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ダークエルフの置かれた状況

 エーメリは独り言のようにこぼすと、ああでもないこうでもないと口にした。

 続けて自己完結したような様子で話を始めた。


「山の方に拠点を持つならず者たちがダークエルフの里を襲った話があってな。その時に連れ去られたエルフたちがこき使われているらしい」


 エーメリがそこまで言ったところで、後ろから椅子が動いた音が聞こえた。

 振り返るとラーニャが身を乗り出していた。


「まあその、ダークエルフにとっちゃ迷惑な話だよな」


「……拠点というのはどこにある?」


「そこまでは知らねえな。分かっちゃいると思うが、ダークエルフのあんたは近づかない方がいいんじゃないか? ならず者たちは規模の大きな山賊をみたいなもんだ。エスタンブルクの国軍さえも手をこまねいてるから、そんじょそこらの戦力じゃ無謀ってもんだろ」


 情報通とされるエーメリの言葉には説得力がある。

 ラーニャは複雑な表情を浮かべて口を閉じた。

 予想できないことではなかったが、敵の規模は想像以上のようだ。


 俺はリリアとクリストフの顔方を交互に見た。

 二人とも戸惑いの色が表情に出ている。

 精鋭と呼べる彼らでさえ、戦力差があっては苦戦ま免れることは難しい。

 ここは策を練ることから始めるべきではないだろうか。

  

「あんたら、どうした? ……まさか、連中のところに乗りこむつもりだったとか……」


 エーメリの質問にどう答えたらよいのか。

 ここで話したことが漏れるとは考えにくいが、俺たちの目的を安易に知らせるべきではない。

 思わぬところで件の勢力がつながっている可能性も考えられるのだ。


「――そんな恐ろしい者たちがいるとは。近づかないようにしないとね」


 クリストフが落ちついた様子で言った。

 エーメリは気づかないはずだが、真意を悟られまいという意図が感じられた。

 その様子を目の当たりにして、やはり言わない方がいいと判断した。 


「ははっ、そりゃそうだ。あんたらはまともそうだから、そんなことをするはずないよな」


 憂いが晴れたことで気が緩んだのか、エーメリは店主にエールのおかわりを頼んだ。

 彼は追加のエールをあおった後、ジョッキをテーブルに置いて口を開く。


「連中の話題ばかりになったが、他に知りたいことはないのか?」


「ええと、この街でおすすめの宿屋を知りたいです」


「ああたしかに、旅人なら知っておきたいことだな」


 それから街のことについていくらか聞いた後、エーメリはご機嫌な様子で席を立った。

 ならず者たちのことをもう少し聞きたいところだが、あまり踏みこみすぎては疑われてしまう。

 彼から聞いておくべき情報は十分に聞けた気がした。

 一人から根掘り葉掘り聞くよりも、もう少し他の側面から調べた方がいいだろう。


「実態が掴めないままでしたけど、思った以上に大規模みたいですね」


 エーメリが離れた後、クリストフに話しかけた。

 彼は普段よりも固い表情になり、ゆっくりと言葉を返す。


「まずは一歩前進と思おう。僕らだけで足りなければ、カルンの街やエスタンブルク国内で仲間を見つけるのもいいはず」


「私も賛成です。ラーニャさんの同胞がいるのなら、拠点のある場所を見つけるべきだと思います」


 クリストフに続いてリリアが声を上げた。

 責任感の強い彼女ならば、簡単に諦めるはずがないだろう。

 敵の居場所が分かってきた状況ならば、その可能性は高まる。

 とはいえ、難敵であることが判明したのも事実で。

 ここからは入念な作戦を立てていく必要がある。


「今すぐにでも向かいたいが、私一人が行ったところで返り討ちに遭うだけだ。何もできない己の無力さが悔しい……」


 しばらく口を閉じていたラーニャがしぼり出すような声で言った。

 彼女の方を見やると神妙な面持ちになっている。

 攻略の糸口が掴めた以上、彼女に焦りの気持ちが浮かんでも不思議ではない。

 単独で突っこむつもりならば止めるところだが、自重できるだけの冷静さを保っているようだ。


 ラーニャが無謀な賭けに出ないことに安心しつつ、いたたまれない思いだった。

 何か妙案はないものかと声を潜めてクリストフに話しかける。


「カルンの街は他国なので、やっぱり戦力集めは難しいです?」


 そう言い終えた後、店主やエーメリの方を窺う。

 会話の流れから戦力になる人員を集めようとしていると分かれば、ならず者たちを攻略しようとすることは明白だ。

 場を改めるべきかもしれないが、これだけはすぐに話しておきたかった。

 クリストフはこちらの意図を汲み取ったような表情を見せる。


「うろ覚えではあるけれど、エスタンブルクの国内に独立した勢力がいて……」


「おっ、それは初耳です」 


 クリストフは記憶を手繰り寄せるように腕組みをして視線を動かしている。

 答えが出るのを待とうとしたところでおもむろに席を立ち上がった。


「――失礼、会計をお願いしたい」


「はいよ!」


 店主は忙しそうにしていたが、伝票片手に手早く対応してくれた。

 俺たちはそれからすぐに酒場を後にした。

 四人で通りに出たところで、クリストフが前を向いたまま話し始める。


「独立した勢力のことを思い出せたよ。具体的な話は宿屋に行って話そう」


 クリストフはそこまで言った後、見張られているような気がすると言った。

 俺は気づかなかったが、酒場で話している時にならず者たちの関係者がいたのだろうか。

 周囲に視線を向けたい思いに駆られたが、すんでのところで自重することができた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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