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出発前のリリアを見送る

 翌朝。目が覚めてから、思いのほかよく眠れたことに気づいた。

 昨日は大変な状況だったが、心身への影響が少ないのは幸いだった。


 俺は水場で顔を洗って、口をすすいだ後、服を着替えた。

 手持ち無沙汰で荷物の整理をしていると、アンが朝食を運んできた。

 それを食べてしばらくすると、部屋をリリアが訪れた。 

 

 彼女は男性が身につけるような控えめな見た目の衣服を身につけていた。

 普段着にしては、彼女のイメージと一致しないことに違和感を覚えた。


「ベルンへ出発する前に挨拶に来ました」


 リリアは長い髪の毛を一つにまとめており、全体的に男装に近い格好だった。

 それでも、彼女の美しさはかき消されないように感じた。


「ありがとうございます。これから忙しいところなのに」


「ベルンの名が出ても、驚かれないのですね」


「それはその……ある方から事情を聞きまして」


「いえ、詮索するようなことはしたくないので、お気になさらないでください」

  

「そういえば、その服装で向かうんですか?」


「これは……。誤解のないように申し上げておくと、私の私服ではありません」


「何となく違う気がしたので、それは分かります」


 俺とリリアは互いの顔を見て、笑みを浮かべた。

 二人の間で和やかな空気が広がるように感じた。

  

「ベルンへ潜入するのにあからさまな武装をしていたら、警戒されてしまいます。私たちは旅の者に扮して作戦を進めます」


「ああっ、なるほど」


 リリアは普段通りの様子だったが、作戦について話す時に表情が引き締まった。

 二人で話していると、彼女のように若い女性が最前線で戦うことに複雑な感情を抱いた自分に気づく。

  

「無事に帰ってくるので、今度は私にも焼肉を食べさせてください」


「それはもちろん。ご武運を」


「はい。ではまた……」


 リリアは名残り惜しそうな表情を見せた後、部屋から立ち去った。

 次にいつ会えるか分からないので、何か励ますことができたらよかったが、今までと同じように接することを選んだ。

 特別なことをしてしまえば、二度と会えないような感じになりそうで不安だった。


 リリアと別れた後、少し経ってから来客があった。

 部屋の扉を開けると、ブルームが立っていた。


「状況報告が遅れてすまぬな」


「いえ、忙しいのに来てもらってありがとうございます」


「部屋に入らせてもらっても大丈夫か?」


「はい、どうぞ」


 ブルームは部屋に入ると、空いた椅子に腰かけた。

 俺も近くの椅子に腰を下ろした。


「年を取ると足腰が辛くてな。座らせてもらった」


「いつも元気そうに見えるので、そうだとは気づきませんでした」


「ふっ、そういう扱いをされるのも悪くはないな。では、本題に入ろう」


 ブルームはこちらを緊張させないようにしてくれているのか、世間話でもするような口調だった。


「昨日の件について話し合った結果、秘密裏にベルンへ攻め入ることになった」


「その件はリリアからある程度聞きました」


 クリストフから全容を聞いたことは伏せておいた。

 彼との秘密は守るつもりだった。


「おぬしに関わる部分としては、現時点で城内と城の敷地内は出歩くことが可能だ。外壁の内側、具体的には王都の安全が確認されたら、街に出ても問題ない」


「王都全体は広そうですけど、わりと大がかりですね」


「正規の手段で出入りした者は問題ないが、不正な手段で入った者がいないか確認するだけで、そこまで時間はかからないはずだ」


 城の兵士たちをその作業に割けるのか疑問が湧いた。

 これまでに聞いた限りでは、そこまでの人員はいないはずだ。


「……その顔は何か疑問がありそうだな」


「いやまあ、そうですね」


「おぬしとも浅からぬ付き合いだからな。何となく分かる」


 ブルームは愉快そうに笑みを見せた。

 バラムから王都へ来るまで、彼と旅をした期間は短くなかった。


「他の大都市ほど規模は大きくないが、王都にもギルドがある。そこの冒険者たちに補助を依頼した。城の兵士たちの誇りもある故、あくまで補助というかたちだ」


「王都にギルドがあったんですね」


「言った通り小規模だ。広い街の中では目立たないだろう。興味があるなら、地図を渡すこともできるぞ」


「冒険者は引退しているので、遠慮しておきます」


「うむ、そうか」


 どんな雰囲気であるかは気になるものの、実際に向かうほどの用事はない。

 ギルドの規模が小さいのは城の兵士たちが重複した役割を担うため、冒険者の必要性が少ないからなのだろう。


「ところで、大臣の様子は?」


「カタリナ様は少しお疲れではあるが、立派に職務を全うされている」


「体調が大丈夫なら安心です」


「焼肉のことは満足されたようで、また食べたいと話されていたぞ」


「それはうれしいです」


 ブルームは孫のことを話す老人のように表情を緩めていた。

 その様子を見て、俺も和むような気持ちになった。


「伝えておきたいことは以上だが、何か知りたいことはあるか?」


「……うーん、とりあえずは大丈夫です」


「分かった。わしは執務に戻るが、困ったことがあれば城の者に遠慮なく伝えてくれ」


「はい、ありがとうございます」


 ブルームは椅子から立ち上がると、しっかりした足取りで部屋を出ていった。


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