リーパールーパー5
「何年かまえにホラー映画が流行ったろう。ほら、ビデオテープの呪いのやつ」
多々木探偵がいきなり切り出したのでオレはとまどった。
「リ●グですか? また古いですね……」
「あれなんかもさ、幽霊っていうか、呪いをかけてるやつのお願いを聞いてあげればセーフ、みたいな感じがあったじゃないか」
「じゃあオレの場合は、レオタード女の願いを聞いてあげればこの呪いが解けるってことですか?」
「まあ分からないけど、いまはそれくらいしか方法がないような気がする」
「具体的に何をすればいいんです?」
「そこなんだが」と探偵は片目をつむってみせ、「あれは持ってきているんだろうね、青山くん」
「あれとは?」
「ほら、例の紙束。新聞紙を紙幣サイズに切り揃えたやつで、そのなかにウチの広告も混じっていたそうじゃないか」
「……ああ、あれですか。もちろん」
言ってオレはカバンをまさぐった。が、たしかに持ってきたはずの紙束が、ない!
「どしたの、ないの?」
多々木さんはいまにも吹き出しそうだ。それで見当がついた。
「まさか、このやり取りも?」
「クッ……そう、今日で3回目」彼は笑いを堪えるのに必死だ。
「まあいまさら何が起ころうと驚かないですけど。でもヘンだな、たしかにカバンに入れたはずなのに……」
「青山くん、その紙切れは存在しないんだ。だってウチは新聞広告なんて出したためしがないんだから」
「じゃあオレが見たのは幻覚ですか。でも実際に、オレは事務所の電話番号を見つけたんですよ?」
「そこが面白いところさ。ヒントと言ってもいい」
「ヒント……」
*
「そこなんだが」と探偵は片目をつむってみせ、「あれは持ってきているんだろうね、青山くん」
「あれとは?」
「ほら、例の紙束。新聞紙を紙幣サイズに切り揃えたやつで、そのなかにウチの広告も混じっていたそうじゃないか」
「……ああ、あれですか。もちろん」
言ってオレはカバンをまさぐった。が、手にヒットしたそれの厚みに若干の違和感をおぼえた。
そして、取り出した紙束を見てさらにびっくりした。紙幣サイズの新聞紙がそっくり現金に替わっていたのだから、しかもぜんぶ万札!
だが大よろこびできないのが厚みの問題。ぱっと見500万は絶対にない。そこで多々木探偵と手分けして枚数を数えると、きっちり100万円だった。
「何ですか、これは。なぜ新聞紙が現金に化けるのか、さっぱり分からない」
「そう? ボクはちょっと期待していたけどね」
「どういうことです……」
「きみと会うのは今日が4回目だったね?」
「らしいですね、過去のことは憶えていないけど」
「じつは昨日──3回目の面談のあと、ボクはきみの尾行はあきらめて広告代理店に電話したんだ」
「それって、まさか……新聞広告の?」
「そゆこと」探偵がドヤ顔でオレを指さす。
「いやー、覚悟はしていたけど広告料ってバカ高いね。全国紙だといちばん安くて小さい枠でも30万円からする。しかも掲載までやたらと時間はかかるし、新聞社と直接交渉はできないし……」
多々木さんは新聞広告に対するありったけの不満を吐き出すと、
「とにかくウチの広告を出す、その申し込みをしたってわけ。これがどういうことか分かるかい?」
「さっぱり」
オレが首を振ると彼はコントみたくズッコケた。
「まあ、きみにとっては常に初日だから仕方ないか。ボクなんかはもうだいぶ飽きてきたんだけど、過去3回このやり取りをして、きみがカバンから中身を取り出したのは今日がはじめてだ」
「中身? ……中身って、どういうことです」
「過去3回とも、きみのカバンはすっからかんだった」
「え、だって紙束を……」
「紙束はなかった。それまでウチは広告を出していなかったんだから、そんな新聞自体存在するはずがないんだ」