍った雪の国
12/42

8

 彼女が消え、体を起こしたユーシスは立ち上がるとテラの元へ。そして彼女の拘束を解いた。


「ユーシス」


 不安気な声でユーシスの首に腕を回し抱き付いたテラは少し震えていた。


「私、もしかしたらって思っちゃって……」


 抱き締める腕に心配の分だけ少し入る力。ユーシスはそれをただ黙って受け止めていた。今の彼の中にあったのは、自分の身に起こった危険などではなく呵責の念だった。もう二度と、その決意を嘲笑うかのように起きた出来事。それは首に回る腕よりもキツく、まるで喉元を締め付けられているようだった。

 そんなユーシスから離れたテラはショルダーポーチからハンカチを取り出し、彼の喉元へ。少量だが溢れる新鮮な赤を拭うが一本線の傷はすぐに元通り。テラは再度ハンカチを傷口に当てるとユーシスの手を取り上から押さえさせた。

 そしてテラは階段を上がるとアタッシュケースを手にユーシスの元へ。


「テラ」

「やだ」


 ユーシスが名前を言い終えるよりほんの少し先にテラはそう返した。


「そうだよな」

「どうせ謝ろうとしたんでしょ? でも私は謝ってほしくない。だから、やだ」

「でも俺の所為で――」

「違うでしょ? 私の所為じゃん。もしユーシスが私と一緒に居なかったら、そんな風に怪我する事もない訳だし……。だからユーシスが謝るのは違う。でも私が謝ってもどうせユーシスは受け取ってくれないし――」


 一瞬、顔を俯かせたテラは言葉を堪えるような表情を浮かべていた。

 だがすぐに顔を上げユーシスと目を合わせると微笑みへと変え、彼の手を握った。


「だからさ。お互い何も言わないで駅に行こうか。次の列車には十分間に合うし。ほらっ」


 ユーシスの返事を聞く前にテラは手を引き歩き出した。そんな彼女の後姿を少しばかり見つめたユーシスは隣に並ぶと、血の止まった喉元からハンカチを離しテラからスーツケースを受け取った。

 当初乗る予定だった列車は間に合わず、次の列車へと乗り込んだ二人。疎らに乗客のいる車両で微かに揺られながら弁当を食べ、まだまだ先は長いが既にテラはユーシスに凭れかかり眠ってしまっていた。

 列車の音を除けば無人の様に静まり返った車両。そんな中、足音がひとつユーシスの後方から聞こえてきた。ゆっくりとしたテンポで近づいてきた足音はユーシスの隣を通り過ぎるとそのまま彼の正面の席に腰を下ろした。


「アンタか」


 そこに居たのはビディだった。足を組み座席に背を預けた彼女は真っすぐユーシスを見ていた。


「それは?」


 指を差されずともその言葉が喉元の傷を指している事は明白だった。


「吸血鬼に会った。アンフィス」


 その言葉に深刻そうに眉を顰めるビディ。


「吸血鬼の生き残りの一人、アンフィス・ラミア・エマ・トリニタス・イルプス。確かなの?」

「別に信じてくれとは言ってない」

「そうとは言ってない。ただそれだけの傷で済んだのが意外だっただけよ」

「アイツはテラを捕らえに来たわけじゃないらしい。だがいずれ、とは言ってたがな」

「なら何しに? 今更挨拶に来た訳でもないでしょう?」

「デュプォスだ。様子の違う奴が居たんだ。知ってたか?」


 ビディは記憶を探っているのか少し沈黙した。


「――えぇ。そう言う存在がいるという事だけはね。原因も原理も分からなければ直接見た事もないのだけれど。それで? そのデュプォスをどうしたの?」

「殺した。奴がな」

「――そう」


 だがビディは少し顔を顰め、分からないと言うようだった。


「てっきりそう言う存在は他のデュプォスをまとめ、指揮する役割に使うと思ってたけど――殺してしまうのね」


 その脳裏で何を考えているのか黙り込んだビディは微かに何度か頷いていた。


「そういや魔女ってのも、もう残ってるのはあと一人だけらしいな」

「彼女がそう言ってた?」

「あぁ。魔女のクソってな」

「そう。でもそうね。魔女も私が確認出来てるのは一人だけ」

「確認出来てる? アンタだろ? その最後ってのは」

「もしかしたら今もどこかでひっそりと生きてる魔女がいるかもしれないでしょ。私は世界の隅々まで魔女を探し回った事はないわ」

「まぁ別にどーだっていい。――それより何しに来たんだ? わざわざ話し相手にでもなってもらいに来たのか?」

「まさか。そこまで暇じゃないわ」


 するとビディは懐から折り曲げられた紙を一枚取り出し、カードの様にユーシスへと投げた。受け取ったそれを開くとそこに書かれていたのは住所。

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