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その最中、依然とこの空気感に属さないアンフィスは躊躇なく動き出すと、傍に居たテラの元へ。そして腕を掴み半ば強引に立たせると際へと進み、その体を宙へと放り投げた。軽々と宙を舞うテラの体。その予想だにしていない行動に一瞬瞠目するが、テラの体は受け止めろと言わんばかりに真っすぐユーシスの元へ。一歩も動くことなくユーシスはそのままテラを受け止めた。
「大丈夫か? テ――」
だがテラを受け止め彼女へ視線を落としたその一瞬、ユーシスの視界端には人影が。それが誰かは考えるまでも無くユーシスは反射的に顔を上げた。同時に伸びてきた手がユーシスの喉元をそう簡単に振り解けない力で掴む。しかしそれ以上、何かをすることは無くただユーシスの双眸を正面から見つめるだけだった。
するとアンフィスはそっと喉元から手を離した。
「下ろしていいぞ」
何もしないとアピールする為だろう、アンフィスは少し大袈裟に両手を上げて見せた。ユーシスは喉元に先程までの感触を残しながらも、それを忘れる程アンフィスを警戒していた。だが緩慢な動作でしゃがみ言われた通りテラを傍へ下ろしていく。
それはテラからユーシスの手が離れた瞬間だった。アンフィスは彼が立ち上がるのを待たずして蹴りをひとつ。警戒はしていたがその網目を抜けるように防御すらままならず体を反らせ後ろへと倒れるユーシス。そしてそのまま地面へと落下し背中にそれなりの衝撃を感じたが、それよりも顎に残り鼓動するような痛みの方が強烈だった。
しかしその痛みのどちらも気にする暇は無く、自分に跨ってきたアンフィスと睨み合う事となる(正確に言えば睨みつけていたのはユーシスだけだったが)。その時には、いつの間にかアンフィスの手に握られたナイフはその冷酷さを体現するかのように冷たくユーシスの喉元に触れていた。
チッ、赤い線を引く口元が一瞬歪む。
「どうした? こんなもんか? ウェアウルフ」
一方で挑発的な笑みを浮かべるアンフィス。
「お前らは吸血鬼と肩を並べる程の力を持ってるって聞いてたんだがな。思った以上に期待外れだ。それともお前が弱いだけか? ――まぁ、どちらにせよ今は人間以外の全員が絶滅寸前。同じ穴の狢だ。つってもほとんどは絶滅しちまったがな」
「それがどうした?」
するとユーシスは初めて返事をした。
「ウェアウルフもお前が最後の生き残りなんだろ? 魔女のクソも喜ばしいことにあと一人。だが人間だけがのうのうと増え続け我が物顔で生きてやがる。――だから協力しねーか? 大昔の先祖みてーに。ん? どうだ?」
「自分の種族なんてどーだっていい。人間にも興味ない。それに――」
言葉を途切れさせたユーシスは顔をアンフィスへと近づけた。喉元に刃が喰い込み、鮮血が肌を撫でるのも気にせず。それはまるで恐れは無いと証明するかのようだった。
「俺は吸血鬼がこの世で一番嫌いなんだよ」
「そーみてーだな」
だが攻撃的な感情が籠ったユーシスに対し全く動じる様子のないアンフィス。
「だが、別に結末は変わらない」
視線はそのままアンフィスの指はテラを指した。
「アイツは俺らが頂く。それまでちゃーんと大切にしとけ。殺すなよ」
すると言葉と共に下から渦を巻き現れた朱殷色の液体が徐々にアンフィスを包み込み始めた。そして言い終えるのと同時に全身を包み込んだその液体が消えてしまうと、もうそこにアンフィスの姿は無くなっていた。




