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封鎖された街道

 カンティでの食事に満足して店を出た後、俺たちは宿に向かった。

 ブルームのように立場のある人間なら高そうな宿に泊まるのかと思いきや、案内された宿は庶民的な雰囲気だった。


「前回もここに泊まった。控えめな料金のわりに店主のもてなしは十分で、部屋も満足できる清潔感だった」


「ブルーム様。国庫から経費が出ているから、ランスのために節約していると言ってもよいのですよ」


「むむっ、それは言わないでおくれ」


 リリアは護衛という立場にしては、ブルームに遠慮のないところがある。

 ある意味、ブルームが高圧的ではないということにもなるので、よい面のようにも感じられた。 


「たしかに思い返せば、ここまでの道中で高級な店に入ることはなかったですね」


「その話はもういいだろう。さあ、中に入るぞ」


 ブルームが先に宿に入り、続けて俺とリリアが足を踏み入れた。


 宿の中はこぎれいでシンプルな内装だった。

 同じ建物の中に食堂があるようで、料理の匂いが漂っている。


「ようこそ、ブルーム様」


「今日は三人分、素泊まりで頼む」


「お部屋の空きはありますので、お待ちください」


 宿屋の店主は人のよさそうな中年の男だった。

 ブルームとは顔なじみのように接している。


「それでは、こちらへどうぞ」


 店主は受付から出てくると、俺たちを案内した。


 一階から二階に階段で上がると、廊下の両側にいくつか扉があった。

 

「まず、女性はこちらの部屋で、男性お二人はあちらの角の二部屋です」


「それで問題ない。案内ごくろう」


「それでは、失礼します」


 店主は案内を終えると、一階に戻っていった。


「明日の朝、宿屋の前に集合にしよう」


「今日の夕食は美味しい料理で安心しました」


「王都に行けば、あれ以上のものも食べられるぞ」


「楽しみにしています」


「ふむ、ではまた明日」


 俺はブルームとどちらの部屋にするか話した後、用意された部屋に入った。

 荷物を置いてベッドに横になると眠気を感じた。 

 眠ってしまう前に歯磨きなどを済ませた後、ベッドで眠りについた。


 


 翌朝。身支度を済ませた後、宿の食堂でパンと果物などの簡単な朝食をとった。

 それから、待ち合わせの時間に宿の外に出ると、ブルームとリリアが待っていた。


「二人とも早いですね。おはようございます」


「おはよう」


「おはようございます」


「馬車が来るところまで歩こう。それから、街道を通って王都に向かう」


「分かりました」


 俺たちはコルヌの町の中を通り、前日に馬車を下りた場所に着いた。

 そこで少し待っていると、同じ馬車がやってきた。


「おはようございます。お待たせしました」


「わしらも来たばかりだ。気にしなくともよい」


「お気遣いありがとうございます」


 馬車が近くに停まった後、ブルームから順番に客車に乗りこんだ。

 三人とも乗れたところで、ゆっくりと馬車が動き出した。


「順調にいけば、今日中には王都に着けるはずだ」


「いよいよ、王都ですか。楽しみなような緊張するような、何とも言えない感じがします。大臣に焼肉を提供しないといけませんし」


「大臣は器の大きい方だから、何の心配もいらん」


「話の雰囲気的に、だいぶお年を召した人なんですか?」


「意外に思われるかもしれませんが、大臣は十代の女性です。女性というよりも女の子と呼んだ方が正確でしょうね」


 ブルームが少し答えづらそうに見えたが、後を引き継ぐようにリリアが教えてくれた。

 それにしても女の子が大臣というのは、長く続く平和が生んだ副産物だろうか。

 ランス王国の王族や城について知識も関心もなかったので、どういった理由があるのか想像もつかない。


 窓の外の景色に目を向けると、街道に沿うように海岸線が伸びていた。

 どこまでも続くような白い砂浜と海の青が美しく思えた。

 馬車はしばらく海沿いを走っていたが、徐々に海から離れていった。


 今日の天気が快晴ということもあり、このまま無事に王都に着きそうな雰囲気を感じていた。

 ここまでの道のりはブルームに聞いていた通りのペースで来れている。


 ――とふいに、馬車が停まった。


「……何もないと思うが、どうしたのだろうな」


「何やら様子が変です。外へ出ましょう」 

 

 リリアが護衛らしい働きを見せて、俺とブルームを誘導した。

 外へ出たところで、御者がこちらに歩いてきた。 


「急に停まってしまい、失礼しました」


「一体、何があった?」


「見て頂いた方が早いと思います。こちらへ……」


 俺たちは御者に案内されて、馬車が進むはずだった方向に歩いた。

 御者の様子を見る限り、いい予感はしなかった。


「――これは」


「大きな岩が完全に進路を塞いでいます。これでは先へ進めない上に、撤去されるまでに時間がかかるでしょう」


「ふむっ、困ったな」


 周囲には俺たちと同じように通ろうとした人たちが立ち往生している。


「上の崖から落ちたみたいだけど、天気は崩れてなかったよな」


「なんか、昨日の夜に火薬が爆ぜるような音が聞こえたらしいぜ」


 何やら怪しい気配を感じるものの、焼肉屋の店主である自分にできることはない。

 地の利がある地元のバラムならば、状況は違ったかもしれないが。


「当初の予定よりも時間はかかってしまいますが、今からコルヌに引き返して、船で王都の近くまで向かうことも可能です」


 成り行きを見守っていると、御者がおもむろに口を開いた。

 ブルームはその提案に同意するように頷いた。


「マルク、リリア。コルヌに引き返して、御者の言ったとおりの方法で向かおう」


「分かりました」


「お任せします」


 馬車は幅の広い道で向きを変えて、コルヌに向けて動き出した。


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