リーパールーパー6
「じゃあ、オレはどうやってここの電話番号をゲットしたって言うんですか」
「ちょうどきみと昨日その話をしていたんだ、青山くん」多々木探偵はそう言って湯呑みに手を伸ばす。「それがヒントだ、てね」
「ヒント……」
「にわとりが先か卵が先か、みたいな感じで混乱するかもしれないが、ようするに電話番号の載った新聞広告を先にきみは見たわけだ」
「はい」
「だがウチはそんな広告を出したおぼえはない、てことは?」
「矛盾してますね」
「そう、だからボクは清水の舞台から飛び降りるつもりで、大枚をはたいて広告の申し込みをした。矛盾を解消したんだ」
「でも順番が……あ、それで卵が先か」オレもいちおう納得する。
「時間の因果律はこの際無視していいと思うよ。きみはもう、そのへんがムチャクチャになっているわけだし」
オレこと青山ケイイチはおなじ6月11日を繰り返している、らしい。まさに時間の虜だ。
「とりあえず第一関門突破だな」
探偵が100万円の束を指さす。たしかに変化は起こった。
「この100万円でオレにどうしろと? まさか探偵さんへの報酬ですか」
「いやいや、」と探偵本人は手を振る。「幽霊からもらったマネーなんて怖くて使えないよ」
「オレもです」
「だろう、それに100万じゃ足りないんだ」
「は? ……欲張りさんですか」
「誰が欲張りさんだよ」多々木さんはツッコミつつ、「きみ自身の言葉を思い返してごらん。紙束はもともと、どれくらいの嵩だったんだい」
言われてオレははっとする。
「ごひゃ……そうだ、あのカットされた新聞紙の束は500万に見立てられていました」
「第二関門はおそらく、この100万を5倍にすること」
「ちょっと待ってください!」オレは思わず叫んだ。「なぜ、あなたにそんなことが分かるんです」
「えっ、そんなにムズかしくないと思うけど? ……たとえばきみが、ファミコンがほしくてたまらないとしようじゃないか。でも買ってもらえない、と」
「またプラットフォームが古いですね……」
「したらば、段ボールかなんかでファミコンの模造品をこさえるだろう。カセットも手造りするだろう」
「カセットって言うな」オレはあきれる。
だが、いまのところこの探偵のプランどおりに行っている。ほかに頼れる相手もいないことだし、大人しく指示にしたがうのが吉かもしれない。
「じゃあ幽霊……水戸さんは、500万をほしがっていると?」
「そりゃ知らん」
「えーっ!」
「いいかい青山くん、とにかく、いまあるこの100万を確実に5倍にできるのはきみしかいないんだ」
「なんですか、競馬でも当てろってこと?」
「そんな博打ならボクにだってできるさ」
多々木さんは湯呑みをガラステーブルに置くと姿勢を正して、
「このカネをここに置いて行きたまえ。きみは明日もおなじ金額を持ってくるだろうから、そうすると……」
「200万になる」
「そうだ、500万になるまで毎日それを繰り返す」
「待ってください」オレはため息をつく、「けっきょく、あなたはカネがほしいんじゃないですか?」
「そう思うなら30万だけでいい、ウチが広告費に使ったカネだ。あとの70万はきみが持って帰りたまえ。……でもね、さっきも言ったとおり、きみは事務所を出た途端に時空の間に消えてしまうんだ」
オレがカネを持ち帰ることはできないってか……。
この100万がどうやって湧いて出たかさっぱり分からないし、そもそもオレには昨日と今日を循環している間の記憶がまったくない。
「疑ってすみませんでした、多々木さん。カネは全額ここに置いて行きます」
「分かってくれたらいいんだ」
探偵はヒゲをなでつけながら、
「とりあえずこの作戦で行ってみよう。上手く行ったらめっけもんだ」