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リーパールーパー4

 13時ちょうどに事務所のインターホンを鳴らすと、これまた可愛らしい女性が出迎えてくれた。彼女がきっと若林さんだろう。

「青山様ですね。お待ちしておりました、どうぞ」

 案内されるままに事務所のなかに足を踏み入れた。オレがソファに座るなりごま塩アタマのおっさんがつかつかと近寄ってきて、いきなり名刺を渡して言った。

「ここの所長をしている多々木(たたき)と言います。青山さん、でしたね」

「はい」

「さっそくですが、これをご覧ください」

 自己紹介もそこそこに探偵は1枚のポラロイド写真をオレに見せた。


 口から心臓が飛び出るとは、きっとこういうことだろう。

 そこにはふたりの人間が写っていた。ひとりはオレで、もうひとりが女性職員の若林さんだった。

 写真にサインペンで日付けが書かれていたが、超絶テンパっていたオレはそれどころじゃなかった。

 とにかくオレは以前事務所(ここ)へきて彼女と一緒に写真を撮った、そういうことだ。

「何ですか、これは」

「きみがウチへきたのは今日で3回目ということさ、青山くん」

 くん(・・)付けが妙になつかしい。今日はじめて会った人たちだというのに……。


「たしかにオレも、あなたがたが初対面であるという気がまったくしない。でもそんな気がするだけで、話した内容とかまったく憶えていないんです」

「そう焦ることはないよ。われわれは日ごとに前進しているんだ」

 よく分からない励ましを受けると、ふたたびソファに腰を下ろした。そのタイミングで若林さんがお茶を出してくれた。


 多々木探偵から、かいつまんだ話を聞いた。オレのほうの事情は、ほぼ彼らは把握しているらしい。

 そりゃそうだ、すでにオレは2回もおなじ話を彼らにしている──憶えてないけど!

 逆にオレが知らなかったのは、水戸かず子と名乗ったレオタード女が先月殺されていたという事実。

 ポラロイド写真がショックすぎて、正直あまり驚けなかった。オレの会った水戸さんが幽霊だったかどうかより、いまの状況のほうがよほどヤバい。


「オレ、呪われちゃったんですかね。それともアタマがおかしくなったのか……」

「ことによると、きみは本当に呪われているのかもしれない」

「ストレートに言いますね」オレは苦笑する。

「いや、きみのアタマがおかしいと証明できれば、それがいちばん簡単なんだ。だがそうもいかなくてね」

「なぜです?」

「きみが帰ったあと尾行しようと試みたが、2回とも失敗した。言うてもボクはプロだよ? だのにまるで神隠しのように、きみは帰り道で姿を消してしまう」

「うれしいような、そうでもないような、微妙な結果ですね」


「あるいは、きみはおなじ1日を何度も繰り返しているのかもしれないね」

 返す言葉もなかった。(やっす)いループもののSF小説でもあるまいし……。

「今日は、何月何日ですか」

「6月13日」探偵はポラロイド写真を見せながら、「これを撮ったのが昨日の12日。きみが最初にここへきたのが11日。日付けの末尾が1、2、3で今日が3回目というわけ」

「なるほど。レオタード女に会ったのが10日の夜だから、オレ的には今日は11日の感覚でした」

「そう、きみは11日から先へ進めないらしい……さて」

 多々木さんは湯呑みをガラステーブルに置くとソファの背もたれに寄りかかった。


「きみ自身、怖くて気味がわるいだろうけど、何とかこの状況を打破するよりほかない。われわれも若干巻き込まれているわけだしね」

「申し訳ありません」

 アタマを下げつつオレは若林さんのほうをちらと見た。彼女は素知らぬ顔でパソコンに向かい事務作業か何かをやっている。

 たいした女性である。

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