表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/465

マルクに助手が増える

 鍛冶職人が去った後に鉄板と焼き台を確かめていると、兵士の一人が荷車に乗った食材を運んできた。


「マルク様、城に配達されたものをお持ちしました」


「ありがとうございます。テーブルの上にまとめて置いてください」


「はっ、かしこまりました」


 兵士は日頃から鍛えているようで、手早く食材を運び終えた。

 

「それでは、失礼します」


「どうも、助かりました」 


 他の仕事もあるようで、兵士はすぐに立ち去った。

 ひとまず、食材の状態を見ておいた方がいいだろう。


 俺はテーブルに近づいて、並べられた食材を一つずつ手に取った。

 仕入れた順に確かめるとしよう。


 まずは肝心な牛肉だ。

 ももの塊肉が切り分けやすい大きさにカットされている。

 この世界にはラップはないので、薄手の紙に包まれた状態で保存されていた。

 手の甲で軽く触れると冷えているので、配達された後に保冷してくれたのだろう。


 続いて岩塩だ。

 こちらが注文した通り、細かく加工されたものが一袋ある。

 生ものではないので、簡単な確認で十分なはずだ。


 しょうゆとデーツは後から部屋へ取りに戻るとして、あとは野菜を見ておこう。

 ネギとニンジンが布袋に入った状態で置かれていた。

 開いて中を確認すると、鮮度は十分な状態だった。


「うん、これなら大丈夫そう」


 一日経過しただけなので、そこまで気になる点はなかった。


 これで一通りの確認は完了した。


 このまま仕込みに入りたいが、調理器具がないことに気づいた。


「すいません、包丁やまな板が使いたいんですけど」


「そうか、そうだったな。すぐに用意させる」


 ブルームは他の仕事もあるはずだが、どこかに頼みに行ってくれた。


 しばらく待っていると、ブルームの後ろに城の使用人のような男がついてきて、包丁やまな板などの入った箱をテーブルに置いた。


「マルク、これで足りそうか」


「はい、普段使わないような道具まであって、十分だと思います」


「これで全部のようだ。持ち場に戻ってよいぞ」


 ブルームが使用人風の男にそう伝えると、男は一礼して立ち去った。

 

「調理器具は用意してもらったので、あとは水場ですかね」


「あそこの湧き水はどうだ? 飲み水にできるし、食器や野菜を洗うこともできる」


 ブルームが指で示した方向に目をやると、噴水とは別の場所にある吹き出し口から水が流れ出ていた。

 

「助かります。ではあそこを使わせてもらいます」


「他にも何かあったら、言ってくれ」


 ブルームはそう言うと、近くにあった椅子に腰かけた。

 彼は忙しいだろうと思っていたので、予想外の動作だった。


「執務は大丈夫なんですか?」


「特に問題ない。カタリナ様が焼肉を食べて頂くことが優先だ」


「おおっ、これは責任重大ですね」


「そういえば、マルクの手伝いに城の料理人が来るはずだったが……」


 ブルームが気になることを言った。

 人手があるのは助かるが、助手までつけてくれるのか。


 様子を見て仕込みを始めようとしたところで、半袖のコックコートを身につけた若者が小走りで近づいてきた。

 

「もしかして、彼のことですか?」


「フランシスよ、こっちだ」


「お待たせしましたー」


 フランシスは金色の短髪で背の高い男だった。

 見た目の雰囲気からして、年齢は十代後半ぐらいだろうか。

 現役の料理人は近づきがたいと予想したが、物腰の柔らかそうな性格に見えた。

 

「すいません、なかなか仕事が終わらなくて」


「これから始まるところだ。問題ない」


「それで、この人がジェイクさんが認めたっていう?」 


「うむ、そうだ。今日は彼の助手を頼む」


「はっ、喜んで」


 フランシスはブルームに敬意を表していて、顔つきは穏やかだった。

 組みにくい相手なら一人の方が捗りそうだが、彼なら問題なさそうだ。


「焼肉のことはよく分からないと思いますけど、よろしくお願いしますね」


「はいっ、役に立てるように頑張りまっす!」


「そんなに作業は多くないと思うので、肩の力を抜いてもらっていいですよ」


 俺の言葉を耳にした後、フランシスは表情を緩めて、両肩を上げ下げした。


「焼肉について知りたいんで、色々と学ばせてほしいっす」


「特に秘伝とかはないので、全然見てもらっていいですよ」


「ありがとうございます!」


 ジェイクもそうだったように、若手の料理人たちは素直な気がする。

 彼が人当たりがよかったかどうかは、また別の話になるが。

 

「じゃあ、作業を始めましょうか。肉はちょっと任せにくいので、野菜を洗ってきてもらってもいいですか? その後に切り方を伝えます」


「はい! ここのネギとニンジンっすね」


「その中から、それぞれ何本ずつか頼みます」


「ではでは、洗ってくるんで」


 こちらが細かい指示を出さなくても、フランシスは野菜と水切り用の道具を手に取って、近くの水場に向かった。


 普段の工程とは勝手が違うものの、調理器具が充実しているのはありがたい。

 城内の調理場で仕込みをすることも可能なはずだが、本職の料理人に気を遣いそうなので、結果的に外で準備することになってよかった気がする。


いいね、ブックマークなどありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ