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破戒教師は青空に笑う  作者: 不二川巴人
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第18話 エンカウント!

 里中か!? 気取られないよう、肩越しに後ろを見る。


 ……いた! 距離はあるが、桜並木の陰。女が、こっちへライフルの銃口を向けている! 撃たれる!


「滝さん! 危ない!!」

「きゃっ!?」


 とっさの判断で、滝さんを突き飛ばしながら、俺も回避する。


 直後、銃声がした。


「ふー、か、間一髪……!」


 一瞬でもためらっていれば、俺か滝さんの、どちらかに当たっていたはずだ。


 は、いいとして、図らずも、滝さんと地面に折り重なった形になる。


 胸のあたりから声がする。


「ど、どないしたん?」

「狙われてたんだよ。銃で。後一瞬遅かったら、どっちかがやられてた」

「そ、それは分かったんやけど、ちょい……」


 そこで、自分が今取っている体勢に気付いた。


 ポーズだけ見れば、この子を押し倒したような格好だ。


「おっと! わ、悪い!!」


 慌てて起き上がって、飛び退く。結構気まずい。滝さんも、顔が赤かった。


「た、他意はないぞ!? 緊急的に、だ!」

「……別に怒ってへんがな。その……また助けてもろたことには、ええっと……おおきに……」


 照れ臭そうに言う声。その赤い顔が、かなり可愛いと思ってしまう。


「セ、センセ……やっぱ、鍛えてるなあ? 胸板が……そのぅ……」


 耳まで赤くなっての、モジモジした声。いかん。ヤバいレベルで可愛い。


 と、大げさな咳払いが続いた。


「んっ、んー、おほん。それより、センセ何もんなん? 今もそうやし、この間、授業中にボウガンで襲われたやろ? 命狙われとるって言うてたけど?」


 聞かれたことには答えるべきだが、少し迷った。


 下手に話せば、この子が巻き添えになるかも知れない。


 ところが、彼女は意外と先を読んでくれた。


「ウチが巻き添えになるかも、とか思てるか? 気にせんでええよ。仮に襲われたにせよ、降りかかる火の粉は、払うだけや。センセと共闘することになったにせよ、理由によってはやけど、それはそれでかまへんし」


 打算的には考えたくないが、得がたい協力者の出現、と言えるのだろうか。


 少なくとも、彼女の助力があれば、「女を攻撃できない」という、自分の弱点が補えるかも知れない。


「内密に願いたいんだが……」


 思案した結果、決めた。


 滝さんに話した。


 恋人を組織に殺されたこと、その復讐、そして組織を壊滅させるために、ここへ赴任してきたこと。


 だからこそ、命を狙われていること。全てだ。


「センセ、恋人がおったんや?」

「ああ、いたよ。心底から、愛し合ってた」

「その人のこと、まだ好きなん?」

「……ああ」

「……ふうん。前の恋人がまだ好きでも、他の女の乳は揉めるんや? なんや、今になって、あん時の感触が思い出せるんやけど?」

「んなっ!? い、いいい、いや、それとこれとは!?」


 思い出したように赤面する滝さんだが、急に蒸し返されると困る。


「振り返るに、慣れとる手つきやったなあ?」

「待った待った、そこが問題か!?」

「嘘やて」

「ほっ……」


 なんだか、いいように遊ばれた気がする。


 しかし、滝さんはすぐに、調子を戻した。


「それにしても、色んなもん、背負うてたんやね……」


 神妙な面持ち。だが、ニッ、と、あの不敵な笑みを浮かべる。


「ええやん、東郷センセが正しいことは、誰が見ても明らかや。ウチは、正しい方につく。安心してや?」

「ありがとよ、滝さん」


 ホッとした。とりあえず、この話はここで終わりにしよう。


 と言うか、なんだか、この子についてもっと知りたくなってきた。


「ヘビーな話はここまでにしとくよ。思いっきり話題を変えるが、滝さんは、学校生活はどうだ? 友だちとは上手くやってるか?」


 声のトーンを気楽なものに戻して、軽く聞いてみた。


 は、いいのだが。


「ウチ、ツレなんかおらん」


 また、さらっと衝撃的なことを言われた。


 いない? 友達が? なぜ?


「それは、どうしてだ? 周囲から嫌われてるのか?」

「そこまでは知らんけど、ウチは馴れ合うんが嫌いやねん。LINEをつこて、輪の中に混ざろうと試してみたこともあったんやけど、全然話題について行かれへん。やれブランドもんのバッグやアクセサリーがどうとやら、スイーツがどうのやら。めっちゃしょうもないことに騒いどる」


 苛立ちオーラをにじませる彼女だった。ストイックな性格だな。


「ブランド物が嫌いってのは分かるんだが、スイーツ類も嫌いなのか?」

「誰もそないなこと言うてへんよ。ウチかて、一服付くんに甘いもんぐらい食うて。せやけど、他のみんなが騒いどる凝ったスイーツなんかより、ようかんか豆大福。どないしても洋菓子やったらバームクーヘンあたりと、濃いめの熱い煎茶があったらそれでええっちゅうこっちゃ」

「……渋い好みだな」


 いや、マジで渋い。だが、妙に似合っている気もした。サバサバと続く。


「化粧とかブランドもんとか、そないな軽薄な流行りを追いかけるんが仲間入りの条件やったとしたら、ウチは一人でええ。スマホの扱いも、ぶっちゃけ苦手やし」


 珍しいな。今どきの女子高生で、スマホが苦手な子もいるのか。


 と、そこで、滝さんがまじまじと俺を見た。変にくすぐったい。


「ど、どうしたんだ?」

「別に。ただ、ちいと聞きたいこと思い出してな。もしかしたら、話がなごなるかな? て思うんやけど、どないしよか、と」

「じゃあ、喫茶店にでも行くか? 嫌ならそれで、全然構わんが」

「せやね。あ、おごってもらわんでもええよ? ウチかて、小遣いぐらいもろてるし」


 話がまとまった。俺自身、延々と立ち話をするのもどうかと思っていたところだ。


 ちょうど、通学路の途中に、学生目当ての喫茶店がある。そこに向かうことにした。


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