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マルクたちの応戦

 誰かが言い出すまでもなく、俺たちはカタリナを守るための陣形を組んでいた。


 三対一の構図ならば、明らかにこちらが有利のはずだが、不敵に近づく侵入者の様子に不安が脳裏をよぎった。


「気をつけろ、来るぞ!」


 侵入者は距離を詰めた後、素早い動きで踏みこみを見せた。


「くそっ、動きが読めない」


「やつは何が狙いだ」


 俺たちに戸惑いが浮かぶのを嘲笑うように、不規則に剣戟を浴びせてきた。

 防御に徹すれば反応できるものの、反撃を繰り出すことができない。

 相手の動きが速すぎて、魔法で狙いを定めるのは不可能だった。


 三人で亀のように守りを固めていると、侵入者は間合いを引いて、こちらをじっと見ていた。

 顔を布で覆っていても目鼻と眉は出ており、感情の読み取れない目つきが不気味に思えた。


「攻撃をしてこなくなったが、やつは何をするつもりだ」


「行動が読めません」


 俺たちに不安が広がるのをよそに、侵入者は笛のようなものを口に添えた。


「――ま、まずい」


 それを止めるべきだと気づいたのに、近づくことができなかった。

 甲高い笛の音が周囲に響き渡った。


「仲間を呼ぶつもりでしょうか?」


「きっと、そうだ」


「おそらく、城内の警護も残っているので、他で食い止めていると思います。すぐに敵の加勢はないかと」


「そうか、それは朗報だ」


「暗殺機構の情報が入ってから、全ての兵士が厳しい訓練を行いました。簡単にはやられはしません」


 兵士は自分を奮い立たせるように言った。

 彼だって得体の知れない相手と戦うのは怖いはずだが、気持ちで負けないようにという勇気が伝わってきた。


 戦闘は継続しており、緊迫した空気が広がっていた。 

 侵入者は応援が加わることを予想していたようだが、すぐに敵が増えることはなかった。

 ここまで、感情の変化を見せなかったものの、どことなく苛立ちが感じられた。 

 

 俺たちが陣形を保ったままでいると、再び侵入者が間合いを詰めてきた。


「――来るぞ!」


 その動きは同じように見えたが、今度は目で捉えきれなかった。

 瞬く間に近づいたかと思うと、一緒にいた兵士が蹴り飛ばされた。


「うぐっ」


 防具が衝撃を和らげたようだが、兵士は数メートルほど転がり、うつ伏せになった。


「カタリナ様には触れさせぬ!」


 ブルームが今まで見せたことのない気迫を見せた。

 彼が剣を構える姿は様になっており、それなりに腕前があることが読み取れた。


 二対一と数的優位であるはずなのに、少しも余裕がなかった。

 侵入者は兵士を倒したことに手応えを感じたようで、こちらを侮るような姿勢が見られた。

 しかし、攻撃の手を緩めることはなく、再び接近してきた。


「マルク、わしが盾になる。カタリナ様を頼む」


「――えっ」


 ブルームは捨て身の体当たりを繰り出した。

 侵入者の虚を突いたようで、動きを止めることに成功した。


「やった……のか」


 急な出来事に状況を追いきれなかったが、ブルームと侵入者は刺し違える状態になっていた。


「……ぐっ、仕留めたか」


「ブルーム!」


 カタリナが倒れこんだブルームに近づこうとするのが見えた。

 ブルームと侵入者がお互いに剣を突き刺した状態になっており、目にするのが憚られるような光景だった。


「カタリナ様、近づいてはいけません!」


 ブルームの必死の呼びかけを耳にして、ようやく身体が動いた。

 俺はカタリナに近づいて、彼女の動きを制した。

 侵入者はブルームと同じように深手を負っているものの、まだ息があった。


「ああっ、何と……私の力不足のせいで」


 兵士は気を失っていたようだが、意識を取り戻したようだ。

  

「城兵よ、この者を拘束してくれ。今ならば可能だろう」


「はっ! その前にブルーム様の手当てを――」


「この程度では死なぬ。拘束を優先するのだ!」


「か、かしこまりました」


 侵入者は抵抗を見せたが、ダメージが大きいようで力が入らないようだった。

 兵士は体術のような動きで侵入者を制圧した。


「仲間の兵士が無事ならば、きっとここにやってきます。その時に牢へ移送します」


「ああっ、頼む」


 ブルームは苦しそうだったが、すぐに息が絶えるほどには見えなかった。


 ……侵入者は一人だけなのだろうか。

 ここまで緊迫した状況は初めてで、状況判断が難しく感じられた。


 先ほど、笛を鳴らしたことも無視はできない。

 ここを目がけて、別の者が接近してもおかしくはない。


 不安に感じていると、どこからか人影が近づいてきた。


「……味方? いや、違うな」


 ブルームと兵士は身動きがとれず、俺がカタリナを守らなければならない。

 両手に持った剣を構えて、臨戦態勢に入る。

 一人目と同じように素早い動きで攻めてくるタイプのようだ。


「あくまで狙いは大臣というわけか」   


「マルク、気をつけるのじゃ」


「はい、もちろん」


 二人目の動きは、かろうじて捉えられる速さだった。 

 その突進は明らかにカタリナを標的にしている。

 こちらを無視するように、そのまま通過しようとした。 

   

「――なめるな」


 俺は侵入者に立ちふさがった。

 相手の初撃を剣で弾いて、返す動きで一撃見舞った。


「や、やったか」


 対人の切り合いはわずかな経験のみで、刃が人を捉える感触は気持ちのいいものではない。

 抵抗感を消し去ることはできないが、今は戦うしかなかった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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