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山賊の拠点に出撃する

 ダイモン、リリア、クリストフの三人は作戦会議を続けていた。

 しばらくして戦闘用の装備を身につけた兵士が駆け足でやってきて、話し合いの途中のダイモンに一礼した。


「槍隊! 準備完了しました!」


「よし、出撃まで待機だ! 寒さには気をつけろ」 


「はっ!」


 槍隊の連絡係と思われる兵士は威勢のいい返事をして、再び駆け足で離れていった。

 足の運びに連動して、甲冑の金具同士が接触するような金属音が遠ざかっていく。

 続けて弓隊の連絡係も同じようにやってくると、ダイモンに報告を済ませて離れていった。


 部屋の中ではいよいよという熱気が満ちており、室温が上がるような感覚がした。

 元冒険者には分からない、兵士特有の高揚感なのだと思った。

 すでに歩兵に当たる者たちは外で待機しているようで、この部屋にいるのはダイモンを筆頭とした小隊長以上の兵士だけのようだ。


「ヒイラギの領内とはいえ、大人数で動きがあると山賊どもに知られかねん。それに槍隊や弓隊を寒さで凍えさせるのもしのびない」


 ダイモンは言葉を区切ると一呼吸おいて、低くよく響く声を出した。


「――山賊どもに目にもの見せてやろう」


「「「承知!」」」


 他の兵士たちが息を合わせたように応じた。

 ダイモンは言葉とは裏腹に冷静なようにも見えるが、それ以外の者たちからは「やってやるぞ」という気概が感じられる。

 なかなか見られない光景のため、じっと見入っていると近くを通りがかったダイモンが声をかけてきた。


「皆、気合が入っているだろう?」


「はい、熱気が伝わってきます」


「以前、魔物使いがちょっかいを出してきたことがあってな。それに乗じて山賊も調子に乗ることがあった故、多くの兵が反攻の機を窺っていた」


「そんなことがあったんですね」


 ダイモンは「うむ」と言って頷くと、他の兵士たちと部屋を出ていった。

 彼らの後を追うようにリリアとクリストフも後に続く。 

 

「……魔物使い」


 ナロック村でドラゴンをけしかけてきた男と同一人物だろう。

 地理的にありえないことではないものの、こんなところにも出没していたとは。

 ダイモンの口ぶりでは捕縛したわけではないようなので、まだどこかにいるのだと思われる。

 山賊に協力するとは考えにくいため、騒乱に応じてやってこないことを願うばかりだ。


「マルク、私たちも行くぞ」


「はい」


 ラーニャに声をかけられて我に返る。

 一族の仇である山賊たちと交戦間近のため、ラーニャからも闘志が感じられた。

 魔物使いを警戒するに越したことはないが、山賊を制圧することが優先される。

 今回はナロック村の時よりも戦力が揃っているため、ダイモンたちが山賊を圧倒してくれるのなら、魔物使いも倒せるるはずだ。


 先に行った人たちの後を追って外に出ると、粉雪が舞っていた。

 日中のため太陽は見えているが、時折強い風が吹く。

 視線の先には整列した兵士たちの姿があり、統率が取れていることを表すようにきれいに並んでいた。


 先ほどは覇気のある声を出していたものの、屋外では山賊に存在を気取られる可能性を考えてか、白い吐息を出しながらも兵士たちは静かだった。

 ダイモンと小隊長たちが何かを申し合わせた後、居並ぶ歩兵たちに声をかけた。

 すると、全員が方向転換してヒイラギの領地を出発した。


 リリアとクリストフは隊列には加わらず、ダイモンと並んで歩いている。

 もっとも列にいないだけで参戦する気満々の様子だった。

 俺とラーニャは後方支援に回るが、リリアたちの腕前なら足手まといになるようなことはないだろう。


 低く積もった雪を踏みしめて進む。

 ヒイラギの領内は広く関所の役目を果たす通用門が遠くに見えている。

 歩きながら周囲に目を向けると一面雪景色だった。

 

 温暖なバラムでは考えられない寒さ、こんなにも白い景色になることはない。

 今でもエスタンブルク周辺の気候に慣れない自分がいる。

 吐く息が白くなることも故郷では考えられないことだった。

 異国の兵士たちと行軍している状況は、まるで夢を見ているような心地になる。

 

 底冷えするような寒さの中でも闘志を燃やす人たちを見て、戦いには向き不向きがあるのだと思った。

 冒険者の時に野宿することはあっても、バラム周辺は一年を通してすごしやすいことで気候の変化に耐える必要はない。

 ヒイラギの人たちはこの土地を開拓するためにサクラギから赴任しているため、ランス王国出身の自分には計り知れないような決意があるように感じられた。


 やがて左右を森に囲まれた通用門に到着した。

 見張りの門番が大きな門を開けて、そこを兵士たちが通過していく。


 俺とラーニャも横並びでそこを通りすぎた。

 門をくぐり抜けることで、山賊の領域に近づいていることを実感した。

 ここからはヒイラギの領域外で冠雪した針葉樹で気配を隠しやすくなっている。

 近くに仲間がいるからといって油断は禁物だ。


 前線部隊が先頭に立ち陣形を組んで進んでいると、先頭の方で声が上がった。

 騒ぎになっているようで、どこから矢を撃たれているという声が聞こえてきた。

 どうやら、障害物の陰から狙い撃ちされているようだ。

 俺のいるところからは見えないが、警戒するに越したことはない。

 近い距離に山賊の姿は確認できないため、剣よりも魔法が使えるように意識を集中した。


久しぶりの更新です。

長らくお待たせしました。

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