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包囲網の突破

 前方から飛来する矢が風を切る音が聞こえてくる。

 どうやら、山賊たちは前進を阻もうとしているようだ。

 最前線の槍と盾を持った隊の歩みが少しずつ遅くなっていた。


 幸いなことに俺やラーニャがいる後方までは弓矢による攻撃は届いていない。

 とはいえ、左右の木々が死角になることで、不意を突くように仕かけてくる可能性もある。

 それに後方には盾を持った部隊がいないため、一時も気の抜けない状況にある。

 時折、近くにいる弓隊が撃ち返しているが、山賊に奇襲をかけられた状況で射程距離が離れているため、弓隊の矢は命中していないようだった。


 中距離の攻防のため魔法で反撃することも考えるが、仮に詠唱を短くしたとしても発動時に隙ができる。

 近くに盾を持った兵士はいないため、その機に狙い撃ちされる可能性も考えなければいけない。

 冒険者の時はモンスターへの対処が中心で、敵兵からゲリラ戦を仕かけられようなことはなかった。

 戦うことを望みはしないものの、経験の不足を痛感する。


 このまま拮抗した状態が続くかと思った直後、槍隊の後ろから刀を持った複数の兵士が突撃を始めた。

 雪をものともせずに突き進み、矢が飛んでくる方向へと弾丸のように走る。

 接近戦に限ればリリアとクリストフが引けを取ることはないはずだが、その兵士たちの突進する速さは段違いだった。

 装備の違いも差し引いて考えるべきだが、それにしても雪上を駆ける姿は見事だ。


 兵士たちが突進して少し経つと、木の陰から撃たれる矢は皆無になっていた。

 それぞれが鞘に刀を収めた状態で戻ってくるところだ。

 全力疾走だったことを示すように白い息が口元から吐き出される。

 両肩からは熱気で汗が蒸発して、湯気のように立ちのぼる光景を捉えた。


 敵の拠点近くのため控えめではあったが、どよめきと歓声が起こった。

 しかしそれは長く続かず、周囲に静けさが訪れる。

 そして、遠くから届くざわめきから山賊たちの慌ただしい様子が窺えた。


 前方に目を向けると練度の高さを表すように、兵士たちの隊列はあっという間に元通りになっていた。

 山賊の弓兵を討ちにいった兵士もなかなかだが、統率の取れた状態を見る限り、個の力だけでなく連携面でも隙がないようだ。

 兵士たちに心強いものを感じながら、さらに前進していく。

 

 面識のない弓隊はもちろんのこと、普段から口数が少ないラーニャとも話さないまま時間がすぎる。

 すでに山賊に出撃したことを気取られているようだが、先頭の方でも会話は必要最低限という様子だった。

 積もった量が多くなくとも、甲冑を装備しての雪上の移動は身体のエネルギーを消費する。

 それに伴い前方の兵士たちから、一塊の湯気が上がっている。

 まるで意思を持った大きな生きもののように。

 

 全員で警戒しながら進んだが、先ほどのように奇襲を受けることはない。

 いよいよ、山賊の拠点が眼前に迫っていた。

 造りの粗い高さがまばらな外壁、その奥に佇む砦のような建物。

 外壁の間に通用門のようなものがあり、隊列を組んだ状態ではそこから正面突破するしかないようだ。

 おそらく、単独行動かつ身軽なアンズはどこか別のルートで侵入するのだろう。

 

 先ほどの喧騒が幻だったかのように、辺りは静寂に包まれている。

 各々が雪を踏む音、息遣いと甲冑が揺れることで生じる金属音。

 好戦的な山賊たちが逃亡したとは考えづらく、息を潜めていること可能性が高い。

 味方全員が全ての方位に注意を向けるような状態で、一歩また一歩と門へと近づく。


 ――その時だった。

 数本の矢がパラパラと飛んできた後、それを皮切りに多数の矢が飛んできた。

 先ほどとは異なり、今度は俺たちの方にも届いている。

 最初の数本は飛びのくことで回避できたが、自分に当たらないとしても弓隊に当たりそうな状況だった。

 

 俺は慌てて魔法を唱えて、火球をぶつけて矢を撃ち落とした。

 迎撃に成功すると、燃えて灰になった木くずが頭上から降ってくる。

 矢の勢いは収まる気配がないが、今度はラーニャが魔法を唱えた。

 より強力な炎が壁のように広がり、飛来する矢を一切寄せつけない。


「やりますね」


「これぐらい当然だ」


 隣に声をかけるとラーニャは淡々と応じた。

 サクラギでは魔法使いと接する機会が少ないこともあるだろうが、弓隊はラーニャの活躍に感嘆の声を上げていた。

 俺たちの周りは守り切れそうだが、前線はどうなっているのか注意を向ける。 


 先ほどは刀を持った兵士の突撃で事なきを得たものの、今度ばかりはそうもいかないようだ。

 最前線で大きな盾を持った兵士が矢を防いでいるが、そこから出ようものなら的にされてしまう。


「ラーニャさん、ここから魔法で攻撃できませんか?」


 自分以上に魔法に精通しているはずのラーニャに問いかける。


「これだけ離れていると威力の調整が難しい。砦の中に仲間もいる以上、無茶なことはできん」


「前線にはダイモン隊長やリリアたちがいるので、攻城戦は彼らに任せましょう」


 俺がそう伝えると、ラーニャは前を向いたまま小さくうなずいた。

 今は攻めることよりも二人で防御に徹するべきだと思った。


中途半端なところで恐れ入りますが、今話にて完結とさせて頂きます。

他サイトと並行して最新話の更新を続けてきましたが、以前からなろうまで十分に手が回らないことが気がかりでした。

作品を楽しみにしてくださる皆様には申し訳ありませんが、投稿するサイトを少なくしたいと思ったことが理由です。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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