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焼肉屋の弟子希望者

 レンソール高原の件が解決してから、何日か経過していた。

 バラムに戻ってきた後は、いつも通り店を営業している。


 以前は肉を焼くのみだったが、アデルからのアドバイスで焼き野菜的なものも一緒に出すようになった。

 玉ネギやニンジンを軸にして、仕入れられた時はネギのような野菜も出している。


 お客が飽きないように、甘いタレを出した日の次は辛めのタレにしたり、肉の部位や切り方を工夫してみたりと、その時々で違う反応が返ってくることが励みだった。


 適度な忙しさ、周りの人に恵まれるありがたさを噛みしめながら、日々の仕事に精を出している。 


 今日も普段通りの一日で、何人かのお客が食事を終えて帰っていった。

 昼下がりの時間帯に差しかかり、ピークタイムがすぎて客足はまばらだった。


 俺が店じまいをして休憩に入ろうと思ったところで、一人の青年がやってきた。

 この世界での俺の年齢=二十二歳よりも少し若く見えた。

 長めの金色の髪で冒険者の雰囲気ではなく、何かの職人のような印象を受けた。

  

「いらっしゃいませ。今日は肉と野菜の盛り合わせですが、そちらでよろしいですか?」


「ああっ、それを出してくれ」


「それでは、少々お待ちください」


 バラムの人は物腰の柔らかい人が多いので、少し面食らうような感じがした。

 どことなく、違うところから来たようにも思われた。


 俺は気を取り直して調理場へ向かうと、皿の上に食材を盛りつけた。

 今日はセバスに勧められたハラミ肉、野菜はニンジンとピーマンだった。

 タレのローテーションは甘めのタレを出す日だ。

 

 青年のテーブルへ食材や取り皿、タレなどを順番に運び終えると、他のテーブルの片づけに入った。

 少し気難しそうにも見えたが、他のお客と同じように食べた始めたようだった。


 空いた二つのテーブルの片づけを終えた後、再び青年の様子を見た。


 そこまで表情が豊かというわけではないが、じっくり味わって食べていた。

 もしかしたら、口に合ったのかもしれない。


 それから、食器洗いや片づけをしていると、青年が声をかけてきた。

 

「会計を頼む」


「少々お待ちください」


「店の外に書いてあったけど、一人前で銀貨一枚か?」


「はい、そうです」


 青年は何かを考えるような間があり、まさか高いといちゃもんをつけられるのかと身構えそうになった。


「ところであんた、弟子を取る気はないか?」


「えっ、弟子ですか……」


「ああっ、そうだ。この焼肉という料理は興味深い。あんたに弟子入りして、色々と学んでみたい」


 青年は純粋そうな目をこちらに向けているが、この場で即決していいものだろうか。


「他の手のこんだ料理に比べると、そこまで技術がいるわけではないですよ」


「手をかけても大して美味くない料理はたくさんある。しかし、焼肉は抜群の美味さだ。学ぶだけの価値がある」


「なるほど、そうですか……」


 真摯な姿勢はありがたいのだが、自分が弟子を取ることが想像できなかった。

 彼を受け入れるべきか、辞退しておくべきか。

 すぐに答えを出すのは難しく感じられた。


「無理にとは言わないが、前向きに考えてほしい」


「分かりました。明日の同じぐらいの時間に来てもらってもいいですか?」


「了解した。また来る」


 青年は強い意思を感じさせる顔を見せた後、店から立ち去っていった。


「……弟子か。人を雇う予定はなかったけど、予想外のことが起きたな」


 俺は誰にともなくこぼした後、片づけを再開した。




 翌日。弟子希望の青年が頭から離れず、仕込みになかなか集中できなかった。


 上の空になりながら開店準備を続けると、気がつけば店を開く時間になっていた。

 営業が始まってしまえば、よそごとを考える余裕はなく、あっという間に約束の時間になった。 


「約束通りに来たぜ。あんたの答えを聞かせてもらおうか」


「一晩考えてみましたけど、給料は大して出せませんし、そんなに教えられるようなことはないと思います」


「そうか、ダメなのか……」


「いやいや、人の話は最後まで聞きましょうよ。そんな感じでよければいいですよ。最初は店の手伝いをしてもらおうと思います」


 特に補助が必要なわけではないものの、断る理由もなかった。

 

 青年は俺の言葉を聞いた後、明るい表情になっていた。


「よしっ、今日からよろしく頼む。オレはジェイクだ」


「俺はマルクです。今日からよろしく」


 ジェイクが手を差し出したので、二人で握手をした。

 どんな職業だったのか分からないが、力強くごつごつした手をしている。


「そういえば、何か料理の経験はあるんですか?」


「ランスの王都で城の調理人をしていた」 


「えっ、それがまた、どうしてバラムまで」


「オレは仕事を覚えるのが早いから、教えられた調理法を覚えた後は退屈だった。王都の外に出て、新しい料理を知りたかった」


 なかなかのハングリー精神だと思った。

 ただ、疑問が一つ残る。


「ここから王都までずいぶん離れていますけど、焼肉を知るきっかけは何だったんですか?」


「城に出入りしている行商人の口から聞いた。鉄板で肉を焼いただけなのに美味い料理があると」


「へえ、行商人ですか。分かりました」


 シルバーゴブリンの時も行商人が焼肉のことを広めていたようなので、もしかしたら、同一人物の可能性もある。


「とりあえず、今日はもうやることがないので、料理を覚えるためにも食べてもらおうと思います」


「オレは客でもないのにいいのか」


「いつも、少し多めに用意しているので、俺が食べるか処分するかのどちらかになるだけなんですよ。だから、遠慮せずにどうぞ」


「そういうことなら、分かった」


 ジェイクは納得したような様子だった。


 それから、今日のメニューを彼と食べた後、片づけをしながら仕事の説明をした。

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