表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サングィス―昼星の煌めき―  作者: 佐武ろく
第一章:凍った雪の国
10/42

6

 そして四体のデュプォスを一瞬にして片付けたユーシスは後を追い屋上へ。だがもうそこにテラの姿は無かった。


「クソっ!」


 力強いが小さな声が辺りへと消えてゆく。自分の中に溢れ返る苛立ち。しかし今のユーシスは自分の感情よりも優先すべき事があった。

 噴火寸前の火山のような胸の内を押し殺し屋根上から下りたユーシスが真っすぐ向かったのはついさっき出たばかりの宿。中に入ると店主に先程のデュプォスが言っていた街外れの洞窟について尋ねた。


「え? あぁ……。確か、この街から少し南へ行った所に森があって、その中央辺りに小山があるんだがそこに洞窟があったはずだ。でもあそこは昔から危険と言わ――」


 鬼気迫る様子に気圧されながらもそう答えた店主の言葉を遮りユーシスはお礼も言わず宿を出て行った。

 それからユーシスは店主が言っていた南へと走り出し、まだ正確にある場所も分からない洞窟へと向かった。屋根伝いで進み街をあっという間に抜け、更に少し進んだ彼の周囲に広がっていたのは鬱蒼とした森。しかしそんな事は気にも留めずユーシスは走り続けた。街の屋根上から見えた小山を目指して。

 そして街から森へ入り走り続けたユーシスの目の前にはついに大きく口を開けた洞窟が姿を現した。一度、立ち止まり洞窟を見上げたユーシスは拳を握り締め中へと進んだ。暗闇が続き先も広さも見えない通路に響く足音。警戒しながらもユーシスは先を急ぐ。

 思ったより長い通路の先にそれは広がっていた。

 最初は足音の響きの違い。足元から飛び出した音はさっきよりも遠くへ旅立ち、そして戻ってきた。その変化に足を止めるユーシス。まるでそれに反応したかのようにその後、真っ暗だった辺りには燈火がともった。

 端へ追いやられた暗闇から姿を見せたその光景はユーシスの予想など優に超えてしまうモノで、彼は思わず息を呑む。

 辺りに転がる無数の屍は血と肉片を撒き散らし、デュプォスかどうかも判別出来ない。それ程の惨状がそこには広がっていた。

 そして正面(階段があり少し見上げた場所)に堂々たる面持ちで置かれていた王座。それはあの雰囲気の違ったデュプォスが崇拝されるように他のデュプォスの上に立っている事を表していた。

 だがしかし、あのデポォスは地面へと頭部を切り離された状態で転がり、今現在そこに腰掛けていたのは全くの別人。


「よう! こーやって会うのは初めてだな」


 座面に片足とその上に腕を乗せ、肘置きに頬杖をつきながらだらりと座るその人物にユーシスは見覚えがあった。というより知っていた。

 攻撃的な双眸と撫子色ボブパーマ。不敵な笑みを浮かべていたその人物は、吸血鬼アンフィス。

 彼女は脚に乗せた方で持っていたカランビットナイフを手元で軽快に回し、悠々とユーシスを見下ろしている。そんなアンフィスの傍には口を塞がれ拘束されたテラの姿があった。


「知ってたか? 俺ら吸血鬼の作り出したこのデュプォス共の中にはたまーに勘違い野郎が出てくんだよ」


 するとより一層警戒心を強めるユーシスを他所にアンフィスは話を始めた。


「どーゆう原理かどうかは知らねーが現れるんだよ。基本的に絶対服従な奴らだが、そいつは自分の意思を持ってる。何千年も現れない時もあれば、一気に二人現れたりな。謎だ。――しかもそいつは大方、決まった行動を取る。人間を食らい、力を付け――そして俺ら吸血鬼と同等の存在に成ろうとする。だが所詮はデュプォス。俺ら吸血鬼とは格が違げぇ。必死こいて媚び売って、純血を分け与えて貰おうと躍起になってやがる。惨めで滑稽な奴らだ」


 いつの間にか苛立ちに声を低めていたアンフィスは、手元からナイフを(体に吸収するように)消すとそのまま王座から立ち上がった。そして軽蔑の眼差しで足元に転がるあのデュプォスの頭部を見遣る。


「だから俺はその存在が分かり次第、胸糞悪いコイツらを――」


 そしてアンフィスは足を上げると、苛立ちよりも深く色濃い感情を身に纏った言葉と共にその頭部を踏み潰した。


「殺す」


 周囲に生々しさを飛び散らせた頭部だったが、潰された直後には他のデュプォスの屍と共に既に影へとなり始めていた。洞窟内に反響した激昂の音が静寂に呑み込まれる頃、全ての屍は影と成り綺麗さっぱり消え去った。その一斉に散りゆく檳榔子黒は、どこか優雅に舞う淡紅な花弁が辺り一面を覆い尽くす晩春すら感じさせる美景を内に宿していた。

 惨状が消え、ただの素っ気なさとポツリ置かれた王座だけが残った洞窟を包み込む鋭利な静寂。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ